その日の空は蒼かった

龍槍 椀 

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出会いと、お別れの日々 (2)

御邸に帰る道

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 夜空の遠くに、ヨレヨレの鳥が飛んで行ったあと、エカリーナさんのお部屋に戻ったのよね。 もうちょっと、お話がしたくて…… まぁ、罪悪感とかからかな…… 絶対に迷惑かけたくない…… でも…… 色々な想いが交錯するの。 もう、ホントにどうしよう……


 エカリーナさんとお喋りをしながら、お部屋の御片付け。 お掃除もね。 ベッドには、新しい藁を貰って板の上に敷き、エカリーナさんを包んできたシーツで包み込む様にして、形を整えるの。 いい感じね。 古くなると、匂いがきつくなるけど、今はとってもいい香り。


 お日様の匂いがするわ。


 庶民の寝床は、これが一番なんだよ。 柔らかくって、暖かくって、汚れてもすぐに交換できるしね。 身体を休めるのには持って来いなの。 上掛けは、ブギットさんのお家に合った毛布。 鍛冶屋さんでは、毛布は必需品なんだ。 だから、沢山持ってらっしゃるの。 一枚分けて貰った。




「こんなに素敵なベッドなんて……」

「これから、エカリーナさんはここで暮す事になりますから、出来るだけ居心地が良くなるようにしないと……ね」

「薬師リーナ様に、こんな事までして頂いて…… なんだか申しわない無く思います」

「そ、そんな事ないですよ…… ほ、ほら、私も…… か、関係者みたいなものだし……」

「そうなのですか? 薬師リーナ様が、イグバール様の商会の関係者なのですか?」

「う、うん…… まぁ…… 色々と理由が有って……」

「此処に住まわれているのですか?」

「違うんだけれど…… 此処には住んで無いんです」

「そう……なんですか」




 ちょっと、寂しそうな顔。 不安なんだろうね。 でも、イグバール様は優しい人だから、大丈夫。 きっと…… 今も気を揉んでらっしゃる…… よね。 お掃除と、御片付けが終わった辺りで、御声が掛かったの。




「ちょっと、遅いが、なんか腹に入れようか?」




 そう、言われたの。 二人して、お部屋を出て、食堂に向うの。 まぁ、男所帯だから、乱雑に積み上がった食器とか、炊事場なんかも、お鍋とかで埋まっているわ…… 一度、ちゃんと片付けないと…… エカリーナさんも同じ思いなのか、その炊事場を見て軽く溜息を吐いているの。

 思わず、顔を見合わせて、プッと噴き出す。

 あぁ…… この人…… とても…… 話しやすい…… いい人かも……




「まぁ、なんだ…… 男二人だから、こんなもんしか出来ないんだがね。」




 バケットに御野菜と、お肉を挟んだモノが、デン! って テーブルの上に置かれたの。 ブギットさんも一緒よ。 かなり怖い見た目だけど、紳士だし…… そっとエカリーナさんを様子を伺うの。 彼女…… あまり、ブギットさんの事は怖がっていないみたい。




「これから、宜しくな。 まぁ、一緒に暮らしていく内に、色んな事があると思うが、楽しんでやって欲しい」

「はい…… そうします」

「時に、エカリーナ。 お仕着せなんだがな」




 ブギットさんが、そう言い出したの。 お仕着せ…… お店で用意する、店員さん用の制服…… もう、そんな物まで、用意してたんだ…… 小振りの箱を出して、テーブルの上に置くブギットさん。 ん? なんか見覚えが……




「まぁ、開けてみてくれ。 この商会は立ち上がったばかりだし、俺もイグバールも職人だから、大きな商会みたいな綺麗なお仕着せなんざねぇ。 それに、汚れ仕事だって沢山あるんだ。 汚れちまってもいい様にな」




 エカリーナさん、そっと箱を開けるの。 


 中から、職人さん御用達のオーバーオールと、真っ白なリネンのシャツが出て来た。 エカリーナさんなんか涙ぐんでるよ…… でも、それって…… ふと、視線を感じたの。 イグバール様が私を見て、ウインク一つ噛まして来た…… あれって…… 私の予備の……




「まぁ、なんだ。 此処でそれを着て、色々と仕事を手伝ってもらう。 勿論、帳簿付けとか、経理もな。 大変だろうけど、頑張って欲しい」

「はい! 素敵なお仕着せに負けない様に頑張ります!!」




 えぇぇ…… そ、そうなの? はぁ…… ホントに、何も言わずに、私の ” 身代わり ” の役目をして貰う事になるよ? いいの? ホントに、いいの? 私の不安気な視線を受けたイグバール様、小さく頷いていたの。 そして、視線はブギットさんに……

 ブギットさんの方に視線を投げると、ブギットさんも、顎に手をやりながら、頷いてた…… お二人で決めたんだ…… そっか…… ごめんなさい…… そして、有難う御座います……




^^^^^



 楽しく遅い夕飯を食べて、お部屋でエカリーナさんに休んでもらった後…… お二人に、頭を下げてお礼を言ったの。 二人は、優し気に微笑んで、私に言ってくれた。





「身代わりじゃねぇな。 あの子は、うちの従業員だ。 どっかの奴等がどう思うのかは、しらんがね。 そう云う風にしとくよ。 いずれバレるけれど、それまでは、エスカリーナは此処に来て、俺達と商会の仕事をしている事になる。 そして、リーナはおばば様の所で薬師の仕事をする。 いいんじゃないか? それで」

「訳がわからんが、俺もそれに乗った。 お嬢の為になるんならな。 別段誰も困らんよ。 この事を知る者は、今は俺達二人と、おばばだけだ。 あとは、任せるよ」

「はい…… 後、お知らせせねばならないのは、ハンナ様と、ルーケル様の御二人ですね。 あの方達ならば、安心です」

「確かにな…… エスカリーナは如何するんだ?」

「はい、ダクレールの御邸に戻って…… 徐々に気配を消して…… 十二歳になったら…… 御邸を出ようかと」

「……グリュックには、俺ん所に居るって事にするんだな」

「ご迷惑でしょうが……」

「いいんだよ。 アイツが気が付いた時には、エスカリーナはもうどっか別の場所に向かったって…… そう云うから」

「……ごめんなさい」




 御二人には、ホントにご迷惑ばかり。 商会の基本的な事は、ハンナさんが整えて下さっていたし…… 明日には…… ダクレールの御邸に帰る事になりそうね。 イグバール様がハンナさんに、ご連絡を取って下さったみたいだし……

 明日当たり、ルーケルさんが迎えに来てくれるかな……

 夜の虫が鳴いている。 静かな夜だったわ。 三人で御茶をして…… これからの事に想いを馳せていたの。




 ^^^^^^




 翌朝、おばば様からのお便りが来た。

 ” 話は付けた。 心配する事はないよ ”

 それだけ、書かれていた。 流石は、おばば様。 どんな手を使われたのかはわからないけれど…… それお手紙は、おばば様の言葉は、黄金よりも重い価値が有るんだもの。 肩の力がほんの少し抜けたわ。 私一人では、なにも無しえない。 


 みんなの協力が…… 

 とても、嬉しく、有難かった……


 朝靄が立ち込める中、ルーケルさんの操る、私の改造キャリッジが「奇跡の鍛冶屋」さんに到着。 心配そうで、それでも嬉し気なルーケルさんの表情。 やっと、逢えたという嬉しさが浮かんでいたわ。




「おはようございます!」

「エスカリーナ様。 おはようございます。 長い打合せで御座いましたな」

「はい、ルーケル様。 お陰で、商会は動き出しました。 エカリーナさんが起き出す前に、行きましょうか。 残念な事ですが、もう、御者台に御一緒する事は出来なくなりました」

「いいんですよ。 エスカリーナ様の安全の方が、何倍も重要なのですから。 さて……」




 見送りに出て下さった、イグバール様に目をやるルーケルさん。 お互いに頷き合い、挨拶を交わされていたの。 イグバール様がルーケル様に言葉を投げかけられた。




「今度から、薬師リーナが乗る荷馬車を用意した。 「山の水」の樽を八個積める馬車だ。 此処から「百花繚乱」へは、それを使ってもらうよ」

「私が御者で良いのですか?」

「あぁ、そうして欲しい。 ” 薬師リーナ ”からの頼みだ」

「ならば、致し方ございません。 その間、エスカリーナ様を宜しくお願いします」

「あぁ、判っているさ…… たのんだよ」




 へぇ…… もう、そんな所まで、お話が進んでいるのね…… それにしても…… この手回しは、ハンナ様なのね。 御邸に帰ったら、御礼を申し上げなくちゃ! 本当に、何から何まで…… 有難いわ!!!



 朝靄の中、御邸に帰る

 改造キャリッジの中でお祈りを捧げる。

 こうやって、私の為に色々と動いて頂いている幸せに……

 みんなの心の温かさに……

 精霊様と神様に……

 感謝の祈りを捧げていたの。


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