その日の空は蒼かった

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第四軍での「薬師錬金術士リーナ」

第四軍と顔合わせ: 王都外苑へ

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 王宮薬師院、人事局長 コスター=ライダル伯爵様から呼び出しがあったの。 勿論、王城コンクエストムの中の王宮薬師院本局にではなく、外局だったけれどもね。

 呼び出しは、丁度、ウーノル殿下の「立太子の儀」から一週間目。 人事局長からの呼び出しって事は、まぁそうね、「アノ」話ね。 朝から準備して、ラムソンさんとシルフィーに付いて来てもらいながら、王宮薬師院外局の建物に向かったのよ。

 通されたのは、薬師院外局、人事局のお部屋。

 窓から、昼前の光が差し込む、明るい部屋なの。 調度品もそこまで豪華では無いわ。 落ち着いた雰囲気の事務的なお部屋だったわ。 着席を促されて、ソファに座るの。 ラムソンさんと、シルフィーは、ソファの後ろに立って待ってるの。 執務机の前には、難しい顔をした、バーナモン伯爵。 お言葉は、まだ、口にされていなの。

 何かを言い出されそうになる度に、口をモゴモゴされているの。 言い難い事が有るのは、一目瞭然ね。 でも、異動の話は本決まりになっている筈だし…… 私の事を見ながらね、言葉を選ぼうと一生懸命に考えていらっしゃるの。 ちょっと、可笑しかったの。




「伯爵様、何なりとお話下さいませ」

「いや……、まぁな。 来て貰った理由は知っているだろう?」

「ええ、第四軍への出向命令が発令されたので御座いましょう。 お話は統括様より、伺っておりました」

「そうだったな。 ……出向という形でと、そういう話向きだった」

「はい」




 なにか、とても苦々しいご様子。 変更されたのかしら?




「薬師院の籍を抜かないと、そう統括様が申し出られて、あちら側が態度を硬化させたのだ。 異動ではなく、出向と云う事で…… へそを曲げたと言う所か」

「何が違うのでしょうか?」




 良く判らないわ。 出向と異動でそんなに違う物なの? 何が有るって言うのよ。 違わないと思うのだけれど……




「異動であれば、命令権はあちら側に移る。 しかし、出向となれば、君への命令権、主に人事権だが、それが、王宮薬師院に残ると言う所だ。 あちら側は、今回「薬師」を得る事によって、前線に送り出したいと考えている。 王宮薬師院としては、君を王都から出すつもりは無い。 主に、王宮外苑に勤務してもらうつもりだった」

「はい、それが?」

「あちら側の状況はね…… 良くないんだ。 第一軍、第二軍に「薬師」を吸い取られ、まともな「薬師」が、配属させていない。 つまるところ、薬品、ポーションの不足で、訓練すらままならない状況に追い込まれている。 その上だ……」




 そこまで、ライダル伯爵が言葉にした時、ノックも無く扉が大きく開いたのよ。 そして、大柄な人がニ、三人、執務室の中に雪崩れ込んできたの。




「ライダル卿! 四軍には、まともな「薬師」を寄越せないと仰るか!! 王宮外苑のみの勤務とはどういったわけだ! 前線の兵士への薬品類の供給は焦眉の急。 それを知らぬとは、言わせませんぞ!! それを、前線に連れていけぬ「薬師」で誤魔化そうとは!! 説明を求める!! 断固として、その説明を!!」




 うんざりとした顔で、ライダル伯爵が軍装に身を固めた、偉そうな軍人さんを見ていたの。 溜息を付きそうな顔をしながら、ライダル伯爵が言葉を紡ぎだされたの。




「第四軍、軍団長エントワーヌ=オリビス=オフレッサー侯爵様。 ついにご本人様のお出ましで御座いますか」

「書面では、取り合わぬお前たちが悪いのだ! 本局の製剤局の「薬師」を回して来るとの約束では無かったのか!!」

「王宮薬師院に、その余裕は御座いませんと、何度、お返事させて頂きましたでしょうか?」

「四軍の危機的状況は、知っている筈で在ろう! 国王陛下も善処をと、勅を受けておるのだろう!! 何故それが、一介の「薬師」なのだ!!」




 そうか…… ご機嫌が悪いのは、私が辺境の庶民の「薬師」だから。 そして、大して役に立たなさそうだからか。 まぁね、そう言うと思ったわ。 軍関係者にはあまり知り合いは居ないものね。 おばば様だって、一線から引いてからは、そんなに関りを持っていなかったって、仰ってたし。




「大体だな、四軍の充足率が落ちているのも、「薬師」の作る薬品類が足りないのが原因なのだ! 王宮薬師院に依頼しても、” 第一、第二軍より充足させよとの勅が御座います ” とかなんとか言いくさる! 前線の第一師団、第二師団交代移動中の第三師団に何とか集めた薬品類を送ってしまったら、王城外苑にいる第四師団に配るべき薬品が無くなってしまったのだ!!  訓練すらままならぬ! 第四師団については、その大半が王都近郊の屯所にて訓練中にも関わらずな! おかげで、練成にも手間取るしまつ。 そこに、使えぬ「薬師」を送り込むとは、どういった了見で有るのか、御聞かせ戴きたい!!」




 吠えるオフレッサー侯爵様。 この方が第四軍の軍団長様なのね。 大きな体に、軍礼装を着込んで、武威を周囲に巻き散らしておられるわ。 見事な御髭の厳ついお顔の軍団長様。 真っ赤に顔色を変えて、本気で怒ってらっしゃる。 ここに行くのかぁ…… ちょっと、ワクワクして損しちゃった。




「オフレッサー侯爵閣下。 なにも、わたくし達が、第四軍を蔑ろにしている訳ではありません。 手元にある、最良の人物を泣く泣く手放すのです。 陛下の勅によってです」

「最良? 話には聴くが、その者が、辺境の庶民の「薬師」だと。 その様なモノが、最良だろ云うのか?」




 座っている私に目をずらせた、ライダル伯爵様…… えっ? 私が何か云うの? なんで、そんな縋る様な目をされるの? 人事局長様でしょ、ライダル伯爵様は! ちょっと睨んでおいたわ。

 何とも情けない顔になった後、ライダル伯爵様は、更に言葉を重ねられたの。




「王宮薬師院、人事局としては、最良と考えております」

「誰なんだ、お前たちが、そう言う人物は! 辺境の庶民の「薬師」なのであろう!!」

「” 王宮薬師院、第九位薬師、リーナ ” に、御座います」




 私の名前は、あちら側には伝わっていなかったのね。 なのに、辺境の庶民の「薬師」って事だけは、伝わっている。 正式な辞令が下りる前は、人事の情報は伝えられないものね、他の部署には。 だから、周辺の情報を取るんだった。 前世の記憶から、後宮でも同じような事が有ったの、思い出したわ。 組織が縦割りで運営されているから、横断的な人事は特に発令されるまでは、良く判らない事が多いのよ……

 そっか…… なら、仕方ないよね。

 オフレッサー侯爵様は、私の名前を聞いても、それがどうした位な感じだしね。 第九位薬師といえば、御城に伺候出来る薬師だけど、私にはそれは許されていない。 だから、王城で会う事も無かったものね。 とっさに、ライダル伯爵様が私に与えられている階位を言っちゃったものだから、ちょっとびっくりしたのかも。

 第九位薬師ならば、ライダル伯爵様の仰った通り、王宮薬師院としては、最大級の配慮をしたって事に成るもの。 オフレッサー侯爵様の後ろに居た、二人の上級指揮官様達の顔色が変わるのが判った。




「薬師リーナ殿? 王城外苑にて、賊と遣り合った? あの薬師殿ですか?」

「あの、可憐な少女を? 第四軍に? 本当ですか?」

「なんだ、お前たち、知っているのか。 お前たちの師団に迎える事に成るんだぞ?」




 誰なのよ。 もう、誰も紹介してくださらないわ。

 こんなんじゃ、まともに「お仕事」出来るかどうか。

 ちょっと、心配になって来ちゃった。

 ライダル伯爵様……





 なんなら、この場で、辞令を出して、私を紹介してくださらないかしら……





 なんか、イライラするから……






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