竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです

みゅー

文字の大きさ
上 下
4 / 18

4

しおりを挟む
 サイはそれだけ言うと興味なさそうに座った。彼女は他の候補には全く興味がなく、ちゃんと挨拶をするつもりもないのだろう。

 そしてシーディの番になったので挨拶をする。

「シーディと申します。コジという村から参りました。よろしくお願いいたします」

 すると、スエインとタイレルはシーディに聞こえるようにひそひそ話を始める。

「スエイン様、コジって村はどこにあるのかご存知かしら?」

「さぁ、ごめんなさい。私も無知なもので初めて聞きましたわ」

 そう言うとクスクスと笑った。シーディはこの二人はこうしていつもくっついて行動するのだろう、やれやれ。と思いながらそれを無視した。

 その日から、毎日その部屋でカーリムから様々な作法を学ぶことになった。

 まず基礎的な教養について、カーリムが個々の技量を見るとのことで一人一人がみんなの前でなんの指導もなく各々違う課題を一通りやって見せることになった。

 シーディは『目上の方に対する挨拶とその立ち振舞い』が課題だったので、昔を思い出しながらなんとかそれをこなした。

 その間、スエインとタイレルがクスクスと笑っている声がしたので、なにか失敗をしたのだと感じたが最後まで堂々としていた。

 全員が作法を終えると、カーリムは笑顔で言った。

「素晴らしい、みんな基本はしっかりできているようだ」

 そこでタイレルが手を上げた。

「どうした、タイレル」

「はい、今先生は全員基本ができてると言いました。ですが、シーディの作法は通常の作法ではありませんでした」

 その発言にスエインもサイまでもが頷く。シーディはやってしまったと思った。流石に十六年以上前の記憶では間違いもあるだろう。

 そう思っているとカーリムが朗らかに笑った。

「みんなよく見ているね。確かに、シーディは普通の作法と違っていた。あの作法は後宮内の独特な作法だったからね、一般の教養を学んだだけではわからなかったろう」

 そう言うとカーリムはシーディに向き直る。

「そういった意味で、作法が一番完璧だったのはシーディ、君ただひとりということになるな」

 すると、スエインが明らかに悔しそうに鋭い目付きでシーディを睨み、タイレルは不愉快な顔をした。

 思いもよらぬところで変な恨みを買ってしまったかもしれないと、シーディは俯いた。

 その後も字の読み書きの勉強に入ったが、これに関しても前世で読書をするために学んでいたので問題なかった。

 だが、教養で他の候補から恨みを買っていたシーディは、字の読み書きができることを隠すことにした。すると、カーリムがシーディに尋ねる。

「君は読み書きが得意だとリューリから聞いている。素晴らしいね一体どこで習ったんだ?」

「いえ、あの、そんなことはありません」

「いやいや、君が村を出るときに父親にすらすらと手紙を書いていたのをリューリが横で見たと言っていた」

 それ以上なにも言わないでー!

 内心そう思いながら小さく返事を返した。シーディはスエインがこちらを見ているのに気づいたが、どんな顔をしているのか怖くて見ることができなかった。

 これ以上目立つ訳にはいかない。

 シーディはそう思い、次の時間に舞をやると知ったとき先手を打つことにした。シーディは舞いが一番得意なのだが、流石にこれ以上目をつけられるわけにはいかない。

「カーリム先生」

 素早くシーディが手を上げる。

「どうしたんだシーディ」

「実は私は舞が得意ではありません。なのでみなさんの足を引っ張ることになるかもしれません」

 すると、早速スエインとタイレルが反応し小声で囁く。

「聞きました? スエイン様。舞もできないなんて、ねぇ?」

「タイレル、笑ってはいけないわ。仕方がないのよ、コジ村では舞を習えないのかもしれないでしょう?」

 勝手に言ってなさいよ。

 シーディはそう思いながら話を続ける。

「ですから、そのことで後でお話ししたいのですが」

「シーディ、そんなに心配しなくても君は聡明だからすぐに上達すると思うが? まぁ、とにかく後で話そう」

「ありがとうございます」

 シーディが頭を下げるとカーリムは頷き、他の候補たちを見ると、舞について説明し始めた。

「さて、ここまでの説明で他になにか質問がある人はいるかな? いなければ今日はこのくらいにしよう」

 そう言って解散となった。

 シーディはカーリムと話をするためにその場に残り、二人きりになると先にカーリムが口を開いた。

「で、本当はなんの話がしたいのかな?」

 シーディはカーリムには敵わないと思いながら答える。

「嘘をついて申し訳ありません。気づいてらっしゃるとは思うのですが、スエイン様やタイレル様は私のことをあまりよくは思っていないようなのです」

 わかりやすくカーリムはため息をついた。

「そのようだね。あの年頃の少女たちにはよくあることだけれど。特に君は平民だしね」

「はい。私は本当は一番舞が得意です。ですが、これ以上なんでもできると知られれば……」

「そうだね、確かに」

「なので、舞は下手くそということにしたいのです」

 カーリムはしばらく考えてから言った。

「君はそれでいいの?」

「はい、余計な争いはしたくありませんから」

「そういうことなら。でもなぜ僕に相談したの? 下手くそなふりをするだけでいいんじゃないの?」

「先生は心眼をお持ちです。わざと下手に舞っても見抜いてしまうでしょう。なので、先に相談をした方が得策だと思ったのです」

「なるほどね」

 そう言ったあと、カーリムは真っ直ぐにシーディを見つめる。

「もうひとつ質問をさせて」

「はい、答えられることなら」

「君は一体何者?」

 あまりにもストレートな質問にシーディは思わず笑ってから答える。

「私はシーディです」

 そう言ってカーリムを真っ直ぐ見つめ返した。

 カーリムは微笑むと一言。

「なるほど」

 そう言って頷いた。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

聖なる乙女は竜騎士を選んだ

鈴元 香奈
恋愛
ルシアは八歳の時に聖なる力があるとわかり、辺境の村から王都の神殿に聖乙女として連れて来られた。 それから十六年、ひたすらこの国のために祈り続ける日々を送っていたが、ようやく力も衰えてきてお役御免となった。 長年聖乙女として務めたルシアに、多額の金品とともに、結婚相手を褒賞として与えられることになった。 望む相手を問われたルシアは、何ものにも囚われることなく自由に大空を舞う竜騎士を望んだ。 しかし、この国には十二人の竜騎士しかおらず、その中でも独身は史上最年少で竜騎士となった弱冠二十歳のカイオだけだった。 歴代最長の期間聖乙女を務めた二十四歳の女性と、彼女より四歳年下の誇り高い竜騎士の物語。 三島 至様主催の『聖夜の騎士企画』に参加させていただきます。 本編完結済みです。 小説家になろうさんにも投稿しています。

純白の牢獄

ゆる
恋愛
「私は王妃を愛さない。彼女とは白い結婚を誓う」 華やかな王宮の大聖堂で交わされたのは、愛の誓いではなく、冷たい拒絶の言葉だった。 王子アルフォンスの婚姻相手として選ばれたレイチェル・ウィンザー。しかし彼女は、王妃としての立場を与えられながらも、夫からも宮廷からも冷遇され、孤独な日々を強いられる。王の寵愛はすべて聖女ミレイユに注がれ、王宮の権力は彼女の手に落ちていった。侮蔑と屈辱に耐える中、レイチェルは誇りを失わず、密かに反撃の機会をうかがう。 そんな折、隣国の公爵アレクサンダーが彼女の前に現れる。「君の目はまだ死んでいないな」――その言葉に、彼女の中で何かが目覚める。彼はレイチェルに自由と新たな未来を提示し、密かに王宮からの脱出を計画する。 レイチェルが去ったことで、王宮は急速に崩壊していく。聖女ミレイユの策略が暴かれ、アルフォンスは自らの過ちに気づくも、時すでに遅し。彼が頼るべき王妃は、もはや遠く、隣国で新たな人生を歩んでいた。 「お願いだ……戻ってきてくれ……」 王国を失い、誇りを失い、全てを失った王子の懇願に、レイチェルはただ冷たく微笑む。 「もう遅いわ」 愛のない結婚を捨て、誇り高き未来へと進む王妃のざまぁ劇。 裏切りと策略が渦巻く宮廷で、彼女は己の運命を切り開く。 これは、偽りの婚姻から真の誓いへと至る、誇り高き王妃の物語。

【完結】婚約破棄された悪役令嬢ですが、魔法薬の勉強をはじめたら留学先の皇子に求婚されました

楠結衣
恋愛
公爵令嬢のアイリーンは、婚約者である第一王子から婚約破棄を言い渡される。 王子の腕にすがる男爵令嬢への嫌がらせを謝罪するように求められるも、身に覚えのない謝罪はできないと断る。その態度に腹を立てた王子から国外追放を命じられてしまった。 アイリーンは、王子と婚約がなくなったことで諦めていた魔法薬師になる夢を叶えることを決意。 薬草の聖地と呼ばれる薬草大国へ、魔法薬の勉強をするために向う。 魔法薬の勉強をする日々は、とても充実していた。そこで出会ったレオナード王太子の優しくて甘い態度に心惹かれていくアイリーン。 ところが、アイリーンの前に再び第一王子が現れ、アイリーンの心は激しく動揺するのだった。 婚約破棄され、諦めていた魔法薬師の夢に向かって頑張るアイリーンが、彼女を心から愛する優しいドラゴン獣人である王太子と愛を育むハッピーエンドストーリーです。

命がけの恋~13回目のデスループを回避する為、婚約者の『護衛騎士』を攻略する

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<死のループから抜け出す為、今から貴方を攻略させて頂きます。> 全く気乗りがしないのに王子の婚約者候補として城に招かれた私。気づけば鐘の音色と共に、花畑の中で彼の『護衛騎士』に剣で胸を貫かれていた。薄れゆく意識の中・・これが12回目の死であることに気づきながら死んでいく私。けれど次の瞬間何故かベッドの中で目が覚めた。そして時間が戻っている事を知る。そこで今度は殺されない為に、私は彼を『攻略』することを心に決めた―。 ※「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています。

真面目くさった女はいらないと婚約破棄された伯爵令嬢ですが、王太子様に求婚されました。実はかわいい彼の溺愛っぷりに困っています

綾森れん
恋愛
「リラ・プリマヴェーラ、お前と交わした婚約を破棄させてもらう!」 公爵家主催の夜会にて、リラ・プリマヴェーラ伯爵令嬢はグイード・ブライデン公爵令息から言い渡された。 「お前のような真面目くさった女はいらない!」 ギャンブルに財産を賭ける婚約者の姿に公爵家の将来を憂いたリラは、彼をいさめたのだが逆恨みされて婚約破棄されてしまったのだ。 リラとグイードの婚約は政略結婚であり、そこに愛はなかった。リラは今でも7歳のころ茶会で出会ったアルベルト王子の優しさと可愛らしさを覚えていた。しかしアルベルト王子はそのすぐあとに、毒殺されてしまった。 夜会で恥をさらし、居場所を失った彼女を救ったのは、美しい青年歌手アルカンジェロだった。 心優しいアルカンジェロに惹かれていくリラだが、彼は高い声を保つため、少年時代に残酷な手術を受けた「カストラート(去勢歌手)」と呼ばれる存在。教会は、子孫を残せない彼らに結婚を禁じていた。 禁断の恋に悩むリラのもとへ、父親が新たな婚約話をもってくる。相手の男性は親子ほども歳の離れた下級貴族で子だくさん。数年前に妻を亡くし、後妻に入ってくれる女性を探しているという、悪い条件の相手だった。 望まぬ婚姻を強いられ未来に希望を持てなくなったリラは、アルカンジェロと二人、教会の勢力が及ばない国外へ逃げ出す計画を立てる。 仮面舞踏会の夜、二人の愛は通じ合い、結ばれる。だがアルカンジェロが自身の秘密を打ち明けた。彼の正体は歌手などではなく、十年前に毒殺されたはずのアルベルト王子その人だった。 しかし再び、王権転覆を狙う暗殺者が迫りくる。 これは、愛し合うリラとアルベルト王子が二人で幸せをつかむまでの物語である。

婚姻契約には愛情は含まれていません。 旦那様には愛人がいるのですから十分でしょう?

すもも
恋愛
伯爵令嬢エーファの最も嫌いなものは善人……そう思っていた。 人を救う事に生き甲斐を感じていた両親が、陥った罠によって借金まみれとなった我が家。 これでは領民が冬を越せない!! 善良で善人で、人に尽くすのが好きな両親は何の迷いもなくこう言った。 『エーファ、君の結婚が決まったんだよ!! 君が嫁ぐなら、お金をくれるそうだ!! 領民のために尽くすのは領主として当然の事。 多くの命が救えるなんて最高の幸福だろう。 それに公爵家に嫁げばお前も幸福になるに違いない。 これは全員が幸福になれる機会なんだ、当然嫁いでくれるよな?』 と……。 そして、夫となる男の屋敷にいたのは……三人の愛人だった。

俺の婚約者は地味で陰気臭い女なはずだが、どうも違うらしい。

ミミリン
恋愛
ある世界の貴族である俺。婚約者のアリスはいつもボサボサの髪の毛とぶかぶかの制服を着ていて陰気な女だ。幼馴染のアンジェリカからは良くない話も聞いている。 俺と婚約していても話は続かないし、婚約者としての役目も担う気はないようだ。 そんな婚約者のアリスがある日、俺のメイドがふるまった紅茶を俺の目の前でわざとこぼし続けた。 こんな女とは婚約解消だ。 この日から俺とアリスの関係が少しずつ変わっていく。

十三回目の人生でようやく自分が悪役令嬢ポジと気づいたので、もう殿下の邪魔はしませんから構わないで下さい!

翠玉 結
恋愛
公爵令嬢である私、エリーザは挙式前夜の式典で命を落とした。 「貴様とは、婚約破棄する」と残酷な事を突きつける婚約者、王太子殿下クラウド様の手によって。 そしてそれが一度ではなく、何度も繰り返していることに気が付いたのは〖十三回目〗の人生。 死んだ理由…それは、毎回悪役令嬢というポジションで立ち振る舞い、殿下の恋路を邪魔していたいたからだった。 どう頑張ろうと、殿下からの愛を受け取ることなく死ぬ。 その結末をが分かっているならもう二度と同じ過ちは繰り返さない! そして死なない!! そう思って殿下と関わらないようにしていたのに、 何故か前の記憶とは違って、まさかのご執心で溺愛ルートまっしぐらで?! 「殿下!私、死にたくありません!」 ✼••┈┈┈┈••✼••┈┈┈┈••✼ ※他サイトより転載した作品です。

処理中です...