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13.騎士団長は憂う
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一方その頃、王宮の執務室にて。
「はぁあぁぁ~~~」
「おい」
「はぁあぁぁ~~~」
「おい」
「はぁ「おいって呼んでるだろ!」……あ゛?」
「いや、すまん…だが、こうも溜め息ばかり聞かされると、わしがまるで悪者のようではないか」
「悪者のよう、ではなくて、人の恋路を邪魔する立派な悪者ですよね?」
「恋路を邪魔?なんだ、フェル。お前、ローゼリア嬢と喧嘩でもしたのか?あの優しい天使を怒らせるとか、何したんだ?…まぁ、今回の件が解決したら、とにかく謝れ。天使なら許してくれるさ。」
「今回の件が解決するまで謝れないとか、許してもらえなかったらどうしてくれるんです?愛するリアに会いたいのに、夜会で起こった襲撃事件のせいで、自分は屋敷に帰れないし、手紙も出せない。」
ソフィア嬢とは、以前、縁談の話が出たことがある。あまりにも女性と関わりのない自分を見るに見かねた幼馴染み(ライオネル)発案のもとで行われたが、お互いに乗り気ではなく話が進まず自然と立ち消えになった。
そんなソフィア嬢から抱きつかれるなんて予想もしていなかった事態に、ろくに抵抗もできなかった不甲斐ない自分を、リアが怒るのは当たり前だ。
リアが去った後に「あら、冗談でしたのに」とあっけらかんとソフィア嬢は腕を離し、「ごめんあそばせ」と去っていった。なんだったんだ、いったい。
本当ならソフィア嬢との仲を誤解して会場から出て行ったローゼリアをすぐに追いかけて「リア、誤解だ!ソフィア嬢とは一度縁談の話はあったが、お互い乗り気ではなかったため、話は無かったことになっている。自分が愛しているのはリアだけだ!!」と全力で釈明したかった。
それなのに、ローゼリアが会場を出た直後、王と王妃を狙った何者かの襲撃を許してしまったのだ。
今回の夜会の主役ながら、夜会の警備を任されていた騎士団長たる自分は、ローゼリアを追いかけることも、屋敷へ帰ることすら出来なくなった。
王命により嫁いできたローゼリアとの婚約を祝う席での襲撃事件。当然、容疑者にはアルカディア王国も含まれる。仮にアルカディア王国が無関係で、犯人がアルジャン王国の者だとしても問題だ。
両国の関係を悪化させないため、事件のことがアルカディア側に露見せぬよう、ローゼリアには事情を伏せる必要があった。
襲撃事件のことには触れずに、すぐに追いかける事が出来なかった説明が難しい。なにより、外には伏せているが、王妃は現在、第二子を身篭っている。そんな時に襲撃を許してしまった自分が許せなかった。
王がどれ程王妃のことを愛しているのか知っている。今回の襲撃で体調を崩した王妃を死ぬほど心配して、それでも王としての公務を蔑ろにせず、事件解決に向けて寝る間も惜しんで動いている幼馴染みの気持ちが、自分には痛いほど分かる。
だから、自分の恋路にかまける事は出来なかった。
しかし、事件の進展が全くなく、時間だけが虚しく過ぎていくこの状況では、溜め息くらいつきたくなる。
そもそも、襲撃者は、我々の目の前で霧のように消えたのだ。
魔術大国アルジャンでも、これは異常事態。人が消えるなんてことは、現代魔術でも実現不可能だ。
そんな起こり得ない事が、あの夜会会場で起こってしまった。
襲撃は一瞬のことだったとはいえ、大勢の前で行われた犯行だ。当然、多くの貴族が見ていたはずなのに、なぜか目撃者も少なく、襲撃者が残した証拠も何一つ残っていなかったため、丸二日経った今、捜査は行き詰まっていた。
「なんだか、闇狐に化かされたみたいだ」
フェンリルはもしや御伽噺に出てくる魔物の仕業ではないかとまで考えた。
子供向けの物語なのだが、闇狐は魔女に飼われた魔物で、森に迷い込んだ人間を変幻自在の体を使い、魔女の家に誘い込み、騙して食べてしまうのだ。
この国の者は幼い頃、親に「森で一人で遊んでいると、闇狐に化かされ食べられてしまうぞ」と言われて育つ。
ようは、子供が一人で森の中を遊び歩かないようするためのしつけ言葉なのだが。
「闇狐か……ということは、黒幕は森の魔女ということか?」
ニヤリと笑いながら話に乗ってきたライオネルだったが、何かを思い出したのか、顔色が変わった。
「…そういえば、親父殿が死ぬ前に魔女がなんたらと魘されていた事があったな。」
「前王陛下が、ですか?」
「あぁ。末期で、寝たきりの状態でのうわ言だったから、本気にしてはいなかったが……
いわく、我が国に女児が生まれにくいのは魔女の呪いのせいなんだそうだ。」
「魔女の呪い。」
「王族や高位貴族の女児の出生率の低さはお前も知っているだろう?なぜか、下級貴族には女児が生まれやすいため、これまでは近親婚や下級貴族から貰い受けた娘を養子にして、なんとか血を繋いできたわけだが。」
「そんなことを続けたせいか、病気で早死にする者や、気狂いの者が生まれてきたため、前王陛下は鎖国をとくご決断をなされたんでしたね。」
「そうだ。……もともと我が国の者が他国の者に容姿を理由に迫害されるのを見かねた当時の王が鎖国を始めたのがきっかけだった。」
「その頃は女児の数も少なくはなかったし、他国より優れた技術をもつ我が国に問題はありませんでした。」
「だが、鎖国後しばらくして、女児の数が徐々に減っていった。我が国の有識者をもってしても原因不明。解決策すら出なかった。それを、なぜか親父殿は『魔女の呪い』と断言した。
……今回の事件も、性質的には似ている。もしかすると、我が国は魔女という、とんでもない者に目をつけられているのかもしれないな。」
……魔女。そんなものが本当にいるのか?仮に魔女が実在したとして、自分は魔女から愛する者達を護りきれるだろうか……
愛しいローゼリアの笑顔が脳裏によぎる。
……絶対に護る。だから、リア。どうか、待っていてくれ。
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……っクシュ。
薔薇が咲き誇る美しい庭で、一人優雅にお茶をしていたローゼリア。
「風邪でもひいたかしら?まさかね、今まで風邪なんてひいたことないもの」
……なんとかは風邪をひかないのである。
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