その日の空は蒼かった

龍槍 椀 

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策謀の王都

リーナの朝、それぞれの朝

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 次の日の朝、扉がゴンゴン叩かれる音で目が覚めたの。


 まぁ、アレを開錠できなかったんでしょ。 ホントに、なってないわ。 アレしきの【施錠】開けられないなんて、どんな魔術師よ。 薬師を名乗るなら、錬金術使えるんでしょ? なら、アレの術式くらい、見破らなくちゃ……

 ゴンゴンって、あんまり煩いものだから、ちゃんと着替えをしてから、扉の方に向かったの。 ラムスンさんは、とても疲れていたのか、眠ったままだったから、私一人で対処するよ。

 扉の前について、ちょっとだけ扉を開けたの。 昨日の男の人が立ってた。




「どうなっているんだ、固く【施錠】などして! それに、昨日の飯も!! 獣人は如何した!」

「朝っぱらから、煩いですよ。 ご飯なら、私が食堂まで買いに行きました。 あんなモノでは、十分な栄養は取れませんから。 無駄にするもの気が引けましたので、そこに置いてありますわ。 どうぞ、召しあがって下さいな。 私たちには必要ありませんもの」

「なっ! お、お前は!!」

「わたくしですか? 昨晩もお答えしました通り、辺境の薬師、リーナと申します。 昨日付でこの第十三号棟に配属されました、薬師に御座います。 先に配属されていた、獣人族のラムソンさんは、制度的には、わたくしの同僚ということになりますのでしょうか?」

「ツッ! アイツは奴隷だ! 辺境の有象無象とはいえ、お前は薬師として、配属された故、あいつの上司に当たる。 この【施錠】は、お前がしたのか!」

「ええ、薬師錬金術師ならば、解析し開けられましょう。 この程度の【施錠】に手古摺る様な方は、王都にはいないと、師匠から教えられました。 押し込み強盗など、錬金魔法を使えない、方々からの守りに御座いますわ。 幼いとは言え、女一人でこの第十三号棟におりますでしょ? 【施錠】は、当たり前なのでは?」

「う、うぐぐ…… 仕事は……」

「お仕事は、日に箱一つ分の薬草の選別でしたかしら? ラムソンさん一人ででしたから、本日より、わたくしの分も含め、日に二箱では?」

「…………三箱だ。 曲がりなりにも、お前は薬師なのだろ? 奴隷と同じ分量では、上役に申し訳が立たぬ」

「左様に御座いますか。 判りました。 では、日に三箱。 この扉の前に、暮れ五つの鐘が鳴るときにお出ししております。 それで、よろしいですわね?」

「ぐっ…… 奴隷は、どうした!! アレは……薬師院の持ち物だ」

「先ほど、わたくしが、ラムソンさんの上司に当たると言われたではありませんか。 人事権は、そちらにあるようですが、転属の命令が出ない限り、わたくしの支配下にあると思われますが? よって、貴方たちには、関係がなくなったと思われます。 どうぞ、お気になさらないように。 こちらで、しっかりとお仕事をしていただきますから」

「…………日に箱三箱。 違えるなよ!!」

「御意に。 そうそう、そのバケツに入った食べ物らしきモノは、もう必要ありません。 持ってこなくて結構です。 そんな、見るからに体に悪そうなもの、必要御座いませんもの。 では、暮れ五つの鐘の音がなる時にまた」




 そういって、目の前で扉をピシャンって閉じてあげたの。 反抗的な態度の奴隷とか、辺境の薬師みたいな、素性の良く判らない者を、まとめて監禁して使い潰そうとしたんでしょ? だから、引きこもってあげる。 中の箱は全部仕分けしてあげるし、仕入れてくる薬草も仕分けしてあげる。 その代り、一切の手出しはさせないからね。 

 そうだ! 朝ご飯を取りに行くときに、扉の前に【探知ディテクト】の魔法を書いておこう! きっと、何かしらの嫌がらせを始めるよ、奴ら。 対処出来るように、しとかなくちゃね。 それと、扉にも、【耐物理防御アンチフィジックシールド】と、【耐魔法防御アンチマジックシールド】の魔方陣を書き込んでおこう!! 

 おばば様から直伝の強烈な奴ね。 そうは簡単に破れないよ? なにせ、火龍種のブレスに対応できるんだものね。 さぁ、どっからでもかかってらっしゃい! 




 わたし、怒っているのよ? 獣人族だからって、こんな仕打ちをした人達に!




 時間を見計らって、そっと扉の外に出て、まずは扉周辺の回廊に【探知ディテクト】の魔方陣を撃ち込んでおいたの。 これで、近寄る人たちの事は、手に取る様に判るのよね。 さぁ、朝ごはん取りに行こう! 昨日のバスケットの中に、綺麗に洗ったポットとか食器も入れたしね。 出来れば、貸出ししてくれないかしら? 


 出来たらいいな。





 *******************************





 昨晩の食堂に向かったの。 朝も忙しそうね。 まぁ、並んでいる人達の後に続いてたのよ。 ちっさい私の事が珍しいのか、一般の職員さんたちの視線が気になるのよ。 なにか…… 変なのかな? ちゃんと、髪も纏めて来たし、服だって…… おばば様に頂いたものなのよ? 黒いパンツに白いコットンシャツ。 変じゃないでしょ? 後ろに並んでいた、下級職員のお兄さんが、私に声をかけて来たの。




「あ、あの…… ここは、一般職員の下級食堂なのですが?」

「ここで、食事を頂くように言われたのですが? なにか?」

「ええ、お見受けしたところ、あなたは薬師様…… なのでしょ?」

「はい、辺境の薬師、リーナに御座いますわ。 それが?」

「……薬師様の御食事は…… ここでは無く、別の場所にある……」

「ここが近いので、ここで良いと思いますの? ダメでしょうか?」

「い、いいえ。 その…… お口に合うかどうか……」

「昨晩も頂きました。 とても、美味しかったのですが? 栄養も豊富で、十分な量もありました。 なにか不都合な点でも?」

「い、いいえ…… その…… 薬師様が、この下級食堂にいらっしゃるのが……」

「こんな所にまで、階級意識ですか…… なんとも嘆かわしいですね。 皆さんがお困りにならなければ、ここでお食事を買いたいと思うのですが、いけない事なのでしょうか?」

「…………いえ。 大丈夫だとおもいます。 その…… 本当によろしいのですか?」

「問題ありません。 十分な量と、必要な栄養があれば、それで良いと。 それに、美味しいんですもの」




 ニパァァって、笑ったの。 ホントに美味しかったのよ? 私に語り掛けて来た、下級職員さん、なんか顔を真っ赤にしてたの。 列が進んでてね、注文カウンター近くまで来てたのよ。 カウンターの中の女給さんが、目を丸くして私を見てた。




「ほんとに居たんだ…… エルザの事、嘘つき呼ばわりしちゃったよ…… どうしよう…… あとで、謝んないと!! お嬢ちゃん、薬師様なのよね」

「ええ。 あの、朝ご飯なんですが、持って帰れるようにできますか?」

「も、もちろんよ。 役所で食べる人も大勢いるから。 あぁ、バスケットはエルザから?」

「はい、そうです。 昨晩の食事をもっていくときに、渡されました。 あの…… 申し訳ないのですが、この食器類を貸し出してもらう事は出来ますか?」

「勿論よ。 返却してくれる時に、預り金小銅貨二枚返すわ。 それまでは、そちらで持っていていいのよ? 聞かなかった?」

「ごめんなさい、聞いていませんでした。 じゃぁ、次からは、そうしますね」

「あいよ。 朝は一種類しかないから、そのバスケットを差し出してくれたら、すぐに入れてあげる。 代金は、大銅貨一枚。 たしか…… 昨日の晩は二人前だったけ。 エルザがびっくりしてたよ。 ” ちっこい体のどこに入るんだ? ”ってね」 

「あぁ、連れが居ますから。 それと、イチイチ払うのが面倒なので、これでお願いします」





 私は、ポシェットから、金貨五枚を差し出したの。 まぁ、これで、二人が一ヶ月「食べ放題」に、なる筈なんだよね。 計算上はね。





「おやおや、気前のいいこと。 いいよ、わかった。 これから引き算しておくね。 足りなくなったら、また言うから」

「はい、お願いします」




 バスケットに、朝ご飯のバケットサンドを包んだ紙の包み二つと、スープの入った水筒を入れてくれた。 よし、朝ご飯を手に入れたぞ! 貰ったバスケットを手に、第十三号棟に帰るのよ。 周囲の視線が、なぜか柔らかかったのよね。 変なの!

探知ディテクト】には、何も引っ掛かってなかった。 様子見なのね。 扉をするりと抜けて、中に入ると、丁度ラムソンさんが起き出していたの。 目をこすり、大きく伸びをしているわ。 よく眠れた様ね。 




「ラムソンさん! 朝ごはんにしましょう!!」




 ビクンって震えて、私の方を見たラムソンさん。 なんだかとっても驚いている。 

 変よね。

 朝ご飯、ご一緒しましょって、云っただけなのにね。


 まぁ、いいわ。  テーブルに着き、バスケットから朝ご飯を出すの。 二人分。 

 そのご飯を前に、祈りを捧げるの。

 いつもと同じ祈り

 いつも通りの、朝。




 ” 精霊様、今日の糧を頂けました事、感謝申し上げます。 今日も一日、薬師の使命を真摯に果たします。 ご照覧くださいませ ”






 さぁ、食べたらお仕事、頑張りますか!



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