『路地裏の野良犬は皇子に成り代わる』

odo

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第四章

第四十話

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注:23.10.1 ハウリア→ハウエルへ直しています。混乱させて申し訳ありません。








 はっとすると、景色は一瞬にして地下牢に変わっていた。どうやら、地下牢の一角で寝かされていたらしい。ドクンドクンと音をたてていた心臓が、少しずつ落ち着きを取り戻していった。

「大丈夫か?」

 心配する声色。心配そうな表情でハウリアがエルの顔を覗き込んでいた。手錠を繋がれたハウリアの手。そして、彼の顔には血痕が残っていた。それが一瞬にして先ほどの夢と同化し、エルはヒュッと音にならない悲鳴を上げた。

「す、すまない。変な術を食らってから、お前が目を開けたまま停止していたから。表情に変化があったから、思わず呼びかけてしまったんだ。怖かっただろう?」

 己のがくがくと震える手を見れば、エルの両手にも手錠がつけられていた。しかも、魔法を使えなくするものだ。エルの動揺を悟ってか、ハウリアは辺りを見回しながら、「本当にすまない」と謝罪した。

「恐らく、ここは南の幽閉所だ。魔物遠征の動乱で連れ出されたらしい」
「なん、で?」
「俺のせいだ。俺はアンバーと取引をしていた」

 アンバーという名前に聞き覚えがある気がしたが、動揺する頭では思い出せず、なんとか落ち着こうと息をつく。
 エルはゆっくりと体を起こそうとするが、スターチェリーワインの影響か、ブラバという精神影響の魔法のせいか、それはままならない。

「ルファ皇子をどうして狙ったんだ?」
「どうして、か。お前たちは絶対な血を持っているから、簡単に言えるんだ。お前は俺と同じだとずっと思っていた」

 エルはハウリアに手を借りながら、ゆっくりと上体を起こした。

「どういうことだ?」
「だって、昔お前がここに来た時はこの青い魔石を持っていただろう。だから、俺と同じだと思っていた。でも、今回は違う。お前は青い魔石を持っていなかった」
「意味がわからない」

 皆が持っている青い魔石が何だというのだろう。エルは小首を傾げた。ハウリアがため息をつく。

「魔石がない者はこの地を追い出される。ここは王家の秘密の地。女神サマリーが王族に残した安息の地だ。王家の血族以外はサマリー石を持っていない限り、入ることはできない」

 困惑するエルをよそに、ハウリアがため息をついた。

「俺は王族の血族じゃない。ここまで言えば分かるだろ」
「それは」

 エルは目を逸らした。ハウリアは困ったように笑う。

「お前も同じだとずっと思っていた。だって、昔はお前も俺と同じように魔石をつけていたから」
「これか?」

 エルが前にスラムの情報屋から貰った水色の魔石を取り出す。ハウリアは首を横に振った。

「それは違うな。王家のハーベルの石じゃない。普通の魔石だろう」

 エルの目が大きく見開かれる。

「嘘だ」
「嘘じゃないさ。なら、何でお前は魔石なしでここにいる?」

 呆れたと言わんばかりのハウリア。エルは手錠をつけた手のまま頭を抱えた。
 アージェス家の私生児。本来生まれるはずだった聖女、しかし生まれたのは男児だった。神聖力も持たず、忌み嫌われた存在。そんなはずがないと、目の前のハウリアを睨みつけた。

「混乱しているのはわかるが、ここを早く出よう。マルクス陛下にお前だけでも預けないと」

 ハウリアが辺りを見回し、鉄格子の様子を見ている。エルはと言うと、手に持っていた水の魔石を力強く握り締めた。そして、ゆっくりと立ちあがる。そして、鉄格子の前にいるハウリアの肩を掴んだ。

「どけ」
「おい、何を――」

 押しのけられたハウリアはむっとした表情を作ったが、エルが手に持った魔石が光り輝いたことに気が付いた。
 エルは魔石を鉄格子前の床に叩きつけ、呪文を唱えた。

「リベア!」

 パァンっと鉄が砕け散った。きらきらと舞う鉄片にハウリアは目を見開く。水の魔石が破壊されたことで、水の魔力が辺りの金属を溶かしていく。目の前の鉄格子が完璧に破壊された様をみて、ハウリアは茫然としていた。そして、二人の手錠もまた粉砕されていった。
 エルが外に足を向け、立ち尽くしているハウリアを振り返った。

「行くのか、行かないのか?」
「い、行くに決まっているだろ!」

 二人が駆けだした瞬間だった。

「エル皇子、イた!」

 突然響いた声にぞくりとエルが背筋を凍らせた。
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