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出会いと、お別れの日々 (2)
変身の秘密
しおりを挟むおばば様は、” エスカリーナ” を、取り巻く鎖のような柵をよく御存知だった。 だから、わたしが ” 錬金術師リーナ ” として、生きて行きたいという望みが、いかに難しいかも、よくご理解して頂いていたわ。 だから、私の願いを叶える方策を、真剣に考えて下さったの。
外見が ” 今のまま ” ならば、どうしたって、エスカリーナは生き続ける。
そして、いずれ誰かが錬金術師リーナが、エスカリーナだと気が付く。 錬金術師として、お薬を錬成していく過程で、どうしても高度な錬金術を使わなければならない事もあると思う。
そう、今回の様に……
それをしてしまえば、助けられる命を助ける事は出来るんだけど、錬金術師リーナがエスカリーナだと気付かれてしまう。 私が王家の血を引く者かもしれないってだけで、囲い込もうとしていた、王宮、王家の人達に知れれば、即、囲い込まれる可能性だってある。 そうなれば、後は籠の鳥。 どうあがいたって、あの人達の思うが儘にされてしまう……
―――前世がそうであったように。
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数日のうちに、身体の方はとても良くなったわ。 ちゃんと立てる様に成ったし、錬金魔法も問題なく紡げるようになったの。 もう、御邸に帰っても大丈夫だと、そう思う。
おばば様に呼ばれて……、午後の御茶をしていたの。
立ち上がれるようになって、色々と動けるようになったから。 作業部屋のお掃除とか、ご飯の支度のお手伝いとかも出来たのよ。 もうすぐダクレール男爵の御邸に帰らないといけないって、想い始めたころ、おばば様が私を呼んでお茶になさったのよ。
おばば様は、ずっと私の「言葉」を考えて下さっていたみたい。 小さなテーブルに差し向かいで座って、お茶を楽しんで居たら、おばば様がニヤリと頬に笑みを浮かべられた。 突然、数個の魔方陣を手に紡ぎ出され言われたわ。
「リーナ、髪を染めるという手立てはあるが、お前の状況的には無理だ。 誰にも知れれぬように、その綺麗な銀灰色の髪を染めるのはな。 誰かに見つかる…… 必ずな。 じゃが、これを使えば、お前ひとりで…… 誰にも見つからず、その髪の色を変える事が出来る」
「これは?」
「目的は違うが、髪の色が変わる事が確認されている魔方陣さ。 髪が何色に成るかは、判らないけどね。 この魔法を知る者は……そうはいない。 バレる心配も少ないよ。 この魔方陣……「髪に魔力を貯める為」の魔方陣…… リーナは、あんたの大きすぎる魔力せいで、突然、あんたの魔力が暴走する危険性もあるんだ。 魔力保有可能な領域を増やす事は、髪の色だけではなく、あんた自身の為にもなるからね」
「そうなんですか……」
やっぱり、まだ、魔力暴走の危険性は残っているのかぁ…… こればっかりは仕方ないよね。 持って生まれた魔力があまりにも膨大な上、お母様から受け付いじゃった魔力もあるもんね…… 道理でいつも、疲れる筈よね…… 毎日魔力をキッチリと回していないと、クラクラしてきちゃうものね……
「まぁ、やってみるかね。 さぁ、手をお出し。 転写しようかね」
もう、何度もして貰った、魔方陣の転写。 おばば様の手が重なり、私の中にその魔方陣が刻み込まれるの。 スッと頭にその魔方陣の構造が入り、自分でも紡ぎ出せるようになったわ。
「さぁ、やってごらん」
「はい」
言われるがまま、その数個の魔方陣を展開したの。 コレは外に出る魔法ではないから、身体の内側に展開されたわ。 起動魔方陣から魔力を注ぎいれ…… 発動……
魔力の流れが枝分かれして、首筋から頭に掛けて、魔力が流れ出したの……
タユンって、身体の中の魔力が揺らぐ。 ちょっと、楽になった感じがしたわ。 これが、魔力保有可能領域を増やすって事ね。 おばば様が、満足げに頷いて、手鏡を渡して下さったの。 小さな鏡の中に居る私……
銀灰色の筈の髪が……
艶やかな漆黒の髪に…… そして、その中に、二房ほど、紅い髪が有ったわ。
何というか、それだけで、私じゃないみたい…… ちょっと驚いたわ。 おばば様は満足げに頷かれた後、もう一度、魔方陣を紡ぎ出されたの。 今度は、何かな?
「髪は、良い様だね…… 次に瞳だね。 その瞳の色は、目立つからね。 それに、魔力が溢れない様にしなきゃならんしね。 リーナ、【詳細鑑定】の術式を常時展開して目に張り付けな」
「えっ? ええ…… おばば様……」
言われた通りに、【詳細鑑定】の魔方陣を紡ぎ出して…… 眼に張りつけるの。 ちょっと、視界が赤くなって…… そして、普通に戻る。 いつも通りね。 注意を向けるだけで、向けたモノの詳細な情報が私の数多の中に流れ込むんだ……
ちょっと、辛いです…… おばば様
「おばば様の仰る通り、この魔法は、比較的沢山の魔力を使いますわ。 常時展開も不都合なく出来ますが……コレで生活するのは…… ちょっと…… 」
「あぁ、判っている。 そこでコレだよ…… 手お出し」
そう言って、先程紡がれた魔方陣を転写してもらった。 ん? なんだろう、これ…… 構造としては、完全な魔方陣じゃないみたい…… 見た事無いし…… それに、これは他の人に使うモノ。 まぁ、自分にも使えそうなのは使えそうなのだけれど……
「それは、魔法の制限用の術式さね。 それ単体では、なにも起こらない。 使い方は、簡単さ。 さぁ、その術式を展開する」
「はい」
言われた通りに、してみるの。 ちょっと大き目だけど、それ程……複雑ではないの。 直ぐに紡ぎ出せたわ。
「そうしたら、リーナが目に装着した【詳細鑑定】の魔方陣を取り出して、その上に置く」
「はい……」
視界がちょっと塞がり、そして、魔方陣を取り出せたの。 展開してあるその制限術式の上に重ねる様に、【詳細鑑定】魔法の魔方陣を置く。 魔方陣同士が呼応しあい、絡み合い、そして一つになったわ…… 驚いてしまった…… どういう事なのかしら……
「これで、あんたの【詳細鑑定】は、制限付きになった。 この術式をシッカリと覚えな。 まぁ、一番簡単なのは、そのまま目に張り付けりゃいいよ」
「え、ええ……」
確かに、見て覚えるよりも、使って体に刻み込んだ方が早いものね。 言われた通りに、制限付き【詳細鑑定】を目に張りつけたの。 そして、今までと同じ…… じゃ無かった!!
頭の中に、制限すべき項目が、一覧として浮かび上がっているの。
「成功したようだね。 何を見るか、何を見ないかをそれで決められる。 実際にやってみるといいよ。 あぁ、全部見えないように制限を掛けると、普通の様に見える筈さね」
そ、それは…… なかなか…… 面白い機能ね。 実際にどうなるのかを、調べる為にも、全部の制限を掛けてみたの…… ちょっと暗転して、また見える様に成った時に、普通に見える様になっていたわ。 常時展開しているから、魔力は消費しているのは、体感できるんだけど……
「これは、普通の使い方じゃないんだ。 この術式は、本来、師匠が弟子に施す術式なんだ。 制限を掛けるのは師匠で、そして、弟子の方はその掛けられた制限内で魔法を使用できる…… いわば、枷みたいなものさね」
「何かしらの理由があって、弟子の子の魔法を制限する時に使うモノなのですね? 使用魔力量の制限とか、魔法展開時間の制限とか…… 弟子さんの身体に負担が出ない様にする為のモノ……」
「そうさ、その通りさ。 本来なら、使用者と制限を掛ける者は別なんだが、それを同一にも出来るんだ。 ちょっと、変わった使い方なんだよ」
「判りました…… でも、コレが私の瞳の色にどう関係が?」
「鏡をご覧…… 判る筈だよ」
手鏡を覗き込んだの…… 鏡の中の私と、視線が合う…… 真っ黒で艶やかな瞳が私を見つめ返していたの。 黒い瞳の周囲が、髪一筋程、紅く縁どられているの…… 黒い髪、黒い瞳…… こ、これは……
「制限を掛ける項目が増えるのと同時に、光の透過度が落ちるんだ。 リーナが今やったみたいに、全部を制限すると、そうやって、殆ど真っ黒になる。 他の色にするのは難しいが、黒目は魔術師の力の証…… 今までのあんたが、非常識だったんだよ。 あんな綺麗な群青色の瞳の癖に、トンデモナイ魔術を行使する方が…… その方が……いいじゃないかい?」
「おばば様…… あ、有難うございます!! 錬金術師リーナには、とても合いそうですね」
「ん」
満足そうに頷くおばば様。 黒目、黒髪、二房の紅い髪…… 顔立ちまで変わって見えるわ。 これじゃぁ、私がエスカリーナだと言っても、だれも信じないでしょうね…… 素敵だわ。
「さて、リーナ。 そろそろ、ダクレールに戻る時が来たね。 髪は、【放出】を唱えると、髪の分の魔力が体に戻るから、元の髪の色になるよ。 眼の方は…… そのままつけて、制限なしにするか、まぁ、外した方が楽かもね」
「はい、おばば様!」
コレで、私の容姿が変わる……
一歩、” エスカリーナ ” との距離が遠のいたわ。
えっと、ダクレールの御邸に帰る前に、イグバール様の所に行かなくちゃ……
行って、イグバール様とブギットさんに、お話しなくちゃ。
これから、私がしたい事を、ちゃんと説明する為にね。
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