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ジャック・ザ・リッパー

襲撃

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 夜も更けてきた、月明かりも少なく心もとない。探知を展開させ続けているが、反応もない。ハイルどうだ?

『いまだに脅威を感じません』

 いつ襲われるかわからない今、念のため身体強化で五感の能力を上げておく。音は、静かな風の音しか聞こえない。じっと待ち続ける。だんだんと冷え込み始め、じっとしているのも辛くなってきた。一瞬の隙だっただろう。月に雲がかかり、あたりが暗闇に包まれた。
それに気を取られた、取られてしまった。
明らかに違った音を聞く。

草を踏みしめ、風を切る。

普通の人間には聞こえないほど小さな音。

 俺は音を聞き、探知で相手を探る。だが、見つからない。見えない相手だと。初めてのことで動揺するが、すぐに周囲に目を凝らす。すさまじい速度で走り去る影を見た。追いかけなければ。

「敵だ!備えろ!!」

 影を追いかけながら、大声を張り上げる。影は、人間とは思えない跳躍で窓から侵入し一直線に子爵が待つ部屋へと進んでいく。俺もその後を追いかけながら魔法を展開する。

「間に合え!!」

 このままでは子爵がやられてしまう。そう感じ、展開した魔法を目の前の扉に向けて放つ。使ったのは混合魔術の一つ、氷属性のアイスだ。扉を防げば相手も侵入はできないはずだ。

「ガァッ!!」

 相手は獣じみた声を上げ、目の前の凍った扉を扉ごと蹴り飛ばした。あれは、人間じゃない。扉の先にはマッスルさんと子爵が、やばい。

「マッスルさん、頼む!」
「おう、『硬化』!!」

 敵がマッスルさんにそのまま突っ込む。とんでもない衝撃音が部屋全体に響く。

「おらぁ、この程度慣れてんだよぉ!!」

 マッスルさんが相手を抱え込むように押さえつけている。あれで無事とか、人間じゃねぇ。ともかくなんとか捕まえたのか。

 「ガァ、痛って。」

 硬化の後のわずかな身体強化の隙を狙ったのか、マッスルさんの腹と太ももにナイフが差し込まれていた。そして、相手はこの場から離脱した。逃がしてたまるか。俺も後を追う。しかし、身体強化をした俺のほうが僅かに速いが、それにしても異常だ。ここまでの速さで動けるなんて。
 子爵の屋敷からどんどん離れていく。夜の街、出歩く人が少ないのが幸いだ。市街地も抜け、ついには城壁をも飛び越えた。
 マズい、森に入られたら流石に俺でも追いつくのが難しくなる。あと少し、せめて手掛かりだけでも残さなければ。そう考え、集中がまったくできないが、火の魔術を構築し相手に向かって放つ。大したことはないが、火傷程度なら与えられる。飛ばした火は、相手の被っていたフードのようなものに着弾した。

「グウッ!」

 やったか、効いたみたいだ。首筋には火傷の後がついているに違いない。しかし、目の前には闇が広がった。なんだこれ、布か⁉
 すぐさま、取り払う。どうやら相手が着ていた外套を脱ぎ捨てたようだ。そして、目の前には……少女?

「ウぅ、邪魔、しなぃデ。」
「そうはいかない、こっちも責任があるからね。」

 てっきり人間ではないと思っていたのだが、まさか少女とは。さらに、自分と同じ年くらいだろうか。

「そう、ジャあ、コロス。」

 彼女は、そう言うとポケットから何かを取り出し、首に突き刺した。その目は赤く染まり血の涙を流す。なんとも不気味で、怖い。人間をやめた力はそれのせいか。いったい何者だ。

彼女の姿が消える。

死角からの攻撃を読み、手刀を繰り出す。

キンッと甲高い音が鳴る。いつの間に小刀を持っていたのか。

「人間?」
「まだ人間のつもりさ。」

真っすぐに小刀が顔に向かってくる。首を傾けて避ける。だがそれはフェイント。すぐさま足に衝撃が来た。

バキッ、グシャと嫌な音が聞こえた。しかし、痛みがない。見ると、相手の足が逆方向にひしゃげていた。俺のほうが耐久力は上だったみたいだ。

「俺のほうが丈夫だったみたいだな。」
「撤退。」
「逃がすか!」

 創造錬金で鉄の檻を生み出す。しかし捕えることができない。せめてと何発か魔力弾を撃ち込む。なんとか一発当たったが逃げられたみたいだ。しかし一発でも魔力弾を当てられたのは大きい。ハイル、頼むぞ。
『了解ですマスター、探知を開始します』
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