その日の空は蒼かった

龍槍 椀 

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思惑の迷宮

お手紙の遣り取りと、日程の調整

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 お手紙は、アンネテーナ様だけでは無かったの。




 ロマンスティカ様、ベラルーシア様、そして、フルーリー様からも、お伺いのお手紙を頂いたの。 もう何と言うか、あり得ない事態に絶句してしまった。 だって、庶民の薬師の下に、最高位と云ってもいい、大公家の御息女様達と、政商であり、豪商の御息女からのお伺いよ?

 もう! 何を考えているのかしら。 なぜ、そっとしておいて、下さらないのかしら。 何かしらの考えがあっての事か、状況が切迫しているのか…… 私には見えない、何かが起こっているのか。 とても、不安になって来たの。

 差し出し人は、連名のモノは一つもなく、皆様、個別でのお伺いだと云うのも、ちょっと考え物。 だから、最初にアンネテーナ様に、お手紙を書いたのよ。 ” 他の方からも、お手紙頂いておりますが、私の後見人たる、ドワイアル大公閣下の御息女たる、アンネテーナ様に、ご対処の方法を、お尋ねいたします ” ってね。 


 直ぐに返事が来たわ。


 アンネテーナ様も、驚いてらしたの。 皆さま、私の所に訪問を予定しているなんて、少しも仰らなかったらしいわ。 つまり…… 何かしらの事情があったって事。 それは、個人的な事かもしれないし、御実家の事情かもしれない。

 何度か、緊急便でやり取りをしてね…… アンネテーナ様から、皆さんに其々個別に事情を聴いて下さるって、ことになったの。 最終的な判断は、アンネテーナ様か、大公閣下の判断に成るみたいなの。 そうよね、だって、私の「後見人」なんだものね。

 午前中の「お仕事」の時間が、ほとんどなくなったの。 ちょっと、いけないよね。 ラムソンさん一人で、「お仕事」してたもの。 だから、午後は、私が一人でするわ。 




「ラムソンさんは、鍛錬を…… 私は、「お仕事」をしますから」

「なら、手伝う。 俺は、お前の下働きだ」

「……同僚でしょ。 もう! それじゃぁ…………、お願いしても?」

「あぁ、構わんさ」




 私も、” 一人じゃなぁ~ ” なんて、思ってたし、ラムソンさんが手伝ってくれるのなら、一昨日の入荷分くらいなら、一日で終わっちゃうよね。 だから、午後からは、力を入れて、仕分けの「お仕事」を、彼と二人で頑張っちゃったの。




 ――― 夕刻、五つの鐘 ―――



 仕分けに没頭してたら、もうそんな時間。 三箱の薬草箱を扉の外に出して、お夕飯に向かう事にしたの。 もう、昨日みたいに夕飯後に「 森 」へは行かない。 万が一、あの人に待ち伏せされたらと思うと、背筋が寒くなるわ。

 食堂でラムソンさんと一緒に夕飯を食べてたの。 昨日よりかは、視線の数は少なくなったような気がする。 エルザさんがいい仕事をしてくれたのか、はたまた、興味を失ってくれたのか。 そこの所は判らない。 判らないけれども、いい傾向だと、そう思う事にしたの。 だって、イチイチ考えてら、疲れてしまうもの。

 お夕飯後は、直ぐに第十三号棟お家に帰るのよ。 一目散にって感じでね。 ラムソンさんも、私も、周囲の確認に気を使ってたの。 昨日のことも有るし、街中で「大立ち回」りは…… 出来ないと思うから。 『血みどろの「薬師」』 なんて、言われちゃうのも、考え物だからね。

 第十三号棟お家に帰ったら、薬草箱三箱は無くなってて、代わりにお手紙があったの。 もう、午前中に何度も見た「封筒」だったわ。 アンネテーナ様からの便り。 特急便の印が付いていたの。 よっぽど、急いでらしたのね。

 中に入ってすぐに開封したわ。 




 ” ――― 事情は分かりませんが、個別のお話のようです。 皆さま、リーナ様にお話があるそうです。 内容については、お話頂けませんでした。 また、なぜ、リーナ様がわたくしに、このような事をお尋ねになったかと、問われました。 我がドワイアル大公家がリーナ様の、王都での「後見人」であるからだと、申し伝えました。 皆さま一様に驚かれておりましたが、ご納得いただけました。 ついては、誠に申し訳ございませんが、皆さまと個別にお逢いして頂きたく存じます。 リーナ様の御手隙の時で構いません。 出来れば、私からお逢いして頂くたく、お願いいたします。 ――― ”




 ちょっと、長文なんだけど、必要な事は判った。 皆さまとは個別でお会いする事と、順番はアンネテーナ様からって事。 ふぅ…… ただ、順番がね。 アンネテーナ様とお話したときに、その事もご相談しなくては、いけないわよね。




「ラムソンさん、ちょっと、お客様が続くかもしれない。 大丈夫、午後からにするから」

「そうか。 わかった」

「ごめんね。 五月蠅くするかも知れないわ」

「構わない。 俺は、周囲の警戒に当たる」

「……そうよね。 その問題があったわよね。 お願いできますか? 何分と、高位貴族の方々と、政商のお嬢様ですから……」

「判った。 出来るだけの事はする」

「ありがとう…… 心強いわ」




 二人して、瞳を見つめあい、この部屋の中を安全にする為に協力する事を確認したの。 そうよ、だって、大公家のお嬢様が見えられるのよ? それに…… 私…… 多分、狙われているから。 あの人に……


 「 お返事 」の、お手紙を書くの。


 アンネテーナ様にね。 ” 明日、午後からであれば、何時でも大丈夫です。 ” ってね。 最終便の早便にお願いする事が出来た。 今晩中に、アンネテーナ様に届くと思う…… ハト便が使えたらなぁ…… って、思っちゃったよ。 あれだと、いつでも、どこからでも、お届けできるしね。

 少しの間…… 

 お客様が続くね。

 皆さん、それぞれの事情を抱えて、私に逢いに来るの。 

 個人的な事かもしれないし……

 もっと、込み入った事情があるかもしれない。

 でも、乞われるのだから、仕方ないわ。

 だって、曲がりなりにも、私……




「 王宮薬師院 第九位薬師 」




 なのですものね。 





 ……「薬師」の仕事よね。 お薬が欲しいとか、発疹をどうにかしたいとか…… 身内がやまいに倒れているとか…… ね、そうでしょ? そうだと云ってよ。





 それ以外の面倒事を……








 聴きたくは、無いなぁ…………






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