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翡翠は驚いてカーレルを見つめる。
「では、これは殿下が?」
「そうだ。あまり時間がなくてたいしたものは準備できなかったが……」
感動のあまり、泣きそうになるのをこらえながら翡翠は首を横に振った。
「その気持ちがとても嬉しいです」
そんな翡翠をカーレルはいとおしそうに見つめた。
「そうか」
そう言って、一度言葉を切るとしばらく前方を見つめたあと話し始めた。
「君がイーコウで私を慰めてくれたあの日から、私は君を守れるようになるため強くなろうと決めた」
「私はそれを覚えていてくれたこと、それだけで十分です」
翡翠がそう答えると、カーレルは翡翠の顔を見て微笑む。
「忘れられるはずがない」
「ですが、久しぶりに学園で話したときは覚えていらっしゃらないように見えました。とっても素っ気なかったですし」
そう意地悪く言うと、カーレルは苦笑する。
「私は君が好きすぎて、久しぶりに実際に目にした君が眩しくて……。話をするのも恥ずかしかった」
「えっと、あの、はい」
不意打ちに本心を素直に告白されて、翡翠は恥ずかしくてうつむいた。そんな翡翠に構わずカーレルは話を続ける。
「そもそも、君をあの学校へ入学させるように手配したのは私なのにな。本人を目の前にして怖じ気づいた」
翡翠は驚いてカーレルの顔を見上げた。
「えっ? あの、それは本当ですか?」
「君の人生を勝手に決めてしまってすまない」
「いいえ、私も殿下と同じ学校に行けたのはとても嬉しかったので……」
するとカーレルはとても嬉しそうな顔で翡翠を見つめる。
「それは本当か?」
「ほ、本当です」
「私は君を悲しませてばかりだったのに」
慌てて翡翠はそれを否定する。
「そんなことありません。私は幸せでした。そもそも、私にはなんの位もありません。本来なら王太子殿下と口を聞くことすらできませんから」
するとカーレルは翡翠に向き直る。
「翡翠、それは違う。私のほうこそ崇高な魂を持つ君に似合う存在になるために、努力をし続けなければならなかった。それに地位なんてあってないようなものだ。魂の価値は地位とは関係ないのだから」
翡翠は恥ずかしくて両手で顔を覆った。
「殿下、褒めすぎです!」
カーレルはそんな翡翠を抱きしめた。
「翡翠、恥ずかしがる君はとても可愛いよ。それに、君のことを褒めすぎるということはない」
そして少し体を離し顔を覗き込む。
「ほら、顔を見せて」
そう言われ、翡翠はそっと顔を覆っていた手を離す。
するとカーレルは翡翠のおでこにキスをして話を続ける。
「まぁ、そうは言っても確かに君と婚姻するためには、君にある程度の地位を与えなければならなかった。だが、私にはまだなんの力もなかった」
「こ、婚姻? 殿下はそこまで考えていたのですか?!」
戸惑う翡翠にカーレルはなんでもないことのように言った。
「なぜ? 当然だろう」
「は、はい」
先ほどからとんでもないことを聞かされ続け、翡翠は目の前がチカチカした。心臓ははち切れそうなほど早く脈打ち、このままでは卒倒しそうだと思いながらなんとかそれをこらえた。
「だが、私は君が地位を理由に遠慮してそれを諦めてしまうだろうことを考えていなかった。いや、君に甘え私についてきてくるだろうと高を括っていたんだ」
「すみません」
思わず謝る翡翠にカーレルは微笑む。
「君は謝りすぎだ。謝らなければならないのは私のほうだ」
「でも……」
「いや、本当にそうだと思っている。君には謝っても謝りきれない」
そう言うと悲しげに微笑むと続けて言った。
「だから君に次に会えたときは私は君に償いをするつもりでいた。それも失敗続きだったのだが」
なんのことを言っているのかわからず、翡翠はカーレルを不思議そうに見つめると、その視線に答えるようにカーレルは話を続ける。
「君は旅の間ずっと自分を攻め続けていたね。もっと早く君に気持ちを伝えるべきだった」
「いいえ、私も勘違いしていたことはありますし」
そこまで言ったところで、翡翠はフンケルンにあるニクラスの屋敷の中庭での会話を思い出した。
「あの、殿下。私はずっと殿下とミリナ様が付き合ってらっしゃると思ってました。だからフンケルンの庭で話した女性のことはミリナ様のことだと思っていたのですが、あれって……」
「もちろん、君のことだ」
そう言ったあと恥ずかしそうにカーレルは言った。
「私としては、だいぶわかりやすいように君のことを言ったつもりだった」
それを聞いて、翡翠は一気に顔が赤くなるのを感じ火照った頬を冷やすように両手を当てながら訊く。
「ですが、殿下は私にはジェイドの記憶がないと思っていたのではないのですか?!」
「それなんだが、君がジェイドの記憶を持っていることは早い段階で気づいていた」
「え?! いつですか?」
「夜中に抜け出してエクトルの墓に行っただろう? 心配であとをつけていたから、君がエクトルに語りかけている話を聞いてしまったんだ。盗み聞きをするようなことをしてすまない」
確かに、あのころからカーレルにジェイドのときの記憶を思い出したかどうかを、訊かれることがなくなった。
「そうだったのですね。でも、そんな償いなんてしてもらわなくても私は殿下のそばにいられれば、それで幸せですから」
するとカーレルは翡翠の頬に触れ、じっと瞳を覗き込むように見つめた。
「君はそうかもしれないが、私はそれだけではもう満足できない。翡翠、愛してる」
翡翠は緊張し、幸福で舞い上がる気持ちを抑えながら答える。
「はい。私も殿下を……」
言い終わる前にカーレルによって唇を塞がれた。カーレルは今までの気持ちをぶつけるように、深く深く口づけた。
そうして口づけたあと、カーレルは突然翡翠の目の前に跪く。
「これからは君のそばにいて、ありとあらゆることから守ると誓う。だからその崇高な魂のそばにいつまでもいさせてくれないか?」
そう言うと、リングケースに入った指輪を差し出した。翡翠はそれを受けとるとうなずく。
「はい。末長くよろしくお願いします」
するとカーレルは立ち上がり、もう一度深く口づけ翡翠を抱き締めると耳元で囁く。
「私はきっと君が思うよりずっと君を愛している。覚悟してくれ」
そう言って体を離すと、思い付いたように言った。
「そうだ、今度は二人きりで旅に出よう。君が救ったこの世界を」
そう言われ、翡翠は勇気を出して言った。
「はい。では、あの、水晶谷に行きたいのですが。ふ、二人きりであの美しい景色を見たいのです。ジェイドの夢だったので……」
「もちろんだ。前回あの村に行ったとき、私は嫉妬でどうにかなりそうだった。あの忌々しい記憶を塗り替えたい」
それを聞いて翡翠は顔が猛烈に厚くなるのを感じながら言った。
「で、殿下が、嫉妬?」
「もちろんだ。ラファエロと二人きりで馬車に乗ったあとに、二人きりで出掛けたとカークから聞いたときは本当にどうにかなりそうだった」
「そんな、でもあのときはファニーも一緒で……」
「それは途中からだろう?」
「でも、殿下はミリナ様と恋仲だと思ってましたし」
すると、カーレルは翡翠に軽くキスをすると微笑む。
「そうか、もしかして君も少しは嫉妬した?」
そう言われ、翡翠は顔を赤くしたままコクリとうなずいた。
すると、カーレルはもう一度翡翠を抱きしめる。
「翡翠、なんて可愛いんだ!」
「殿下、可愛いなんて」
「私たちは多くを誤解している。これからは、たくさん話をしてお互い思うことは話し合える、そんな夫婦になろう」
「はい」
こうしてこの夜二人は飽きることなく色々なことを話して一夜を過ごした。
次の日からが忙しかった。翡翠は国を救った英雄としてサイデューム国まで凱旋することになった。
その間、カーレルはあの外套を翡翠に着るように言い、それを見ていたラファエロが呆れた顔をした。
「本当にお前は独占欲がすごいな。そんな紋様の入った外套を着せるなんて、翡翠を逃がす気がないってことだろ?」
「どういうことですか? この紋様がなにか?」
翡翠がそう質問すると、ラファエロは苦笑しながら答える。
「着ている本人もその意味を知らないとはな」
「ラファエロ、余計なことは言わなくていい」
「では、これは殿下が?」
「そうだ。あまり時間がなくてたいしたものは準備できなかったが……」
感動のあまり、泣きそうになるのをこらえながら翡翠は首を横に振った。
「その気持ちがとても嬉しいです」
そんな翡翠をカーレルはいとおしそうに見つめた。
「そうか」
そう言って、一度言葉を切るとしばらく前方を見つめたあと話し始めた。
「君がイーコウで私を慰めてくれたあの日から、私は君を守れるようになるため強くなろうと決めた」
「私はそれを覚えていてくれたこと、それだけで十分です」
翡翠がそう答えると、カーレルは翡翠の顔を見て微笑む。
「忘れられるはずがない」
「ですが、久しぶりに学園で話したときは覚えていらっしゃらないように見えました。とっても素っ気なかったですし」
そう意地悪く言うと、カーレルは苦笑する。
「私は君が好きすぎて、久しぶりに実際に目にした君が眩しくて……。話をするのも恥ずかしかった」
「えっと、あの、はい」
不意打ちに本心を素直に告白されて、翡翠は恥ずかしくてうつむいた。そんな翡翠に構わずカーレルは話を続ける。
「そもそも、君をあの学校へ入学させるように手配したのは私なのにな。本人を目の前にして怖じ気づいた」
翡翠は驚いてカーレルの顔を見上げた。
「えっ? あの、それは本当ですか?」
「君の人生を勝手に決めてしまってすまない」
「いいえ、私も殿下と同じ学校に行けたのはとても嬉しかったので……」
するとカーレルはとても嬉しそうな顔で翡翠を見つめる。
「それは本当か?」
「ほ、本当です」
「私は君を悲しませてばかりだったのに」
慌てて翡翠はそれを否定する。
「そんなことありません。私は幸せでした。そもそも、私にはなんの位もありません。本来なら王太子殿下と口を聞くことすらできませんから」
するとカーレルは翡翠に向き直る。
「翡翠、それは違う。私のほうこそ崇高な魂を持つ君に似合う存在になるために、努力をし続けなければならなかった。それに地位なんてあってないようなものだ。魂の価値は地位とは関係ないのだから」
翡翠は恥ずかしくて両手で顔を覆った。
「殿下、褒めすぎです!」
カーレルはそんな翡翠を抱きしめた。
「翡翠、恥ずかしがる君はとても可愛いよ。それに、君のことを褒めすぎるということはない」
そして少し体を離し顔を覗き込む。
「ほら、顔を見せて」
そう言われ、翡翠はそっと顔を覆っていた手を離す。
するとカーレルは翡翠のおでこにキスをして話を続ける。
「まぁ、そうは言っても確かに君と婚姻するためには、君にある程度の地位を与えなければならなかった。だが、私にはまだなんの力もなかった」
「こ、婚姻? 殿下はそこまで考えていたのですか?!」
戸惑う翡翠にカーレルはなんでもないことのように言った。
「なぜ? 当然だろう」
「は、はい」
先ほどからとんでもないことを聞かされ続け、翡翠は目の前がチカチカした。心臓ははち切れそうなほど早く脈打ち、このままでは卒倒しそうだと思いながらなんとかそれをこらえた。
「だが、私は君が地位を理由に遠慮してそれを諦めてしまうだろうことを考えていなかった。いや、君に甘え私についてきてくるだろうと高を括っていたんだ」
「すみません」
思わず謝る翡翠にカーレルは微笑む。
「君は謝りすぎだ。謝らなければならないのは私のほうだ」
「でも……」
「いや、本当にそうだと思っている。君には謝っても謝りきれない」
そう言うと悲しげに微笑むと続けて言った。
「だから君に次に会えたときは私は君に償いをするつもりでいた。それも失敗続きだったのだが」
なんのことを言っているのかわからず、翡翠はカーレルを不思議そうに見つめると、その視線に答えるようにカーレルは話を続ける。
「君は旅の間ずっと自分を攻め続けていたね。もっと早く君に気持ちを伝えるべきだった」
「いいえ、私も勘違いしていたことはありますし」
そこまで言ったところで、翡翠はフンケルンにあるニクラスの屋敷の中庭での会話を思い出した。
「あの、殿下。私はずっと殿下とミリナ様が付き合ってらっしゃると思ってました。だからフンケルンの庭で話した女性のことはミリナ様のことだと思っていたのですが、あれって……」
「もちろん、君のことだ」
そう言ったあと恥ずかしそうにカーレルは言った。
「私としては、だいぶわかりやすいように君のことを言ったつもりだった」
それを聞いて、翡翠は一気に顔が赤くなるのを感じ火照った頬を冷やすように両手を当てながら訊く。
「ですが、殿下は私にはジェイドの記憶がないと思っていたのではないのですか?!」
「それなんだが、君がジェイドの記憶を持っていることは早い段階で気づいていた」
「え?! いつですか?」
「夜中に抜け出してエクトルの墓に行っただろう? 心配であとをつけていたから、君がエクトルに語りかけている話を聞いてしまったんだ。盗み聞きをするようなことをしてすまない」
確かに、あのころからカーレルにジェイドのときの記憶を思い出したかどうかを、訊かれることがなくなった。
「そうだったのですね。でも、そんな償いなんてしてもらわなくても私は殿下のそばにいられれば、それで幸せですから」
するとカーレルは翡翠の頬に触れ、じっと瞳を覗き込むように見つめた。
「君はそうかもしれないが、私はそれだけではもう満足できない。翡翠、愛してる」
翡翠は緊張し、幸福で舞い上がる気持ちを抑えながら答える。
「はい。私も殿下を……」
言い終わる前にカーレルによって唇を塞がれた。カーレルは今までの気持ちをぶつけるように、深く深く口づけた。
そうして口づけたあと、カーレルは突然翡翠の目の前に跪く。
「これからは君のそばにいて、ありとあらゆることから守ると誓う。だからその崇高な魂のそばにいつまでもいさせてくれないか?」
そう言うと、リングケースに入った指輪を差し出した。翡翠はそれを受けとるとうなずく。
「はい。末長くよろしくお願いします」
するとカーレルは立ち上がり、もう一度深く口づけ翡翠を抱き締めると耳元で囁く。
「私はきっと君が思うよりずっと君を愛している。覚悟してくれ」
そう言って体を離すと、思い付いたように言った。
「そうだ、今度は二人きりで旅に出よう。君が救ったこの世界を」
そう言われ、翡翠は勇気を出して言った。
「はい。では、あの、水晶谷に行きたいのですが。ふ、二人きりであの美しい景色を見たいのです。ジェイドの夢だったので……」
「もちろんだ。前回あの村に行ったとき、私は嫉妬でどうにかなりそうだった。あの忌々しい記憶を塗り替えたい」
それを聞いて翡翠は顔が猛烈に厚くなるのを感じながら言った。
「で、殿下が、嫉妬?」
「もちろんだ。ラファエロと二人きりで馬車に乗ったあとに、二人きりで出掛けたとカークから聞いたときは本当にどうにかなりそうだった」
「そんな、でもあのときはファニーも一緒で……」
「それは途中からだろう?」
「でも、殿下はミリナ様と恋仲だと思ってましたし」
すると、カーレルは翡翠に軽くキスをすると微笑む。
「そうか、もしかして君も少しは嫉妬した?」
そう言われ、翡翠は顔を赤くしたままコクリとうなずいた。
すると、カーレルはもう一度翡翠を抱きしめる。
「翡翠、なんて可愛いんだ!」
「殿下、可愛いなんて」
「私たちは多くを誤解している。これからは、たくさん話をしてお互い思うことは話し合える、そんな夫婦になろう」
「はい」
こうしてこの夜二人は飽きることなく色々なことを話して一夜を過ごした。
次の日からが忙しかった。翡翠は国を救った英雄としてサイデューム国まで凱旋することになった。
その間、カーレルはあの外套を翡翠に着るように言い、それを見ていたラファエロが呆れた顔をした。
「本当にお前は独占欲がすごいな。そんな紋様の入った外套を着せるなんて、翡翠を逃がす気がないってことだろ?」
「どういうことですか? この紋様がなにか?」
翡翠がそう質問すると、ラファエロは苦笑しながら答える。
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