その日の空は蒼かった

龍槍 椀 

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従軍薬師リーナの軌跡

おばば様へのお手紙と、グランクラブ準男爵家での晩餐

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「リィ~~ナァ~~~~~!!!!! あんた、なんてモノに手を出したんだ!! アレは!! アレは!!! 禁忌の魔法の破片だっ!! 大戦の後、ゲルン=マンティカ連合王国でも封印した、” 絶対禁忌 ” の、魔法なんだ!! 大森林ジュノーの四分の三を吹き飛ばし、ジュバリアン達の故郷をこの世界から消滅せしめ、今なお、汚濁を吐き出し続けている、異界からの「大召喚魔法」は、この世界に有っちゃならないモノなんだ!! なんで…… なんで、あんたは、いっつも!!! もう…… もう…… もう!!!! 大馬鹿ものめぇぇぇぇ!!!  こんな事に成るなら、あんたを王都になんざ、遣るんじゃなかったぁぁ!!」




 イグバール様が届けて下さった、おばば様からの魔石。 私限定で再生出来る様に、記録されている【記録レコード】が、保管されていたわ。 そうね、私と同じように考えられたのよね。 私にだけ、言いたかった事を、言える様に。 【記録再生リプレイ】の魔法も、おばば様仕込み。 私専用の、記録だから、私専用の【記録再生リプレイ】の魔法で、再生するの。

 それで、飛び出して来たのが、怒りに顔を真っ赤にしているおばば様の姿と、この怒鳴り声。 し、仕方ないでしょ。 巻き込まれちゃったんだもの。 それに、それ…… お母様の仕出かした事の尻拭いの為なんだもの…… 慎重に、ゆっくりと解析するしか、方法が無いんだもの……

 一緒に渡された、お手紙には、” 協力は出来ない。 破棄してしまえ ! ” って、書いてあった。 事情を説明する必要が、有り過ぎる…… おばば様の助力が無ければ、あんなモノ解析なんて出来ないわ。 異界の魔法理論なんだよ? 根本から違うんだよ? 文献とか、どうやって入手したとか、手掛かりはとっても少ないんだよ? 


 でも…… きちんと処理しないと……


「ミルラス防壁」は、このままじゃいけない。 以前の形に戻すにしても、アレを消さないといけない。 でも、消し方が判らない。 単に、防壁の魔方陣を上書きしても、きっとあれば残り続けるわ。 そう、別な言い方だと、は、” 生きている ” のよ、魔方陣の中でね。 魂を捕縛する術式。 捕縛した魂を魔力に変換する術式。 あの術式で汚れた魔力が、「防壁の魔方陣」に与える攻撃性……

 鉄壁の護りを実現する為に、防壁自体がとても危険なモノに変質しているのよ……




     御母様……




 何てことを、してしまったの…… 魔方陣内の魔力が減衰してしまい、与えられる、魂が無くなると…… あの魂を捕縛する黒い鎖のような術式は、敵味方見境なく、近寄る者の魂を捕縛するわ。 そして、その格好の目標となり得るのが…… 王城コンクエストムの中に居る人たち。 つまりは、この国の中枢にいる方々…… もっと言えば…… 王家の方々……



 ふと、嫌な思いが浮かび上がる。



 コレは…… お母様の心の中の黒い想い? 愚かな行いを続け、ボロボロになった、「ミルラス防壁」が最後に狙うのは、国王陛下だから? ファンダリア王国が、崩壊して、その惨状を見つめならが、防壁の糧と成れって? そして、その時、王城コンクエストムに群がっている筈の、敵諸共…… 喰われてしまえ…… って、事なの?



 ダメよ、そんな事。



 この世界に生きとし生ける、魂が汚され、穢され、そして、変質してしまう…… 世界そのものが、崩壊するわ…… その手に、心を捧げた国王陛下の愛を手に入れられなかった、お母様の黒い想い……なの?

 それとも、異界の魔物から提示された契約の報酬? お母様の心の奥底に押し込んだ想いを、暴き出された結果なの?



 ” 叶わぬのならば、全てが滅んでしまえばいい!! ”



 …………ありそうで、怖いわ。 あの異界の魔物ならば、幾らでも甘言を弄し、お母様の心を蝕むわ。 そして、お母様の全てを ” 汚濁の黒 ” で、塗りつぶしたら…… 異界の魔物が、異界に戻る為、あの召喚魔方陣を完成させて…… 具現化し…… この世界を汚濁で塗りつぶしてから、帰還する。 



 最初に呼び出された契約が何だったのか。



 おばば様は言ってらした。 ” 異界の魔物を、大森林ジュノーに解き放ち、この世界に、異界の魔物を溢れかえらせる ” ってね。 異界の魔物の眷属は、彼の魔物から紡ぎ出される。 森に解き放たれた異界の魔物は、森からあふれ出し、国を蹂躙し、やがては世界を飲み込む…… 



 ――― 無知は大罪 ―――



 ” 大いなる過ち ” に気が付いた、ゲルン=マンティカ連合王国も、ファンダリア王国も、「異界からの大召喚魔法」の、した。

 でも…… お母様は、魔法に長けておられた。 王国を護るために…… 手を出された。 そして、取り込まれた。

 だから…… あの日…… 私に全てを伝えながらも、ご自分の命を絶たれたのね。

 「異界の魔物」の意思に、取り込まれぬ様に。 ―――世界の滅亡を止める為に、ご自分の御意思で。




 ^^^^^




 おばば様に、手紙…… 書かなくちゃ。 私が知る全ての事。 そして、お母様の死の真相。 それが、杞憂で在ったとしても、伝えなくては成らないと…… そう、思ったの。 


 お母様の仕出かした過ちは、私が…… 私が何とかします。 だから…… だから、力をお貸しください。


 再生の終わった魔石をポシェットに入れる。 これは、「戒め」としてずっと、持っておくわ。 おばば様、ゴメンなさい。 でも、リーナは…… いえ、エスカリーナは成さねばなりません。 私が再びの「生」を、この世界に受けたのは、「やり直しの『生』」を受けたのは…… きっと、この為だったのです。

「闇」の精霊様が、神様におすがりして、成すべき事を、成すべき人が、成す為に…… 時間を巻き戻された。 そう…… そうよね。 だから、私が今、ここに居る。 前世の記憶を持って…… 生まれ直したんだわ。 


 だから…… 逃げない。 


 どんなに辛い道だったとしても、闇に閉ざされるこの世界に、一条を光をもたらす為に…… 私は、やるしかないんだ!

 グッと視線を固め、王城外苑、第四軍 薬品備蓄庫の奥まった場所に作り上げた作業場で、机に向かってお手紙を書くの。 真摯にお願いするの。 理由を書くの。 お母様の罪。 私が生きている意味。 きっと…… きっとおばば様なら……


 判って下さるわ。


 想いを文字に載せ、お手紙を書く。 書き上げたお手紙を読み直し…… 過不足なく事実を列記している事を確認し、おばば様の助力を乞い…… 最後に書く署名は、勿論―――



 ” エスカリーナ=デ=ドワイアル ”



 お母様の娘である、私が成すの。 これだけは、確かな事。 手紙を折り、鳥の形にする。 ハト便は、往復のモノでは無いわ。 おばば様の御怒りがどれ程深いか、判っているもの。 だから―――

 時間を掛けて…… 説得する。

 外に出て、青空にハト便を飛ばすの…… おばば様の元へ! 大好きで、大切な、おばば様の元へ!! 届いて下さい! 私の想いと一緒に!!

 蒼空の中に飛んでいくハト便。 一直線に南に向かうの。

 ティカ様に云われていたから、” 中距離転移魔方陣 ” は使わない。 だから…… 時間は掛かる。 時間が…… 少しでもおばば様の御怒りを、静めてくれていれば…… いいな。




 ^^^^^



 シャルロット様からのお呼び出したあったのは、その日の夕暮れ時。 イグバール様が届けて下さった薬草箱を整理して、明日から本格的に薬品類の錬成を始めようかなって、思っていた時。




「薬師リーナ。 グランクラブ商会から、使いが来た。 イグバール商会と恙なく契約が結べたとな。 それで、今回の分の代金を支払いに行く。 薬草箱ニ十箱分だ。 金額も確認した。 南方領の薬草は、その…… 随分と安いな」

「ええ、豊富ですもの。 魔物の森も、【迷宮ダンジョン】も。 そして、魔物もです」

「辺境故にか」

「王都とは、事情が異なります」

「そうか…… そうだったな。 薬師リーナ、同道してもらいたいのだが、よいか?」

「はい。 でも、必要なのですか?」

「あちらが、そう望んでいる」

「承知しました。 暫し、お待ちを。 片付けますので」

「あぁ、扉の外で待っている」




 シャルロット様をあまりお待たせしてもまずいから、手早く片付けて、扉の外に向かったわ。 えっと、ラムソンさんと、シルフィーはどうしよう…… 私の従者と専属侍女だし……

 ちょっと迷っていると、シャルロット様が一緒に来て欲しいと、仰ったの。 どうも、あちら側からのお願いらしいわ。 なんでだろうね?




「イグバール商会の一行の中に、ドワーフ族が二人いるんだろ。 アレを恐れているらしい。 薬師リーナならば、止められると、そう思ってかも知れないな。 しかし…… ドワーフの鍛冶屋が人族の中にいるとはな。 それも、アノ、「奇跡の鍛冶屋」だからな。 ……いや、「奇跡の鍛冶屋」事情は知っている。 有名だからな、ここ王都でも。 私は、頼みはしない。 いくら、私が軍人でも、ドワーフと拳で語り合う事はしない。」




 真顔でそう仰るの。 いや、まぁ、そうなんだけれどね。 ブギットさん色々と、貴人関係でやらかしているから。 ブギットさん、二度と武具は作らないって、宣言しているものね。 ニッコリと笑って、頷いておいたわ。




 ^^^^^




 シャルロット様と一緒に、私達はブランクラブ商会を尋ねたの。 今度はすんなり通してくれたわ。 門の前に居る門番さん…… なぜか、恐ろし気に私達を見ているのよ。 ちょっと不思議。

 お店の中に入って、待っていると、フルーリー様が駆けつけてくれたの。




「リーナ様! リーナ様!! 来てくださったのね!! ありがとう! 本当にありがとう!!」




 なんで、涙目なんだろう? えっと…… どうして?




「フルーリー様? 如何されました?」

「こ、怖かったの!! あ、あの…… ぶ、ブギット様…… あ、あの方が……」

「とても、優しい方ですわよ? ちょっと、笑顔が怖いですけれど、気持ちの優しい、真面目な方ですわ」

「えっ…… えぇぇ…… に、睨みつけられて…… こ、交渉しようとして…… 今にも暴れ出されるかと……」

「たぶん、それは…… 微笑んでらしたのよ。 あの方ね、小さくても頑張っている人には、笑顔で対応されるから」

「え、笑顔だったの? あ、あれが??」




 ニコリを笑顔を浮かべ、頷くの。 そんなに怖いかなぁ? 最初…… どう思ったかしら、私。 あぁ…… そうだった。 ダクレール男爵家のグリュック若様から、気難しい人って、御紹介されてわね。 でも、真剣に真摯に御相手したら、笑って下さったわ。 ちょっと、怖い笑顔だったけれどね。

 涙目になりながらも、交渉を纏めたらしい、フルーリー様。

 今から、歓迎の晩餐会と云う事に成ったんだって。

 それで、代金支払いを理由に私達を呼んだんだって。


    ――― 怖いから ―――


 だって。 もう、ブギットさんは、とっても優しい人なんですってば!



 私達は、その晩。


 とても、豪華な晩餐を戴いたわ。


 美味しかった。


 最後は、和気藹々とした雰囲気になれた。 


 皆さん、今後とも、末永くお取引、お願い申し上げます!







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