17 / 59
第二章
第十六話
しおりを挟む
「ギェエエアアアアア!」
木々を押し倒し、血まみれのワイバーンがなだれ込んできた。
ワイバーンと共に現れた人々は悲鳴を上げ、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。どうやら、終われているようだった。しかし、逃げる者などワイバーンの目ではなかったらしい。立ち尽くしているエルとレイジに目をつけ、突進してきた。
「お逃げください!」
レイジがエルの前に出て、庇う姿勢に入る。レイジが剣を抜き、ワイバーンの牙を防ぐ。
エルはというと高々と跳躍し、傍にあった太めの木枝の上に足をつけた。それを確認したレイジは剣で牙を弾くと後ろへ後退した。反応の速さにエルは思わず口笛を吹いた。流石は氷の騎士様だ。
「レイジ、離れろ。俺が――」
エルが魔法を使おうと手をかざした瞬間だった。
人々をかき分け、黒い影が横切った。
「ハァッ!」
剣の一太刀。一刀両断。ワイバーンの羽が落ちる。同時にそれの雄叫び。
エルはその剣の捌きに目を見開く。
次に銀色の横一刀はワイバーンの硬いウロコで覆われた首をはねた。首はエルが居る木の上の高さにまで飛び、すぐに地面に落下した。まるで、スローモーションのような光景。しかし、エルは茫然とするのではなく、すぐに視線を下へ向けた。もちろん、見たのはワイバーンを切り伏せた男だ。マントの布によって剣に付着した血が拭われ、腰に戻される剣。
「やれやれ。向こうやら獲物がやってくるとは。手間が省けたね」
絶命し、ワイバーンの巨体が維持できなくなったのだろう。ズドォオオンと音を響かせ、倒れるワイバーンの巨体。その横で立つ、黒い髪の男。赤い瞳はしっかりと自分の手柄を見つめていた。
エルは「ハウリア皇子……」と小さな声で呟く。
「君たち、怪我はないかい?」
そこに居たのはハウリアだった。周りの人々の安全を確かめながら、彼はまるで英雄のように手を掲げてみたせた。
同時に歓声と拍手。にっこりとした笑顔で彼はぺこりと頭を下げる。
「俺が取ろうとした獲物を取りやがって」
「おや、隠れるだけが趣味だと思っていたよ。ルファ」
「ふん……俺が隙を狙っていたのに、倒しやがって」
木の影から現れたのはルファだ。嫌悪を隠せない表情。兄弟とは思えない不穏さだ。
「おや。見ているだけで倒せもしないルファ皇子が、私の仕留め方にケチをつける必要はないかと」
「ふん、どうせ芝居一つうったんだろう。本当なら、クズみたいな考え方しねぇのにな。仮面の下、どんな腹黒いことを考えているやら」
ハウリアとルフェの二人の間にはバチバチとした亀裂が走り、「馬鹿が移る」と言い残したルファは姿を森の奥へ消えた。
エルは木の枝にあがって正解だったと、あの場にいなくてよかったと息を吐いた。
レイジは木下にやってきて、やめましょうと言わんばかりの表情を向けてくる。その情けない顔に、エルはむっとした。あの剣の反応の速さなら、レイジだってワイバーンを討伐できたはずだ。
「行くぞ。あいつらに獲物が盗られちまう」
だからこそ、ぶっきらぼうにエルは応えた。軽々と人の身長よりも高い場所から草木の多い茂る地面へ着地する。
ワイバーンよりももっと良いものを仕留めなければいけない。狙うのはフェンリルだ。
先をみるエルは気が付かない。レイジが暗い表情のまま、エルを見つめていたことに。
木々を押し倒し、血まみれのワイバーンがなだれ込んできた。
ワイバーンと共に現れた人々は悲鳴を上げ、蜘蛛の子を散らすように逃げていく。どうやら、終われているようだった。しかし、逃げる者などワイバーンの目ではなかったらしい。立ち尽くしているエルとレイジに目をつけ、突進してきた。
「お逃げください!」
レイジがエルの前に出て、庇う姿勢に入る。レイジが剣を抜き、ワイバーンの牙を防ぐ。
エルはというと高々と跳躍し、傍にあった太めの木枝の上に足をつけた。それを確認したレイジは剣で牙を弾くと後ろへ後退した。反応の速さにエルは思わず口笛を吹いた。流石は氷の騎士様だ。
「レイジ、離れろ。俺が――」
エルが魔法を使おうと手をかざした瞬間だった。
人々をかき分け、黒い影が横切った。
「ハァッ!」
剣の一太刀。一刀両断。ワイバーンの羽が落ちる。同時にそれの雄叫び。
エルはその剣の捌きに目を見開く。
次に銀色の横一刀はワイバーンの硬いウロコで覆われた首をはねた。首はエルが居る木の上の高さにまで飛び、すぐに地面に落下した。まるで、スローモーションのような光景。しかし、エルは茫然とするのではなく、すぐに視線を下へ向けた。もちろん、見たのはワイバーンを切り伏せた男だ。マントの布によって剣に付着した血が拭われ、腰に戻される剣。
「やれやれ。向こうやら獲物がやってくるとは。手間が省けたね」
絶命し、ワイバーンの巨体が維持できなくなったのだろう。ズドォオオンと音を響かせ、倒れるワイバーンの巨体。その横で立つ、黒い髪の男。赤い瞳はしっかりと自分の手柄を見つめていた。
エルは「ハウリア皇子……」と小さな声で呟く。
「君たち、怪我はないかい?」
そこに居たのはハウリアだった。周りの人々の安全を確かめながら、彼はまるで英雄のように手を掲げてみたせた。
同時に歓声と拍手。にっこりとした笑顔で彼はぺこりと頭を下げる。
「俺が取ろうとした獲物を取りやがって」
「おや、隠れるだけが趣味だと思っていたよ。ルファ」
「ふん……俺が隙を狙っていたのに、倒しやがって」
木の影から現れたのはルファだ。嫌悪を隠せない表情。兄弟とは思えない不穏さだ。
「おや。見ているだけで倒せもしないルファ皇子が、私の仕留め方にケチをつける必要はないかと」
「ふん、どうせ芝居一つうったんだろう。本当なら、クズみたいな考え方しねぇのにな。仮面の下、どんな腹黒いことを考えているやら」
ハウリアとルフェの二人の間にはバチバチとした亀裂が走り、「馬鹿が移る」と言い残したルファは姿を森の奥へ消えた。
エルは木の枝にあがって正解だったと、あの場にいなくてよかったと息を吐いた。
レイジは木下にやってきて、やめましょうと言わんばかりの表情を向けてくる。その情けない顔に、エルはむっとした。あの剣の反応の速さなら、レイジだってワイバーンを討伐できたはずだ。
「行くぞ。あいつらに獲物が盗られちまう」
だからこそ、ぶっきらぼうにエルは応えた。軽々と人の身長よりも高い場所から草木の多い茂る地面へ着地する。
ワイバーンよりももっと良いものを仕留めなければいけない。狙うのはフェンリルだ。
先をみるエルは気が付かない。レイジが暗い表情のまま、エルを見つめていたことに。
0
お気に入りに追加
8
あなたにおすすめの小説
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。

巻き込まれ召喚されたおっさん、無能だと追放され冒険者として無双する
高鉢 健太
ファンタジー
とある県立高校の最寄り駅で勇者召喚に巻き込まれたおっさん。
手違い鑑定でスキルを間違われて無能と追放されたが冒険者ギルドで間違いに気付いて無双を始める。

異世界召喚でクラスの勇者達よりも強い俺は無能として追放処刑されたので自由に旅をします
Dakurai
ファンタジー
クラスで授業していた不動無限は突如と教室が光に包み込まれ気がつくと異世界に召喚されてしまった。神による儀式でとある神によってのスキルを得たがスキルが強すぎてスキル無しと勘違いされ更にはクラスメイトと王女による思惑で追放処刑に会ってしまうしかし最強スキルと聖獣のカワウソによって難を逃れと思ったらクラスの女子中野蒼花がついてきた。
相棒のカワウソとクラスの中野蒼花そして異世界の仲間と共にこの世界を自由に旅をします。
現在、第三章フェレスト王国エルフ編

追放された最強賢者は悠々自適に暮らしたい
桐山じゃろ
ファンタジー
魔王討伐を成し遂げた魔法使いのエレルは、勇者たちに裏切られて暗殺されかけるも、さくっと逃げおおせる。魔法レベル1のエレルだが、その魔法と魔力は単独で魔王を倒せるほど強力なものだったのだ。幼い頃には親に売られ、どこへ行っても「貧民出身」「魔法レベル1」と虐げられてきたエレルは、人間という生き物に嫌気が差した。「もう人間と関わるのは面倒だ」。森で一人でひっそり暮らそうとしたエレルだったが、成り行きで狐に絆され姫を助け、更には快適な生活のために行ったことが切っ掛けで、その他色々が勝手に集まってくる。その上、国がエレルのことを探し出そうとしている。果たしてエレルは思い描いた悠々自適な生活を手に入れることができるのか。※小説家になろう、カクヨムでも掲載しています
【完結】幼馴染にフラれて異世界ハーレム風呂で優しく癒されてますが、好感度アップに未練タラタラなのが役立ってるとは気付かず、世界を救いました。
三矢さくら
ファンタジー
【本編完結】⭐︎気分どん底スタート、あとはアガるだけの異世界純情ハーレム&バトルファンタジー⭐︎
長年思い続けた幼馴染にフラれたショックで目の前が全部真っ白になったと思ったら、これ異世界召喚ですか!?
しかも、フラれたばかりのダダ凹みなのに、まさかのハーレム展開。まったくそんな気分じゃないのに、それが『シキタリ』と言われては断りにくい。毎日混浴ですか。そうですか。赤面しますよ。
ただ、召喚されたお城は、落城寸前の風前の灯火。伝説の『マレビト』として召喚された俺、百海勇吾(18)は、城主代行を任されて、城に襲い掛かる謎のバケモノたちに立ち向かうことに。
といっても、発現するらしいチートは使えないし、お城に唯一いた呪術師の第4王女様は召喚の呪術の影響で、眠りっ放し。
とにかく、俺を取り囲んでる女子たちと、お城の皆さんの気持ちをまとめて闘うしかない!
フラれたばかりで、そんな気分じゃないんだけどなぁ!

転生したら貴族の息子の友人A(庶民)になりました。
襲
ファンタジー
〈あらすじ〉
信号無視で突っ込んできたトラックに轢かれそうになった子どもを助けて代わりに轢かれた俺。
目が覚めると、そこは異世界!?
あぁ、よくあるやつか。
食堂兼居酒屋を営む両親の元に転生した俺は、庶民なのに、領主の息子、つまりは貴族の坊ちゃんと関わることに……
面倒ごとは御免なんだが。
魔力量“だけ”チートな主人公が、店を手伝いながら、学校で学びながら、冒険もしながら、領主の息子をからかいつつ(オイ)、のんびり(できたらいいな)ライフを満喫するお話。
誤字脱字の訂正、感想、などなど、お待ちしております。
やんわり決まってるけど、大体行き当たりばったりです。

劣悪だと言われたハズレ加護の『空間魔法』を、便利だと思っているのは僕だけなのだろうか?
はらくろ
ファンタジー
海と交易で栄えた国を支える貴族家のひとつに、
強くて聡明な父と、優しくて活動的な母の間に生まれ育った少年がいた。
母親似に育った賢く可愛らしい少年は優秀で、将来が楽しみだと言われていたが、
その少年に、突然の困難が立ちはだかる。
理由は、貴族の跡取りとしては公言できないほどの、劣悪な加護を洗礼で授かってしまったから。
一生外へ出られないかもしれない幽閉のような生活を続けるよりも、少年は屋敷を出て行く選択をする。
それでも持ち前の強く非常識なほどの魔力の多さと、負けず嫌いな性格でその困難を乗り越えていく。
そんな少年の物語。

せっかくのクラス転移だけども、俺はポテトチップスでも食べながらクラスメイトの冒険を見守りたいと思います
霖空
ファンタジー
クラス転移に巻き込まれてしまった主人公。
得た能力は悪くない……いや、むしろ、チートじみたものだった。
しかしながら、それ以上のデメリットもあり……。
傍観者にならざるをえない彼が傍観者するお話です。
基本的に、勇者や、影井くんを見守りつつ、ほのぼの?生活していきます。
が、そのうち、彼自身の物語も始まる予定です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる