『路地裏の野良犬は皇子に成り代わる』

odo

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第四章

第三十一話

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 エルは仏頂面でベッドに横になっていた。
 マルクスの部屋に滞在することになり、何もない部屋に大きなソファが増えたまではいい。出入口にはレイジが控え、運ばれたソファには幼い皇女であるメルディが仏頂面で座っている。足をぶらぶらとさせ、顔はつまらないと語っていた。
 そして、入口付近で仁王立ちになり、怪訝そうな顔をしているのはルファだ。

「お父様に会いに来たのに、なんでルファ兄様とエルの馬鹿野郎もいるのよ」
「それはこっちの台詞だ。どうして、お前たちがいるんだ。俺は仕事の話をしに、ここに来たんだぞ?」

 ルファとメルディの口喧嘩にエルはため息をつく。
 エルだって、好んでここに居る訳ではない。昨日は結局一睡もできずに、マルクスが仕事で出て行ってから、ベッドを拝借した。いや、無理やり押し込まれたが正しい。
 そして、やっと眠れると思えば、彼らが睡眠の邪魔をしに来たのだ。

「そして! どうして、エルはお父様のベッドにいるのよ! 私だって、入ったことないのに! さては一緒に寝ていたのね!? お母様としかないのに! ずるい!」
「どうして、そういう発想になるんだ」

 エルは息をつく。相手をせずに帰ってしまいたい。ただ、自分の部屋に戻るのはエルもまだ避けたい。
 だからこそ、ここにいるしかなかった。

「おやおや。お勉強をさぼってこちらに来ているのは誰でしょうか~?」
「ぎゃっ!」
「うお!?」

 突然と響いたアルトの声。ルファは後ろにいるアルトを凝視し、メルディはソファの後ろに隠れた。

「ははは。剣術の勉強は十二時まで。そして、マナー講習は一時までとなっているはずでは? ルファ皇子にメルディ皇女?」
「お、俺は仕事の件で! 別に昨日のことが心配とかではなく!」
「わ、私だって! 別にお父様に聞きにきたわけじゃないもん!」

 ぷはっと噴出したのは意外にもレイジだった。すぐに彼は無表情に戻った。
 顔を真っ赤にしてぷるぷると震えだしたルファとメルディ。アルトがわざとらしく、ぽんっと手のひらの上に拳を乗せた。

「なるほどなるほど。エル皇子が心配で様子を見に来たのですねぇ」
「「違う!」」

 ルファとメルディの声が重なった。その後、アルトが二人を部屋から追い出し、送っていく姿。その様子をぼんやりと眺めていたエルは小さく息をつく。

「本当は兄妹の仲よかったんじゃねぇのかよ」
「いえ。良くなかったですよ」
「どうして?」
「エル皇子が拒絶していた、という方が正しいでしょうか」
「なんでだよ」
「それは分かりません。部屋に入れば物を投げられるメルディ皇女。ルファ皇子とは反りが合わずに喧嘩が多かった。ハウリア皇子は相手にすらしませんでした。第三皇子のジャック皇子も論外です」

 ふうんとエルは応える。レイジは少し迷う様子を見せたが、決心したように言う。

「ただ、亡くなった第四皇子とは仲が良かった」
「記録にあったソロモン皇子だっけか」
「ええ。彼が死んでから、エル皇子は変わってしまった。二人は本当に仲が良かったのです」

 レイジは何かを思い出すように、遠い物をみる表情をしていた。

「恐らく、ソロモン皇子が亡くなったことを、他の兄弟のせいにしていたのか。それはもう知る由はありません」
「ソロモン皇子ってどんなやつだったんだ?」
「大人しい皇子でした。平民思いで、とても優しくて。エル皇子の困った発言にも良く耳を貸していました。エル皇子が十歳の頃に毒で亡くなりました。それも、昼間の一か月の王族が集まる食事会で」

 レイジの淡々とした説明にエルが目を見開く。

「そうかよ」
「ええ。それから、エル皇子は周りを信用しなくなったのでしょうね。未だに犯人は見つかってません」
「けどよ」
「はい?」
「それって、本当に王族たちが主犯だったのか?」
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