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学院での日々
想い……
しおりを挟むお部屋に戻ったらやることがあるの。
ラムソンさんには付いてきた貰ったお礼をしっかり言ったわ。 だって、大金抱えて歩くのって、かなり怖いものね。
「ラムソンさん、一緒に来てくれて本当にありがとう。 頼もしかったわ」
「お前は、森では強いのに、街では弱くなるな」
「たくさんの人がいる所はちょっと……」
「そうか」
「ええ、人の想いが怖いのよ」
「そうか」
「だから、ありがとう」
「……護衛なら、いつでもいいぞ」
ん? ちょっと間があったよね…… やっぱり、人族が嫌いなのよね。 ハウゥ~~~ しかたないよね。 ほんと…… ゴメンね。
熱い飲み物を用意して、ラムソンさんに手渡してから、私はお部屋に籠ったの。 やる事は一つ。 簡易版とはいえ、ちょっとづつ造り上げて来た、符呪台は完成しているものね。 イグバール師匠が、どこでも使える簡易版の符呪台の作り方を教えて下さってたからね。
符呪の魔方陣に私の魔力を流し込んで、起動準備。 ちょっと大きめの魔石に色々と書き込んである、魔方陣を呼び出しそして、選んで行くの。
えっと、必要な魔方陣は…… そうそう、まずはコレ。 【遠話】 結構、優れものなのよ。 本来ならば、送話と受話の二つが一組になるものなんだけれど、必要なモノは受話だけ。 だから、魔方陣の大きさをかなり小さく出来るの。 その上、使用魔力量も僅少。 使用者が生身の部分に付けていると、体から自動的に魔力が供給されて、ずっと使える…… 外すまでね。
では、やりますか!
購入した八個のイヤーカフの内、一番大きいモノを除き、七個を符呪台の上に置く。 選び出した魔方陣を、符呪台の然るべき場所に設置。 符呪魔方陣の符呪器の上にイヤーカフの一個を置き、魔方陣を起動するの。
” 我、符呪師リーナが命ずる。 命無きモノに仮初の命を。 魔を導き、その力を宿せ。 付与 【遠話】 受話式のみ符呪せん! ”
パァァァァ って赤黒い光が溢れて、収束する。 良し! 完了! 成功したら、目標物に魔方陣が刻まれるのよ。 近くにある、自由腕に取り付けられた、大きな拡大鏡を手元に引き寄せて、確認するの。 拡大鏡に仕込んである、白色光。 拡大鏡を引き寄せた時に、点灯させたの。
じっくりと観察する…… いいね、完璧!
コレを七回繰り返すの。 いろんなデザインのイヤーカフだったけれど、ちゃんと符呪出来た。 よかった。 最後の一つは、少し違う。 【遠話】の送話、受話を組み込んだ、完全体の呪符なの。 でも、手順は同じ。 変わったことは無いわ。
これも、きちんと呪符出来た。
後は……
ちょっとした調整。 最後の魔道具の送話が、全部の受話専用の魔道具にきちんと、” 声 ” と届けられるように調整するの。 えっと…… どうしようかな…… ラムソンさんに手伝ってもらおう!
「ラムソンさん、お願いがあります」
「なんだ?」
「あの、すみませんが、このイヤーカフを付けて、なにかお話をしてくださいませんか?」
「はっ? なんだって?」
「えっと…… 符呪した魔道具の調整を…… したいの」
「あっ、ああ…… そういう事か。 話をすればいいのか?」
「ええ……そうね」
「どんな話だ」
「なんでもいいの…… そうだ、ラムソンさんが暮らしていた、居留地の森についてお話て頂けませんか? わたし、まだ、ラムソンさんの事をよく知らないの」
「…………つまらん話だぞ?」
「例えば、生まれてからの事とか………… 貴方を知る為には、必要な事なのよ」
「…………まぁ、いいか」
ラムソンさんに、完全体の【遠話】の送話、受話を組み込んだイヤーカフを渡して、耳に付けてもらった。 私は、受話のみのモノ。 調整は、簡易的に合わせてあるから、これからキチンと、調整するわ。
「どこへいくんだ?」
「これは、顔を視なくても、距離があっても、” 声 ” が届く魔道具なので、私は部屋に戻るわ。 調整しつつ、お話を聞ききたいの」
「…………そうか。 いつでもいいぞ」
「はい、お願いね」
お部屋に戻って、七個のイヤーカフの前に座る。 一つを取り、耳に付けると、ラムソンさんのお声が聞こえて来た。
”―――生まれたのは、居留地の奥。 大森林ジュノーの雰囲気を色濃く残している場所。 森猫獣人族が仔を生むべき場所。 神聖で女の獣人しか入れない場所。 そこで生まれた。 兄弟は八人。 同時に生まれた………………”
彼の紡ぐ話を聞きながら、イヤーカフの調整を進めていく。 興味深い森猫族のお話は、聞いていてとても楽しいの。 家族の話、狩の話、お父様、お母様との関係。 お爺様、お婆様から受け受け継がれる森の英知。 大家族で、少し羨ましい…… 楽し気な話が、徐々に暗く重くなる。
そう、人族の侵攻が始まるの。
侵攻してきたのは、マグノリア王国の兵隊たち。 国土が荒れ、耕作地が汚染され、食料を求め森に入る。 そして、先住の獣人族と戦端が開かれる。 民が飢えるのであればと、森の幸を与えていた森猫族たち、獣人。 その好意を当たり前のものとして、略奪に近い事を始め、やがて戦は大きくなる。
人族の武器、戦術は、長い間戦争に明け暮れていた方に、一日の長があり、また、獣人族の不得手とする魔法も人族は容易に使いこなす。 広大ともいえる、居留地の森を縦横に行軍するマグノリア兵。 その兵に対し、果敢に寡兵でもって戦いを挑む獣人族の人達。
お婆様が身罷り、お爺様と、お父様が戦いに倒れ、そして、姉様、妹様がマグノリア兵に捕まり…… 最後にはご自分も…… 悲惨の一言に尽きる。 私の中にも、マグノリア王国という国に対しての嫌悪が増大してくる。
彼の恨みは強く深い…… 人族に対して、心を許すことは無いと思う…… 今は生き残る事だけ。 その事だけを考えていると…… そう思うの。 下手な同情や諫めの言葉なんて…… 掛けられもしない。
一つ気が付いた事があるの。 それは、その暴虐が始まったのは、現マグノリア国王が即位してからなの…… つまりは、エーデルハイム国王が、国の難治を外敵に求めたと、そういう風にも見える。 国内の食糧事情と、王家に対する不信を、獣人族への偏見と差別にすり替え、増大させ、王権の権威の低下を押土止め、国としての纏まりを持たせた。
過去を「文献」と、「前世の記憶」で、知る私にとって、トンデモナイ暴虐ととれる、そんなお話。
フツフツと怒りが湧きあがるの。 淡々とお話をしてくれているラムソンさん。 おばば様の宿願である、大森林ジュノーの復活を何としても成し遂げないと…… 森猫族を筆頭に、獣人族の方々の未来は無い。
イヤーカフの調整が終わり、ラムソンさんの元に向かう。 手には、熱い飲み物をもってね。
「お疲れさまでした。 お話ありがとう。 森での事、大変興味深く…… そして……」
「少し、話疲れた。 あたたかい飲み物か。 頂く。 感情が揺れるから、今夜は早く眠らせてもらう」
「はい…… 協力ありがとう」
「お前…… 人族なんだよな」
「はい…… そうですよ」
「人族なのにな……」
ラムソンさんの瞳に困惑の光が宿っている。 そうよね、この薬師院の第十三号棟で、私と逢う迄、彼の人生は散々だったもの。 〈 人族は災厄を運ぶ 〉 そう、信じているようなもの。 だからこそ、おばば様の薫陶を受けた私に対して、とても困惑しているとも云える。
信じてもいいのか。 信ずるに値する人族なのか。
そういった、困惑が見て取れるの。 だから、私のすべきことは…… おばば様の薫陶を受けた私がすべきことは、失われし森の復活……
コトリ
ゴブレットを飲み干し、作業台に置いたラムソンさんは、立ち上がり、彼のベッドへ向かったわ。 ―――何も言わずにね。
わたしも、その空いたゴブレットを持ち、自分の部屋に帰るの。
もう少しやる事があったから。
今は、自分の出来る事を
出来るだけ
するしかないモノ……
王国の未来が少しでも良い方向に向かう為に。
ぐっと、口を引き絞り
真っすぐに前を見据え。
私は、私の出来る事を……
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