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エルシュタット学園編
王都エルシュタット・旅立ち
しおりを挟む王城でのランク昇格が王都内で広まっている
特に冒険者ギルドではその話題で盛り上がっていた
ユートとクリスは冒険者ギルドに向かう道を歩いているとすれ違う人から色々な視線を感じる
「いや~やっぱりSランクにもなると凄いね!」
クリスはその視線を感じた方向にニコニコと笑顔で手を振る
「俺はあまり目立ちたくはないんだが…」
「いいじゃん!目立ってナンボでしょ!」
ユートは端を歩きできるだけ目線を下にして視線を合わせないようにする
★☆★☆
冒険者ギルドの近くまで来ると人混みが増えてくる
ユートはできるだけ小さく丸まり、気配を消して通り抜ける
ドンッ
チリン
「あっすみません」
「いえいえ~ワタクシも注意不足でしたわ~」
ユートは機敏な動きで隙間を通り抜けていたが、ぶつかった相手の女性も同じ行動をしていた
それ故に衝突してしまった
「大丈夫ですか?本当に申し訳ないです」
「いえいえ~大丈夫ですよ~」
女性はポンポンっと服に付いた汚れを払い落とす
ユートは女性の服に注目する
着物…それに…腰に刀を携帯している
「では、ワタクシは用事があるので~」
そういうと女性は人混みに紛れて消えていく
「あの女性は…日本…いや、前に聞いた事がある日輪の国出身か?」
女性について考えていると後ろからようやくクリスが追いついてきたが、
「ぐっ…ぐるじい…ユート君ヘッヘルプ…」
ユートはブツブツと独り言を喋りながら考えていた為、その言葉が耳に入らず
クリスはまた人混みにもまれ、流されていった
★☆★☆
冒険者ギルドに入ると皆一斉にユート達に群がる
クリスとユートは軽い対応をしながら受付に向かうとユートを待っていたのか、受付嬢が顔を見るなりバタバタと後ろの部屋に入っていく
部屋から急いで戻ってきた受付嬢が肩で息をしながらある用紙をユート達に見せる
「ユート様、大変お待たせ致しました!本日はユート様宛に指名依頼が入っております」
ーーーーーーーーーーーー
指名依頼書
依頼主:ガレット商会
依頼内容:王国内の街や村等を行商及びに特産物等の仕入れ時の護衛
期間 一.二ヶ月
報酬:大金貨五枚+α
ーーーーーーーーーーーー
ユートは依頼書を見て一人納得していた
「あぁ、なるほど…あの時の話か」
まだブランの街にいた時の事を思い出す
あの時はまだCランクだったため、指名依頼を受ける事ができなかった
最低でもBランクは必要と言われ、ブランのギルドマスターに昇格試験の推薦状を貰って王都にきたんだったな…
「ユート君!この依頼、タイミング的にちょうどいいんじゃないかな?」
ユートがボーッと思い出に耽っているとクリスが依頼書を見て話しかけてくる
確かに自分の今のタイミング的には丁度いいのかもしれない
★☆★☆
時は王城でのパーティー内の会話にて
「それにしても被害が思った以上に酷いの…
王の間は半壊、神殿前は焼け焦げた跡、儂の学園に至ってはほぼ全壊…」
学園長でもあるランダンがお酒を飲み干し話す。少し涙目になりながら
「べっ別に俺が暴れまくったせいで焼け野原になったわけじゃないからな!もぐもぐっ…うん!この肉美味いな!」
と、隣で縄でぐるぐる巻きにされながらも肉を頬張り話す男
「食べるか話すかのどっちかにしないかジャイロよ!!!!」
「いてぇよ土帝!」
ランダンはジャイロに土でコーティングした拳でジャイロに拳骨を喰らわす
「まぁまぁ、国から復興費と人材派遣はさせる。
だが、時間はかなりかかるだろう…
とりあえず王の間の修復は後回し、学園と神殿前を優先しよう。
学園の生徒には早めの夏季休暇の案内を、神殿関係者には焼いた本人である火帝自ら修復の手伝いを」
王様はランダンを宥めながらそう話した
火帝であるジャイロは食べていた肉を喉に詰まらせ、ゴロゴロ転がって苦しんでいた
★☆★☆
場所は変わりガレット商会・王都本店
応接室にてユート、ガレット、そしてブラン支部長であるジョーイが座っていた
クリスは指名されていないのでこの場にはいない
「さて、ユート様には前から目をつけていた私からお話をさせていただきますね」
ジョーイはドヤ顔で話を始めた
「依頼内容は書いてある通りですが、日数がかかるのと王国内の至る所に出回るので負担が大きいのがデメリットになります
メリットとしましては、各地を見回れるのでそこでの名産品や骨董品等が探せる、滞在中は交渉時の護衛以外は休暇になりますので自由な時間が多い、更に滞在中の宿泊代+食事代はこちらで負担致します
このような感じになりますが、ユート様から何か質問はありますでしょうか?」
「ちなみにどのルートを回る感じになりますか?」
ユートが質問するとガレットは地図を懐から取り出す
「ユート様には王都から東に向かって最終的には獣王国と魔王国に隣接する港町・シーレウスまでの往復になります!
距離的には行き来だけで商隊の馬車なら大体二ヶ月、ただ行くだけなら馬で十五日位で行けます。
そこから色々交渉等の時間がかかる為、約三ヶ月は帰って来れないと思います」
う~んと腕を組み悩むユート
王都を拠点にして活動はしているが、世界を見て周りたいのがこの世界でのやりたい事
資金は充分にあるがまだ知らない事が多い
今回の依頼で大分時間を取られ調べ物の時間が減るデメリットはあるが、現地に行けるのは大きい
それに…
「あの、ちなみに他の護衛は決まっているのですか?」
「はい。一人は凄くお強い方があちらから来まして…他の護衛はうちの商会専属の護衛になります。
ギルドのランクで表しますと、大体B、Aの護衛が六人ですね。
なので専属護衛+ユート様ともう一人の計八人になります」
なるほど
八人も高ランクがいるのなら問題はないか…
「わかりました。今回の依頼、受けさせて頂きます」
「「ありがとうございます!!!!」」
ガレットとジョーイは大喜びで返事をし、頭を下げた
「では出発日なのですが…」
☆★☆★
数日後、早朝の冒険者ギルド内にて
「ユート君、今日のお昼位からだっけ?」
「そうだな。色々準備があるからって言ってたな」
ユートとクリスはギルド内の酒場で食事をしながら会話していた
学園は夏季休暇に入ったのでクリスはほぼ毎日ギルドに来ていた
ちなみに他のクラスメイトは実家に帰省したり、実家の手伝い等をしているそうだ
ユエルは今回連れていくのは難しかったので、グラウディンが我が家に住んで面倒を見る事になった
まぁ出ていく時にグラウディンにめっちゃ噛みついていたが…
「ボクも行けたらよかったんだけど…」
「まぁ指名依頼だからしょうがない。一応クリスも護衛に入れないか聞いてみたんだけどな」
クリスはしょんぼりした顔していた
クリス的には休暇を機に、距離を詰める計画があったのだが…全て水の泡になった
超鈍感なユートはクリスの好意には全く気付かず、むしろクリスは良き戦友と思っている
「別に大丈夫だよボクは!ユート君が帰ってきた時にはもっと強くなってるからね!」
えへんっとあまり無い胸を張る
「期待しているよ」
☆★☆★
王都の東門の前にて
ガレット商会の商隊に大量の荷物が積まれていく
ユートは手伝おうと思って話しかけたのだか断られていた
護衛はあくまで護衛だと
仕方なく木陰で休んでいるとガレットが近付いてきた
「ユート様、予定よりお時間がかかって申し訳ございません」
「いえいえ、こちらは依頼を受けた身なので気にしてはいないです」
ガレットはペコペコと頭を下げ何度も謝る
そこに他の護衛を引き連れたジョーイが現れる
「ユート様お待たせしました。こちらが今回の行商の護衛の任に就く者達です」
ジョーイがそういうと一人が前に出て胸に拳をドンッとぶつける
「君がユート君か!!俺の名前はダスター。
今回の護衛パーティでリーダーする
元々はAランク冒険者をしていた
色々な噂があるユート君と依頼が出来ると聞いて、いの一番に立候補した!よろしく頼む!」
ダスターは最後にユートに手を出す
「ダスターさんですね。初めましてユートと申します。まだこちらにきて短いのでわからない所が多々あると思いますがよろしくお願い致します」
ユートはダスターの手を握り挨拶した
「はっはっはっ!確かに噂通り若いのに真面目な奴だな!俺達には丁寧な口調はいらんよ。
それにユート君の方が圧倒的に強いからな!」
ダスターがそういうと、後ろにいる他の護衛メンバーもクスッと軽く笑う
「ここでもそうですか…はぁ、これでいいか?それに俺の事もユートと呼んでくれ
戦友にはくだけた口調で話してほしい」
ダスターはわかったと言いまた握手をする
その後、他の護衛と次々と挨拶をしていると出発の時間になる
「今回は私、ジョーイが責任者になりますのでよろしくお願い致しますよユート様」
あれ?ジョーイはブラン支部の支部長だったのでは?
疑問に思っているとジョーイがユートの顔見てポンッと手を叩く
「なるほど。ユート様の疑問にお答えします。ガレット様から推薦したジョーイがいないと駄目だろう、信用第一だ!と言われまして
支部には話は通してあるので大丈夫です」
「そういう理由でしたか、謎が解けました。ありがとうございます」
ユートがペコッと頭を下げるとジョーイは微笑みながら商隊に向かって行った
☆★☆★
「それでは出発!!」
「「「「気をつけて行ってらっしゃい!」」」」
「ユートくーんまたね!」
ガレットや他の商会の社員、クリス達クラスメイトに見送られ商隊が出発する
んっ?
ユートはおかしいと思っていた
護衛の人数が合わない
そう思い、先頭の馬車に乗るジョーイに話しかける
「ジョーイさん、護衛の人数が合わないんですが…」
「あっ!そういえば伝えるのを忘れていましたね。もう一人の方は後で合流しますよ。
先に道を作っておくと言って数時間前に出発しています」
ユートはそれは護衛としていいのか?と思いながらも話を聞いていた
「まぁあの人は無賃で護衛してくれるのである程度の自由は大目に見ますよ。元々そういう人ですし」
ジョーイはあははと乾いた笑い声を出していた
ユートはジョーイがそれでいいのならと元の位置に戻っていく
太陽が真上にあり、日に日に日射しが強くなっているそんな時期
ユートは王都を旅立ち、また新たな物語が始まろうとしていた
第四章・王都エルシュタット~完~
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