172 / 714
「立太子の儀」の日に向かい合う、王国の真実
迷宮攻略 《 ダンジョン・アタック 》 (3)
しおりを挟む「さぁ、薬師殿。 参りましょうぞ」
手を取らんばかりに、誘ってくるね。 触らせないけれども。 そこまで、云うんなら、仕方がないよね。 望んだのはそちらだし。 十階層程の迷宮だからって、舐めてるよね。
さっき、エルビス様が仰ってたでしょ。 三階層くらいまでなら、新人冒険者さん達でも、十分対応可能だって。 逆に考えると、四階層以降は、新人さん達では無理。 そう銀級冒険者である、辺境出身のエルビス様が仰ったのよ。 と云う事は、徐々に出現する敵が強くなるって事よね。
ほら、新人さん達の装備、とっても堅固だったでしょ。 アレも考慮に入れているのなら…… かなり、厳しい相手になる筈よ。 インターゼン子爵の言葉から、彼らが私を連れ込もうとしているのは、少なくとも、三階層以下。 そして、周囲にバレることなく、私を手籠めにするには少なくとも五階層か、もっと深く潜る事に成る筈。
いい根性してるじゃない。
とっても、危険な事なのにね。 インターゼン子爵は安全に対する認識が甘い。 甘すぎる。 騎士が六、七人で、迷宮深部の敵にどうやって対抗するのかしらね。 見たところ、戦闘訓練はそれほど積まれていないようだし、鍛錬不足なのか、足の運びも精彩を欠いるわ。 腰の長剣の重みで、左側に体幹がブレて居るし、ケイブ=オーク辺りに出会ったら、かなり苦戦すると、思うのよ。
良し、泣き叫んでもらおうかしら。 なら、私は【身体強化】を二重掛けして、対応しよう。 それから…… 【全周索敵】を、しっかりと掛けてッと。 うん、いい感じ。 「闇」属性の特性で、周囲には気づかれ難いから、私が魔法を使っている事は、インターゼン子爵には、判らない筈よ。
さて…… お仕置きの時間ね。
「インターゼン子爵様は御強いんですね。 わたくしは、辺境ではあまり迷宮には、潜った事ありませんの。 強く、強大な魔獣の住処ですから…… 特に必要な ”薬草” が無い限り、近寄りもしませんでしたわ」
辺境の、浅い迷宮は、冒険者さん達の生活の糧だから、私は行かなかったの。 それに、おばば様が時々、” 取って来な ” って、仰る「薬草」とか、「素材」とかは、最低でも三十階層の深深度迷宮の迷宮主の広間に有る物とかだったりするのよ。
当然、一人では無理よ。 だから、ルーケルさんと二人で潜ったのよ……。 そう言えば、ルーケルさん、元気にしてるかなぁ…… おばば様、無茶言ってないといいのだけれど……。
「聖堂騎士の力をお見せしましょう! 我らは、栄えある聖堂騎士団の者。 「薬師」リーナ殿を、神官様と同様、御守りする事を誓いましょうぞ!」
「それは、心強いですわ。 宜しくお願いいたします」
ニッコリと微笑んでね、相手を見つめるの。 もう、隠しきれないほどの ” 獣欲 ” を漲らせているのよ。 バカみたい……
そして私と肉欲に目の眩んだバカ達は、十階層迷宮の最深部を目指す事になったの。
^^^^^
「この迷宮には、名称が御座いましてな。 【霞の帳】と呼称されているのです。 光源が無くとも、ほら、この通り。 内部は霞自体が発光し、一般のダンジョンよりも明るいのです、「薬師」殿。 松明を持たずとも、楽に下層に行く事が出来るのです」
「なるほど、明るいですわね。 煙の様な、霞……ですか。 それが、発光しているのですね。 探索が楽になりますわね」
「ええ、そうですとも!」
足取りも軽く、前に前に進む私。 きっと、罠にかかったと、インターゼン子爵達は思っているのね。 でも、私には【全周索敵】を常時展開しているし、【身体強化】も二重に掛けているのよ。 インターゼン子爵の言葉に間違いはないのだけれど、彼は一番大事な情報を私に告げていない。
この発光する霞…… めくらましにも成るの。 松明とかで光源を確保すると、乱反射して視界が余計に悪くなる。 さらに、濃い霞は壁の様にも見える。 慣れていれば、どうって事ないけれど、初見では混乱するわ。 それを、話さないのよ、インターゼン子爵。 私が辺境の深深度迷宮に潜ってなかったら、きっと、思い通りだったんでしょうけれど、お生憎様!
無駄に迷わせて、徒に体力を消耗させて、抵抗し難くしようとしているのが、まる判りなの。
同じような手を使って、何人も手籠めにしている感じがする。 とっても、手慣れているもの…… 子爵とはいえ、貴族の男性。 その上、聖堂騎士団所属の騎士。 庶民の「薬師」の女性が、いくら被害を訴えても、通る訳がない。
そんな人たちに慈悲をもって、なんて、馬鹿らしくて。 いくつかの「 薬草 」 を、採取しつつ、迷うことなく、下層に通じる階段を降りるの。 後ろから、続いてくる、卑しい笑いを頬に浮かべた、騎士の面々。 二階層も、三階層も、同じような感じでね。 魔獣も出る事は出たのよ。 いい所見せようとしたのか、お馬鹿さん達が瞬殺してくれたわ。
まるで、 ” 俺の獲物に手を出すなっ! ” って、感じでね。
フフンって鼻で笑ってあげたの。 だってね、今日は薬草採取の授業だからって、ルーケルさんの”クリスナイフ” 持ってきてるのよ。 魔獣除けの祝福付きの、「 クリスナイフ 」 を。 大型で強い魔物はこれに反応する。
嫌がるのよ。
だから、小型の魔獣しか寄ってこない。 とても、安全な状態なの。 迷宮の構造は、【全周索敵】で把握している。 そして、大型の魔獣は、私達を遠巻きに見詰めているのが、見て取れる。
クリスナイフの加護は強力なんだけれど、ちょっとした細工をすれば、その加護は一時的に停止する事が出来るの。 加護の元は、ナイフに刻まれた紋様。 だから、土でも何でもいいから、紋様の一部を埋めてあげると、加護が消失する。
まだ、彼らは気が付いていない。 どんどんと、周辺の薬草を採取しつつ、階層を降りて行くの。
「我らと共に歩む、「神の御加護」でしょう。 今日は魔獣の襲撃が少ないようですなっ! それに、「薬師」殿も快調そのもの。 すでに、五階層を抜け、六階層に入りましたな。 どうですかな? ここらで少々休憩を、取られては」
「そうですね。 重い装備を着ていらっしゃらる、騎士様には休憩も必要ですものね。 判りました。 ちょうど、広い場所に出ましたので、この中央で休憩をとりましょうか」
「はははっ! 流石は辺境の「薬師」殿だ。 歩き詰めでも、まだ、そのような事を仰るのか。 まぁ、これでも、お飲みなさい」
差し出される、水袋。 フーン…… 中に入っているの、麻痺毒ね。 常時展開している制限掛け放題の【詳細鑑定】でも、見えるわよ。 えっと…… そうね、頂こうかしら。 ポーチから、そっと解毒の丸薬を取り出して、口に含む。 全く気が付いてないのが、笑える……
「さぁ、どうぞ」
「有難く…… 冷たくて美味しいですね」
「そうでしょう。 さて、腰でも下ろし、暫し休憩を」
私の身体が麻痺するのを待つつもりね。 ちょっとした、石の上に腰を下ろし、土の地面を引っ掻く。 クリスナイフの紋様に塗り付ける様にして、紋様を埋める…… これで…… 加護は停止するわ。 見ものね。
インターゼン子爵達は、私の様子を伺っているの。 いつ麻痺が始まり、私が倒れ込むか。 その瞬間を今か今かと待っているの。
ホントにお馬鹿さん。
ほら、もうすぐ近くに、敵が来てるわよ。 魔獣だけじゃ無く、魔物もね。 一匹、一匹は、強くないけれど、かなりの数ね。 【重結界】の準備をして…… 無詠唱で自分だけに掛けるの。 こんなに近くに居るのに、魔法を掛けた事に気が付かない…… それでも、神官に仕えている聖堂騎士なの?
私が麻痺しない事にジリジリしてきたのかしらね。 仲間内で目配せを始めたの。 十三歳の小娘ならば、幾ら抵抗されても、力押しで強姦できちゃうものね。 そろそろ、その方向に気持ちが傾いて来たみたいよ。 目を血走らせて、私を見る、
眼、
眼、
眼、
眼……
気持ち悪いわねっ!
12
お気に入りに追加
6,833
あなたにおすすめの小説
愛された側妃と、愛されなかった正妃
編端みどり
恋愛
隣国から嫁いだ正妃は、夫に全く相手にされない。
夫が愛しているのは、美人で妖艶な側妃だけ。
連れて来た使用人はいつの間にか入れ替えられ、味方がいなくなり、全てを諦めていた正妃は、ある日側妃に子が産まれたと知った。自分の子として育てろと無茶振りをした国王と違い、産まれたばかりの赤ん坊は可愛らしかった。
正妃は、子育てを通じて強く逞しくなり、夫を切り捨てると決めた。
※カクヨムさんにも掲載中
※ 『※』があるところは、血の流れるシーンがあります
※センシティブな表現があります。血縁を重視している世界観のためです。このような考え方を肯定するものではありません。不快な表現があればご指摘下さい。
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
王子を身籠りました
青の雀
恋愛
婚約者である王太子から、毒を盛って殺そうとした冤罪をかけられ収監されるが、その時すでに王太子の子供を身籠っていたセレンティー。
王太子に黙って、出産するも子供の容姿が王家特有の金髪金眼だった。
再び、王太子が毒を盛られ、死にかけた時、我が子と対面するが…というお話。
私が死んで満足ですか?
マチバリ
恋愛
王太子に婚約破棄を告げられた伯爵令嬢ロロナが死んだ。
ある者は面倒な婚約破棄の手続きをせずに済んだと安堵し、ある者はずっと欲しかった物が手に入ると喜んだ。
全てが上手くおさまると思っていた彼らだったが、ロロナの死が与えた影響はあまりに大きかった。
書籍化にともない本編を引き下げいたしました
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ボクが追放されたら飢餓に陥るけど良いですか?
音爽(ネソウ)
ファンタジー
美味しい果実より食えない石ころが欲しいなんて、人間て変わってますね。
役に立たないから出ていけ?
わかりました、緑の加護はゴッソリ持っていきます!
さようなら!
5月4日、ファンタジー1位!HOTランキング1位獲得!!ありがとうございました!
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にレジーナの小説・漫画を1話以上レンタルしている
と、レジーナのすべての番外編を読むことができます。
このユーザをミュートしますか?
※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。