『魔王は養父を守りたい』

odo

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第一章

第十四話

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 テリーが戻ってきた。
 玄関前にアランの友達だと名乗ったらしい人物が来たそうだ。
 半分分かっている答えを胸にアランが玄関へ出れば、水色の髪に水色の瞳が目についた。腕を頭の後ろで組み、いかにも子供らしい姿。その容姿は一年後にアランが出会うはずだった存在だ。

「レオンハルト!」
「よっ! アラン、俺が来て驚いたか!」

 にっと笑みを作って、アランを見ているその存在。
 周りを見れば、二人の護衛らしき影も見え、アランはほっと胸を撫でおろした。しかし、すぐにアランの表情が曇り、レオンハルトを睨みつけた。

「おいおい、怖い顔するなって」

 けろりとしているレオンハルトに対し、アランは額を抑え、ため息をついた。

「巻き込まれたのは俺だって同じだぞ。突然、黒い物が辺りを包んだと思っていれば、光が弾けて、ベッドにいたんだから。しかも、こんな姿でな」
「嘘偽りはないな……?」

 レオンハルトの瞳を見つめながら、アランは小さく息をついた。

「どうやら、あの屋敷にいた者だけが対象みたいだな。屋敷の外に居た影たちは通常通りで記憶がなかった。俺の傍とアランの傍にいたやつだけが……おっと、俺と一緒にすぐ近くにあるカフェでも行かないか? 確かオールなんちゃらってところ」

 誤魔化すようにレオンハルトが言う。アランはテリーや影たちの視線を感じて、「そうだな」と頷いた。

「アラン?」

 後ろからビルシュの声が響き、彼は扉からひょこっと顔を覗かせる。その様子にレオンハルトが驚いたように彼を見つめている。

「アランの父さん!?」
「え……ああ」

 そういえば、初対面だったかとアランは思う。ふらふらとしながらも出てこようとしてくるビルシュの傍に行き、アランは腕を引いてレオンハルトの方へ引っ張った。

「すまない。ありがとう、アラン」
「はじめまして、レオンハルトと言います」

 レオンハルトが子供らしく振舞う。
 ビルシュは緊張しているのか、無表情を保ちながら小さく会釈する。

「ビルシュ・アデルライトと言う。こちらは執事のテリー。レオンハルト君、アランをよろしく頼む」
「よろしくです! アランの父さんいいなあ。俺の父さんお腹は出てるし、髭面だし。ビルシュさん、めっちゃ美人じゃんか」
「そんな事言ったら、溺愛してるお前の父さん泣くぞ」

 とアランは苦笑した。脳裏に白髪交じりの水色の髪を持つ四十代の男性がふと浮かぶ。レオンハルトにひげ顎をじゃりじゃりと押し付け、抱き上げて、可愛がる姿が懐かしい。

「こちとら、ひげじゃりだぞ。本当に美人で羨ましい……」

 とレオンハルトにジト目で返され、色んな意図が混じってそうな瞳からアランは目を逸らした。その先に居たビルシュは「ひげじゃりとは?」と小首を傾げていた。
 その様子を見ていたアランが思わず笑えば、ビルシュは「なんで、アランが笑うんだ」と困ったように眉を下げた。

「いや、ビルシュさんとひげじゃりがあまりにも結び付かなくて。想像つかないだけです。そのままでいてください」
「そうか?」
「ビルシュさんが想像するよりも、きっと面白いものではないです」とアランが続けて、「ビルシュさんはできても絶対やめてください」と言った。

「ぶほっ! げほげほッ!」と笑いをこらえたレオンハルトが噴出した。
「ほっほ、まずは髭を生やすところからですな」とツッコミを入れるテリー。
「それは髭が無いとできないのか」

 と残念そうにするビルシュだったが、「そういえば」と続けた。
「恐らく、オールドカフェに行くのだろう。お使いをしてきてほしい。なあに、そんなに難しいものではないよ」
「わかりました」
「テリー、例の物を」

 テリーが屋敷の奥へ戻っていく。
 ビルシュは「後、寒いだろうから、これをつけていくと良い」とマフラーをアランの首に巻いてくれた。
 白い雪と薄水色の編みデザインのマフラーだった。触ればほんのりと火のマナ感じる。買えば高いだろうにとアランは思う。驚いていれば、「私だって、マフラーを編むぐらいはできるんだ」と彼は嬉しそうに破顔させた。
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