55 / 59
第六章
第五十四話
しおりを挟む
月のない夜だった。
レリアン家は偵察に来た時と同じく荒れに荒れていた。草木が多い茂り、まるで、魔女の館だ。また、屋敷は立派だが、真っ暗で窓ガラスも所々割れて居たり、エルは夜になるとまた怖いなと内心苦笑した。
そっと窓から室内を覗き込むが、明かりすらない。そんな荒れた屋敷を見て、エルはため息をつく。情報によると、ここ数年は人の出入りがないとのことだ。
玄関へ向かえば、黒い扉がまた怖さをさそう。そっとドアノブに杖を置き、「セット」と呪文を唱える。カチャと控えめな音が響き、エルは扉を回した。
室内は真っ暗だ。しかし、明かりをつければ、誰かに見られてしまうかもしれない。エルは用心しながらも、真っ暗な廊下を歩き出した。
「にしても、暗いな……」
仕方ないと再び杖で魔法を唱えようとした時だ。黒い何かが伸び、エルの手を掴んだ。悲鳴をあげかけたエルだったが、刹那、部屋の明かりが魔法で灯された。
「ははは、にしても、こんなに簡単に騙されるとは」
「は?」
目の前にいたのはアルトだった。その横には笑いをこらえるレイジ。
では、この手はと視線を移せば、エルの手を掴むマルクスがいた。優しく手を掴んでおり、エルの視線に気が付くとウインクしてきた。困惑するエルをよそにアルトが小さく咳払いをした。
「ようこそ。レリアン家へ。私、当主がお出迎えに参りました。ほしい情報は何でしょうか……ぷっ」
ハキハキと答えたかと思えば、最後には肩を震わせて笑いだすアルト。わなわなと震えるエルの肩に手を置いたのはマルクスだった。
「騙す形ですまないな。でも、こうでもしないと逃げてしまいそうだったんだ」
「何で!? どうして、ここに!?」
「いや。約束しただろう? しっかりとデータを見て君を連れ戻しに行くと」
驚くエルをよそにレイジが「陛下はあの後、しっかりとデータを確認されました。そして、私に貴方を簡単に捕まえる方法を聞いてきたのです」と頭を下げる。
エルは深いため息をつく。だから、情報屋の婆さんが絡んでいたのかと。
「騙された」
「エル様!」
明るい声が響く。振り返れば、そこにはレイナが立っていた。驚くエルにレイナが小さく頭を下げる。
「お別れの挨拶ができず、寂しい気持ちでいっぱいでした。でも、またここに来てくださって、私はとても嬉しいです」
「レイナ……」
「だから、もう逃げるのはやめてください。皆さん、とても悲しみますから」
エルはため息をつく。
「やられた」
「城で皆さんが待ってます。さあ、行きましょう。私は貴方の護衛騎士なのですから」
そんなエルにレイジが声をかける。エルは諦めたように覚悟を決める。
「本当に俺で良かったのか」
「何のためにこんな茶番まで用意したと思っているんだい? ほら、行くよ」
マルクスが肩を抱き寄せながら、ゆっくりと歩き出す。真っ暗な室内の中、「待って」と少女の声が響いた。
エルが振り返れば、そこには金色の髪の少女――レンがいた。緑色の瞳がじっとエルを見つめている。
彼女は小さくため息をついて、そっと手を伸ばしてきた。エルは驚いて、マルクスへ視線を移した。彼は再びウインクし、そっとエルの背中を押し支えた。彼女は小さく咳払いをした。
「改めて……私はレン。レン・ラ・ローレン。一応、貴方と双子という設定になるわ。血の繋がりはないかもしれない。けれど、貴方さえよかったら、もう一度私にチャンスをください。私のしたことは、貴方の汚名に繋がるかもしれない。だからこそ、たくさんの方に正直に話して謝った。残るのは貴方だけで……だから」
「俺はエル・ラ・ローレン。君とは運命だとは思ってる」
二人の間に握手が交わされる。驚くレンは緑色の瞳をエルに向ける。
「別に血の繋がりはなくてもいい。君があの家で育ってなくても、俺が城で育ってなくても……きっと、俺たちはまたどこかで出会っていたと思う。これから、よろしくお願いする」
「はい」
涙を浮かべて、少女は俯いてしまった。エルは苦笑いをすると、レイジを見つめる。彼は困ったように目を逸らした。
「よろしく、俺の新しい姉貴」
「よろしく、私の新しい弟くん」
ぎゅうっと再度強く握られた手。マルクスは「二人とも、さあ、行こうか」とほほ笑んで見せた。
レリアン家は偵察に来た時と同じく荒れに荒れていた。草木が多い茂り、まるで、魔女の館だ。また、屋敷は立派だが、真っ暗で窓ガラスも所々割れて居たり、エルは夜になるとまた怖いなと内心苦笑した。
そっと窓から室内を覗き込むが、明かりすらない。そんな荒れた屋敷を見て、エルはため息をつく。情報によると、ここ数年は人の出入りがないとのことだ。
玄関へ向かえば、黒い扉がまた怖さをさそう。そっとドアノブに杖を置き、「セット」と呪文を唱える。カチャと控えめな音が響き、エルは扉を回した。
室内は真っ暗だ。しかし、明かりをつければ、誰かに見られてしまうかもしれない。エルは用心しながらも、真っ暗な廊下を歩き出した。
「にしても、暗いな……」
仕方ないと再び杖で魔法を唱えようとした時だ。黒い何かが伸び、エルの手を掴んだ。悲鳴をあげかけたエルだったが、刹那、部屋の明かりが魔法で灯された。
「ははは、にしても、こんなに簡単に騙されるとは」
「は?」
目の前にいたのはアルトだった。その横には笑いをこらえるレイジ。
では、この手はと視線を移せば、エルの手を掴むマルクスがいた。優しく手を掴んでおり、エルの視線に気が付くとウインクしてきた。困惑するエルをよそにアルトが小さく咳払いをした。
「ようこそ。レリアン家へ。私、当主がお出迎えに参りました。ほしい情報は何でしょうか……ぷっ」
ハキハキと答えたかと思えば、最後には肩を震わせて笑いだすアルト。わなわなと震えるエルの肩に手を置いたのはマルクスだった。
「騙す形ですまないな。でも、こうでもしないと逃げてしまいそうだったんだ」
「何で!? どうして、ここに!?」
「いや。約束しただろう? しっかりとデータを見て君を連れ戻しに行くと」
驚くエルをよそにレイジが「陛下はあの後、しっかりとデータを確認されました。そして、私に貴方を簡単に捕まえる方法を聞いてきたのです」と頭を下げる。
エルは深いため息をつく。だから、情報屋の婆さんが絡んでいたのかと。
「騙された」
「エル様!」
明るい声が響く。振り返れば、そこにはレイナが立っていた。驚くエルにレイナが小さく頭を下げる。
「お別れの挨拶ができず、寂しい気持ちでいっぱいでした。でも、またここに来てくださって、私はとても嬉しいです」
「レイナ……」
「だから、もう逃げるのはやめてください。皆さん、とても悲しみますから」
エルはため息をつく。
「やられた」
「城で皆さんが待ってます。さあ、行きましょう。私は貴方の護衛騎士なのですから」
そんなエルにレイジが声をかける。エルは諦めたように覚悟を決める。
「本当に俺で良かったのか」
「何のためにこんな茶番まで用意したと思っているんだい? ほら、行くよ」
マルクスが肩を抱き寄せながら、ゆっくりと歩き出す。真っ暗な室内の中、「待って」と少女の声が響いた。
エルが振り返れば、そこには金色の髪の少女――レンがいた。緑色の瞳がじっとエルを見つめている。
彼女は小さくため息をついて、そっと手を伸ばしてきた。エルは驚いて、マルクスへ視線を移した。彼は再びウインクし、そっとエルの背中を押し支えた。彼女は小さく咳払いをした。
「改めて……私はレン。レン・ラ・ローレン。一応、貴方と双子という設定になるわ。血の繋がりはないかもしれない。けれど、貴方さえよかったら、もう一度私にチャンスをください。私のしたことは、貴方の汚名に繋がるかもしれない。だからこそ、たくさんの方に正直に話して謝った。残るのは貴方だけで……だから」
「俺はエル・ラ・ローレン。君とは運命だとは思ってる」
二人の間に握手が交わされる。驚くレンは緑色の瞳をエルに向ける。
「別に血の繋がりはなくてもいい。君があの家で育ってなくても、俺が城で育ってなくても……きっと、俺たちはまたどこかで出会っていたと思う。これから、よろしくお願いする」
「はい」
涙を浮かべて、少女は俯いてしまった。エルは苦笑いをすると、レイジを見つめる。彼は困ったように目を逸らした。
「よろしく、俺の新しい姉貴」
「よろしく、私の新しい弟くん」
ぎゅうっと再度強く握られた手。マルクスは「二人とも、さあ、行こうか」とほほ笑んで見せた。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編

追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい
桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる