3 / 42
3.いざアルジャン王国へ
しおりを挟む
(レオン殿下視点)
ようやく…だな。
今日、我が元婚約者のローゼリア公爵令嬢がこの国を立つ。
婚約破棄後に一通の手紙が届いた。
どうせあの娘のことだ。婚約破棄に対する恨み辛みが書かれているのだろうと判断し、見ていないが…
両陛下が見送りに出たため、俺は城を守ることとした。ゆえに、彼女とは卒業パーティー以来会っていない。…今後も、会う事はないだろう。
そんなことを考えながら、執務をしていると、俺の代わりにローゼリアの見送りに行くよう指示していた側近が戻ってきた。
入室の許可を与え、入ってきた側近のリアムに尋ねる。
「ローゼリアの見送りは滞りなく終えたか?」
俺の問いにリアムが珍しく言い淀む。
……どうした?またあの娘の八つ当たりを受けたか?
リアムは言いづらそうにしながら、俺の問いに答えた。
「…いえ、八つ当たりなど……むしろ…。
……殿下、ローゼリア嬢から手紙が届いたとか。……中を読まれた上で、今回の見送りには行かれなかったのですよね?」
と、すがるような目で見られた。
いつもの聡明で自信に溢れた姿とは違う側近のその姿に、レオンはここにきてようやく不安を覚えた。
「手紙?ローゼリアから皆にも届いたと言うこの手紙のことか?…どうせ、恨み辛みを綴った呪いの手紙だろう。見る価値もない。」
俺が手に封を切ってもいない手紙を持ちつつそう言い放つと、リアムはヒュッと鋭く息を吸った。そして、……はぁ~~と大きく溜め息をついた。
なんだと言うのだ、いったい。若干イラついた俺はリアムに、いつもよりキツい物言いで問うた。
「なんだ、言いたいことがあるなら言葉で言え。」
しかし、リアムは黙秘し語らない。
無言で、俺に、ローゼリアからの手紙を読むよう求めてくる。
っまったく、リアムのやつ。あとで覚えていろよ!
話が進まないので仕方なく、嫌々ながら、手紙の封を切り読み始めた。
……………。……は?
………え⁈……なっ‼︎
パサッ。
内容から受けた衝撃に、手紙が手から滑り落ちた。
執務机の上に滑り落ちたその手紙の内容をチラッと盗み見たリアムは、さもありなんと溜め息をもう一つ。
その手紙には、これまで犯した罪を認め、悔いていること。そして、謝罪の言葉が書かれており、婚約破棄の恨み辛みどころか、婚約破棄してまで自分を叱り、目を覚まさせてくれたレオンへの感謝の言葉まで綴られていた。
……これは、誰だ?
本当にローゼリアが書いたものか?
いや、癖のある、美しいとは言いづらいこの字は彼女のものだ。
では、では本当に彼女は反省したのか?
婚約中には響かなかった俺の言葉が、婚約破棄後に響くとは、なんと遅い気付きか…
もっと早く、彼女の手紙を読んでいれば、何か変わっただろうか?
せめて、嫁ぎ先を変えてやることぐらいは出来たのではないか?
……いや、もう手遅れだったのだ。
いくら美しかろうとも、他者を虐げ慈しむことのない女性を王子妃にすることはできないと婚約破棄を決めた時、俺はすぐに両陛下へ願い出た。
俺の願いを聞いた陛下から、婚約破棄を承諾する言葉を貰い、では、ローゼリアを隣国アルジャンへの生贄にどうかと言われたあの時。あの時が最後のチャンスだった。
しかし、まだ、この時のローゼリアは変わっていなかった。これから変わるとも思えなかった。
俺の返事を聞いた両陛下は、すぐさま隣国アルジャンへ返事を出した。
彼の国の者はこの返事に歓喜したという。
…今更、覆すことはできない。
まさか、断罪後に思ったことと同じことを、今度は違う意味で思うなど予想もしなかった。
「……リアム。旅立つ彼女と言葉は交わしたか?」
「いいえ。……ですが、ローゼリア嬢は絶望してはおりませんでした。悲壮な表情はせず、彼の国へ嫁ぐ事を受け入れ、何か決意したような様子でしたよ。
……あと、両陛下へレオン殿下への謝罪と感謝の言葉を託しておられました。本当は、手紙ではなく、会ってお話したかった、と。」
「…………そう、か。」
この時、婚約を結んだばかりの頃の、幼い彼女の笑顔が頭をよぎった。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
アルジャン王国への旅立ちの日。
私は多くの使用人に見送られ、大勢の護衛と、ドレスや宝石、輿入れ道具やお祝いの品などを詰めた荷馬車を何台も引き連れて、一度王城へ向かった。
そこで、王族へ出立の挨拶をしてから隣国アルジャンへ旅立つのだ。
期待はしていなかったけど、見送りにレオン殿下は現れなかった。
……今まで何度苦言を呈しても変わらなかった私の面倒を見てこられた殿下だもの。きっと、手紙に書いた謝罪程度じゃ信じてもらえなかったのね…
無理もないわ、と私は潔く諦めて、レオン殿下への言葉は両陛下へ託した。
殿下にはお会いすることが出来なかったけど、側近のリアム様や、学園で私が色々とお世話になった方々がいらっしゃったから、直接謝罪させてもらったわ。
心残りはあるけれど、気持ちを切り替えて皆と別れ、王城を後にした。
王都を出るまで、多くの民にも見送られ、希望と少しの不安を胸に、私はアルカディア王国からアルジャン王国へ旅立った。
……私の未来の旦那様、結局、どのような方か全く情報を頂けなくて少し不安だけれど…まぁ、構いませんわ!
ローゼリア・フォン・マーガレット、今お側に参ります!!
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
ローゼリアが心の中で気合の喝を入れていた頃、アルジャン王国では、一人の男がクシャミをしていた。
へクシュッ。
「……………?」
ようやく…だな。
今日、我が元婚約者のローゼリア公爵令嬢がこの国を立つ。
婚約破棄後に一通の手紙が届いた。
どうせあの娘のことだ。婚約破棄に対する恨み辛みが書かれているのだろうと判断し、見ていないが…
両陛下が見送りに出たため、俺は城を守ることとした。ゆえに、彼女とは卒業パーティー以来会っていない。…今後も、会う事はないだろう。
そんなことを考えながら、執務をしていると、俺の代わりにローゼリアの見送りに行くよう指示していた側近が戻ってきた。
入室の許可を与え、入ってきた側近のリアムに尋ねる。
「ローゼリアの見送りは滞りなく終えたか?」
俺の問いにリアムが珍しく言い淀む。
……どうした?またあの娘の八つ当たりを受けたか?
リアムは言いづらそうにしながら、俺の問いに答えた。
「…いえ、八つ当たりなど……むしろ…。
……殿下、ローゼリア嬢から手紙が届いたとか。……中を読まれた上で、今回の見送りには行かれなかったのですよね?」
と、すがるような目で見られた。
いつもの聡明で自信に溢れた姿とは違う側近のその姿に、レオンはここにきてようやく不安を覚えた。
「手紙?ローゼリアから皆にも届いたと言うこの手紙のことか?…どうせ、恨み辛みを綴った呪いの手紙だろう。見る価値もない。」
俺が手に封を切ってもいない手紙を持ちつつそう言い放つと、リアムはヒュッと鋭く息を吸った。そして、……はぁ~~と大きく溜め息をついた。
なんだと言うのだ、いったい。若干イラついた俺はリアムに、いつもよりキツい物言いで問うた。
「なんだ、言いたいことがあるなら言葉で言え。」
しかし、リアムは黙秘し語らない。
無言で、俺に、ローゼリアからの手紙を読むよう求めてくる。
っまったく、リアムのやつ。あとで覚えていろよ!
話が進まないので仕方なく、嫌々ながら、手紙の封を切り読み始めた。
……………。……は?
………え⁈……なっ‼︎
パサッ。
内容から受けた衝撃に、手紙が手から滑り落ちた。
執務机の上に滑り落ちたその手紙の内容をチラッと盗み見たリアムは、さもありなんと溜め息をもう一つ。
その手紙には、これまで犯した罪を認め、悔いていること。そして、謝罪の言葉が書かれており、婚約破棄の恨み辛みどころか、婚約破棄してまで自分を叱り、目を覚まさせてくれたレオンへの感謝の言葉まで綴られていた。
……これは、誰だ?
本当にローゼリアが書いたものか?
いや、癖のある、美しいとは言いづらいこの字は彼女のものだ。
では、では本当に彼女は反省したのか?
婚約中には響かなかった俺の言葉が、婚約破棄後に響くとは、なんと遅い気付きか…
もっと早く、彼女の手紙を読んでいれば、何か変わっただろうか?
せめて、嫁ぎ先を変えてやることぐらいは出来たのではないか?
……いや、もう手遅れだったのだ。
いくら美しかろうとも、他者を虐げ慈しむことのない女性を王子妃にすることはできないと婚約破棄を決めた時、俺はすぐに両陛下へ願い出た。
俺の願いを聞いた陛下から、婚約破棄を承諾する言葉を貰い、では、ローゼリアを隣国アルジャンへの生贄にどうかと言われたあの時。あの時が最後のチャンスだった。
しかし、まだ、この時のローゼリアは変わっていなかった。これから変わるとも思えなかった。
俺の返事を聞いた両陛下は、すぐさま隣国アルジャンへ返事を出した。
彼の国の者はこの返事に歓喜したという。
…今更、覆すことはできない。
まさか、断罪後に思ったことと同じことを、今度は違う意味で思うなど予想もしなかった。
「……リアム。旅立つ彼女と言葉は交わしたか?」
「いいえ。……ですが、ローゼリア嬢は絶望してはおりませんでした。悲壮な表情はせず、彼の国へ嫁ぐ事を受け入れ、何か決意したような様子でしたよ。
……あと、両陛下へレオン殿下への謝罪と感謝の言葉を託しておられました。本当は、手紙ではなく、会ってお話したかった、と。」
「…………そう、か。」
この時、婚約を結んだばかりの頃の、幼い彼女の笑顔が頭をよぎった。
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
アルジャン王国への旅立ちの日。
私は多くの使用人に見送られ、大勢の護衛と、ドレスや宝石、輿入れ道具やお祝いの品などを詰めた荷馬車を何台も引き連れて、一度王城へ向かった。
そこで、王族へ出立の挨拶をしてから隣国アルジャンへ旅立つのだ。
期待はしていなかったけど、見送りにレオン殿下は現れなかった。
……今まで何度苦言を呈しても変わらなかった私の面倒を見てこられた殿下だもの。きっと、手紙に書いた謝罪程度じゃ信じてもらえなかったのね…
無理もないわ、と私は潔く諦めて、レオン殿下への言葉は両陛下へ託した。
殿下にはお会いすることが出来なかったけど、側近のリアム様や、学園で私が色々とお世話になった方々がいらっしゃったから、直接謝罪させてもらったわ。
心残りはあるけれど、気持ちを切り替えて皆と別れ、王城を後にした。
王都を出るまで、多くの民にも見送られ、希望と少しの不安を胸に、私はアルカディア王国からアルジャン王国へ旅立った。
……私の未来の旦那様、結局、どのような方か全く情報を頂けなくて少し不安だけれど…まぁ、構いませんわ!
ローゼリア・フォン・マーガレット、今お側に参ります!!
✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎✳︎
ローゼリアが心の中で気合の喝を入れていた頃、アルジャン王国では、一人の男がクシャミをしていた。
へクシュッ。
「……………?」
0
お気に入りに追加
94
あなたにおすすめの小説
元侯爵令嬢は冷遇を満喫する
cyaru
恋愛
第三王子の不貞による婚約解消で王様に拝み倒され、渋々嫁いだ侯爵令嬢のエレイン。
しかし教会で結婚式を挙げた後、夫の口から開口一番に出た言葉は
「王命だから君を娶っただけだ。愛してもらえるとは思わないでくれ」
夫となったパトリックの側には長年の恋人であるリリシア。
自分もだけど、向こうだってわたくしの事は見たくも無いはず!っと早々の別居宣言。
お互いで交わす契約書にほっとするパトリックとエレイン。ほくそ笑む愛人リリシア。
本宅からは屋根すら見えない別邸に引きこもりお1人様生活を満喫する予定が・・。
※専門用語は出来るだけ注釈をつけますが、作者が専門用語だと思ってない専門用語がある場合があります
※作者都合のご都合主義です。
※リアルで似たようなものが出てくると思いますが気のせいです。
※架空のお話です。現実世界の話ではありません。
※爵位や言葉使いなど現実世界、他の作者さんの作品とは異なります(似てるモノ、同じものもあります)
※誤字脱字結構多い作者です(ごめんなさい)コメント欄より教えて頂けると非常に助かります。
【完結】悪役令嬢は婚約者を差し上げたい
三谷朱花
恋愛
アリス・デッセ侯爵令嬢と婚約者であるハース・マーヴィン侯爵令息の出会いは最悪だった。
そして、学園の食堂で、アリスは、「ハース様を解放して欲しい」というメルル・アーディン侯爵令嬢の言葉に、頷こうとした。
王妃の仕事なんて知りません、今から逃げます!
gacchi
恋愛
側妃を迎えるって、え?聞いてないよ?
王妃の仕事が大変でも頑張ってたのは、レオルドが好きだから。
国への責任感?そんなの無いよ。もういい。私、逃げるから!
12/16加筆修正したものをカクヨムに投稿しました。
【完結160万pt】王太子妃に決定している公爵令嬢の婚約者はまだ決まっておりません。王位継承権放棄を狙う王子はついでに側近を叩き直したい
宇水涼麻
恋愛
ピンク髪ピンク瞳の少女が王城の食堂で叫んだ。
「エーティル様っ! ラオルド様の自由にしてあげてくださいっ!」
呼び止められたエーティルは未来の王太子妃に決定している公爵令嬢である。
王太子と王太子妃となる令嬢の婚約は簡単に解消できるとは思えないが、エーティルはラオルドと婚姻しないことを軽く了承する。
その意味することとは?
慌てて現れたラオルド第一王子との関係は?
なぜこのような状況になったのだろうか?
ご指摘いただき一部変更いたしました。
みなさまのご指摘、誤字脱字修正で読みやすい小説になっていっております。
今後ともよろしくお願いします。
たくさんのお気に入り嬉しいです!
大変励みになります。
ありがとうございます。
おかげさまで160万pt達成!
↓これよりネタバレあらすじ
第一王子の婚約解消を高らかに願い出たピンクさんはムーガの部下であった。
親類から王太子になることを強要され辟易しているが非情になれないラオルドにエーティルとムーガが手を差し伸べて王太子権放棄をするために仕組んだのだ。
ただの作戦だと思っていたムーガであったがいつの間にかラオルドとピンクさんは心を通わせていた。
村娘になった悪役令嬢
枝豆@敦騎
恋愛
父が連れてきた妹を名乗る少女に出会った時、公爵令嬢スザンナは自分の前世と妹がヒロインの乙女ゲームの存在を思い出す。
ゲームの知識を得たスザンナは自分が将来妹の殺害を企てる事や自分が父の実子でない事を知り、身分を捨て母の故郷で平民として暮らすことにした。
村娘になった少女が行き倒れを拾ったり、ヒロインに連れ戻されそうになったり、悪役として利用されそうになったりしながら最後には幸せになるお話です。
※他サイトにも掲載しています。(他サイトに投稿したものと異なっている部分があります)
アルファポリスのみ後日談投稿しております。
元ヤン辺境伯令嬢は今生では王子様とおとぎ話の様な恋がしたくて令嬢らしくしていましたが、中身オラオラな近衛兵に執着されてしまいました
桜枝 頌
恋愛
辺境伯令嬢に転生した前世ヤンキーだったグレース。生まれ変わった世界は前世で憧れていたおとぎ話の様な世界。グレースは豪華なドレスに身を包み、甘く優しい王子様とベタな童話の様な恋をするべく、令嬢らしく立ち振る舞う。
が、しかし、意中のフランソワ王太子に、傲慢令嬢をシメあげているところを見られてしまい、そしてなぜか近衛師団の目つきも口も悪い男ビリーに目をつけられ、執着されて溺愛されてしまう。 違う! 貴方みたいなガラの悪い男じゃなくて、激甘な王子様と恋がしたいの!! そんなグレースは目つきの悪い男の秘密をまだ知らない……。
※「小説家になろう」様、「エブリスタ」様にも投稿作品です
※エピローグ追加しました
執着王子の唯一最愛~私を蹴落とそうとするヒロインは王子の異常性を知らない~
犬の下僕
恋愛
公爵令嬢であり第1王子の婚約者でもあるヒロインのジャンヌは学園主催の夜会で突如、婚約者の弟である第二王子に糾弾される。「兄上との婚約を破棄してもらおう」と言われたジャンヌはどうするのか…
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる