その日の空は蒼かった

龍槍 椀 

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思惑の迷宮

帰宅。 疲れ果てた後に。

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 第十三号棟お家に戻る許可がおりたの。 そう、やっとね。





 どうやら、あの暗殺者の一党…… もう、一党とは呼べなくなっていたんだって。 一党の纏め役が、王都に有るどっかのお家で、事切れていたって、そうド変態シーモア子爵が、仰ってた。 調べが付いて、一応の安全が保障されたってね。 

 もう一人…… ほら、あの直接対決した、あの人。 あの人の足取りだけは掴めないそうなんだけれど、あの人…… どうも、奴隷暗殺者らしかったの…… 一党の隠れ家にそれらしき事が書かれた、モノが見つかったんだって。 纏め役の台帳みたいなモノらしいわ。 その中の一人…… 二つ名だけしか知られていない、暗殺者。



 暗殺者の一党、『刻銀のナイフ』の、『疾風の影』



 一党全部が死んじゃったから、その人は…… もう、そいつらに命じられることも無いから。 だから、私の事を付け狙う事も無いんじゃないかって…… シーモア子爵は、そう仰ってたわ。

 だからね、もう、第十三号棟お家に帰ってもいいって、おっしゃったの。

 体内に入った 「 毒 」 は、きっちり排出出来たし、すこぶる体調はいいの。 ただね、今回の事で痛感したのは、体力の無さ。

 お家への道を歩きながら…… ちょっと、思い出していたの……




^^^^^



 あれだけの殺気の中で動けたのは、多分、辺境での薬草採取とかで、強い魔物とかで敵意とかそんな物をたっぷりと浴びていたからね。 危ない事も、一杯あったわ。 

 それでも、私が生き残っているのは、それはルーケルさんが居たからなの。 倒れそうになったり、殺られそうになっても、ルーケルさんがスッと手を差し伸べてくれたものね。




 私…… とっても、護られていたのよ。 




 蒼空の元、石畳を踏んでお家に帰る。 着ているモノは、いつも通りの黒のスラックスに白いコットンシャツ。 もちろん、濃い灰色のウエストニッパーを付けて、魔術師のローブを着ているの。 腰にはクリスナイフを装備しているわ。

 魔道具も、返してもらったわ。 かなり、揉めたらしいんだけど、その辺はノリステン子爵が、頑張って下さったみたいなのよ。 返却して頂いたときに、苦笑いをされていたの。 特に激しく抵抗されたのが、フルーリー様と、ロマンスティカ様。 

 フルーリー様は、流石と云うか、政商にして大商会の御令嬢なのよ。 アレの価値を認めたておられてたのよ。 伝聞だけど、ノリステン子爵が魔道具返却を申し出された時のフルーリー様の御答えがね―――、



『お返ししたくありません。 この魔道具の価値は計り知れないモノ。 実家の符呪師にも見せましたが、とても精巧な作りで、とても真似のできるようなモノでは無いと。 符呪されている魔方陣に関しても、既知の魔方陣とは違う物だと、申しておりました。 実に興味深いと。 高名な符呪師も、なかなかに、このようなモノを作り出すのは、難しいと。 それに、コレは…… リーナ様から頂いた、私だけの宝物…… ご返却せよなどと、言わないで!』



 だって。 ミレニアム様とお二人で、なだめすかして、何とか取り戻したって。 お二人には、申し訳ない事をしたわ。 そして、もう一人…… ロマンスティカ様がね…… これまた、強硬に返却を拒否されたのよ。 それがね―――



『この魔道具は、薬師リーナ様と繋がっておりますの。 お返しするなど、考えられませんわ。 あの方がどれ程の事を成したのか、ご存知なのでしょ、お二方は。 ならば、彼女との繋がりを切る様なそんなお言葉、聞きたくはありません。 《魅惑》の符呪付きのラペルピンが危険であると云うのは理解いたしております。 ならば、コレは門外不出のわたくしの宝物として、安全に保管いたします。 誰にも触らせません。 だから、だから、持っていくなんて、言わないで……』



 とかね…… もう、何言ってんのよ。 かなりの渋られて、色んな取引をして、どうにか引き取る事に成功したけれど、二度とあんな交渉したくないって、ノリステン子爵がげんなりしてたのよ。

 なにせ相手は、この国の重鎮である、ニトルベイン大公閣下の愛娘だものね。 下手に騒げば、大公閣下がお出ましになって、それこそ、収拾がつかなくなるって、焦ってらした。

 あの魔道具は、急場凌ぎで作った、そんなモノよ? そんな大層なモノじゃないわ。 ちょっと珍しいってだけなのよ。 だけど、あまり表立って使うようなモノじゃないし、あれは、符呪を外そうと思っているのよ。 だって、変にどこかに出ちゃったら、マズイもの。 

 特にあのラペルピンはね。 違法とまではいかないけれど、精神干渉系の魔法が符呪されているような代物ですものね。 万が一っていう事あるじゃない。 だから、しっかり回収、そして、符呪を分解するの。 只の装飾品に戻してしまった方がいいの…… だから、お返し願ったのよ。




 ^^^^^




 第十三号棟に帰り着いた私は、こっそりと扉を開けたの。 ラムソンさん、相当 待たせちゃったし…… ご飯とか大丈夫だったかしら? スルッと体を扉の中に滑り込ませて、中に入るの。 ふぅ…… やっと帰ってこれたわ。

 散らかっている様子も、汚れている様子もない。 でも…… ラムソンさんの姿が無いのよ。 どこかに行っているのかな…… 自分のお部屋に戻って、ちょっと一息。 ベッドに腰かけて、そのままコテンと横になるの。



 疲れちゃった。



 休養はタップリ取って、身体的には問題は無いの。 でも、精神的にね。 張り詰めていたから。 やっと、解けたって感じなの。 やっとね。

 心が軽くなったのか、全周囲警戒が解けたのか…… 瞼が重くなって…… ハーブの香り豊かなベッドに吸い込まれたの。 魔術師のローブを毛布代わりにね。


 微睡が身を包み、心地いい温みに、解ける緊張。 フワフワと意識が飛ぶ。


 頑張って、頑張って…… 頑張って………… それでも、「絶望」という名の悪魔に、捕まれそうになった…………… みんなの力で、その魔の手を摺り抜けて、生還出来た事…………


 私の命の危機かぁ………… 今更ながら、震えがくるような、「 恐怖 」を感じちゃったよ………………



 意識が、解ける………… みんなの顔が瞼の裏側に浮かび上がり………………




 助ける事が出来た命…………………… その笑顔………… 






         良かった……





 微睡は、何時しか深い眠りに代わっていたの。





 ^^^^^





「おい、もういいのか?」




 ふぇ? だ、だれ! カツッって感じで目が覚めたの。 ベッドの脇に立つ人影。 えっ? ら、ラムソンさん? 今まで、一度も私の部屋には、入ったことないよね。 なんで、何でいるの?




「シュトカーナ様より、待てと言われた。 だから待った。 もう、体は…… 毒は抜けたのか?」

「えっ、ええ…… シュトカーナと、妖精さんのお陰で…… なんとか」

「そうか…… そうか、良かった。 腹は大丈夫か?」

「お腹?」

「減っては無いかと聞いている」

「あぁ…… そうね。 もう、夕方なの?」

「暮れの五刻が鳴った。 薬草箱は、保管してある中から、三箱だした」

「ありがとう。 そうね…… 食堂に行きましょうか? ラムソンさん、ご飯は如何していたの?」

「俺の何か食わないと動けないからな。 食堂を覗きに行ったら、あそこの女が、食べて行けと言ってな。 お前が帰るまで、あそこで独りで喰っていた」

「そう…… なにも、言われなかった?」

「あぁ、別段、文句は言われない。 それよりも、お前の話を聞きたがる奴が多くてな。 それには、困った」

「なんで、私の話を聞きたがるの? 変よね」

「あの日のあの場所の事、給仕や、侍女とやらが見ていたらしい。 口止めされてはいるらしいが、口の軽い奴もいるからな」

「困るよね。 それって。 あんまり広がってなかったら…… いいんだけど」

「難しいな。 ああ云う噂は、広がるのが早い」

「その噂って…… 悪い噂なの?」

「…………直接聞いた方がいいな。 食堂でな」

「ウ~~~~。 仕方ないか。 ラムソンさん、ご飯食べに行こう!」

「あぁ、扉の所で待っている」




 ラムソンさんの表情は、読みにくいんだけど、尻尾の揺れがね。 嬉しそうなの。 よほど、お腹が空いていたんだね。 身支度は早々に終わらせないとね。 待たせちゃ悪いしね。 食堂での噂話って…… どんなのだろう。 

 ちょっと、気になるものね。


 でも、あんまり悪口は……



 聞きたくないな……





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