その日の空は蒼かった

龍槍 椀 

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幼少期のやり直し

閑話1 ハンナ=ダクレール 前編

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 エスカリーナ御嬢様はちょっと不思議で素敵な方だったよ。


 一歳とお聞きしてたんだけどね…… なんか、そんな感じ全然しないんだよね……


 全くお喋りには成らんかったし、ジッと私の手元を見詰める瞳に、何故か判らんけど、時々畏れを感じてたんだ。 この方は…… 只者では無いと…… そう思たんだよね。




 *******************************




 御父様に借金の形にドワイアル大公家に放り込まれた時は、絶望感が半端なかった。 そりゃ、貧乏男爵家の二女なんて、ほんとにどうしようもない立場に居たけど、それなりに人生楽しめては居たんだよ。 悪徳業者に騙されて、トンデモナイ借金を背負っちゃった御父様。 一門の最高位であった、ドワイアル大公家を頼ったのは、御父様が学生時代にちょっとだけ関りがあったってだけだったから。 

 ドワイアル大公閣下は級友の窮地に、御力をお貸しくださったんだ。 辛くも爵位返上なんて事に成らなかったし、お兄様も家督を継ぐ事が出来た。 婚約者がいたお姉様もお嫁に行く事が出来た。 でもさ、御父様とっても律儀だから、一方的に助けられたって事をとっても気に病んでらしてね。 そこで思いついたのが、私を差し出すって事。

 まぁ、これでも貴族の端くれだから、結婚には幻想を抱いてはいなかったよ? だけど、どうにでもしてくれって、差し出すのは、どうかと思うのよ。 大公家にお世話に成る前夜、御父様が私の手を取って、” すまんすまん ” って、謝ってたけど…… こっちは、それ所じゃ無かったんだよね。

 どんな扱いを受けるのか。 ほら、よく聞くじゃん、高位貴族様の中では、年端も行かない女性をゴニョゴニョするとか…… そりゃ、まぁ、私は綺麗って言われる方だよ? だから、商品価値としては有ると思うよ? でも、まだ、十四歳なんだよ? デビュダントもまだだったんだよ? 

 はぁ………… 学校は、二年目で中退だし…… どうしよっか? 逃げちゃおっか? でもさぁ、そんなことしたら、御父様自殺しかねんしなぁ…… まぁ、女は度胸って言うじゃない! もう、どうとでもなれ! ってね、そう思ったんだ。 覚悟を決めてさ、王都ファンダル ドワイアル大公家の御屋敷に向かったんだよ。 

 お兄様が一緒に行ってくれたんだ。 



 ” どんなに離れていても、ハンナがどうなろうと、俺はお前の兄だ。 なにか有れば、出来るだけの事をするから。 万が一、手紙を出せるなら、出してくれ。 お前だけに辛い思いをさせるとは…… ”

 ” 御兄さま、まだ、そうと決まった訳では御座いませんわ。 『どんな時にも希望を持て』と、ダクレール男爵家の家訓に御座いますでしょ? ”

 ” ハンナ…… すまん…… 不甲斐ない兄で…… ”

 ” 御領地の皆に宜しく伝えて下さい。 わたくしは、ダクレール男爵領が好きなのです。 あの領の皆の為ならば、どうって事有りませんわ! ”



 虚勢と判っていても、やっぱり勢いって大事よね。 お兄様にはダクレール男爵領を堅実に経営して行って欲しいし、皆の幸せと安寧を護って欲しい。 それが、男爵家嫡男の勤めなんですからね。 お願いしますよ!!

 馬車の中でお兄様と愁嘆場なんて、嫌ですもん。 根性きめて行かないとね!





 ^^^^^^




 ドワイアル大公家の御当主 ガイスト=ランドルフ=ドワイアル大公閣下は、素敵なナイスミドルでした。 この人なら、まぁ、ゴニョゴニョされても…… 許容範囲です。 いえ、むしろお願いしたいくらいです。 ファンダリア王国の外務卿ですって! 大公家の御当主様ですものね! 


「あのバカ……」


 お兄様が差し出された、御父様がしたためられた書状を一読した大公閣下の口から漏れたのは、そんな一言…… ど、どうしよう…… なんか、お怒りだよぉ……


「眼の中に入れても痛くない程、溺愛していたハンナを私に差し出すだと? 正気か、アイツは? 友達の危機に指を咥えて見てられなかっただけじゃないか。 対価など求めてはいない! ダクレール領の為に何でもすると言い切った男のする事か?! まったく、何をかんがえているんだ? ハンナ嬢!」

「はっ はひ!」

「ダクレール男爵は頑固で一徹で、領民を愛するとても慈悲深い領主だ」

「はっ はひ!」

「その娘御を、私の妾に差し出すとある」

「はっ はひ!」

「馬鹿か、アイツは?」

「えつ?」

「判った、アイツの大事な娘御だ、きちんと行儀見習いをさせよう。 大公家の侍女として君を遇する。 悪い虫が付かぬように、礼法作法をきちんと身につけるられる様に、我が家の侍女であった事を誇れるように。 良いな」

「はっ、はひ!」


 と、まぁ、御父様より遥かに常識人だった大公閣下。 私はダクレール男爵家の令嬢として、大公家の見習い侍女として教育される事に成ったんだ。 い、いや、まぁ、有るよ。 そんな話は。 行儀作法を覚える為に、高位貴族様のお屋敷に勤めるって事もさ。 主にその家のお嬢様付になって、専属侍女に成るって人も大勢いる…… 居るんだけど、大公家って家格なら、普通なら伯爵家以上のお嬢様がその任に当たる筈なんだよ……

 男爵家の娘が、そんな大役果たせるかなぁ……


「我が家には、少々問題のある令嬢が一人いる。 姉上の子だ。 名をエスカリーナという。 あの子についてもらいたい」

「はっ、はい!」


 ほらね、なんか意味ありげな顔をしているよ、執事長さん…… 問題があるって…… あっ!! そ、そうだ!! いま、姉上っていったよね。 いったよね! 不義密通の嫌疑で、大公家に戻されている王妃殿下が、確か大公閣下のお姉様!!! えっ、なに!?!?! そ、その子のお世話なの? ま、マジで?


「顔色が変わったね。 そうだ、すこし厄介な事情を抱えている。 が、アレも我が大公家の娘には違いない。 どうだ、頼めるか?」

「は、はい! この身に変えましても!」

「受けてくれてよかった。 これで、エスカリーナも助かるよ。 とても、良い子なんだ。 ただ、余りにも厄介な事情なだけにな。 君の事はきちんと遇そう。 セバス、いいな。 決して疎かにするな。 頼んだぞ」

「はい旦那様。 侍女長のカーマルにも申し伝えます」

「頼んだぞ。 ダクレール男爵には少し気を揉んでもらう。グリュック君。 あのバカには詳細は話すなよ。 受け入れられたとだけ伝えてくれ」

「ハッ! 御心のままに!」

「うむ、ハンナ嬢の事は任せなさい。 淑女としてきちんと教育するからな。 グリュック君、君にだけは手紙が届くように取り計らうから、心配しない様に。 いいね」

「有り難き幸せ! 誠に、誠に!!」


 お兄様、なにも、涙を流す事無いじゃない! 恥ずかしいよ!! と、いう事に成りまして…… エスカリーナ様に仕えるとこに成りました。 まぁ、実際はそれまでに、侍女長のカーマル様にミッチリ、ギッチリ、叩き込まれましたけどね。



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