『路地裏の野良犬は皇子に成り代わる』

odo

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第二章

第十二話

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「レイジに依頼をしたのは私だ。影武者を用意しろとお願いしただけだったが……まさか、こんな瓜二つの者を連れてくるとは」

 横目でレイジを見ると、彼は小さく頭を下げただけだった。
 陛下のことを黙っていたという事実に腹も立つが、それよりも目の前の陛下がにっこりとほほ笑んでいる姿が、どことなく恐ろしさすら感じさせた。
 つまり、彼は知っていてこの場に自分を呼んだのだと。

「あんたは、俺をどうするつもりだ?」
「ふむ。まあ、レイジと一緒に泳がせようとは思っていたさ。ただ、ハウリアの良い刺激になってくれているようだ」
「俺にとっては命が縮まりそうな話題だな」

 小さくわざとらしく、息をつけば陛下は楽しそうに笑ってみせた。

「あんたは誰を王にしたいんだよ。第一皇子か? 第二皇子か? あんたがしっかり決めてくれないから、第二皇子に睨まれる羽目になっただろ」
「ほお。そこまで気が付いているとは……レイジ、優秀な者を雇ったな?」

 レイジが陛下の言葉に深々と頭を下げる。
 舌打ちしたくなる気持ちを抑え、俺は頭を抑えた。

「何で、きちんと第五皇子を見てやらなかった? あんたがしっかりと監視でもつけておけば、第五皇子だって逃げることはなかっただろ」
「君の言うことはごもっともだ。しかし、去る者を追うほど、私は手駒に困っているわけではないよ」
「はぁ!? お前、実の子に何てことを!?」
「名無しの者よ……いや、レン・ロア・アージェスよ」

 ドキンと心臓が波打つ。まるで、心臓を鷲掴みにされた感覚。

「公爵家アージェスですか?」

 レイジが淡々と述べる。じっとこちらを伺う顔。合点がいったと言わんばかりのそれに、エルは居心地の悪さすら感じた。

「その通り。ははは、その反応は当たりのようだね。赤い髪にピンクローズの瞳。母親は隣国の者だったか。美しい女性だった。君は母親そっくりだ。君だって、元の貴族たちの場所に戻りたくないだろう? 私のことを言う前に、君は君のすべきことをすればいい」

 ぎりっと唇を噛み締め、目の前の陛下を睨む。それが、せめてもの抵抗だった。
 陛下は「怒らせてしまったかな?」とわざとらしく、ほくそ笑んでいた。
 その様子を見ていたレイジが淡々とした口調で言う。

「陛下。それ以上、彼を窘める行為はおやめください。私の大事にしている者です」
「はは。レイジが苦言をするとはな。まあ、良い犬となってくれ」

 やっぱり、権力のあるやつは嫌いだ。
 
「帰る」

 身を翻し、陛下の部屋を後にしようとした時だ。

「待ちたまえ。君に良い話をしようと思ってだな」

 これ以上、不快な思いはしたくなかった。
 けれども、新生児だということもばらされたくもなかった。だから、足を止めるしかない。
 振り返れば、陛下は優しい笑顔を携えていた。

「第五皇子が見つかっても、君はこの宮殿にいるといい」
「何を馬鹿なことを」

 陛下はにこにことしている。しかし、それを制したのは意外にもレイジだった。

「陛下。彼はどなたでもあろうと、私が雇った者です。現在の護衛対象です。これ以上はいくら、陛下といえ……」
「ははは! レイジは真面目だな。だがな、私も真面目だ。君は妖精眼グラムサイトを知っているかな? 何でも見通すという真実の目。私はその眼を持つ者をずっと探している」
「知らねぇ。失礼する」

 ここは不快だ。ものすごく。過去を思い出しそうで吐き気すら覚える。
 しかし、陛下はいつまで経っても、優しい笑顔をこちらに向けていた。
 逃げるように部屋を後にし、思わず、すぐ隣の壁に拳を打ち付けた。痛みはあるが、心の痛み寄りは小さい。

「行きましょう」

 レイジが珍しく優しく声をかけてきた。
 その優しさに一瞬心を開きかけたが、陛下のことを黙っていた事実を思い出し、ぶっきらぼうに「ああ」と返事する。
 むかつく。本当に権力のあるやつはいつもそうだ。
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