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従軍薬師リーナの軌跡
リーナの策謀
しおりを挟むそれから、ニ、三日の間、私は、軍の法規や、軍令則を片っ端から頭に入れたの。 そして、現状の第十六中隊の状況を詳しく調べ上げた。 付け入る隙が無いかどうかを探して、探して……
私一人が、何かをしても、絶対にうやむやにされてしまう。
それが、あの人達のやり方。 だから、ファンダリア王国の法を味方につけるの。 そう、「人格」と、「感情」の無い「法」をね。
第十六中隊の獣人さんについて判った事は、あの人達はすでに、第四軍に ” 買い取られている ” って云う事。 聖堂教会も、財務寮も口を出して、試験運用をさせたのは良いけれど、彼等の購入代金と彼等を制御する為の奴隷商人への対価は、第四軍に支払わせていたのよ。
……そうよ、「所有権」は第四軍にあるのよ。 指揮権は第四四師団へ移譲したってことね。 そして、誰も運用できなかったのね。 森の民ジュバリアンを、通常のファンダリア王国兵のように、練兵しようとしても、最初から無理があるわ。
だって、種族が違うもの。 人族と同じに運用は出来ないわ。
個人の力が強く大きい森の民。 彼等を集団で行動させるのはとても難しいわ。 それが出来たのは、森の王国ジュバリアンの王族の人達と、各種族、各部族の首魁だけ。 そして、その人たちは永遠に失われた。
だから、もう、軍隊として、彼等を指揮できる様な能力のある獣人さんは居ない。
奴隷商人に電撃の鞭だけが、彼等を意図に従わせられる ” モノ ” に、なったの。 でも、それは、とても、おかしい事。 意思を無視した、暴虐と言ってもいい。
彼等は、 ” 奴隷紋 ” によって、縛られている。 奴隷紋を打ち込んだ者は、彼等の主人となり絶対服従を彼等に刻み込むの。 【隷属】の魔法は、「闇」の魔法の一つなのよ。 精神系の魔法だものね。 【行動制限】の術式も、【拘束式】の術式も、「闇」魔法の中に有るわ。
そして、軍にはほどんど「闇」魔法を使える人はいない。 だって、必要無いもの。 だから、彼等を制御しようとしたら、奴隷商の人が必要だった。 買い取った筈なのに、その主人権限を、書き換えもしなかった。 いいえ、そんな事すらも、知らなかった。
” 試験運用 ” ですものね。
本来、兵は王国軍に入隊する時には、王国に対し忠誠を誓う事を、「精霊様」に宣誓する。 違わぬ誓約とする為にね。 でも、第十六中隊の獣人さん達は、そんな事はしていない。 だって、” モノ ” ですもの。 そして、三人いる奴隷商の人もしない。
彼等は、獣人さん達を従わせるために、表向きは第四軍司令部が雇っている、一般人ですものね。 それに、彼等は他国人。 王国の国軍には入隊資格すらない。 いわば、嘱託の身分なの。 試験運用をするにあたっての、色々な資料を照らし合わせて、初めて分かった事なのよ。
つまりは…… この獣人さん達の部隊、王国には忠誠を誓わず、他国人の命令下に置かれているの。 そして、第四軍司令部は、その人たちに、命じる事は出来ないの。 だって、軍籍に無いんだもの。
彼等を入国させ、そして、彼等の主人足るのは…… 聖堂教会の枢機卿と、その協力者のミストラーベ大公閣下。 到底、軍務、軍令則に精通しているとは思えない人達の肝煎なのよ。 もし、私の考えが当たっているのなら、この試験運用は、王国軍の弱体化を狙ったモノと云える。
第四四四大隊の王都駐屯地での特性を考えれば、おのずとその事に思いが至る。 新兵さんは、その能力を見極められて、欠損した他の中隊への補充兵になるんだ。 つまりは、予測不可能な行動をするであろう、獣人さん達が、第四軍各中隊にバラバラに配備される可能性もあったのよ。
そうなれば、もう、第四軍の機密性なんて、望めない。 奴隷商の人が、本当に、マグノリア王国人だとしてたら、防諜なんて無理に決まっているわ。 反対に諜報活動を第四軍内で活発に行われ、あちらの国にとても有益な情報源となる事も、とても良く見えるわ。
そうなれば、第四軍は…… ひいては、王国軍自体が丸裸になるわよ……
戦争以前の問題になるわ。 第四四師団の司令部の ” 見える ” 人は、彼等を第三大隊、第十六中隊として、まとめて運用する事にしたんだと思う。 精一杯の抵抗って事かしら。
今まではね……
――― 今は、私…… 第四四〇特務隊の私が居るのよ。
「闇」属性の保持者。 【奴隷紋】を扱える、” 魔術士 ” でもある、私がね。 すべては、此処から始めるの。 頭の中で組上げていく、彼等の開放への道筋。 ほぼ、一発勝負になるとは思うのだけれど…… ファンダリア王国の法。 そして、軍の規則と運用軍令則。 それが、私の強い武器になるわ。
後は…… オフレッサー侯爵閣下のご許可だけ。
費用も今以上には必要の無い方法。 いいえ、もっと少なくて済むかもしれない。 獣人さん達の誇りを取り戻して…… でも、追加の出費をしないようにするには……
そうね、やりようはある。
こんな、絵を描いた人たちに、絶対に後悔させてやる。
王権を侵害し、人権を剥ぎ取ったやつらには、慈悲はいらない。
徹底して、此方に有利なようにさせてもらう。
憶えてらっしゃい。
目にもの見せてあげるから!
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