『路地裏の野良犬は皇子に成り代わる』

odo

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第二章

第十五話

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 騎士として、あるいは名声を手に入れたい誰もが胸を張り、王家の敷地である森前に立っていた。
 その姿は子供から大人まで。入口前には見慣れたハウリアの姿があり、彼もまた騎士の正装を着こなしていた。
 そこから少し離れた設置されている白いテントの受付横にラファの姿もある。二人は従者を引き連れ、森の方を真剣な表情で見つめている。

「王族としての名声か」
「貴方は名声が欲しいのですか?」
「いや。俺はお前にプレゼントするだけだ」
「他愛ごとを……」

 レイジが呆れたように息をついた時だ。
 中央付近のステージに立ったのは司会と思われる女性だった。
 幼さの残る顔立ち。金色の髪をポニーテールにし、赤色の瞳。そして、騎士の正装。しかし、若い女性と馬鹿にできないのは彼女が握り締める大剣だろうか。
 炎のような揺らぎを持つフランベルジェ。剣先は真っ赤に燃える火のよう。

「あれは誰だ?」
「恐らく、ギルド商会の者でしょう。確か、ギルド商会のルージュ・ウォークでしたか。素材を引き取り手でもあり、毎年ギルド商会が参加し、審査も行います」
「ふうん……審査ね」

 エルの言葉をかき消すように女性――ルージュはフランベルジェを青空に向け掲げた。女性よりも大きな大剣。その大きさに驚き、誰もがぴたりと会話を辞める。

「これから、アブ祭行事の一環である狩猟大会を開催します!」

 ルージュのしっかりとしたアルトの声が響いた。
 辺りで歓声や拍手が鳴り響く。エルも影でこっそりと手を小さく叩いた。
 レイジに関しては胸元できちんと拍手をしており、彼の礼儀正しさが伺える。遠くで見えるルファは真剣な面持ちで女性を見ており、ハウリアは小さくお辞儀をしている。

「これから、我々は剣や銃、魔法などを使用し、王家の森に放された魔物を退治します。なお、獲物の横取りや妨害行為は認められません。追い込みに関しては、従者のみ可能となります。そして、自分で仕留めた魔物のみ、森前の受付へ申請してください。テントが目印です。倒した魔物は、魔石で出来ているネームタグをつけてください。こちらのタグで不正はできません。なお、不正した者には大会への五年参加ができません。なお、他人を傷つけた者に関しては、ギルド商会が責任を持って、逮捕させていただきます」

 ルージュは剣を下げ、地面に突き立てた。スコップで地面を突き刺すよりもズガシャッと大きな音が響き、「たまったもんじゃねぇな」とエルは苦笑した。

「今年はスライム、ウルフ、スノウラビット、コボルト、ワイバーン、キャンドルゴースト、そして、目玉のフェンリルが放たれます! 繰り返しますが、妨害行為や不正は認められず、公正判断はギルド商会が今年も行います!」

 フェンリルと誰もが呟く。エルの不思議そうな顔に気が付いたのか、レイジが隣でぼそりと言う。

「ワイバーンがBランクの魔物なら、フェンリルはAランクの魔物です」
「まじかよ。去年よりすごいのがきたんだな」
「はい。恐らく、ハウリア皇子とルファ皇子はフェンリル狙いでしょう。私たちはCランクのキャンドルゴースト辺りを狙いましょう」
「まったく……お前は安全を選ぶんだな」
「当たり前でしょう」

 狩猟大会の基本説明がされている中、エルは何も変哲のない場所で手をかざした。
 後のルールはレイジが教えてくれたようなものだ。スライムの狩り方に用はない。
 レイジが手をかざしたところを覗き込んでくる。するとどうだろうか。
 エルの手元あたりにマナで出来た森の地図が広がり、レイジが驚いた顔をみせた。

「これは……地図ですか?」
「すごいだろ。昨日、レイジと別れた後にレイナを連れて森に来たんだ。モンスターの放つマナを分布化させ、俺の魔力で地図をレンズ化。そして、モンスター分布図を作ったんだよ」
「こんなすごいものがあれば、魔物の発生地帯が助かるでしょうね」
「安全な土地だからできることなんだぞ」
「だから、こんな人のいない影に来たのですね」

 レイジの言葉に「当たり前だろ」とエルが口を尖らせる。

「ほら、行くぞ」
「森の奥に行くのはおすすめしませんよ」
「俺を守るのはお前の仕事だろ?」

 そういえば、レイジはむすっとした顔をする。氷の騎士様と言われるレイジ。けれど、俺にとっては手に取る様に解りやすい奴。
 そんな事を思えば、思わずくすりと笑ってしまった。しかし、次にズドンと響く音にエルとレイジは足を止める。

「なんだか、森が……」

 地鳴りだろうか。そんな事を思った矢先だった。
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