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第二章
第十一話
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サマリー孤児院の一件が落ち着いた頃であった。
孤児院の子供たちから届いた感謝の手紙やその後のサマリー孤児院の調査報告書をエルはぼんやりと眺めている。
手紙にはお姉さんから生活が楽しいなど連絡が来たとそこには綴られていた。他にはエルが届けた教科書や食料が本当に助かっていると書かれている。
調査報告書には子供たちが不当に魔石採掘労働に駆り出されていたことも書かれており、現時点で不正労働で行く当てのなかった子供たちも新たな保護先も見つかっていると調査報告書には綴られている。
エルはこれらを読んで口元が緩んだ。
「別件の手紙が届いています」
「ん?」
「狩猟大会の件です」
「え、狩猟大会?」
「はい。皇子たちは基本参加する形となります。毎年、魔物を仕留め、皇子が最も愛する者に渡すとされます。王家の所有する森林地帯に魔物が放され、それを山狩り行事といいます。ちなみに優勝回数が多ければ、王に近づくとされます」
「捕獲されて討伐される魔物にとってはたまったもんじゃねぇな」
でしょうねと淡々と答えるレイジ。その横では朝食の準備をするレイナがいた。
こうして並んだ二人をみると、やはり良く似ていた。エルの視線に気が付いたらしいレイナがにっこりとほほ笑む。しかし、レイジは無表情。
やっぱり、全然似てない。小さく息をついて、朝食に手を付け始めた。
「狩猟大会には参加されますか?」
本当のエル皇子のことを聞きたかったが、レイナがいるため、ぐっと言葉をこらえた。
「前はどうしていた?」
「参加はしていませんでしたね。あまり大勢の場に行く事はしていませんでしたので」
「ふうん」
エルはどうしようかと考えていると、レイジが剣と銃をテーブルに並べた。
「悩むのならば、参加した方がいいかと」
「お前なあ……暗殺事件の後にしれっというな」
「武器は使えると見せておいた方がいいのでは? 暗殺の類も減るかもしれません」
レイジの言葉に確かにと思う俺もおり、「そうだな」と唸る自分もいた。
「貴方はどれを使えますか?」
「どれも一通りは使えるさ」
剣と銃を眺め、そっと剣に触れた。王家の紋が刻まれた剣は高級感がある。
銃も同じようにトリガーに細工されていた。王冠とライオンをモチーフの紋は威厳すら感じる。
「けど、俺はこれじゃないんだ」
「え?」
レイナが不思議そうに小首を傾げた。
「でも、他に武器なんて……」
「ああ。貴方は魔法使いでしたね」
「そういうこと」
手のひらに火の玉を浮かべ、ふっと息を吹きかければ、宙を漂う火の玉はふわりふわりと踊る。一つ、二つ、五つと火の玉は増えていく。
その様子に驚いたレイナが「わぁ!」と声をあげた
エルが指を鳴らすと同時に火の玉は音もなく消えた。少し残念そうにしているレイナを眺めながら、次にレイジへ視線を移した。
「狩猟大会に魔法使いは参加できるのか?」
「ええ。狩りは自分の得意分野を使いますから。問題はありません」
「まあ、小さい魔物でも狩って、陛下にでもやるかな……そういえば、陛下の招待ってもうそろそろか?」
「はい。夕刻を予定しています」
ふうんと何気ない返事を返すが、内心は焦っていた。
もしかして、ばれたか?
朝食のパンに手を伸ばし、そんなことを思っていた。レイナが食器を片付け、廊下に出ていく。その後ろ姿が完全に消えたことを確認し、レイジに向き直った。
「そういえば、本物の第五皇子の情報は?」
「隣国で目撃情報があり、捜索中です」
彼が見つかれば、自分もようやく自由になれる。
そう考えれば、目の前の男との生活も悪くなかったなとぼんやりと思った。
その日の夕方だった。
エルがレイジと共に陛下がいる王の間へ訪れた。王の間というには質素で簡素だった。大理石のテーブルの前に陛下がぽつんといるだけ。
黒い髪に赤い瞳。第二皇子と良く似ていた。四十代となる彼だが、こうして前に立つと若く見える。
獅子王と呼ばれ、昔は戦争だらけだったこの周辺国を統一した一国の主。細身だが筋肉質で、がっちりとした体形をしていた。
そのせいか、余計に緊張してしまう。
「太陽の輝きを、証に……」
陛下の挨拶をし、ゆっくりと室内に入っていく。
宝石が散りばめられた椅子に座る様に促され、エルはゆっくりと腰を下ろした。もちろん、相手の出方を伺うのも忘れない。
緊張した空気が漂う中、その空気を壊したのは意外にもレイジだった。
「陛下、いつまでも遊ばれてないで、要件を言ったらいかがですか」
「ははは! レイジには勝てないな」
楽しそうにからからと笑う陛下。呆気に取られていれば、陛下はぴたりと笑いを止めて、「そうだ。私は君に用がある。名無しの者よ」とはっきりと言葉を口にした。
その一言にはっとする。陛下は蛇のようにニヤリとした後、エルの驚く顔を見て楽しそうにニッコリとした。
孤児院の子供たちから届いた感謝の手紙やその後のサマリー孤児院の調査報告書をエルはぼんやりと眺めている。
手紙にはお姉さんから生活が楽しいなど連絡が来たとそこには綴られていた。他にはエルが届けた教科書や食料が本当に助かっていると書かれている。
調査報告書には子供たちが不当に魔石採掘労働に駆り出されていたことも書かれており、現時点で不正労働で行く当てのなかった子供たちも新たな保護先も見つかっていると調査報告書には綴られている。
エルはこれらを読んで口元が緩んだ。
「別件の手紙が届いています」
「ん?」
「狩猟大会の件です」
「え、狩猟大会?」
「はい。皇子たちは基本参加する形となります。毎年、魔物を仕留め、皇子が最も愛する者に渡すとされます。王家の所有する森林地帯に魔物が放され、それを山狩り行事といいます。ちなみに優勝回数が多ければ、王に近づくとされます」
「捕獲されて討伐される魔物にとってはたまったもんじゃねぇな」
でしょうねと淡々と答えるレイジ。その横では朝食の準備をするレイナがいた。
こうして並んだ二人をみると、やはり良く似ていた。エルの視線に気が付いたらしいレイナがにっこりとほほ笑む。しかし、レイジは無表情。
やっぱり、全然似てない。小さく息をついて、朝食に手を付け始めた。
「狩猟大会には参加されますか?」
本当のエル皇子のことを聞きたかったが、レイナがいるため、ぐっと言葉をこらえた。
「前はどうしていた?」
「参加はしていませんでしたね。あまり大勢の場に行く事はしていませんでしたので」
「ふうん」
エルはどうしようかと考えていると、レイジが剣と銃をテーブルに並べた。
「悩むのならば、参加した方がいいかと」
「お前なあ……暗殺事件の後にしれっというな」
「武器は使えると見せておいた方がいいのでは? 暗殺の類も減るかもしれません」
レイジの言葉に確かにと思う俺もおり、「そうだな」と唸る自分もいた。
「貴方はどれを使えますか?」
「どれも一通りは使えるさ」
剣と銃を眺め、そっと剣に触れた。王家の紋が刻まれた剣は高級感がある。
銃も同じようにトリガーに細工されていた。王冠とライオンをモチーフの紋は威厳すら感じる。
「けど、俺はこれじゃないんだ」
「え?」
レイナが不思議そうに小首を傾げた。
「でも、他に武器なんて……」
「ああ。貴方は魔法使いでしたね」
「そういうこと」
手のひらに火の玉を浮かべ、ふっと息を吹きかければ、宙を漂う火の玉はふわりふわりと踊る。一つ、二つ、五つと火の玉は増えていく。
その様子に驚いたレイナが「わぁ!」と声をあげた
エルが指を鳴らすと同時に火の玉は音もなく消えた。少し残念そうにしているレイナを眺めながら、次にレイジへ視線を移した。
「狩猟大会に魔法使いは参加できるのか?」
「ええ。狩りは自分の得意分野を使いますから。問題はありません」
「まあ、小さい魔物でも狩って、陛下にでもやるかな……そういえば、陛下の招待ってもうそろそろか?」
「はい。夕刻を予定しています」
ふうんと何気ない返事を返すが、内心は焦っていた。
もしかして、ばれたか?
朝食のパンに手を伸ばし、そんなことを思っていた。レイナが食器を片付け、廊下に出ていく。その後ろ姿が完全に消えたことを確認し、レイジに向き直った。
「そういえば、本物の第五皇子の情報は?」
「隣国で目撃情報があり、捜索中です」
彼が見つかれば、自分もようやく自由になれる。
そう考えれば、目の前の男との生活も悪くなかったなとぼんやりと思った。
その日の夕方だった。
エルがレイジと共に陛下がいる王の間へ訪れた。王の間というには質素で簡素だった。大理石のテーブルの前に陛下がぽつんといるだけ。
黒い髪に赤い瞳。第二皇子と良く似ていた。四十代となる彼だが、こうして前に立つと若く見える。
獅子王と呼ばれ、昔は戦争だらけだったこの周辺国を統一した一国の主。細身だが筋肉質で、がっちりとした体形をしていた。
そのせいか、余計に緊張してしまう。
「太陽の輝きを、証に……」
陛下の挨拶をし、ゆっくりと室内に入っていく。
宝石が散りばめられた椅子に座る様に促され、エルはゆっくりと腰を下ろした。もちろん、相手の出方を伺うのも忘れない。
緊張した空気が漂う中、その空気を壊したのは意外にもレイジだった。
「陛下、いつまでも遊ばれてないで、要件を言ったらいかがですか」
「ははは! レイジには勝てないな」
楽しそうにからからと笑う陛下。呆気に取られていれば、陛下はぴたりと笑いを止めて、「そうだ。私は君に用がある。名無しの者よ」とはっきりと言葉を口にした。
その一言にはっとする。陛下は蛇のようにニヤリとした後、エルの驚く顔を見て楽しそうにニッコリとした。
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