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2.騎士とメイドと
第六話
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ベアトは最近懐かしい夢を見ていた。
約束した男の子が夢の中で会いに来るのだ。お母さんと一緒に会いに来て、少しお話をして別れる。
二人にもう会えないと暗示しているようで、夢から覚める度にベアトは少し憂鬱だった。それは着替えてからも、続き、休日だというのにベアトは動けないでいた。
「ベアトさん、いらっしゃいますか?」
控えめなノックと声にベッドの上で考えこんでいたベアトの意識ははっとする。
「います!」
慌てて扉を開ければ、仮面の騎士――ロードが居た。
相変わらず仮面で表情は読めないが、柔らかい雰囲気をまとっていることから、緊急の用事ではないということにほっとする。
「休日にすみません。実はオーロラ様からお願いをされてしまって」
「どんなお願いですか?」
「えっと、ホーエン様にお出しするデザートを買ってきてほしいと言われました。ですが、私は少々そういったものに疎くて」
ベアトは瞬きし、目の前のロードを眺める。
確かにデザートのお店に行くようなイメージはない。
「わかりました。では、一緒にいきましょうか」
「はい」
心なしから彼の声が嬉しそうだった。
彼と共に屋敷を出て、街を歩く。レンガの道に石造りの家々。山の急斜面に作られた都市。
それがベアトの住む街ノアだった。昔は領土の境界地として、要塞として使われていた街でもある。
領地拡大に伴い、現在では観光都市に早変わり。意外と歩くのも一苦労だ。
「今の時期だったら、フワートが美味しいんです」
「フワート?」
「ええ、ふわふわとしていて、水みたいな。子供から老人まで皆に愛されるお菓子です。とっても美味しいんですよ!」
ベアトの説明に彼は「なるほど」とわかったようなわかっていないような返事を返す。
少しばかり、彼の頭上にクエッションマークがついていることにベアトは気が付き、「食べたらびっくりしますよ」と彼を突いた。
フワートの売る店にたどり着き、ベアトは四点セットを頼んだ。もちろん、二つは領収書をつけて。
「これは私からのおごりです。本当はもっと高いんですから」
ぐいっと彼にフワートを押し付ければ、彼はすぐに「僕が払います」と支払いを行った。
彼の僕という口調に、唖然とするベアト。そんなベアトに気が付かず、彼はマイペースにフワートを食べ始めた。そこで、ベアトははっとする。
「あ、その食べ方!」
「え?」
「ぷっあはは!」
ベアトは思わず笑った。彼の口元にたくさんのフワートがくっついていた。まるで、近所に住む鍛冶職人の髭おじいさんだ。
「笑ったりしてごめんなさい……フワートはスプーンで食べるんです」
彼はベアトの笑いを見て、くすっと楽しそうに笑う。
「だから、こんなことになるのですね。すみません、ちょっと仮面を外したいので」
「私は気にしないので大丈夫ですよ。仮面を外してください。私が拭きます」
「ですが」
「いいから」
彼が恐る恐ると震える手で仮面を外す。すると、ベアトは驚いた。目元の火傷の痕にではなく、仮面下から現れたのはとても美しい顔にだった。白い肌に金色の瞳。神が愛して作ったような、そんな綺麗な顔。
動かなくなったベアトに気が付いたのか、彼は「やっぱり、向こうを向いた方がいいですね」と困った顔をする。
「あ、いや! いえ! とても綺麗だったので」
「え?」
「なんでもないです! かっこいいなんて、思ってませんからっ! 断じて!」
ベアトは何か言いそうな彼の口元を拭った。顔に熱が集まるのを感じながら、彼の口元をハンカチで拭く。
口元を拭き取れば、ベアトの鼓動は波打つ。
「お、わりました」
「ありがとうございます」
彼は優しい微笑を携えていた。そして、再び仮面をつける。ベアトはそれが酷くもったいなく感じた。
「フワート、とてもおいしいですね。初めて食べました」
「ここの名物ですから」
「もしかして、甘い物がお好きで?」
「はい。そりゃあもちろん。メルビンさんには、甘い物通のせいか、お店を良く知っているからと買い出しを良く頼まれるんですよ」
「では、私からも一つお願いが」
「なんでしょう?」
少し照れたように視線を逸らしたロードは小さな声でぽつりと言った。
「私もたまに連れていってくれませんか?」
「もちろん。一緒に行きましょう!」
「ありがとうございます」
「ロードさんって、甘い物好きなんですね」
「はい。小さい頃食べていたことがあって……家族と食べていたんです」
彼は過去を懐かしむように微笑んだ。遠い何かを思い出しているようで、ベアトは少しだけ遠い過去を思い出す。
「私も小さなパイをみんなで半分こにしあって食べてました」
「兄妹が多かったのですね」
「そうです。たくさんいました」
孤児院の皆は兄妹だった。環境こそ悪かったが、日々生きるために皆で頑張っていた。
たとえ、感謝の言葉こそないが、ベアトも皆に感謝していた。その思い出を飲み込むように、ベアトはスプーンですくったフワートを口に入れた。ふわふわとした甘い水が、ベアトの口の中に溶けていった。
約束した男の子が夢の中で会いに来るのだ。お母さんと一緒に会いに来て、少しお話をして別れる。
二人にもう会えないと暗示しているようで、夢から覚める度にベアトは少し憂鬱だった。それは着替えてからも、続き、休日だというのにベアトは動けないでいた。
「ベアトさん、いらっしゃいますか?」
控えめなノックと声にベッドの上で考えこんでいたベアトの意識ははっとする。
「います!」
慌てて扉を開ければ、仮面の騎士――ロードが居た。
相変わらず仮面で表情は読めないが、柔らかい雰囲気をまとっていることから、緊急の用事ではないということにほっとする。
「休日にすみません。実はオーロラ様からお願いをされてしまって」
「どんなお願いですか?」
「えっと、ホーエン様にお出しするデザートを買ってきてほしいと言われました。ですが、私は少々そういったものに疎くて」
ベアトは瞬きし、目の前のロードを眺める。
確かにデザートのお店に行くようなイメージはない。
「わかりました。では、一緒にいきましょうか」
「はい」
心なしから彼の声が嬉しそうだった。
彼と共に屋敷を出て、街を歩く。レンガの道に石造りの家々。山の急斜面に作られた都市。
それがベアトの住む街ノアだった。昔は領土の境界地として、要塞として使われていた街でもある。
領地拡大に伴い、現在では観光都市に早変わり。意外と歩くのも一苦労だ。
「今の時期だったら、フワートが美味しいんです」
「フワート?」
「ええ、ふわふわとしていて、水みたいな。子供から老人まで皆に愛されるお菓子です。とっても美味しいんですよ!」
ベアトの説明に彼は「なるほど」とわかったようなわかっていないような返事を返す。
少しばかり、彼の頭上にクエッションマークがついていることにベアトは気が付き、「食べたらびっくりしますよ」と彼を突いた。
フワートの売る店にたどり着き、ベアトは四点セットを頼んだ。もちろん、二つは領収書をつけて。
「これは私からのおごりです。本当はもっと高いんですから」
ぐいっと彼にフワートを押し付ければ、彼はすぐに「僕が払います」と支払いを行った。
彼の僕という口調に、唖然とするベアト。そんなベアトに気が付かず、彼はマイペースにフワートを食べ始めた。そこで、ベアトははっとする。
「あ、その食べ方!」
「え?」
「ぷっあはは!」
ベアトは思わず笑った。彼の口元にたくさんのフワートがくっついていた。まるで、近所に住む鍛冶職人の髭おじいさんだ。
「笑ったりしてごめんなさい……フワートはスプーンで食べるんです」
彼はベアトの笑いを見て、くすっと楽しそうに笑う。
「だから、こんなことになるのですね。すみません、ちょっと仮面を外したいので」
「私は気にしないので大丈夫ですよ。仮面を外してください。私が拭きます」
「ですが」
「いいから」
彼が恐る恐ると震える手で仮面を外す。すると、ベアトは驚いた。目元の火傷の痕にではなく、仮面下から現れたのはとても美しい顔にだった。白い肌に金色の瞳。神が愛して作ったような、そんな綺麗な顔。
動かなくなったベアトに気が付いたのか、彼は「やっぱり、向こうを向いた方がいいですね」と困った顔をする。
「あ、いや! いえ! とても綺麗だったので」
「え?」
「なんでもないです! かっこいいなんて、思ってませんからっ! 断じて!」
ベアトは何か言いそうな彼の口元を拭った。顔に熱が集まるのを感じながら、彼の口元をハンカチで拭く。
口元を拭き取れば、ベアトの鼓動は波打つ。
「お、わりました」
「ありがとうございます」
彼は優しい微笑を携えていた。そして、再び仮面をつける。ベアトはそれが酷くもったいなく感じた。
「フワート、とてもおいしいですね。初めて食べました」
「ここの名物ですから」
「もしかして、甘い物がお好きで?」
「はい。そりゃあもちろん。メルビンさんには、甘い物通のせいか、お店を良く知っているからと買い出しを良く頼まれるんですよ」
「では、私からも一つお願いが」
「なんでしょう?」
少し照れたように視線を逸らしたロードは小さな声でぽつりと言った。
「私もたまに連れていってくれませんか?」
「もちろん。一緒に行きましょう!」
「ありがとうございます」
「ロードさんって、甘い物好きなんですね」
「はい。小さい頃食べていたことがあって……家族と食べていたんです」
彼は過去を懐かしむように微笑んだ。遠い何かを思い出しているようで、ベアトは少しだけ遠い過去を思い出す。
「私も小さなパイをみんなで半分こにしあって食べてました」
「兄妹が多かったのですね」
「そうです。たくさんいました」
孤児院の皆は兄妹だった。環境こそ悪かったが、日々生きるために皆で頑張っていた。
たとえ、感謝の言葉こそないが、ベアトも皆に感謝していた。その思い出を飲み込むように、ベアトはスプーンですくったフワートを口に入れた。ふわふわとした甘い水が、ベアトの口の中に溶けていった。
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