その日の空は蒼かった

龍槍 椀 

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断章 4

王城のとある場所にて

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 来る日も来る日も、ずっと穴倉のような作業場での仕事。 クズのような魔法草の仕分け。 僅かに差し込む光は、この倉庫の高いところに有る明り取りの窓からの光のみ。 とても、十分な光などではないんだ。 カンテラの光が唯一の友と云える。




 俺は恵まれている方なのか?



 そう自問してしてしまう。


 そして、納得してしまう。



 確かに、ほかの奴らに比べては、恵まれている方なんだろうなってな。





^^^^^^



 森猫族の亜人が人族の国に連れてこられるのは、大体が奴隷としてだ。 大きな熊族の奴らは洩れなく人族の開拓地にご招待と来たもんだ。 首の後ろの奴隷紋が反抗するたびに痺れる。 だから、この奴隷紋を撃ち込まれたら、ひと月も経たぬうちに反抗心など折れてしまう。


 爺ちゃんが、言っていたな…… 捕まれば終わりだと……


 母ちゃんがあんまり丈夫じゃなかったから、薬草摘みに出たところを捕まえられた…… 四の五の言う前に、奴隷紋を刻まれ、奴隷商に引きずりまわされ後、この国に…… ファンダリア王国って言ったっけな。 ―――ここで売られた。 なまじ薬草の知識があったもんだから、ここに放り込まれた。


 日に二回の薄い塩味のスープと黒く硬いパン。


 命を繋ぐのはそれだけ。 手も足も痩せ細ってきやがった。 森の空気が懐かしい。 兄貴たち…… 元気でいるのかな。 それとも、人族に追われているのかな…… 



 人族は嫌いだ…… 



 憎んでいる。 



 父ちゃんも爺ちゃんも、人族に殺された。 散々な目にあって嬲り殺しになった。 姉ちゃんと妹は…… とっ捕まったあと、奴隷紋を刻まれて、多分…… えっと、なんだっけ…… そうだ、マグノリア王国に連れていかれたんだ……

 あいつら、マグノリア王国の兵隊とか言ってたからな。 命からがら、兄ちゃんたちが、母ちゃんとか、俺たち小さい組を連れて森の奥に撤退したんだっけか…… 姉ちゃんは、治癒魔法を使えたから、父ちゃんたちを助けるって、飛び出していったんだっけ……



 妹は…… 撤退途中で落伍した。 


 あんまり体が強くなかったもんな……



 マグノリア兵との戦闘が集結して…… 爺ちゃんと父ちゃんと姉ちゃんの安否確認に出た、斥候が教えてくれた。 ボロボロに切り刻まれた爺ちゃんと父ちゃんの遺品と一緒に。 姉ちゃんと妹が着ていた、ボロボロに引き裂かれた服と一緒に。 


 爺ちゃんと、父ちゃんは死んだ……


 姉ちゃんと、妹は、素っ裸で首に奴隷紋を撃ち込まれて、手枷、足枷で、奴らに連れていかれた。


 大勢の女たちと一緒にな。


 斥候の人は言ったんだ。 ” これを遺品だと思って、諦めな ” ってな。 人族にとって、亜人族の女なんて、性欲処理の相手ぐらいしか用はないんだと…… 糞! 東の森は小さい。 生きていくだけでも、大変なんだ。 その日を生き抜く為に…… 心は殺した。 俺の周りの奴らはみんなそんな奴らしかいない…… 大人も、子供も、男も、女も……



 だから、俺が捕まっても、誰も助けになんて来ない。

 もう、死んでいると思ってんじゃないか?

 だから……


 俺は……


 こうやって生きているだけでも……


 恵まれている方なんだ。




 *******************************




 扉が開いた。

 今日の分の仕事を回収に来たのか……

 にしては、時間が早い。

 入口に、大人が数人と…… 小さな人影がある。

 誰だ?

 逆光でよく見えない。 

 また獣人の奴隷が入れられるのか? それとも、人族の奴隷か? なんにせよ、仕事は山ほどある。


 光の中から、その小さな人影が進み出てきた。

 高く積み上げられた、屑魔法草を見まわしている。

 なんだ、人族か…… 

 糞

 糞


 糞が……








 これが、あいつとの初対面の時の情景さ。






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