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3.いざアルジャン王国へ

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(レオン殿下視点)

ようやく…だな。
今日、我が婚約者のローゼリア公爵令嬢がこの国を立つ。
婚約破棄後に一通の手紙が届いた。
どうせあの娘のことだ。婚約破棄に対する恨み辛みが書かれているのだろうと判断し、見ていないが…

両陛下が見送りに出たため、俺は城を守ることとした。ゆえに、彼女とは卒業パーティー以来会っていない。…今後も、会う事はないだろう。

そんなことを考えながら、執務をしていると、俺の代わりにローゼリアの見送りに行くよう指示していた側近が戻ってきた。
入室の許可を与え、入ってきた側近のリアムに尋ねる。

「ローゼリアの見送りは滞りなく終えたか?」

俺の問いにリアムが珍しく言い淀む。

……どうした?またあの娘の八つ当たりを受けたか?

リアムは言いづらそうにしながら、俺の問いに答えた。

「…いえ、八つ当たりなど……むしろ…。
 ……殿下、ローゼリア嬢から手紙が届いたとか。……中を読まれた上で、今回の見送りには行かれなかったのですよね?」

と、すがるような目で見られた。

いつもの聡明で自信に溢れた姿とは違う側近のその姿に、レオンはここにきてようやく不安を覚えた。

「手紙?ローゼリアから皆にも届いたと言うこの手紙のことか?…どうせ、恨み辛みを綴った呪いの手紙だろう。見る価値もない。」

俺が手に封を切ってもいない手紙を持ちつつそう言い放つと、リアムはヒュッと鋭く息を吸った。そして、……はぁ~~と大きく溜め息をついた。
なんだと言うのだ、いったい。若干イラついた俺はリアムに、いつもよりキツい物言いで問うた。

「なんだ、言いたいことがあるなら言葉で言え。」

しかし、リアムは黙秘し語らない。
無言で、俺に、ローゼリアからの手紙を読むよう求めてくる。

っまったく、リアムのやつ。あとで覚えていろよ!

話が進まないので仕方なく、嫌々ながら、手紙の封を切り読み始めた。

……………。……は?
………え⁈……なっ‼︎

パサッ。
内容から受けた衝撃に、手紙が手から滑り落ちた。
執務机の上に滑り落ちたその手紙の内容をチラッと盗み見たリアムは、と溜め息をもう一つ。

その手紙には、これまで犯した罪を認め、悔いていること。そして、謝罪の言葉が書かれており、婚約破棄の恨み辛みどころか、婚約破棄してまで自分を叱り、目を覚まさせてくれたレオンへの感謝の言葉まで綴られていた。

……これは、誰だ?
本当にローゼリアが書いたものか?
いや、癖のある、美しいとは言いづらいこの字は彼女のものだ。
では、では本当に彼女は反省したのか?
婚約中には響かなかった俺の言葉が、婚約破棄後に響くとは、なんと遅い気付きか…

もっと早く、彼女の手紙を読んでいれば、何か変わっただろうか?
せめて、嫁ぎ先を変えてやることぐらいは出来たのではないか?

……いや、もう手遅れだったのだ。

いくら美しかろうとも、他者を虐げ慈しむことのない女性を王子妃にすることはできないと婚約破棄を決めた時、俺はすぐに両陛下へ願い出た。
俺の願いを聞いた陛下から、婚約破棄を承諾する言葉を貰い、では、ローゼリアを隣国アルジャンへの生贄にどうかと言われたあの時。あの時が最後のチャンスだった。
しかし、まだ、この時のローゼリアは変わっていなかった。これから

俺の返事を聞いた両陛下は、すぐさま隣国アルジャンへ返事を出した。
彼の国の者はこの返事に歓喜したという。


まさか、断罪後に思ったことと同じことを、今度は違う意味で思うなど予想もしなかった。

「……リアム。旅立つ彼女と言葉は交わしたか?」

「いいえ。……ですが、ローゼリア嬢は絶望してはおりませんでした。悲壮な表情はせず、彼の国へ嫁ぐ事を受け入れ、何か決意したような様子でしたよ。

……あと、両陛下へレオン殿下への謝罪と感謝の言葉を託しておられました。本当は、手紙ではなく、会ってお話したかった、と。」

「…………そう、か。」

この時、婚約を結んだばかりの頃の、幼い彼女の笑顔が頭をよぎった。


✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


アルジャン王国への旅立ちの日。
私は多くの使用人に見送られ、大勢の護衛と、ドレスや宝石、輿入れ道具やお祝いの品などを詰めた荷馬車を何台も引き連れて、一度王城へ向かった。
そこで、王族へ出立の挨拶をしてから隣国アルジャンへ旅立つのだ。

期待はしていなかったけど、見送りにレオン殿下は現れなかった。

……今まで何度苦言を呈しても変わらなかった私の面倒を見てこられた殿下だもの。きっと、手紙に書いた謝罪程度じゃ信じてもらえなかったのね…

無理もないわ、と私は潔く諦めて、レオン殿下への言葉は両陛下へ託した。

殿下にはお会いすることが出来なかったけど、側近のリアム様や、学園で私が色々とになった方々がいらっしゃったから、直接謝罪させてもらったわ。

心残りはあるけれど、気持ちを切り替えて皆と別れ、王城を後にした。

王都を出るまで、多くの民にも見送られ、希望と少しの不安を胸に、私はアルカディア王国からアルジャン王国へ旅立った。

……私の未来の旦那様、結局、どのような方か全く情報を頂けなくて少し不安だけれど…まぁ、構いませんわ!
ローゼリア・フォン・マーガレット、今お側に参ります!!


✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎


ローゼリアが心の中で気合の喝を入れていた頃、アルジャン王国では、一人の男がクシャミをしていた。

へクシュッ。

「……………?」

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