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おわりのおまけ〜ある神の言い訳〜
しおりを挟むーーー白、白、白。
白の溢れたこの部屋の主は、下界の様子を見て、安堵の溜め息をこぼさずにはいられなかった。
『やっと、役目を終えたか…』
今回の"聖霊"に使った"異界の魂"は、日本の福岡という場所で亡くなった女性のもの。この魂は、仲が良い異界の神が勧めてきたものだ。
この女性、友神が担当する地区の社を年一回必ず詣でるが、その際の願い事はいつも同じ。
他の人間が、この社の売りである縁結びの恋愛成就を願うことが多いなか、この女性は、なぜか毎回、来世について強く願うのだそうだ。
ーー来世は自由に空を飛び回りたい。自分の意志で、自由に。ーー
"聖霊"を作る際に使う"異世界の魂"は、徳の高い善良なものである必要がある。
友神いわく、この女性は悪事を行う度胸もなく、目の前で困っている人がいれば、自分が損をしてでも助ける底無しのお人好しで、死因も他人を助けて代わりに車に轢かれたというものだった。そのため、仮にこのまま同じ世界で転生したとしても、裕福な家の何不自由ない人間の子として転生予定なのだとか。
友神からは追加情報で『女性は願い事の最中、「虫は嫌、虫は嫌」という内容を必ず繰り返す。日本の伝統芸能によると、これは逆に、虫が好い、という意味になる。そういう文化なのだ』と説明された。
こうして私は安心して、異世界の魂を"聖霊"に転生させたのだが………
転生直後、彼女へ事情を説明すべく通信を開始したところ、絶叫のような夥しい量の感情が逆流してきて、さすがの私も通信を切らざるを得なかった。
彼女は自らを羽虫だと言うが、見た目で虫的な部分は、体の大きさとその2対の羽のみ。妖精という空想の生き物の見た目と酷似しているといえば、わかりやすいか。私自身が愛らしいと思い想像した姿の為、それ程嫌がるとは理解に苦しむ…
あまりの嫌がりように、せめて鱗粉が飛び散らないよう、羽を使わず、念じるだけで飛行できるように慌てて調整した。
その後、しばらく放置したが……いや、なに…忘れていたわけではない。
通信をせずとも、細々と娘の望みを叶え、手助けは行っていた。
あのあと、私も忙しかったのだ。
この世界の安寧のため"聖霊"用の特別な魂を貰ったのだから、逆にこちらも友神の望む内容で、この世界の魂を異界へ送り出す必要があった。
友神の趣味が…いや、注文がうるさくて、なかなか合致する魂を見繕うことが出来ず、多少、運命に手を加えて手に入れたせいで、世界に歪みが生じ、危うく崩壊を招くところだった。それを更に微調整して、ようやく"聖霊"となった彼女と交信できる余裕が持てた。
それが、先程のこと。
この時、ほとんど使命を終えて、あとは番と幸せになるだけの状態だったため、敢えて、そう、敢えて交信を切った。
神が地上の者に関わり過ぎるのは、あまり良くはないことだからな。
彼女は特別な魂だから、サービスで三問だけ答えてやった。
友神の治める世界では『仏の顔も三度まで』なのだろう?
意味はよくわからんが、仏とは神のことだそうだから、三回までは助けてやれ、というような意味と理解した。
まぁ、なにはともあれ、万事うまくいったな。
終わり良ければ全てよし。
よきかな、よきかなーーー
『よかねーよ!!(by羽虫)』
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次回、ルーカス視点でお送りします。
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