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18.魔術って案外ショボいんですのね
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楽しい王都観光を終えた翌日。
夜会に向けての猛勉強も終わり、公爵夫人として学ぶべき事は、婚約期間にゆっくりと熟せば良いとされた(家庭教師は夜会に向けて寝る間も惜しんで暗記していたローゼリアを高く評価している)ため、日に一回の勉強の時間以外、ほとんど何もすることがなくなったローゼリアは、暇を持て余していた。
こんな時、婚約破棄される前の私ならば、ドレスや貴金属を新調したり、お茶会を開いて気に食わない令嬢に嫌がらせをしたりしていた。
けれど、今は全くそんな事をしたいと思わない。
ドレスや貴金属には興味はあるが、今ある分で十分に感じるし、お茶会を開くのも、この国の貴族令嬢の少なさから気乗りしない。
……それに、お茶会を開くなら年の近いソフィア嬢を呼ばないわけにもいかないでしょう?
そして、決めた。前々から気になっていたアレのことが知りたい。
そうだわ、魔術について学びましょう!
揺れない馬車の秘密のように、利益が出る特殊な魔術は秘匿されている。
けれど、ここは魔術大国アルジャン。
母国にいた頃のように、なんとなくでしかわからなかった魔術について、ここでなら大衆向けの本でも知ることが出来るのではないかとローゼリアは考えたのだ。そして、早速とばかりに執事に尋ねてみた。
「セバス、この屋敷にある魔術に関して記載された本を何冊か読めないかしら?」
「……魔術の本、でございますか?」
「もちろん、私が読んでも問題ないような内容の物だけで結構よ。私、魔術に興味があるの。…ダメ、かしら?」
「………(本当は他国の者に読ませるべきではないかもしれない。だが、魔術の知識が漏洩せぬようにという名目で奥様を囲い込めれば)畏まりました。」
セバスは少し考えていたが、結局、許可を出してくれた。そうして、侍女が運んできた魔術の本が目の前に積まれた。
……ついに、魔術について分かるのね!!
静かに興奮するローゼリア。目は期待に爛々と輝いている。
まずは子供向けの絵本から開いてみた。
ペラ。
「龍に拐われたお姫様を騎士が助ける絵本ね!普通は剣で戦うけど、この騎士は、魔術も使うのね!……剣から炎?氷?雷も?!凄い!!」
まぁ、この物語は空想のお話。
でも、この国の絵本ってだけで、本当のことかもしれないって夢があるわよね~
じゃあ、次はお待ちかねの魔術の専門書らしきものを見ていこうかしら!
ペラ。
「えー、なになに。『我が国の国民は、他国民とは違う。肌の色が浅黒く、国民の多くは大なり小なり魔力を有している。魔術とは、魔力を動力として決められた動作をすることにより得られる結果のことを言う。
また人により魔術適性は異なる。魔術適性とは火・水・風・土などの四大元素を操ることができる能力を有すること。
素養のある者だと、体内魔力だけでこれらの元素を操り、求めた結果を出すことが可能だが、そういった者は希少である。
現代魔術では専ら、魔石に内包された魔力を使い、魔術具などの補助具を用いて必要な結果を得ることが多い。
(中略)……魔術は未だ全てを解明された訳ではない、未知の技術である。ゆえに、我々は日々研鑽をつみ、さらなる高みを目指して努力していく必要があるのだ。』…………(難しい文章は、目が滑るわね、理解不能よ)。」
ペラペラ。
「わ~この宝石のように美しい石は何かしら?なになに…『これらの魔石は、石の中にある模様と色の濃淡で、属性と含有する魔力がわかる。例えば、石の色が赤色で焚き火のような模様が中に見える石なら火属性の魔石で、赤色が濃ければ濃いほど強い魔力を有している。』って、この宝石みたいな石は、夜会でどこかの貴族が自慢していたあの魔石なのね!
…この挿絵は、何の絵かしら?二十の丸の中に不思議な模様が複雑に描かれていて綺麗ね!これは、文字?全然読めないわ!んーと、『これは、古代人が壁画に残した絵を模写した物で、恐らく魔術に関する何かしらの陣であると推測される。』へぇー……。」
パタン。
よし、一人で読んでも私の頭では理解できないということが理解できましたわ!エッヘン
これは、解説者が必要ね!
というわけで、
「……きちゃいました」
ーガタガタンッ
「…ぇ、リア!?な、な、な、なんで、ここに!?」
「ちょっと昼間に気になる本を読んでしまって…私の侍女に相談したら、この時間ならフェル様に聞けるんじゃないかって言われて…執事にフェル様の居場所を聞いたらここへ連れてきてくれたんですの。」
フェンリルの脳内に侍女のニヤリと笑う顔と「旦那様、据え膳ですよ」という悪魔の囁きが聞こえる。そして、執事も共犯か!セバスめっ。
侍女と執事に憤るフェンリルの完全に寛いだ格好と、広々とした部屋の奥にある寝台を見て、ローゼリアも気付く。ここって…
「ここ、フェル様の寝室?もしかして、もうお休みでしたの?!ご、ご迷惑をっ私、失礼しま」
「いや!大丈夫、自室で寛いでいただけだから!……こっちへおいで、リア。」
「ッ///(はぅ、すごい色気ッ)」
フラフラと光に集まる羽虫のように、フェンリルに近寄っていくローゼリア。気付けば寝室の二人がけソファに腰掛けていた。
ウットリ見つめるローゼリアに「(あまり見つめられると嬉しいけど今はマズイ)コホン、昼間に読んだ本で聞きたいこととは?」とフェンリルが話を促してくれた。
そうして、読んだ本の内容と、恥ずかしながら理解できなかったことを伝え、可能な範囲で構わないので魔術のことについて教えて欲しいと頼んだ。
結果わかったこと。
現代魔術は魔法のようになんでもはできないということだ。
治癒師のように己の魔力だけで術を行使する者はとても希少な存在で、殆どの人は魔石や魔術具を使わなければ、魔術は使えない。
王族は先祖返りなのか、たまに己の魔力のみで魔術を使える者が現れる。現王ライオネルが先祖返りで、水の適性がある。しかし、体内魔力のみだと、チョロっと水を出せる程度で、あまり役に立たないらしい。
しかし、陛下のように素養のある者が魔術具を使うと威力が増すため、有事の際には力強い存在なんだとか。
……思ったより魔術って大したことは出来ないんですのね。
楽しい王都観光を終えた翌日。
夜会に向けての猛勉強も終わり、公爵夫人として学ぶべき事は、婚約期間にゆっくりと熟せば良いとされた(家庭教師は夜会に向けて寝る間も惜しんで暗記していたローゼリアを高く評価している)ため、日に一回の勉強の時間以外、ほとんど何もすることがなくなったローゼリアは、暇を持て余していた。
こんな時、婚約破棄される前の私ならば、ドレスや貴金属を新調したり、お茶会を開いて気に食わない令嬢に嫌がらせをしたりしていた。
けれど、今は全くそんな事をしたいと思わない。
ドレスや貴金属には興味はあるが、今ある分で十分に感じるし、お茶会を開くのも、この国の貴族令嬢の少なさから気乗りしない。
……それに、お茶会を開くなら年の近いソフィア嬢を呼ばないわけにもいかないでしょう?
そして、決めた。前々から気になっていたアレのことが知りたい。
そうだわ、魔術について学びましょう!
揺れない馬車の秘密のように、利益が出る特殊な魔術は秘匿されている。
けれど、ここは魔術大国アルジャン。
母国にいた頃のように、なんとなくでしかわからなかった魔術について、ここでなら大衆向けの本でも知ることが出来るのではないかとローゼリアは考えたのだ。そして、早速とばかりに執事に尋ねてみた。
「セバス、この屋敷にある魔術に関して記載された本を何冊か読めないかしら?」
「……魔術の本、でございますか?」
「もちろん、私が読んでも問題ないような内容の物だけで結構よ。私、魔術に興味があるの。…ダメ、かしら?」
「………(本当は他国の者に読ませるべきではないかもしれない。だが、魔術の知識が漏洩せぬようにという名目で奥様を囲い込めれば)畏まりました。」
セバスは少し考えていたが、結局、許可を出してくれた。そうして、侍女が運んできた魔術の本が目の前に積まれた。
……ついに、魔術について分かるのね!!
静かに興奮するローゼリア。目は期待に爛々と輝いている。
まずは子供向けの絵本から開いてみた。
ペラ。
「龍に拐われたお姫様を騎士が助ける絵本ね!普通は剣で戦うけど、この騎士は、魔術も使うのね!……剣から炎?氷?雷も?!凄い!!」
まぁ、この物語は空想のお話。
でも、この国の絵本ってだけで、本当のことかもしれないって夢があるわよね~
じゃあ、次はお待ちかねの魔術の専門書らしきものを見ていこうかしら!
ペラ。
「えー、なになに。『我が国の国民は、他国民とは違う。肌の色が浅黒く、国民の多くは大なり小なり魔力を有している。魔術とは、魔力を動力として決められた動作をすることにより得られる結果のことを言う。
また人により魔術適性は異なる。魔術適性とは火・水・風・土などの四大元素を操ることができる能力を有すること。
素養のある者だと、体内魔力だけでこれらの元素を操り、求めた結果を出すことが可能だが、そういった者は希少である。
現代魔術では専ら、魔石に内包された魔力を使い、魔術具などの補助具を用いて必要な結果を得ることが多い。
(中略)……魔術は未だ全てを解明された訳ではない、未知の技術である。ゆえに、我々は日々研鑽をつみ、さらなる高みを目指して努力していく必要があるのだ。』…………(難しい文章は、目が滑るわね、理解不能よ)。」
ペラペラ。
「わ~この宝石のように美しい石は何かしら?なになに…『これらの魔石は、石の中にある模様と色の濃淡で、属性と含有する魔力がわかる。例えば、石の色が赤色で焚き火のような模様が中に見える石なら火属性の魔石で、赤色が濃ければ濃いほど強い魔力を有している。』って、この宝石みたいな石は、夜会でどこかの貴族が自慢していたあの魔石なのね!
…この挿絵は、何の絵かしら?二十の丸の中に不思議な模様が複雑に描かれていて綺麗ね!これは、文字?全然読めないわ!んーと、『これは、古代人が壁画に残した絵を模写した物で、恐らく魔術に関する何かしらの陣であると推測される。』へぇー……。」
パタン。
よし、一人で読んでも私の頭では理解できないということが理解できましたわ!エッヘン
これは、解説者が必要ね!
というわけで、
「……きちゃいました」
ーガタガタンッ
「…ぇ、リア!?な、な、な、なんで、ここに!?」
「ちょっと昼間に気になる本を読んでしまって…私の侍女に相談したら、この時間ならフェル様に聞けるんじゃないかって言われて…執事にフェル様の居場所を聞いたらここへ連れてきてくれたんですの。」
フェンリルの脳内に侍女のニヤリと笑う顔と「旦那様、据え膳ですよ」という悪魔の囁きが聞こえる。そして、執事も共犯か!セバスめっ。
侍女と執事に憤るフェンリルの完全に寛いだ格好と、広々とした部屋の奥にある寝台を見て、ローゼリアも気付く。ここって…
「ここ、フェル様の寝室?もしかして、もうお休みでしたの?!ご、ご迷惑をっ私、失礼しま」
「いや!大丈夫、自室で寛いでいただけだから!……こっちへおいで、リア。」
「ッ///(はぅ、すごい色気ッ)」
フラフラと光に集まる羽虫のように、フェンリルに近寄っていくローゼリア。気付けば寝室の二人がけソファに腰掛けていた。
ウットリ見つめるローゼリアに「(あまり見つめられると嬉しいけど今はマズイ)コホン、昼間に読んだ本で聞きたいこととは?」とフェンリルが話を促してくれた。
そうして、読んだ本の内容と、恥ずかしながら理解できなかったことを伝え、可能な範囲で構わないので魔術のことについて教えて欲しいと頼んだ。
結果わかったこと。
現代魔術は魔法のようになんでもはできないということだ。
治癒師のように己の魔力だけで術を行使する者はとても希少な存在で、殆どの人は魔石や魔術具を使わなければ、魔術は使えない。
王族は先祖返りなのか、たまに己の魔力のみで魔術を使える者が現れる。現王ライオネルが先祖返りで、水の適性がある。しかし、体内魔力のみだと、チョロっと水を出せる程度で、あまり役に立たないらしい。
しかし、陛下のように素養のある者が魔術具を使うと威力が増すため、有事の際には力強い存在なんだとか。
……思ったより魔術って大したことは出来ないんですのね。
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