その日の空は蒼かった

龍槍 椀 

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「立太子の儀」の日に向かい合う、王国の真実

 迷宮攻略 《 ダンジョン・アタック 》 (1)

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 王宮薬師院の人事局から、ちょっとした、お手伝いのお願いがきたの。 薬師の知識を冒険者ギルドで披露して欲しいとの事だったの。

 冒険者ギルドと云えば…… 一年ほど前に、採取依頼を掛けてみたものの、あんまりな薬草を渡そうとしてきた事があったわよね。 だから、もう、頼るのはよそうって、思ってね。 大事な薬草とか魔獣の牙とか、肝とかは、自分で捕りに行く事にしていたのよ。

 冒険者ギルドの上の方も、かなり、困った状態と認識したのかしら、アレから新人冒険者さん達に、一定の教育を施すことにしていたらしいの。 辺境じゃぁ、そんな事しないわ。 冒険者自身が、自分で勉強しながら、覚えて行くような事なのよ。

 それに、薬草採取って、新人冒険者さんが一番初めにする依頼なの。 だから、新人さん達は、ギルドの図書館で調べたり、先輩さん達に聴きまわって、薬草を覚えたり、採取の仕方を習ったりしているの。 それが、全くできていない、王都冒険者ギルドの冒険者さん達。

 今更になって、冒険者ギルドが主体になって、新人教育なんてものを始めているんだって。

 でもね、誰もきちんとした 「 知識 」を持っていないのが判明してね…… 大変だったらしいの。 なるほど、王都の冒険者ギルドの図書館には、大量の本が蔵書されているんだけれど、それは、王都近辺の森や洞窟、迷宮なんかを網羅している物じゃなくて、ファンダリア王国本領の情報ばかりだったりするのよ。 



 かき集めて、” それらしく・・・・・ ” してたみたいなの。



 本来だったら、ギルドが主体になって、冒険者さん達に調査依頼を掛けて、細かく情報を拾って、それを纏めて本にするんだけど、その労力を惜しんだか、冒険者さん達がその依頼を受けなかったかのどちらかね。 だから、王都近辺の詳細情報は結構古かったり、抜けがあったりするの。

 その事実が判ったのは、私が王都冒険者ギルドで怒ってからね。 いざ、新人さん達を教育しようにも、先輩さん達は、薬草の種類も採取方法も知らない討伐バカばっかりだったし、図書館の本にしても、そんな状態だからね。

 冒険者ギルドの偉い人が、自ら調査に出てね…… 呆れた話よ。 何とか、詳細情報を収集できたのがつい最近なの。 徐々にではあるけれど、採取方法も判って来たらしく、冒険者ギルドから送られてくる「薬草箱」の中身もまともな物が、増えてきてたわ。 辺境のギルドと比べたら、まだまだだけどね。 



 まだ、指定採取依頼が掛けられないような状態なのよ!



 そこでね、冒険者ギルドの偉い人が、王宮薬師院に掛け合って、薬草についての講義をして欲しいと依頼されたわけなのよ。 でもね、王宮薬師院はとっても人手不足なの。 下級薬師の人達が大量に従軍薬師として北の荒野に引っ張られて行って、ほとんどの人が帰ってこなかった。 ……とても、悲しい事にね。

 王宮薬師院としては、お手伝いはしたいのだけれど、調剤局の人とか、治療局の人を出せば、王宮の職務に支障をきたすから、困っていたの。 そこで、思い出されたのが私。 第九級中級薬師とは言え、主な業務が倉庫に集めらられた薬草の仕分けでしょ? きっと、もってこいの人選だと思ったはずよ。

 他の倉庫にも、薬師さんは居るけれど、ほら、冒険者ギルドの変化の直接の原因が私だから…… きっと、混乱の始末をつけてこいって事だろうと思うの。 ” あちらに、喧嘩を売ったんだったら、きっちりと後始末迄、面倒を見よ ” なんだろうね。

 良く判ったわ。 文面には、それはそれは、丁寧に書いてあったのだけれど、真意はそこに有ると思うの。 仕方ないわ。 私も、ちょっと…… ほんのちょっとだけだけど、責任も感じるしね。 受けましょう。 その、「講師」とやらをね。




 ^^^^^^




「ラムソンさん、明日は、薬草箱を出さなくてもいいですよ」

「ん?」

「冒険者ギルドに、お手伝いに行きます。 一応、「お仕事」 らしいので、此方の「お仕事」は、しなくていいらしいので。 そうですね、ラムソンさん。 お願いがあります」

「なんだ?」

「風狼の森に行って、月夜の草を採取してきてくれませんか? 手持ちが、かなり少なくなって来ておりまして、アレが無いと解熱薬が作り難いのです。 ダメでしょうか?」

「俺、一人で行くのか?」

「ええ、その方が早く行けますし、私は、冒険者ギルドのお手伝いに行きますから」

「そうか…… 大丈夫か?」

「ちょっと、お話するだけでしょうから、問題は無いと思います。 きっと、ギルドの建物の中だろうと思いますしね。 その辺の事は、あちらに行ってから、お聞きする事に成っています」

「護衛は…… 要らないか。 お前は強いからな」

「えぇ? 強くないですよ。 ちょっと、魔法が使えて、山刀を振回せるくらいですから」

「ちょっと…… ね。 まぁ、お前がそう云うなら、そうなんだろう。 気を付けるんだぞ。 あそこは、お前の事を目の敵にしている奴らも多い」

「まぁ…… そうなんですけれどね。 でも、でも、新人さん相手にするって聞いてます」

「…………相手は、冒険者なんだな。 無茶するなよ」

「勿論です! ちょっと、お話してくるだけですから。 お夕飯には帰ります。 えっと、食堂で落ち合いましょう」

「判った」




 眠る前に、ラムソンさんとの打ち合わせ。 明日は、ギルドで「講師」をするんだ。 先生みたいなものかなぁ。 ちゃんと、お話できるかなぁ…… 聴いて、理解してくれたら…… 嬉しいんだけどなぁ。 そしたら、冒険者ギルドから入ってくる薬草箱も、マシになるし。 


 今、考えてもどうにもならないよね。


 じゃぁ、眠ろう。 明日の為にね。 ちょっと、ワクワクしてきたのよ。 ちゃんと、眠れるかな? お部屋に戻って、薄物に着かえて、ベットに潜り込むの。 随分と暖かくなってきたし…… これからは薬草がよくとれる季節。 きちんとした薬草の種類とか採取方法とか…… 理解…… して…… 欲しいな……



 薬草の香りのするベッドの匂いを嗅ぎながら、私は眠りに落ちたの……




 *****************************




 翌日……




 指定された、冒険者ギルドが持つ、郊外の実習林に来ていたの。 勿論、時間よりも早くにね。 装備はいつも通り。 そして、目の前には、冒険者ギルドの銀級冒険者、エルビス=ウーラン様。 まぁ、とても偉い人って事らしいの。 怒鳴り付けちゃった事有るけど……。

 にこやかな感じで、エルビスさんが近寄って来たの。




「おはよう。 来てくれるとは、思ってなかったよ。 有難い」

「「お仕事」ですもの。 民の安寧の為には必要な事ですわ」

「確かにな。 今日は、新人冒険者15人を集めた。 実習林と云う事で、この森を選んだんだ。 そこそこ、希少な薬草も取れるし、それにな……」

「それに?」

「十階層程の迷宮ダンジョンも有る。 三階層までなら、新人にも十分対応可能だ。 腕試し的な迷宮ダンジョンだからな」

「冒険者ギルドでは、その迷宮ダンジョンの踏破は終わって、詳細な記録も有るのですね」

「魔獣に関してはな。 迷宮ダンジョン内の薬草については、まだまだ未調査のままなんだ」

「勿体ない。 小規模な迷宮ダンジョンこそ、薬草の宝庫なのですよ?」

「知ってる。 こっちの奴らは、そんな事気にせずに、魔獣狩りの練習場にしてやがった」




 ふっと、溜息が出てしまう。 お手頃な迷宮ダンジョンは、魔獣と戦うよりも、採取に向いているのに。 迷宮ダンジョンは、空間魔力が溜まりやすいのよ。 それを吸って、野外の薬草よりも、薬効の高い薬草に成るのは、辺境じゃ常識なの。 だから、迷宮ダンジョンに挑戦する冒険者さんは、極力珍しい薬草を採取してくるのよ。

 エムバ発光苔とか、クラムシーバ―地表類とか…… 色々あるでしょ。 どれも、貴重なポーションの材料になるのにね。 もし、この新人さん達が、きちんと薬草を覚えて、迷宮ダンジョンでの採取を面倒がらずにしたら、王宮薬師院に納品される薬箱は、黄金の塊みたいに価値が上がるわ。 



 ……街で売れば、相当な価格で取引される筈。



 なんで……




 しないんだろう?





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