『路地裏の野良犬は皇子に成り代わる』

odo

文字の大きさ
上 下
53 / 59
第六章

第五十二話

しおりを挟む
「俺は俺だ」
「いいや。貴方の魔力データは面白い事に、何十人ものデータが蓄積されている。その中に興味深い者も入ってましてね」

 パネルデータを叩きながら、目を輝かせるアンバー。エルは何も言わず目を逸らす。

「まるで、キメラのようではありませんか。まるで、錬成されたように……貴方、昔ここで何をしたんです?」
「はっ」

 鼻で笑うエルにアンバーは心底楽しそうに笑った。

「お前がやらせたんだろ。当時、スラムで有名だった盗賊ギルドを使って。どうせ、失敗すると分かっていて、魔族と人間で実験した。盗賊団の頭は人間のようにみえて、魔族だったから」
「怖い怖い。もう察していましたか」
「スラムに住む俺が何も調べないとでも? アンタの名前を思い出せなかったが、遠くから見せるその表情を見て思い出した。所属は魔導研究所所長アンバー。今はもうない部署だけどな」

 睨みを利かせるエルにアンバーはうっとりとした顔でほぅと息をつく。

「まさか、スラム街で本当の陛下の子がいるとは思わなかったでしょう。まさか、実験はあのような形になるとは想像もしていませんでした。まあ、陛下の邪魔が入り、貴方を捕まえることができなくなりましたが」

 肩を落としながらも、アンバーはエルに向き直る。

「貴方は貴方の復讐相手を知っているのに……なぜ来なかったのです?」
「お前に復讐して腹を満たせるとでも?」
「アハハハ! それはそうだ。では、私と取引をしましょう。悪い話ではないはずです」
「断る」
「いや、断れないはずです」

 アンバーの視線がレンへ向かう。レンは小さく舌打ちをした。
 彼が何を言いたいか分かった気がしたからだ。

「お前、聖女に精神汚染の魔法を施していたな」
「ええ。妖精と王の子供。禁忌と知りながらも、実験をしたくなるでしょう。実際は入れ替えられた子供で、途中から傾向を変えました。聖女と知ったのはその後です。どうです? 今後、この方に手を出さないと約束しましょう。その変わり、君は私の研究に協力する」
「アンタの研究内容は?」
「私を他の世界に連れていきなさい。そして、私はその地で王となる」

 エルは頭をかいた。そして、やれやれと言わんばかりにため息をつく。

「何なのですか! そのため息は!」
「そうだとしたら、あんたは孤独な王様だな。いいよ。行きたければ連れていってやる」

 連れて行ってやる。その一言で、アンバーの表情は喜々としたものに変わる。エルはその彼の表情を見て、なんとも言えない顔を作る。

「では、契約の成立です」

 アンバーが手を差し伸べてくる。エルは無言のまま彼に手を向けたその時だった。

「いけません!」

 鋭い声だった。エルとアンバーがはっとした瞬間だ。黒い塊が魔法陣から飛び出してきたと思えば、エルの前に大きな背中が立ちふさがる。

「お前は!」

 アンバーが苛立つ声をあげる。エルとアンバーの前に割り込んできたのはレイジだ。驚くエルをよそに、レイジは剣をアンバーへ向けた。

「ひぃっ!?」

 首元に剣が突きつけられたアンバーはそのまま、へなへなとその場に座り込んだ。

「危なかった。こちらに来てよかった。お怪我はありませんか?」
「レイジ!?」
「マルクス陛下のご命令で、アンバー。貴方を捕獲します。抵抗があれば、貴方を殺すことも許可されています」
「貴様!」
「動くな」

 剣がぴたりとアンバーの首元に添えられ、彼の白い皮膚から少しだけ出血の後。彼はそれっきり何も語らず、黙り込んでしまう。エルは恐る恐るとレイジから離れようと距離を取る。
 しかし、背後で気配を殺していた何者かにぶつかった。

「うちの息子がご迷惑をおかけしたな」

 ぐいっと上がるエルの視線。何者かに捕まった。背後から聞こえたのは、エルにとって聞きなれた声だった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する

高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。 手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします

Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。 相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。 現在、第三章フェレスト王国エルフ編

【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。

三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎ 長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!? しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。 ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。 といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。 とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない! フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。

ファンタジー
〈あらすじ〉 信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。 目が覚めると、そこは異世界!? あぁ、よくあるやつか。 食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに…… 面倒ごとは御免なんだが。 魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。 誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。 やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?

はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、 強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。 母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、 その少年に、突然の困難が立ちはだかる。 理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。 一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。 それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。 そんな少年の物語。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います

霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。 得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。 しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。 傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。 基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。 が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。

ブラックギルドマスターへ、社畜以下の道具として扱ってくれてあざーす!お陰で転職した俺は初日にSランクハンターに成り上がりました!

仁徳
ファンタジー
あらすじ リュシアン・プライムはブラックハンターギルドの一員だった。 彼はギルドマスターやギルド仲間から、常人ではこなせない量の依頼を押し付けられていたが、夜遅くまで働くことで全ての依頼を一日で終わらせていた。 ある日、リュシアンは仲間の罠に嵌められ、依頼を終わらせることができなかった。その一度の失敗をきっかけに、ギルドマスターから無能ハンターの烙印を押され、クビになる。 途方に暮れていると、モンスターに襲われている女性を彼は見つけてしまう。 ハンターとして襲われている人を見過ごせないリュシアンは、モンスターから女性を守った。 彼は助けた女性が、隣町にあるハンターギルドのギルドマスターであることを知る。 リュシアンの才能に目をつけたギルドマスターは、彼をスカウトした。 一方ブラックギルドでは、リュシアンがいないことで依頼達成の効率が悪くなり、依頼は溜まっていく一方だった。ついにブラックギルドは町の住民たちからのクレームなどが殺到して町民たちから見放されることになる。 そんな彼らに反してリュシアンは新しい職場、新しい仲間と出会い、ブッラックギルドの経験を活かして最速でギルドランキング一位を獲得し、ギルドマスターや町の住民たちから一目置かれるようになった。 これはブラックな環境で働いていた主人公が一人の女性を助けたことがきっかけで人生が一変し、ホワイトなギルド環境で最強、無双、ときどきスローライフをしていく物語!

処理中です...