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学院での日々
ダンス の パートナー
しおりを挟むリューゼ=シーモア子爵 は、やっぱり変態。
わたしが、着るべきドレスを持っていないっていっても、一切気にすること無く、ダンスの授業を続けて下さるの。 それは、それは、厳しくね。 基本動作を一通り、習得したのは、シーモア子爵のレッスンを受け始めてから、五回目の「礼法の時間」。
「リーナさん、素晴らしいわ。 これ程早く、習得されるとはねぇ。 相当、ご自身で練習されたのでしょ?」
「勿体ないお言葉です。 わたくしも、やるからにはと、自身での練習は怠りませんでしたが、一重に、シーモア子爵様の御指導のお陰かと思います。 感謝申し上げます」
涼しい顔で、そんな受け答え。 足はプルプルしてるのは…… 見えてないよね。 両手を合わせ、にこやかに微笑まれた、シーモア子爵の鳶色の目に、怪しい光が浮かぶの。 何企んでんだか……
「メアリ、お願いがあるの」
「何ですか、リューゼのお願いは、怖いモノがありますが」
「ここまで、出来の良い生徒はなかなな居ませんの。 宜しければ、ペアでの教授を始めたいと思うのですが、何方かご用意していただけませんか?」
「…………それは」
スコッテス女史が言い淀む。 そうね、あまり、ほかの生徒さんと絡むのも…… 学院としては頂けないものね。 でも、シーモア子爵の目の光は、そんな学院の思惑を吹き飛ばすほどに輝いているのよ。 私にとっては、迷惑以外にないんだけれど。
「そうですね。 リューゼのお眼鏡に叶い、リーナの授業を手伝える者といえば…… お二方程……」
「いいわね。 では、そのお二人と…… あと、もう一人女生徒を。 そうね、フルーリー=グランクラブ準男爵令嬢を」
「えっ? なぜ…… ですの?」
「あら、彼女もわたくしの教え子ですわよ。 それに、準男爵と云えば、平民と大差ないわ。 リーナも平民。 つり合いが取れていてよ。 そして、貴女が思う浮かんだお二方…… わたくしの、見立てに間違いなければ、エドワルド=バウム=ノリステン子爵と、ミレニアム=ファウ=ドワイアル子爵 のお二方でしょ?」
「…………左様ですね」
「あの二人ね。 ちょっと、身分に煩いのが玉に傷なんだけれど、見どころはあるわ。 平民を相手にして、どんな顔をするか。 ちょっと、興味があるの」
「お二人も、高位貴族の資質をお持ちですわよ。 それに……」
「それに、ウーノル殿下のお側に居るから? でも、まだまだ、自分たちは特別と思われているわよ」
「…………否定は出来ません」
「ならば、丁度良い機会ですね、メアリ」
やっぱり、この方…… シーモア子爵は、高位貴族様方の階級意識に相当不安をお持ちなんだ。 ダンスの世界は…… 技術としてのダンスの世界は…… 秀でた者が、モノを言うのよね。 でも、彼は子爵位。 激烈な指導をされるけれども、一旦、レッスンを離れれば、そこに有るのは、厳然とした階級社会。
子爵位では、モノ申せぬことも、多々あるのでしょう。
それが、たとえ、人払いをした、レッスン場でも。 何度、歯がゆい思いをされたか…… そして、言いたい事が正論で、公平な事柄でも、何度、無下にされ、彼の心を折った事か。 だから、試されたいのね。 うわさに聞く、ウーノル殿下の資質について。
その側近にどれだけの影響を与えられているのかをね。 変態だけど、彼もまた、一流の学院の先生なんだものね。 …………でも、その為に私を使われるのは…… 頂けないわ。
「では、呼んでまいります。 暫し、お待ちを」
スコッテス女史が、小部屋を出て行く。 あとに残されたのは、私とシーモア子爵。 そして、警備の衛兵さん数名…… なんだかなぁ……
「リーナ」
「はい。 何か?」
「貴女、ドレスを持っていないって言ってたわよね」
「ええ、左様に御座いますわ。 一介の平民には、舞踏会へ着ていくドレスなど、購いようもございません」
「それにしては、とても高価な魔道具を腰にぶら提げて居るわよね」
「このポーチに御座いますか? これは、頂き物に御座いますわ」
「そう…… お師匠様?」
「ええ、ミルラス様に御座います」
「海道の賢女様からねぇ…… 直弟子っていうのは、本当だったのね」
「はい。 左様に御座いますわ」
じっと私を見つめている、シーモア子爵。 怪しい光を鳶色の瞳に浮かべ、ニヤリと笑ったの。 とたんに背筋に寒気が走ったわ。 まるで、嬲るような視線。 あの牢獄に放り込まれた時に、囚人の男たちの視線の様なモノ…… 頭の先から、足元まで、舐め上げる様に見られたの。
ゾクゾクゾク…………
「な、何でございましょうか」
「貴女ね…… とても、いい体幹をしている。 どんなステップにも付いてこれそう。 というより、そのしなやかな動きと、メリハリがあり機敏な動きは、男性パートでも十分に踊れそうね」
「そ、それは…… まぁ…………」
「ちょっと待ってね。 えっと…… たしか、アレは、そうそう、四号倉庫だったかしら。 ねぇ、あなた、ちょっとお使いに行ってくれない?」
作り付けのテーブルに近寄り、さらさらとメモに何やら書かれた。 それを近くの給仕の方の渡して、小部屋から送り出されたの。
―――― 嫌な予感しかしないわ ――――
ちょっと、怖くなってきたの。 シーモア子爵の事が。 一体何をお考えになっているのかしら……
「リーナ。 聞いて。 わたくしは不安なの。 少しね。 あの良く出来た殿下の事がね。 御身辺が何かと騒々しいのよ。 臣たる身としては、殿下の御心が少しでも安心できる様にしたいのよ……」
「はい…… それは、判ります。 「学院舞踏会」で、何かあるのでしょうか?」
「それは、判らない。 「お茶会」でさえも、あんな事があったんですもの。 警戒を高めるのは…… 必然では?」
「それを…… わたくしに?」
「…………」
じっと、私を見つめる鳶色の瞳。
何を思われているのか……
ただ、そこには、小娘にダンスを教授するだけとは、思えない……
そんな、光が宿っていたの。
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