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9.むしろご褒美だった件について
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「……私は一体どんな罰を受けるのですか?」
私の疑問に、その場にいらっしゃった皆様絶句してしまった。
それほど答え辛い内容なのかしら……と血の気が引いていく。恐らく青白い顔になった私を見て、慌てたのはフェンリル様だ。
「リア!?顔色が悪い!具合が悪くなったのか!……やはり病み上がりで謁見など良く無かったな。すぐに屋敷へ帰って休もう!」
そう言ったフェンリル様に抱き上げられ、ローゼリアが悶えている間に連れ帰られた。あっという間だった。
陛下へ辞去の言葉を告げる暇も無かった。
いくらなんでも不敬では?と心配するローゼリアを、フェンリルは全く問題ないと宥めた。
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月日が流れ、ローゼリアがアルジャン王国に到着して一月が経った頃。
ローゼリアはこの日もガーネット公爵家で心穏やかに過ごしていた。
結局、己の受けるべき罰については、誰に聞いても明確な答えを貰えなかった。それよりも近々、夜会でフェンリルとの婚約のお披露目があるため、その準備をしなくてはならないローゼリアは、疑問は一端置いておくことにした。
ドレス選びも終わり、この国の貴族図鑑を開いて読んでいたローゼリアは、少々疲れていた。
……なかなか名前と特徴を覚えられない。
自国で王妃教育を担当していた教師にサジを投げられる程度の頭しかないローゼリア。
この国の言葉が母国と同じでホッとしていたが、これはマズイと焦っていた。
夜会までもう日がない。せめて、高位貴族についてだけでも、頭に詰め込んでしまおうと、この日から寝る間も惜しんで努力した。
そんなローゼリアの様子を使用人から聞いたフェンリルは、彼女をとても心配し「そんなに頑張らなくても大丈夫だよ、自分がずっと側にいて手助けをするから」と優しく慰めてくれた。
好みの見た目の殿方に甘やかされたローゼリアはドロドロに溶けてしまいそうな程フェンリルに溺れた。
罰がなんなのかわからないけれど、フェンリル様に嫁いでこれた時点で私は幸せですわ!!
むしろご褒美!!とばかりに益々暗記を頑張った。そして、なんとか、夜会の前日までに一通りの貴族の名前と特徴を覚える事が出来た。
そうして日々、ガーネット公爵のために頑張るローゼリアに、公爵家使用人も好意的だった。最初は執事だけが呼んでいた奥様呼びも、今では当たり前に皆が呼んでいる。
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夜会の日、ガーネット公爵家の侍女達は浮き足立っていた。
他国に響き渡るほどの美貌を持つ、当家の若奥様を磨き上げ、着飾ることができる権利を誰もが欲した。
ゆえに、これから、仁義なき戦いが行われる。
とある侍女が考案した、老いも若きも参加可能な公平なる戦い。
その名も、ジャン拳である。
己が拳に思いを込めて、振り下ろした瞬間、勝負が決まる。
結果が出るまでの時間も然程かからない、こういった争いを収めるには最高の手段であった。
早朝のガーネット公爵家のとある一室で、「「「ジャン拳、ホイッ」」」という掛け声が響き渡った。
そうして決まった勝者達によって、今、ローゼリアは磨き上げられている。
皆、避けられぬ戦いに勝ち抜いた猛者のような良い笑顔だ。
そうして自慢の美貌に更に磨きをかけ、ドレスアップしたローゼリアは、まさに悪役令嬢に相応しい仕上がりとなった。
「奥様、とてもお美しいです///」
「まるで、女神様のようです///」
「魔法の鏡も『この世で一番美しい』と奥様を選ぶこと間違いなしです!」
最後の侍女が言った「魔法の~」がとても気になったけれど、かなり長いことフェンリル様をお待たせしているから、急がないと!
ローゼリアは玄関で用意を終えて待っている最愛の人の元へ急いだ。
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ガーネット公爵家当主フェンリルは、この日、天上から舞い降りた女神を目撃することとなる。
フェンリルをこれ以上待たせまいと急いだせいで上気した白い肌と少し乱れた吐息。
浮世離れした美しさのローゼリアは、その瞳に自分への信頼を乗せて真っ直ぐと見つめてくる。そうして、その鈴のなるような美しい声で、自分の名を呼ぶのだ。
「…お待たせして申し訳ありません、フェル様」
ドキューン。
心を撃ち抜かれたのは、当然のことだった。
(愛しさに果てはないのだな……我らの見た目を厭わないだけでも奇跡なのに、こんなに素晴らしい女性が、自分の嫁。)
ジーン、と感動に浸るフェンリル。
が、すぐに我に帰り、未来の妻を自分の考えつく言葉の限りに褒め称えた。
褒めちぎられたローゼリアは、益々その白い肌を朱色に染めて恥じらっている。
その可愛らしさにメロメロになるフェンリル。
今回の夜会の主役二人が玄関先でイチャイチャして、なかなか出掛けないので、見かねた執事によって馬車に押し込められ、ようやく二人は夜会会場である王城へ出発した。
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一方その頃王城。夜会会場の入り口には多くの貴族が続々と入場せんと押しかけていた。
そのうちの一人、ローゼリアとは毛色が違うが、こちらもまた十分に美しい御令嬢がいた。
彼女は浅黒い肌に長く美しい黒髪と薄いピンク色の瞳を持ち、その顔立ちは、釣り上がった目のせいでキツく見えるが、ひどく整っていた。
豊かに実った二つの果実とキュッとくびれた腰、プリッと釣り上がった臀部を、ピッタリと張り付くような素材のワインレッド色のドレスに包んでいる、非常に肉感的な美女だった。
「フェンリル様……」
……一波乱ありそうな予感がする。
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