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第一章
第六話
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「お姉ちゃんが帰って来ないの」
「お姉ちゃん?」
おどおどとした少年が言う。少女の背中に隠れてはいるが、表情は真剣だった。
「そうよ。エミリー姉さん。手紙も何も届かないの。一回は荷物を取りに来るって言ってたのに……お母さんの形見のペンダントなのに。大切にしてたの」
そう言って少女はペンダントを取り出した。庶民向けの高価そうなものだ。
銀チェーンと銀装飾だが、中央には子供の爪ぐらいのエメラルドの宝石。孤児が持つには高価すぎる。
良くこの孤児院で取り上げられなかったなとエルは関心した。
「ふうん。エミリー姉さんが帰ってこないのか。いつから?」
「一週間前からよ」
「そうかい。一週間前に里親に出されて、母親の形見のペンダントを取りに来ないから不安なんだな」
「うん。元気にしているのならいいんだけども。慣れないところで風邪引いてないか不安で」
なるほどなと相槌を打つ。
「まあ、調べてやるよ。お前たち、ご飯は食べれてるのか?」
「えっ」
スラムの子供と大差ない姿を眺めながら、二人をじっと見つめる。
ほっそりとした腕に疲れ切った顔に。
「今日はパン一個だったよ」
「ちょっと」
少年が言えば、少女が口を塞ぐ。それだけで十分だった。
「勉学は?」
二人が首を横に振った。エルはそうかとだけ言う。
「必要なものはちょっとわかったかな。エミリーのことは調べておくから、二人は早く戻ってな。怒られちまうぞ」
「ありがとう。お兄さん」
「ありがとう!」
「じゃあね!」
二人が駆けて戻っていく。手を振りながら、孤児院の中に消えていった。エルはそれを見送って背伸びする。
「まずは食料の提供だな。なるべく安くて転売されにくいものを。人数はざっと十五人前後か。あ、砂糖はダメだぜ? 恐らく狸がどっかで使い込んでる。裏を取って、調べて貰ってくれ。狸に違法がなければ……教材を。あれも高く売れるからな。狸が転売しないようにしないと」
「……はい」
「浮かない顔だな?」
「いえ。貴方は平民を信じるのだなと。子供が嘘をついていると思わないのですか?」
「俺だって一応は平民だ。あんだけ細かったら、嘘ついてでも食べたいって言えばいい。いや、俺の場合は平民以下か」
今までやってきたことを思い出して笑ってしまう。レイジは呆れたように「確かに」とだけ言った。
「そこは否定してくれよな」
「まさか」
「ひっでぇやつ」
ハウリアとメルディが帰って来た。
しっかりと狸からお土産を貰ってるらしい。笑っていたところが以外だったのか、二人が酷く驚いた顔をしていた。ふっと真顔に戻せば、彼らははっとしたように表情を引き締めた。
「有意義な時間を過ごせたよ。今日はありがとう。待っていてくれたんだね」
「来ないと思ってた。ありがとう、エル兄さん」
メルディはそれだけ言うと、ぷいっと顔を照れたように逸らし自分の馬車の方へ駆けて行った。ハウリアはやれやれと肩を竦めて、「では、また城で」と二人は自分たちの馬車の中に乗り込んでいった。
二人の様子に思わずレイジを見る。彼は何も言わなかったが、優しくこちらを見つめている。
「では、行きましょうか」
「ああ」
ふと、視線を感じ、馬車に乗り込みながら、孤児院を振り返る。
窓から眺める羨ましそうな子供たちの瞳。エルはそれに気が付くが何も言わずに馬車の窓を締めた。
「嫌になるな」
「え?」
「いや、なんでもねぇよ」
「お姉ちゃん?」
おどおどとした少年が言う。少女の背中に隠れてはいるが、表情は真剣だった。
「そうよ。エミリー姉さん。手紙も何も届かないの。一回は荷物を取りに来るって言ってたのに……お母さんの形見のペンダントなのに。大切にしてたの」
そう言って少女はペンダントを取り出した。庶民向けの高価そうなものだ。
銀チェーンと銀装飾だが、中央には子供の爪ぐらいのエメラルドの宝石。孤児が持つには高価すぎる。
良くこの孤児院で取り上げられなかったなとエルは関心した。
「ふうん。エミリー姉さんが帰ってこないのか。いつから?」
「一週間前からよ」
「そうかい。一週間前に里親に出されて、母親の形見のペンダントを取りに来ないから不安なんだな」
「うん。元気にしているのならいいんだけども。慣れないところで風邪引いてないか不安で」
なるほどなと相槌を打つ。
「まあ、調べてやるよ。お前たち、ご飯は食べれてるのか?」
「えっ」
スラムの子供と大差ない姿を眺めながら、二人をじっと見つめる。
ほっそりとした腕に疲れ切った顔に。
「今日はパン一個だったよ」
「ちょっと」
少年が言えば、少女が口を塞ぐ。それだけで十分だった。
「勉学は?」
二人が首を横に振った。エルはそうかとだけ言う。
「必要なものはちょっとわかったかな。エミリーのことは調べておくから、二人は早く戻ってな。怒られちまうぞ」
「ありがとう。お兄さん」
「ありがとう!」
「じゃあね!」
二人が駆けて戻っていく。手を振りながら、孤児院の中に消えていった。エルはそれを見送って背伸びする。
「まずは食料の提供だな。なるべく安くて転売されにくいものを。人数はざっと十五人前後か。あ、砂糖はダメだぜ? 恐らく狸がどっかで使い込んでる。裏を取って、調べて貰ってくれ。狸に違法がなければ……教材を。あれも高く売れるからな。狸が転売しないようにしないと」
「……はい」
「浮かない顔だな?」
「いえ。貴方は平民を信じるのだなと。子供が嘘をついていると思わないのですか?」
「俺だって一応は平民だ。あんだけ細かったら、嘘ついてでも食べたいって言えばいい。いや、俺の場合は平民以下か」
今までやってきたことを思い出して笑ってしまう。レイジは呆れたように「確かに」とだけ言った。
「そこは否定してくれよな」
「まさか」
「ひっでぇやつ」
ハウリアとメルディが帰って来た。
しっかりと狸からお土産を貰ってるらしい。笑っていたところが以外だったのか、二人が酷く驚いた顔をしていた。ふっと真顔に戻せば、彼らははっとしたように表情を引き締めた。
「有意義な時間を過ごせたよ。今日はありがとう。待っていてくれたんだね」
「来ないと思ってた。ありがとう、エル兄さん」
メルディはそれだけ言うと、ぷいっと顔を照れたように逸らし自分の馬車の方へ駆けて行った。ハウリアはやれやれと肩を竦めて、「では、また城で」と二人は自分たちの馬車の中に乗り込んでいった。
二人の様子に思わずレイジを見る。彼は何も言わなかったが、優しくこちらを見つめている。
「では、行きましょうか」
「ああ」
ふと、視線を感じ、馬車に乗り込みながら、孤児院を振り返る。
窓から眺める羨ましそうな子供たちの瞳。エルはそれに気が付くが何も言わずに馬車の窓を締めた。
「嫌になるな」
「え?」
「いや、なんでもねぇよ」
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