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瑛子が前方を向くと、しばらくして入学式開催のアナウンスが入り、入学式が始まった。式はつつがなく進行して行く。
そして、神成緑の新入生代表の挨拶が始まった。
「本日私たちは、伝統ある星春高校の入学の日を迎えました……」
瑛子は、眠いのを必死にこらえながら訊いていた。挨拶の内容なんて全く頭に入ってこなかったが、頑張って、と応援した手前ちゃんと見ておいてあげねばと、壇上の神成緑に目を向ける。すると神成緑が
「この星春高校で過ごす3年間を精一杯に悔いのないよう過ごすことをここに誓います」
と力強く言い、瑛子を見つめた。そして少し間を置くと、前方に向き直り挨拶を続ける。瑛子は、今のなんだったの? と、思いながら、挨拶が終わった神成緑に拍手を送る。
壇上から戻って来た神成緑に営業スマイルをかますと、神成緑も微笑み返した。
入学式を終えて、教室へ向かっている途中、神成緑に
「改めて自己紹介、さっきの挨拶で最後に名前言ったから、もう俺の名前知ってるかもだけど。神成緑って言うんだ宜しく。君の名前は?」
あー、だよね。隣に座った時から名前訊かれると思ったし。と、瑛子は思いながら笑顔で
「櫤山瑛子です。こちらこそ宜しくお願いします。あっ、でも、クラスが違うからあんまり接点ありませんね」
と言った。神成緑は
「クラスなんて関係ないよ、昼休みとか会えるよね?」
と言って微笑む。なんで? 昼休みに会うなんて需要あるの? と、問い詰めたい気持ちをグッとこらえ
「そうですね、昼休みにすれ違うことはあるかもしれませんね」
と、答えた。そしてこれ以上話すこともないので
「ごめんなさい、その、お手洗いに寄ってから戻るので……」
と、少し恥ずかしそうに言った。恥ずかしがっているとわかれば、流石に察して一人で教室まで戻って行くだろう。だが、神成緑は違った
「お手洗いの場所、わかる?」
と訊いてきた。は? なに言ってんのこの子? いや、場所なんて知らんけど、そんなん歩いてりゃあるっしょ。と、困惑していると
「俺、新入生代表挨拶のことで、何回かここに来てるから、場所わかるんだ、案内してあげるよ」
と言った。そこは気を遣う場所じゃないっつーの! 違うところに気を遣ってよ、と内心散々悪態をつきながら
「そんなの、神成君に迷惑だし、歩いていればお手洗いあると思うから大丈夫です。その気持ちだけで十分ですよ? ありがとうございました」
と答えるも
「入学式が終わったばっかりで、そこら辺のお手洗いは混んでるんじゃないかな。空いてる場所知ってるし、何より俺は、そのぶん瑛子とも長く一緒にいられるから、嬉しいし」
と神成緑は微笑む。口がうまいな、でもそれがトイレに関する話じゃなければ、もっとよかっただろうけど。だいたい、なんで男の子とツレションせにゃならんの、中身これだけど一応外見は女子高生だよ? それってどうなの。と、思っていると、神成緑が手を握り
「こっちだよ」
と、瑛子を強引に案内し始めた。瑛子はあわてて
「本当に大丈夫です。案内いりませんから」
と言うが、神成緑は
「瑛子は遠慮がちだよね、もっと俺のこと頼ってよ」
と言った。素敵な台詞だ、こんなイケメンにそんなことを言われたら誰でも胸キュンものだろう。だが、瑛子は思う。頼りたくねー、少なくともトイレの案内はないわぁ。と。
瑛子は諦めて神成緑にトイレの場所を案内してもらった。そこは音楽室の前にあるトイレで、教室から遠いため、授業のない今日のような日は、誰も使用していなかった。なるほど、確かにこれなら空いてるわ。と思いつつお辞儀をして
「本当に、神成君親切で助かりました。ありがとうございます。後は大丈夫なので、神成君は教室に戻っていて下さいね」
と神成緑に一人で戻るように促す。神成緑は
「さっき言ったばかりだよ。もっと頼ってって。瑛子を置いて一人で戻るわけないだろう? もちろん待ってるよ」
瑛子の頭の中で神成緑の『待ってるよ』と言う一言がリフレインする。女子のトイレ待ってるなよ……。瑛子はここに来て全てを諦めた。この子言っても無駄だ、ってかこのゲームの攻略対象の人って、みんな強引だし、人の話聞かないわで、疲れた。そう思いながら
「わかりました。神成君、ここで私のこと待っててね」
と嫌みっぽくわざとらしく返した。神成緑は満足そうに
「良くできました」
と言った。なんだと、嫌みも通じない……だと。瑛子は軽く衝撃を受けながら、フラフラとトイレに入った。
トイレ内で少し休憩し、眉間を揉むと、まるで自分がオッサンのようだ、と一人苦笑しながらトイレを済ませた。外に出ると神成緑が微笑んで待っている。キモい。どうしてこうなったんだろう、あぁ、今日の夕飯なんだろう、ラーメンとかちょっとこってりしたもの食べたいかも。久楽の合わせ味噌食いたいなぁ。それにビールだよね、餃子と一緒に。でも飲みたいけど、未成年だしアルコール飲めないから、あと数年は我慢か……
「瑛子、瑛子? 大丈夫?」
と言う神成緑声に、ハッとして、瑛子は現実に引き戻された。あまりのことに現実逃避していたようだ。瑛子は
「ごめんなさい、入学式で疲れちゃったみたいです」
と言うと、神成緑は
「そうだよね、俺も挨拶緊張した。でも瑛子が応援してくれてたから頑張れたよ」
と微笑んだ。そうですか、良かったね。そう思い、瑛子は受け流して
「戻りましょうか」
と言った。教室に向かいながら神成緑が今度は
「瑛子は、どこから通ってるの?」
と訊いてきた。瑛子が
「隣駅の北星春駅からです」
と言うと、神成緑は嬉しそうに
「俺も同じ方向」
と言った。瑛子は、あっそうだからなに。と思っていると
「じゃあ、毎日一緒に通学できるね」
と言った。瑛子は、思わず神成緑の顔をガン見する。そして、自分がつくづくこの子のこと、舐めてた、見くびっていたと後悔した。そこまでする? なんなの? ストーカー? と思いつつ
「うん、でもお互いに色々都合があるだろうし、それは良い考えじゃないと思います」
と言った。今朝会ったばっかりで、一緒に通学とか、本当に意味不明。そう思っていると
「あ、そっか考えてみたら、俺らまだアド交換もしてないね。スマホ、教室? 帰りに瑛子の教室に寄るね」
と言った。瑛子はギョっとした。とんでもない、家でまで、メールとかで振り回されたらたまらん。今日はダッシュで帰るぜ。そう心に誓った。
教室に戻ると催馬楽学が教室の壁に寄りかかって立っていた。どうしたのだろう? と、思いながら神成緑に
「ありがとうございました、もう大丈夫です」
と言うと、神成緑は微笑んで
「これぐらいは、普通のことだよ。じゃあ帰りにね」
と言って自分の教室へ向かっていった。瑛子はふつうのことじゃないから、勘弁してくださいよ。帰りは絶対に逃げきってやる。そう思いながら、振り返ると面前に催馬楽学が立っていた。驚いていると
「櫤山さん、大丈夫だった? あいつに何か変なことされたんじゃ」
と言った。あいつ? あぁ、神成緑のことか、朝もめてたから心配したんかな? と思い
「大丈夫ですよ? なにもないです」
と言ったが、催馬楽学は
「それにしては、戻ってくるのが遅かった気がするが。本当に大丈夫だったのか? とにかく、君を守ることができなくて申し訳なかった」
と言った。この時、瑛子は催馬楽学がここまで自分に執着する理由は、単なる庇護欲だと言うことに気がついた。
「催馬楽君、私、本当に一人で大丈夫です。そんなにヤワじゃないんですよ? これでも結構たくましくて」
瑛子が言っている途中で、催馬楽学はそれを遮り
「君はわかってないようだ。ヤワじゃないとか、たくましいとか言う問題じゃない。現に今さっきだって神成緑と……」
と言った。瑛子は、あれは神成緑が強引なのがいけないのであって、私の問題ではない。と理不尽に感じながらも
「わかりました、気を付けますね」
と言って、微笑み
「もう、戻らないと、先生来ちゃいますよ」
と言って、教室にはいろうとした。催馬楽学は
「話は終わってない。後で話そう」
と言った。瑛子は、面倒くさ!! 今日はとにかくダッシュで逃げるべか。この子たちの思考回路がもう、ヤバすぎる。と、内心恐ろしいものを感じた。
そして、神成緑の新入生代表の挨拶が始まった。
「本日私たちは、伝統ある星春高校の入学の日を迎えました……」
瑛子は、眠いのを必死にこらえながら訊いていた。挨拶の内容なんて全く頭に入ってこなかったが、頑張って、と応援した手前ちゃんと見ておいてあげねばと、壇上の神成緑に目を向ける。すると神成緑が
「この星春高校で過ごす3年間を精一杯に悔いのないよう過ごすことをここに誓います」
と力強く言い、瑛子を見つめた。そして少し間を置くと、前方に向き直り挨拶を続ける。瑛子は、今のなんだったの? と、思いながら、挨拶が終わった神成緑に拍手を送る。
壇上から戻って来た神成緑に営業スマイルをかますと、神成緑も微笑み返した。
入学式を終えて、教室へ向かっている途中、神成緑に
「改めて自己紹介、さっきの挨拶で最後に名前言ったから、もう俺の名前知ってるかもだけど。神成緑って言うんだ宜しく。君の名前は?」
あー、だよね。隣に座った時から名前訊かれると思ったし。と、瑛子は思いながら笑顔で
「櫤山瑛子です。こちらこそ宜しくお願いします。あっ、でも、クラスが違うからあんまり接点ありませんね」
と言った。神成緑は
「クラスなんて関係ないよ、昼休みとか会えるよね?」
と言って微笑む。なんで? 昼休みに会うなんて需要あるの? と、問い詰めたい気持ちをグッとこらえ
「そうですね、昼休みにすれ違うことはあるかもしれませんね」
と、答えた。そしてこれ以上話すこともないので
「ごめんなさい、その、お手洗いに寄ってから戻るので……」
と、少し恥ずかしそうに言った。恥ずかしがっているとわかれば、流石に察して一人で教室まで戻って行くだろう。だが、神成緑は違った
「お手洗いの場所、わかる?」
と訊いてきた。は? なに言ってんのこの子? いや、場所なんて知らんけど、そんなん歩いてりゃあるっしょ。と、困惑していると
「俺、新入生代表挨拶のことで、何回かここに来てるから、場所わかるんだ、案内してあげるよ」
と言った。そこは気を遣う場所じゃないっつーの! 違うところに気を遣ってよ、と内心散々悪態をつきながら
「そんなの、神成君に迷惑だし、歩いていればお手洗いあると思うから大丈夫です。その気持ちだけで十分ですよ? ありがとうございました」
と答えるも
「入学式が終わったばっかりで、そこら辺のお手洗いは混んでるんじゃないかな。空いてる場所知ってるし、何より俺は、そのぶん瑛子とも長く一緒にいられるから、嬉しいし」
と神成緑は微笑む。口がうまいな、でもそれがトイレに関する話じゃなければ、もっとよかっただろうけど。だいたい、なんで男の子とツレションせにゃならんの、中身これだけど一応外見は女子高生だよ? それってどうなの。と、思っていると、神成緑が手を握り
「こっちだよ」
と、瑛子を強引に案内し始めた。瑛子はあわてて
「本当に大丈夫です。案内いりませんから」
と言うが、神成緑は
「瑛子は遠慮がちだよね、もっと俺のこと頼ってよ」
と言った。素敵な台詞だ、こんなイケメンにそんなことを言われたら誰でも胸キュンものだろう。だが、瑛子は思う。頼りたくねー、少なくともトイレの案内はないわぁ。と。
瑛子は諦めて神成緑にトイレの場所を案内してもらった。そこは音楽室の前にあるトイレで、教室から遠いため、授業のない今日のような日は、誰も使用していなかった。なるほど、確かにこれなら空いてるわ。と思いつつお辞儀をして
「本当に、神成君親切で助かりました。ありがとうございます。後は大丈夫なので、神成君は教室に戻っていて下さいね」
と神成緑に一人で戻るように促す。神成緑は
「さっき言ったばかりだよ。もっと頼ってって。瑛子を置いて一人で戻るわけないだろう? もちろん待ってるよ」
瑛子の頭の中で神成緑の『待ってるよ』と言う一言がリフレインする。女子のトイレ待ってるなよ……。瑛子はここに来て全てを諦めた。この子言っても無駄だ、ってかこのゲームの攻略対象の人って、みんな強引だし、人の話聞かないわで、疲れた。そう思いながら
「わかりました。神成君、ここで私のこと待っててね」
と嫌みっぽくわざとらしく返した。神成緑は満足そうに
「良くできました」
と言った。なんだと、嫌みも通じない……だと。瑛子は軽く衝撃を受けながら、フラフラとトイレに入った。
トイレ内で少し休憩し、眉間を揉むと、まるで自分がオッサンのようだ、と一人苦笑しながらトイレを済ませた。外に出ると神成緑が微笑んで待っている。キモい。どうしてこうなったんだろう、あぁ、今日の夕飯なんだろう、ラーメンとかちょっとこってりしたもの食べたいかも。久楽の合わせ味噌食いたいなぁ。それにビールだよね、餃子と一緒に。でも飲みたいけど、未成年だしアルコール飲めないから、あと数年は我慢か……
「瑛子、瑛子? 大丈夫?」
と言う神成緑声に、ハッとして、瑛子は現実に引き戻された。あまりのことに現実逃避していたようだ。瑛子は
「ごめんなさい、入学式で疲れちゃったみたいです」
と言うと、神成緑は
「そうだよね、俺も挨拶緊張した。でも瑛子が応援してくれてたから頑張れたよ」
と微笑んだ。そうですか、良かったね。そう思い、瑛子は受け流して
「戻りましょうか」
と言った。教室に向かいながら神成緑が今度は
「瑛子は、どこから通ってるの?」
と訊いてきた。瑛子が
「隣駅の北星春駅からです」
と言うと、神成緑は嬉しそうに
「俺も同じ方向」
と言った。瑛子は、あっそうだからなに。と思っていると
「じゃあ、毎日一緒に通学できるね」
と言った。瑛子は、思わず神成緑の顔をガン見する。そして、自分がつくづくこの子のこと、舐めてた、見くびっていたと後悔した。そこまでする? なんなの? ストーカー? と思いつつ
「うん、でもお互いに色々都合があるだろうし、それは良い考えじゃないと思います」
と言った。今朝会ったばっかりで、一緒に通学とか、本当に意味不明。そう思っていると
「あ、そっか考えてみたら、俺らまだアド交換もしてないね。スマホ、教室? 帰りに瑛子の教室に寄るね」
と言った。瑛子はギョっとした。とんでもない、家でまで、メールとかで振り回されたらたまらん。今日はダッシュで帰るぜ。そう心に誓った。
教室に戻ると催馬楽学が教室の壁に寄りかかって立っていた。どうしたのだろう? と、思いながら神成緑に
「ありがとうございました、もう大丈夫です」
と言うと、神成緑は微笑んで
「これぐらいは、普通のことだよ。じゃあ帰りにね」
と言って自分の教室へ向かっていった。瑛子はふつうのことじゃないから、勘弁してくださいよ。帰りは絶対に逃げきってやる。そう思いながら、振り返ると面前に催馬楽学が立っていた。驚いていると
「櫤山さん、大丈夫だった? あいつに何か変なことされたんじゃ」
と言った。あいつ? あぁ、神成緑のことか、朝もめてたから心配したんかな? と思い
「大丈夫ですよ? なにもないです」
と言ったが、催馬楽学は
「それにしては、戻ってくるのが遅かった気がするが。本当に大丈夫だったのか? とにかく、君を守ることができなくて申し訳なかった」
と言った。この時、瑛子は催馬楽学がここまで自分に執着する理由は、単なる庇護欲だと言うことに気がついた。
「催馬楽君、私、本当に一人で大丈夫です。そんなにヤワじゃないんですよ? これでも結構たくましくて」
瑛子が言っている途中で、催馬楽学はそれを遮り
「君はわかってないようだ。ヤワじゃないとか、たくましいとか言う問題じゃない。現に今さっきだって神成緑と……」
と言った。瑛子は、あれは神成緑が強引なのがいけないのであって、私の問題ではない。と理不尽に感じながらも
「わかりました、気を付けますね」
と言って、微笑み
「もう、戻らないと、先生来ちゃいますよ」
と言って、教室にはいろうとした。催馬楽学は
「話は終わってない。後で話そう」
と言った。瑛子は、面倒くさ!! 今日はとにかくダッシュで逃げるべか。この子たちの思考回路がもう、ヤバすぎる。と、内心恐ろしいものを感じた。
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