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第一章『孤独な王』
第十八話
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ミナトだ。彼がビルガの傍に立ち、すぐにビルガの拘束具を外してくれた。
「遅れてすみません。すぐに治します」
「ミナト……」
「もう大丈夫ですよ」
ミナトは安心させるような笑顔を浮かべて、すぐにビルガに対し治癒術を施してくれた。麻痺していた感覚が徐々に戻っていく。汚れていた体もすぐに綺麗にしてくれた。
「少し身体に触ります」
魔法陣の上で呆けていたビルガを片手で抱き寄せた。そのまま自身のコートをビルガにかける。そして、落としたはずの護身用の剣をビルガに持たせた。ミナトはローウェンへ自身の剣を向ける。
彼の眼孔には殺意が隠されていて、時折見せる優しさは完全に消え失せていた。冷たい双眸はまっすぐローウェンを見ていた。ビルガはがたがたと震え出した体を抑えるように、何とか彼の服にしがみついた。
「もう大丈夫です。俺が守りますから」
ローウェンは光の剣の効果で体に少し傷を作っていたが、致命傷ではないため、あまり気にしていない様子だった。のろのろと起き上がるローウェンの目は酷く怒り狂っている。
「お前が魔物たちの間で噂になっていた光属性の冒険者か。この私を傷つけるとはな!」
ミナトは安心させるようにビルガへ話しかける。
「絶対に守るから。離れないで」
その様子を見ていたローウェンが口元を歪めながら話かけてくる。
「取引をしようじゃないか。そちらの神聖老を渡せ」
お前に騎士の資格を与えよう、教会の賄賂がどうのという話を語りだし、自分がこの国を王の代わりに守ると言ってきた。ローウェンは首から下げていたペンダントを外すと、ミナトに近づいてくる。それは、この地の結界を作り壊すためのもの。本来ならば、聖職者に与えられ、人々を魔物から守るためのもの。旅に役立つと笑いながら、ローウェンは交換を持ちかける。
ビルガはミナトを見上げる。彼のアイスブルーの瞳が怒りに満ちていた。
「断る」
ミナトは許さなかった。剣が一閃するとローウェンは壁際へと吹き飛ばされていた。
ミナトはビルガを抱き上げる。傍らに落ちていた護身用の剣も握らせてくれた。ビルガはミナトの足手まといになると離れようとしたが、意外にもがっちりとした腕はビルガのことを逃さなかった。
「どうして」
「ええと、聞き忘れたことがあって、戻って来たんです。時空魔法のことを聞こうと思って。そうしたら、拘束されていたメイド長がいたので。メイド長は俺の仲間と貴方の騎士たちを呼びに戻っています。仲間のリンがついているんで、きっと大丈夫です」
ビルガはきゅうっと唇を噛み締めた。申し訳なさと恐怖で体の震えが止まらなかった。
「許さん、許さんぞ……」
低く唸る声。その声にビルガとミナトがはっとする。ローウェンだったものが、黒く忌々しいものに変貌していった。
神官の皮や服がメキメキと音をたてて破れていった。真っ黒なざらざらとした肌、赤い瞳、人間の背丈の二倍はあるその巨体。天井が崩れ落ちていった。
「魔物か」
ミナトがビルガを抱きながら、落ちてきた瓦礫を軽やかなステップで回避する。そして、一階へ通じる階段を駆けた。
その後をローウェンが追いかけてきた。破壊されたミスリルの隙間をくぐり、二人が逃げた先に辿りついたのは外だ。
丘と岩石のある始まりの場所。夜明け前の外の空気はひんやりと冷たい。
まだ暗い世界が広がっていたが、西の空にはうっすらと光すら見えた。黒い姿は悪魔の姿に成り代わっている。羽が、メキメキと生え、鋭い眼光はビルガとミナトを睨みつけた。
「ガァアアアア!」
「デーモン!?」
変貌したローウェン――デーモンを眺めながら、ミナトはビルガを自分の背後に座らせた。そして、彼はビルガを守るために剣を構えた。
「魔王の幹部か」
「いかにも。我は魔王様に従い、生きていル」
「狙いは初めからこの人だったな! この人は渡さない! その元の主はどうした!?」
「美味しかったヨ。ビルガ様に手を出すなと煩くてナ。魔力は豊富ダった」
「なんてことを……」
本物のローウェンがもういない。王は孤独に強くあれと教えてくれた神官だ。仮初の姿でずっと気がつけなかったことを思い、ビルガは唇を噛み締める。
「聞かないで。とりついた魔物は宿主の記憶を読み、擬態することができるんだ」
「ミナト」
「ダメだよ。思いつめないで。悲しみは魔族の栄養になる」
ビルガはその言葉にはっとする。気が付けば、彼が着せてくれたコートをぎゅうっと握り締めた。
「ビルガさんを狙ってこの国に潜伏したわけだな。魔王様に渡すと言ってたけど、この仕掛けはどうみても君が利用するものじゃないか」
「いかにも、神聖老の魔力は誰もが欲すル。我は不死になル。そして、魔王様を倒シ、我が魔王とナル!」
「悪いけど、この人をお前にやることはできない!」
ミナトが剣を振りかざせば、光の波動がデーモンに向かっていく。しかし、デーモンが咆哮一つすれば、光はかき消されてしまった。
「くぅ!」
そして、その咆哮の波動で剣が黒く染め上げられていく。ミナトの表情が驚きに変わっていった。咆哮の波動をミナトが咄嗟に黒く染った剣で弾けば、剣はボキッと音を立て、粉々に砕け散った。
「っ!」
そのことにミナトは驚いた顔をし、剣を手放す。剣は全て灰となり、消えてしまった。ミナトは懐から短剣を取り出した。更に握る拳を強める。
ミナトがちらっとこちらを見る。その顔は心配の色を帯びていた。
「動けますか? 出来たら下がって。ここは危ない。あいつをできる限り引き付けます。貴方は隙を見て逃げて」
「いや、俺も戦う」
足に何とか力を入れ、立ち上がった。足はふらつくが、立つことはできる。いや、きっと戦うことも。ビルガは足元に魔方陣を浮かび上がらせる。その姿にミナトははっとした表情を作る。そして、小さく頷いた。
「日が昇るまでバックアップ、お願いしても?」
ミナトの問いにビルガは頷いた。彼から着せたもらったマントを強く握り締めた。
「無論だ。なにか策があるのか?」
「朝日が昇れば、俺の魔力量が上がるんだ。一番強い剣技を使うには、日差しがないとダメだ」
※更新遅れのお詫びに一話を投稿します! 閲覧ありがとうございます!
「遅れてすみません。すぐに治します」
「ミナト……」
「もう大丈夫ですよ」
ミナトは安心させるような笑顔を浮かべて、すぐにビルガに対し治癒術を施してくれた。麻痺していた感覚が徐々に戻っていく。汚れていた体もすぐに綺麗にしてくれた。
「少し身体に触ります」
魔法陣の上で呆けていたビルガを片手で抱き寄せた。そのまま自身のコートをビルガにかける。そして、落としたはずの護身用の剣をビルガに持たせた。ミナトはローウェンへ自身の剣を向ける。
彼の眼孔には殺意が隠されていて、時折見せる優しさは完全に消え失せていた。冷たい双眸はまっすぐローウェンを見ていた。ビルガはがたがたと震え出した体を抑えるように、何とか彼の服にしがみついた。
「もう大丈夫です。俺が守りますから」
ローウェンは光の剣の効果で体に少し傷を作っていたが、致命傷ではないため、あまり気にしていない様子だった。のろのろと起き上がるローウェンの目は酷く怒り狂っている。
「お前が魔物たちの間で噂になっていた光属性の冒険者か。この私を傷つけるとはな!」
ミナトは安心させるようにビルガへ話しかける。
「絶対に守るから。離れないで」
その様子を見ていたローウェンが口元を歪めながら話かけてくる。
「取引をしようじゃないか。そちらの神聖老を渡せ」
お前に騎士の資格を与えよう、教会の賄賂がどうのという話を語りだし、自分がこの国を王の代わりに守ると言ってきた。ローウェンは首から下げていたペンダントを外すと、ミナトに近づいてくる。それは、この地の結界を作り壊すためのもの。本来ならば、聖職者に与えられ、人々を魔物から守るためのもの。旅に役立つと笑いながら、ローウェンは交換を持ちかける。
ビルガはミナトを見上げる。彼のアイスブルーの瞳が怒りに満ちていた。
「断る」
ミナトは許さなかった。剣が一閃するとローウェンは壁際へと吹き飛ばされていた。
ミナトはビルガを抱き上げる。傍らに落ちていた護身用の剣も握らせてくれた。ビルガはミナトの足手まといになると離れようとしたが、意外にもがっちりとした腕はビルガのことを逃さなかった。
「どうして」
「ええと、聞き忘れたことがあって、戻って来たんです。時空魔法のことを聞こうと思って。そうしたら、拘束されていたメイド長がいたので。メイド長は俺の仲間と貴方の騎士たちを呼びに戻っています。仲間のリンがついているんで、きっと大丈夫です」
ビルガはきゅうっと唇を噛み締めた。申し訳なさと恐怖で体の震えが止まらなかった。
「許さん、許さんぞ……」
低く唸る声。その声にビルガとミナトがはっとする。ローウェンだったものが、黒く忌々しいものに変貌していった。
神官の皮や服がメキメキと音をたてて破れていった。真っ黒なざらざらとした肌、赤い瞳、人間の背丈の二倍はあるその巨体。天井が崩れ落ちていった。
「魔物か」
ミナトがビルガを抱きながら、落ちてきた瓦礫を軽やかなステップで回避する。そして、一階へ通じる階段を駆けた。
その後をローウェンが追いかけてきた。破壊されたミスリルの隙間をくぐり、二人が逃げた先に辿りついたのは外だ。
丘と岩石のある始まりの場所。夜明け前の外の空気はひんやりと冷たい。
まだ暗い世界が広がっていたが、西の空にはうっすらと光すら見えた。黒い姿は悪魔の姿に成り代わっている。羽が、メキメキと生え、鋭い眼光はビルガとミナトを睨みつけた。
「ガァアアアア!」
「デーモン!?」
変貌したローウェン――デーモンを眺めながら、ミナトはビルガを自分の背後に座らせた。そして、彼はビルガを守るために剣を構えた。
「魔王の幹部か」
「いかにも。我は魔王様に従い、生きていル」
「狙いは初めからこの人だったな! この人は渡さない! その元の主はどうした!?」
「美味しかったヨ。ビルガ様に手を出すなと煩くてナ。魔力は豊富ダった」
「なんてことを……」
本物のローウェンがもういない。王は孤独に強くあれと教えてくれた神官だ。仮初の姿でずっと気がつけなかったことを思い、ビルガは唇を噛み締める。
「聞かないで。とりついた魔物は宿主の記憶を読み、擬態することができるんだ」
「ミナト」
「ダメだよ。思いつめないで。悲しみは魔族の栄養になる」
ビルガはその言葉にはっとする。気が付けば、彼が着せてくれたコートをぎゅうっと握り締めた。
「ビルガさんを狙ってこの国に潜伏したわけだな。魔王様に渡すと言ってたけど、この仕掛けはどうみても君が利用するものじゃないか」
「いかにも、神聖老の魔力は誰もが欲すル。我は不死になル。そして、魔王様を倒シ、我が魔王とナル!」
「悪いけど、この人をお前にやることはできない!」
ミナトが剣を振りかざせば、光の波動がデーモンに向かっていく。しかし、デーモンが咆哮一つすれば、光はかき消されてしまった。
「くぅ!」
そして、その咆哮の波動で剣が黒く染め上げられていく。ミナトの表情が驚きに変わっていった。咆哮の波動をミナトが咄嗟に黒く染った剣で弾けば、剣はボキッと音を立て、粉々に砕け散った。
「っ!」
そのことにミナトは驚いた顔をし、剣を手放す。剣は全て灰となり、消えてしまった。ミナトは懐から短剣を取り出した。更に握る拳を強める。
ミナトがちらっとこちらを見る。その顔は心配の色を帯びていた。
「動けますか? 出来たら下がって。ここは危ない。あいつをできる限り引き付けます。貴方は隙を見て逃げて」
「いや、俺も戦う」
足に何とか力を入れ、立ち上がった。足はふらつくが、立つことはできる。いや、きっと戦うことも。ビルガは足元に魔方陣を浮かび上がらせる。その姿にミナトははっとした表情を作る。そして、小さく頷いた。
「日が昇るまでバックアップ、お願いしても?」
ミナトの問いにビルガは頷いた。彼から着せたもらったマントを強く握り締めた。
「無論だ。なにか策があるのか?」
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