上 下
33 / 42

33.囚われの悪役令嬢

しおりを挟む
伯爵邸に滞在することが出来たし、フェンリルによると護衛達も無事に侵入&潜伏に成功したと連絡があったそうだ。


さすが、精鋭部隊!!ですわ♪


伯爵はローゼリア達に見せる最高品質の魔石を探すため、出掛けている。
今が好機ということで、早速調査開始ですわ!


「アラ~こちらには何があるのカシラ~?」


ローゼリアが屋敷を散策したいと使用人に言うと、自由に動き回ることが許された。さり気なく扉を開いて、怪しい場所がないか探る。
ちなみに、フェンリルは屋敷の庭を散策…すると見せかけて、護衛達と情報交換中だ。
勿論、ローゼリアの侍女は側に付いて周囲を警戒している。……今更だけど、護衛ではなくただの侍女なのに、フェンリルさえ何故か信頼するほどの腕前があるのよね。不思議だわ…
侍女の不思議は置いておき、王妃様に繋がる手掛かりがないかを素人なりに目を皿にして探す。
すると、廊下の向こうから、ドレスを着た妙齢の女性が歩いてきた。

(…?彼女はどなた?伯爵様は独身だと聞いていたけれど、親戚の方かしら?)

普通、親戚などの親しい者がいる場合、滞在する客に紹介程度はするはずだ。なのに、彼女のことは伯爵からは何も聞かされていない。
疑問に思いつつも、客として挨拶をする為、女性に近付くローゼリアに、付き添っていた伯爵邸の使用人が何故か慌てて止めようとした。


「ろ、ローゼリア様。あちらに当家自慢の美術品がございまして、是非御鑑賞頂ければっ」


必死に女性から引き離そうとしている使用人の様子に、空気を読んで大人しく案内されようとしたローゼリアを、女性が少し低めの落ち着いた声で呼び止めた。


「…もし、御客人でしょうか?ご挨拶が遅れ申し訳ありません。わたくしも、伯爵様の御厚意で滞在する者で、名をクリスと申します。」
どうぞよろしく、と頭を下げた女性に、ローゼリアは慌てて向き直り、名を告げ挨拶を返した。


「まぁ、ローゼリア様と仰るのですね。お美しい方、もしお時間が許されるのでしたら、わたくしと少しお話しいたしませんか?」


ローゼリアは女性の言葉に少し迷ったが、自分達より長く滞在している彼女なら、王妃様のことを何か知っているかもしれないと考え、女性の誘いに応じた。
これに慌てたのは女性からローゼリアを離そうとした使用人だ。
でも、結局、客人達の意向に逆らう事はせず、お茶会の席を用意してくれた。


✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


ちょうどその頃、フェンリルは庭木に隠れて部下から伯爵家に滞在する謎の女性についての報告を聞いていた。


「それで、その女性の正体は?」


「名前はクリス、この領地に住む平民の女です。住民に聞き取りしたのですが、生まれや家族構成などの詳しい身元は、残念ながら分かりませんでした。彼女は伯爵の内縁の妻のようで、前伯爵が亡くなられた後すぐ、この屋敷に迎えられています。」


「ほぉ……怪しいな。」


「はい、もしかすると、彼女は隣国のスパイかもしれません。」


「た、大変です!!団長、現在、例の女とローゼリア様が接触しています!!」


「なんだとっ?!」


慌ててローゼリアの元に戻るも、フェンリル達の心配は杞憂に終わる。なぜなら、客室として与えられた自室でローゼリアがけろっとした顔で寛いでいたからだ。

「……様?そんなに慌てて、どうなさいましたの?」

キョトンとした顔でフェンリルの方を見るローゼリア。


「……いや、リアが無事なら良いんだ。」


この時、ローゼリアの傍らに、いつも控えている筈の侍女の姿はなかった。


✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


「王妃様!!」


「ごほっ、……誰?」


見えぬ目を凝らして相手を確認しようとするカレンデュラ。
そんな自分に駆け寄る誰か。鈴のなるような高い声からして、若い女性のようだと判断する。


「私はガーネット公爵フェンリル様の婚約者、ローゼリアと申します。妖精の声に誘われてこちらに参りました。どうぞお手を……あぁっ、こんなにお窶れになられてっ!!」


どうやら、幼き声の言っていた助けのようだ。味方が近くにいてくれるのは嬉しい。しかし……


「助けに来てくださったのは、貴女お一人ですの?」


嫌な予感がしたので尋ねると、ローゼリアからは婚約者で騎士団長のフェンリルのほか、彼の部隊の優秀な者達も一緒にきたと聞いて、安堵する。


「良かった…わたくし達は助かりますのね。」


「…はい、恐らく。、きっと。」


「居なくなったことに気付けばって……まさかっ!」


「…はい。王妃様も、拐われる時に同じ状況だったと犯人に聞かされました。なぜか、私と私の侍女は惑わされることがないのですが…」


「貴女の侍女?」


「…こちらに。」


気配なく控えていた為、気付かなかったが、ローゼリアの他にもう一人捕らえられていたようだ。


「なぜ、私達は犯人の使う術にかからないのでしょう?」


ローゼリアが前々から思っていた疑問を口に出す。独り言のようなもので、答えを求めたものではなかった。

三人に共通点など同じ女性ということだけ。ちなみに、自分たち以外の女性が術にかからなかったかというと、そうではない。侍女仲間はあっさり術にかかっていたと、ローゼリアの侍女は証言している。出身国も年齢も身分も違う三人だ。


……謎ね。お手上げだわ。
そんなことよりも。


「王妃様、お加減はいかがですか?」


「ごほっ。えぇ、大丈夫、とは言い難いわね……こちらに来てから暫くは平気だったのだけれど、急激な温度差のためか、風邪を引いてしまって…食事は日に二回朝夕に出てくるし、水もあそこの蛇口から出てくるから、最初はすぐに死にはしないと楽観視していたのだけど。妊婦に、この環境は悪かったみたいね…」


お腹をさすりながら悲しい顔をされる王妃様。過酷な環境なのに、悲観せず自分で出来ることをして生き延びていたようだ。

…確か王妃様は、元隣国の王女様でしたわね。

その身分の割にかなりタフな方のようだ。
しかし、犯人の目的が分からない。


殺すつもりなら、攫ってすぐに殺しているだろう。
王妃様の身柄を盾に、国に何かを要求する事もなかったそうだ。
王妃様に何かの要求をしてくることも、乱暴されることもなかったという。(これには同じ女として心底ホッとした)

ただ、ひたすら放置され、たまの食事が与えられる。風邪をひいてから体調不良を訴えても、治療はされず無視されたそうだ。

…ここに閉じ込めて死ぬまで王妃様を苦しめる事が目的なの?

考えても納得のいく答えは出ない。それに、王妃様のためにローゼリア達が出来ることもなさそうだ。なにせ、医学の知識もなく、薬も……ん?

ローゼリアは、自らの侍女を見る。そう、万能で優秀なローゼリアの侍女を。


「ねぇ?もしかして、王妃様のお体を楽に出来るような何かを今持っている?…というか、貴女、診察は出来て?」



しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

元侯爵令嬢は冷遇を満喫する

cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。 しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は 「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」 夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。 自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。 お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。 本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。 ※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります ※作者都合のご都合主義です。 ※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。 ※架空のお話です。現実世界の話ではありません。 ※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります) ※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。

お嬢様はお亡くなりになりました。

豆狸
恋愛
「お嬢様は……十日前にお亡くなりになりました」 「な……なにを言っている?」

【完結】悪役令嬢のトゥルーロマンスは断罪から☆

白雨 音
恋愛
『生まれ変る順番を待つか、断罪直前の悪役令嬢の人生を代わって生きるか』 女神に選択を迫られた時、迷わずに悪役令嬢の人生を選んだ。 それは、その世界が、前世のお気に入り乙女ゲームの世界観にあり、 愛すべき推し…ヒロインの義兄、イレールが居たからだ! 彼に会いたい一心で、途中転生させて貰った人生、あなたへの愛に生きます! 異世界に途中転生した悪役令嬢ヴィオレットがハッピーエンドを目指します☆  《完結しました》

死んだはずの悪役聖女はなぜか逆行し、ヤンデレた周囲から溺愛されてます!

夕立悠理
恋愛
10歳の時、ロイゼ・グランヴェールはここは乙女ゲームの世界で、自分は悪役聖女だと思い出した。そんなロイゼは、悪役聖女らしく、周囲にトラウマを植え付け、何者かに鈍器で殴られ、シナリオ通り、死んだ……はずだった。 しかし、目を覚ますと、ロイゼは10歳の姿になっており、さらには周囲の攻略対象者たちが、みんなヤンデレ化してしまっているようで――……。

もう死んでしまった私へ

ツカノ
恋愛
私には前世の記憶がある。 幼い頃に母と死別すれば最愛の妻が短命になった原因だとして父から厭われ、婚約者には初対面から冷遇された挙げ句に彼の最愛の聖女を虐げたと断罪されて塵のように捨てられてしまった彼女の悲しい記憶。それなのに、今世の世界で聖女も元婚約者も存在が煙のように消えているのは、何故なのでしょうか? 今世で幸せに暮らしているのに、聖女のそっくりさんや謎の婚約者候補が現れて大変です!! ゆるゆる設定です。

そろそろ前世は忘れませんか。旦那様?

氷雨そら
恋愛
 結婚式で私のベールをめくった瞬間、旦那様は固まった。たぶん、旦那様は記憶を取り戻してしまったのだ。前世の私の名前を呼んでしまったのがその証拠。  そしておそらく旦那様は理解した。  私が前世にこっぴどく裏切った旦那様の幼馴染だってこと。  ――――でも、それだって理由はある。  前世、旦那様は15歳のあの日、魔力の才能を開花した。そして私が開花したのは、相手の魔力を奪う魔眼だった。  しかも、その魔眼を今世まで持ち越しで受け継いでしまっている。 「どれだけ俺を弄んだら気が済むの」とか「悪い女」という癖に、旦那様は私を離してくれない。  そして二人で眠った次の朝から、なぜかかつての幼馴染のように、冷酷だった旦那様は豹変した。私を溺愛する人間へと。  お願い旦那様。もう前世のことは忘れてください!  かつての幼馴染は、今度こそ絶対幸せになる。そんな幼馴染推しによる幼馴染推しのための物語。  小説家になろうにも掲載しています。

悪役令嬢になりたくないので、攻略対象をヒロインに捧げます

久乃り
恋愛
乙女ゲームの世界に転生していた。 その記憶は突然降りてきて、記憶と現実のすり合わせに毎日苦労する羽目になる元日本の女子高校生佐藤美和。 1周回ったばかりで、2週目のターゲットを考えていたところだったため、乙女ゲームの世界に入り込んで嬉しい!とは思ったものの、自分はヒロインではなく、ライバルキャラ。ルート次第では悪役令嬢にもなってしまう公爵令嬢アンネローゼだった。 しかも、もう学校に通っているので、ゲームは進行中!ヒロインがどのルートに進んでいるのか確認しなくては、自分の立ち位置が分からない。いわゆる破滅エンドを回避するべきか?それとも、、勝手に動いて自分がヒロインになってしまうか? 自分の死に方からいって、他にも転生者がいる気がする。そのひとを探し出さないと! 自分の運命は、悪役令嬢か?破滅エンドか?ヒロインか?それともモブ? ゲーム修正が入らないことを祈りつつ、転生仲間を探し出し、この乙女ゲームの世界を生き抜くのだ! 他サイトにて別名義で掲載していた作品です。

王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!

gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ? 王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。 国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから! 12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。

処理中です...