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第六章
第五十二話
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「俺は俺だ」
「いいや。貴方の魔力データは面白い事に、何十人ものデータが蓄積されている。その中に興味深い者も入ってましてね」
パネルデータを叩きながら、目を輝かせるアンバー。エルは何も言わず目を逸らす。
「まるで、キメラのようではありませんか。まるで、錬成されたように……貴方、昔ここで何をしたんです?」
「はっ」
鼻で笑うエルにアンバーは心底楽しそうに笑った。
「お前がやらせたんだろ。当時、スラムで有名だった盗賊ギルドを使って。どうせ、失敗すると分かっていて、魔族と人間で実験した。盗賊団の頭は人間のようにみえて、魔族だったから」
「怖い怖い。もう察していましたか」
「スラムに住む俺が何も調べないとでも? アンタの名前を思い出せなかったが、遠くから見せるその表情を見て思い出した。所属は魔導研究所所長アンバー。今はもうない部署だけどな」
睨みを利かせるエルにアンバーはうっとりとした顔でほぅと息をつく。
「まさか、スラム街で本当の陛下の子がいるとは思わなかったでしょう。まさか、実験はあのような形になるとは想像もしていませんでした。まあ、陛下の邪魔が入り、貴方を捕まえることができなくなりましたが」
肩を落としながらも、アンバーはエルに向き直る。
「貴方は貴方の復讐相手を知っているのに……なぜ来なかったのです?」
「お前に復讐して腹を満たせるとでも?」
「アハハハ! それはそうだ。では、私と取引をしましょう。悪い話ではないはずです」
「断る」
「いや、断れないはずです」
アンバーの視線がレンへ向かう。レンは小さく舌打ちをした。
彼が何を言いたいか分かった気がしたからだ。
「お前、聖女に精神汚染の魔法を施していたな」
「ええ。妖精と王の子供。禁忌と知りながらも、実験をしたくなるでしょう。実際は入れ替えられた子供で、途中から傾向を変えました。聖女と知ったのはその後です。どうです? 今後、この方に手を出さないと約束しましょう。その変わり、君は私の研究に協力する」
「アンタの研究内容は?」
「私を他の世界に連れていきなさい。そして、私はその地で王となる」
エルは頭をかいた。そして、やれやれと言わんばかりにため息をつく。
「何なのですか! そのため息は!」
「そうだとしたら、あんたは孤独な王様だな。いいよ。行きたければ連れていってやる」
連れて行ってやる。その一言で、アンバーの表情は喜々としたものに変わる。エルはその彼の表情を見て、なんとも言えない顔を作る。
「では、契約の成立です」
アンバーが手を差し伸べてくる。エルは無言のまま彼に手を向けたその時だった。
「いけません!」
鋭い声だった。エルとアンバーがはっとした瞬間だ。黒い塊が魔法陣から飛び出してきたと思えば、エルの前に大きな背中が立ちふさがる。
「お前は!」
アンバーが苛立つ声をあげる。エルとアンバーの前に割り込んできたのはレイジだ。驚くエルをよそに、レイジは剣をアンバーへ向けた。
「ひぃっ!?」
首元に剣が突きつけられたアンバーはそのまま、へなへなとその場に座り込んだ。
「危なかった。こちらに来てよかった。お怪我はありませんか?」
「レイジ!?」
「マルクス陛下のご命令で、アンバー。貴方を捕獲します。抵抗があれば、貴方を殺すことも許可されています」
「貴様!」
「動くな」
剣がぴたりとアンバーの首元に添えられ、彼の白い皮膚から少しだけ出血の後。彼はそれっきり何も語らず、黙り込んでしまう。エルは恐る恐るとレイジから離れようと距離を取る。
しかし、背後で気配を殺していた何者かにぶつかった。
「うちの息子がご迷惑をおかけしたな」
ぐいっと上がるエルの視線。何者かに捕まった。背後から聞こえたのは、エルにとって聞きなれた声だった。
「いいや。貴方の魔力データは面白い事に、何十人ものデータが蓄積されている。その中に興味深い者も入ってましてね」
パネルデータを叩きながら、目を輝かせるアンバー。エルは何も言わず目を逸らす。
「まるで、キメラのようではありませんか。まるで、錬成されたように……貴方、昔ここで何をしたんです?」
「はっ」
鼻で笑うエルにアンバーは心底楽しそうに笑った。
「お前がやらせたんだろ。当時、スラムで有名だった盗賊ギルドを使って。どうせ、失敗すると分かっていて、魔族と人間で実験した。盗賊団の頭は人間のようにみえて、魔族だったから」
「怖い怖い。もう察していましたか」
「スラムに住む俺が何も調べないとでも? アンタの名前を思い出せなかったが、遠くから見せるその表情を見て思い出した。所属は魔導研究所所長アンバー。今はもうない部署だけどな」
睨みを利かせるエルにアンバーはうっとりとした顔でほぅと息をつく。
「まさか、スラム街で本当の陛下の子がいるとは思わなかったでしょう。まさか、実験はあのような形になるとは想像もしていませんでした。まあ、陛下の邪魔が入り、貴方を捕まえることができなくなりましたが」
肩を落としながらも、アンバーはエルに向き直る。
「貴方は貴方の復讐相手を知っているのに……なぜ来なかったのです?」
「お前に復讐して腹を満たせるとでも?」
「アハハハ! それはそうだ。では、私と取引をしましょう。悪い話ではないはずです」
「断る」
「いや、断れないはずです」
アンバーの視線がレンへ向かう。レンは小さく舌打ちをした。
彼が何を言いたいか分かった気がしたからだ。
「お前、聖女に精神汚染の魔法を施していたな」
「ええ。妖精と王の子供。禁忌と知りながらも、実験をしたくなるでしょう。実際は入れ替えられた子供で、途中から傾向を変えました。聖女と知ったのはその後です。どうです? 今後、この方に手を出さないと約束しましょう。その変わり、君は私の研究に協力する」
「アンタの研究内容は?」
「私を他の世界に連れていきなさい。そして、私はその地で王となる」
エルは頭をかいた。そして、やれやれと言わんばかりにため息をつく。
「何なのですか! そのため息は!」
「そうだとしたら、あんたは孤独な王様だな。いいよ。行きたければ連れていってやる」
連れて行ってやる。その一言で、アンバーの表情は喜々としたものに変わる。エルはその彼の表情を見て、なんとも言えない顔を作る。
「では、契約の成立です」
アンバーが手を差し伸べてくる。エルは無言のまま彼に手を向けたその時だった。
「いけません!」
鋭い声だった。エルとアンバーがはっとした瞬間だ。黒い塊が魔法陣から飛び出してきたと思えば、エルの前に大きな背中が立ちふさがる。
「お前は!」
アンバーが苛立つ声をあげる。エルとアンバーの前に割り込んできたのはレイジだ。驚くエルをよそに、レイジは剣をアンバーへ向けた。
「ひぃっ!?」
首元に剣が突きつけられたアンバーはそのまま、へなへなとその場に座り込んだ。
「危なかった。こちらに来てよかった。お怪我はありませんか?」
「レイジ!?」
「マルクス陛下のご命令で、アンバー。貴方を捕獲します。抵抗があれば、貴方を殺すことも許可されています」
「貴様!」
「動くな」
剣がぴたりとアンバーの首元に添えられ、彼の白い皮膚から少しだけ出血の後。彼はそれっきり何も語らず、黙り込んでしまう。エルは恐る恐るとレイジから離れようと距離を取る。
しかし、背後で気配を殺していた何者かにぶつかった。
「うちの息子がご迷惑をおかけしたな」
ぐいっと上がるエルの視線。何者かに捕まった。背後から聞こえたのは、エルにとって聞きなれた声だった。
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