その日の空は蒼かった

龍槍 椀 

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「立太子の儀」の日に向かい合う、王国の真実

 迷宮攻略 《 ダンジョン・アタック 》 (4)

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 さてと、もう十分に引き付けたし…… 



 そろそろ、お仕置きの時間が始まるわ。 クリスナイフの「加護の力」が、消えた今、私達を守る加護は、何も・・無いもの。




「キャァァァァ!! あ、あんなに沢山の魔獣が!!!」




 叫んであげた。 霞の向こう側に光る魔獣の眼。 数体…… もっと、居るかな。 その後ろに、ケイブ=オークの頑丈そうな影も…… 私では無く、そっちに目を向けたお馬鹿さん達は、迫りくる魔物の数におののき始めたの。 お馬鹿さんに追討ちを掛けとくね。

 騎士の本分を果たしてもらう!




「わ、わたくしは、戦闘など出来ません! え、援軍を! 援軍を呼んでまいります!!」

「えっ、あっ! 薬師殿!! 薬師殿…………!!! く、クソ! み、密集戦闘態勢、戦闘準備!!」




 インターゼン子爵の慌てた言葉を背に受けて、そのまま迷宮ダンジョンに走り込んだの。援軍を呼びに行くって事にして、この場を撤退するのよ。 でもね、ただ帰っても面白くないし、十分にお仕置きの時間を取りたいもの。


 だから、「迷宮ダンジョンの奥」に走り込んだの。 まぁ、その方がに帰れるしね。


 七階層目からは、魔物も魔獣も格段に強くなるんだけれど、【隠形】で隠れながら、採取を続けて、最深部に向かう。 一人なら、逃げるのも隠れるのも簡単ね。 戦闘する気持ちが無いのならば、これが一番いい方法なのよ。 

 迷宮ダンジョン深部の薬草は、薬効が高いわ。 とても、素敵。 その上、珍しい薬草も結構有るの。 魔物からの素材は、今回に関しては採取しない。 魔法草の分布とか、量とかの調査みたいなものだものね。


 到達した十階層。 


 迷宮主ダンジョンボスは、百手鬼ヘカトンケイル。 こんなのとまともに遣り合うって、一人じゃ無理よ。 死んじゃうわ。 せめて盾役が一人…… って、言っても、無理よね。 だけどね、百手鬼ヘカトンケイルに対処する方法は有るの。 戦って、勝つ以外に無力化する方法が有るのよ。

 とっても、偉い大人の人が来た時に、饗応しなきゃならなくなる……かもしれないから、買っておいて、ポーチに大事にしまい込んだ物。 それが、百手鬼ヘカトンケイルの無力化の決め手となる物なの。

 東方の島国にね、穀物で醸すお酒が有るの。 とても神聖で、不死屍鬼グール何かに振りかけるだけで【魂浄化ターンアンデット】と同じ効果を発揮する物なの。



 この百手鬼ヘカトンケイルの大好物なのよ。



 どんな、激しい戦闘中でも、このお酒を出すと、一発で戦闘意欲が無くなって、飲み始めるのよ。 それに、酒精がとても強く、あっという間に酔っぱらって、グーすか眠ってしまう。 

 表皮がとても固いから、寝首を掻こうとしても、その衝撃で目が覚めて、気持ちよく寝てたところを叩き起こされるものだから、とっても凶暴になって敢え無くこちらが命を落とす羽目になるわ。 だから、オトナシク眠ったままにしておくのが、いい訳なの。

 ポーチからお酒を出して、百手鬼ヘカトンケイルの方に転がす。 目敏く見つけ、そして…… 栓を抜くと、一気にあおったの。 いい飲みっぷりよ。 足元が怪しくなって、座り込んでも、口から瓶を放さないのよ。 ある意味とても、意地汚い。 

 観察してたの。 ドサリと音がして、その場に倒れ込む百手鬼ヘカトンケイル。 予想通りね。 とても、健やかな鼾が聞こえて来たわ。 よく眠ってらっしゃる。 さてと、この十階層最深部の探索を始めますか。

 …………あの、お馬鹿さんインターゼン子爵は、真実を語っていたのよ。 有るのよ…… とっても希少で、薬効の高い、宝石の様な薬草がね。 クリスナイフで綺麗に切り取って、【保存】魔法を掛けて、ポーチにしまい込むの。

 もし、百手鬼ヘカトンケイルと戦っていたら、こんな完璧な形では、採取できなかったわ。 だって、それ、百手鬼ヘカトンケイルの眠っているすぐ側に、三株だけあったのよ。 大立ち回りしてたら、潰されていたわ。 ホントに幸いだったわ。 

 ホクホク顔で、最深部の奥の間に到達する。 予測通りだと、ここに転移魔方陣が有る筈。 ……ほら、あった。 別に迷宮主ダンジョンボスを倒さないと行けないって訳じゃないの。 ただ、戦闘になったら、こんなメンドクサイ場所には易々とは来れないってだけなの。

 転移魔方陣に、自分の魔力を注いで起動。 そして、私は、この【霞の帳ヘイズケーブ】の入口脇に戻って来たの。




 ^^^^^



 迷宮攻略ダンジョンアタックとしては、とても良い収穫だったわ。 あぁ、あの騎士共は…… エルビス様にお願いして、王都冒険者ギルトの中、上級冒険者さん達に回収してもらう事にしたの。 援軍呼んでくるって言ったけど、いつとは言ってないもの。 時間がかかっても、仕方ないわよね。 嘘はついて無いもの。

 彼らの事をエルビスさんに伝えたのは、その日の授業が終わってからね。 採取してきてもらった、薬草を鑑定したあとの事。 

 何かしら、新人さん達にもいい事が無いと、二度とこんな講習が出来なくなりそうだから、採取して来てもらった「薬草」を、全部その場で「ポーション」に錬成してあげたわ。 良い品質で多くの薬草を取って来た人は、沢山貰えた筈。

 反対に、やっつけ仕事の上、量もちょびっとの人…… 残念ね、ポーション瓶半分くらいしか、錬成できなかったわ。 これも…… 一つの自業自得って訳よ。

 持っている、ポーション瓶を見れば、自分達の「仕事」の成果がまるわかり。 なんか、威張り散らしていた新人さんの一人の顔色が悪いよ? あぁ、ポーション瓶半分の人かぁ…… 仕方ないよね。




「講評は差し控えます。 貴方達の手の中にある、ポーションが評価に成ります。 今日の目的は、「薬草採取」でしたね。 その、採取された薬草が、最終的にはお薬やポーションに成ります。 同じ時間、同じ労力を使って、それだけの差に成ります。 精進してください。 何時の日か、貴方たちの採取した「薬草」が、人々の命を繋ぐ事になるでしょうから。 本日はこれまでにします」




 最初の頃とは違って、みなさん真面目に聞いて下さったわ。 

 まぁ…… これで、王宮薬師院の面目も立ったって事かしら。 いい仕事出来たと云えたら、いいのだけれど……






 そうそう…… この授業の後、冒険者ギルトと、聖堂騎士団、それと、第一軍、第二軍の関係者さん達が、迷宮ダンジョンに潜って、あの人達を回収したんだって。 そう、「救助」じゃ無くて「回収」ね。

 探索に参加した人達……、手持ちの回復薬、傷薬、ポーション、全部使いきってたんだって。 かなり、大変な探索だったらしいわ。 それで…… あの聖堂騎士インターゼン子爵以下、一緒に潜っていた騎士さん達全員の防具はバラバラ、武器もバキバキ…… 体は…… 一部を残して回収不可能と判断されたらしいわ。 




 喰われてたって……

 私を薄暗い迷宮ダンジョンの中で食っちゃうつもりが、

 自分たちが、魔物、魔獣に嬲られ、喰われてしまったのね。



 邪な事、考えるからよ。



 勿論、エルビス様との合意の上、私が一緒に潜った事は、『内緒の話』に成ったわ。 対価は、一層から、十層までの薬草の分布図。 要らない恨みなんか、買いたくないもの。 腕試ししようとした聖堂騎士と第一軍、第二軍の賛同者が、勝手に迷宮ダンジョンに潜って、勝手に死んじゃった。 公式には、そうなったの。

 第一通報者も、私じゃなくて、エルビス様。 姿が見えないから、帰還しているか、駐屯地に問合せしたんだって。 答えは ” 否 ” 。  それを受けて、心配だからって事で、” 迷宮ダンジョンに潜った可能性があるから、探索したい ” って、冒険者ギルドに申請したんだって。

 結果、あの人達は全滅。 バラされた防具とか武器と、身体の一部が回収されたのよ。 ……公式に発表されたわ。



 私がそこに居たという、厄介な事実は隠蔽された。 冒険者ギルトは迷宮ダンジョン全階層の薬草分布図を手に入れた。





  等価交換って事よ。 穏便に収まってよかった。





 一連の出来事を、ラムソンさんに話したら……



 怒られた。







「二度と、単独で迷宮ダンジョンに入るな。 お前、死にたいのか?」







 えっ? そっち?




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