『路地裏の野良犬は皇子に成り代わる』

odo

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第三章

第二十一話

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 次に目を覚ました時、室内には誰もいなかった。
 ほっとする反面、寂しさもあった。エルは少し体調がマシになったことを確認すると、ゆっくりと起き上がった。
 ふらつきはするが、二本足でしっかりと立てたことに安心する。

「水……」

 割れたはずの水差しは新しいものになっており、エルはそれを取ると一気に飲み干した。
 小さく咳き込み、ドレッサーの前に立つ。そこには真っ白な髪とローズマリー色の瞳があった。
 瞳の色が変わっていることに舌打ちし、そっと手のひらに魔力を込めて、目元を隠す。そっと離し、目を見れば、先ほどと同じローズマリー色の瞳。

「くそ」

 小さくぼやけば、扉が開く。あっと思えば、そこに立っていたのはレイジだった。

「歩けるようになりましたか。朝方、四十度近い発熱があったんですよ。休んでいてください」
「俺の勝手だろ」
「いいえ。何かあってからでは困ります。貴方の代わりはいませんので」
「へぇへぇ」

 エルは呆れたと思いながらも、ベッドの上に座り込んだ。
 レイジは安心したような表情をした後、「流行り病だそうです。少し休めば元気になるでしょう」とお粥をベッド横のテーブルへ置いた。

「レイナが作ってくれました。毒見も済ませてますよ」
「……ありがと」
「どういたしまして」

 レイジがふっと笑う。お粥を手に取る。ふわりと漂うネギの匂い。溶き卵が固まり、白と黄色。少しにごっているのはダシだろうか。
 スプーンでお粥を取り、ふぅふぅと息を吹きかければ、白い湯気が渦を巻いて立ち昇っていく。
 そっと口に含めれば、昆布の味。その後に卵とお粥の味。ちらっとレイジを見れば、彼はなぜかにやにやしていた。

「うまい」
「そうですか。レイナも喜ぶでしょう」
「あのさ、さっき来てた神官は?」
「彼女はこの国の聖女候補のラムダ様です。王宮の離れに神殿があり、そちらを住まいになさってます。たまたま救護室にいたので、今回ご依頼したのです」
「ラムダ、ねぇ」

 どこで見かけたことがあるのだろう。エルはお粥を咀嚼しながら考える。
 しかし、答えはでなかった。

「そういえば、陛下がお見舞い品をくれました」
「えっ?」

 そういえば、狩猟大会後に接点がなかったと気が付く。
 レイジが取り出したものは大きな袋包みだった。エルが受け取る。袋はずっしりとしていた。
 袋包みを開ければ、まず目に入ったものはたくさんのお菓子だった。

「お菓子? あいつ、ガキと勘違いしてねぇか」

 子供が好きそうなお菓子がたくさん入っていた。色とりどりの飴玉が入ったガラス瓶。りんごの形をしたぐみ。綿菓子。他にも見慣れないお菓子がたくさん。
 そして、その中に変わったものがあることに気が付いた。

「箱?」

 エルが取り出したのは水色の小さな箱と剣でも入っているのではないかと思われる細長い赤色の箱。赤色の箱は手に持つと、少しだけずっしりとしていた。
 水色の箱を開く。レイジが覗き込んできた。そこにあったのはピンクオパールとアメジストの宝石で作られたブレスレットだ。

「ブレスレット? 何を企んでるんだ」
「一応頂きものですので、使った方が良いかと」
「まあ、王宮にいればそうなるよなぁ」

 しぶしぶとエルが腕につけるが、呪いなどの類は感じられなかった。

「んで、こっちは何だろうな」

 次に手に取ったのは赤色の箱。開けてみれば、両手杖が入っていた。
 木製の棒をベースにして作られた杖だ。重たそうに見え、手で握れば空気のように軽い。そのことにエルは軽く驚いた。

「なんだよ、これ」
「恐らくトリネコの枝でしょうね。高級素材です」
「なんで、こんな立派なもんを……」
「狩猟大会の褒美でしょうかね」

 エルは小さく息をつく。これでは、また何かをやれと言われそうだと。
 そして、気が付く。赤い箱に入っていた紙きれに。
 手に取り、中身を開く。そこには『十八歳の誕生日おめでとう』と書かれている。驚くエルに対し、レイジが納得したように「ああ」と声をあげる。

「そういえば、エル皇子の誕生日でしたね」

 エルは小さく息をついた。本人に行かない誕生日プレゼント。それが酷く悲しく思えた。

「おや……」

 ふと、レイジが青い箱を見て声をあげた。そこにも紙きれが入っているようだった。
 手渡され、エルは手紙を開く。内容を見た瞬間、下がったと思った熱が一気に高くなるのを感じた。

「はぁ!?」
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