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カーレルは翡翠にいつも着ていた外套を差し出した。翡翠は驚いてそれを受けとると、カーレルに尋ねる。
「わざわざここまで持ってきてくださったんですか」
「そうだ。その、君にはこれを着ていてほしい」
恥ずかしそうにカーレルにそう言われ、翡翠はカーレルがこの外套をそういった意味でプレゼントしてくれていたのだと、このときやっと気づいた。
「わ、わかりました」
翡翠は顔を赤くしながら、なんとかそれだけ答えると外套を受け取りすぐに着替えた。
「似合っている」
そう言われ、翡翠はこの外套を着ることでカーレルに抱きしめられているような気持ちになった。
そんなやり取りをしている二人を見て、ファニーが苦笑して言った。
「あ~、二人ともさぁ、回りに僕たちがいるの忘れてるよね~」
それを受けて周囲の者たちがクスクスと笑うと、翡翠はうつむいたがカーレルは平然とした顔で言った。
「これが日常になるのだから、問題ない」
その台詞に、さらに恥ずかしくなった翡翠は我慢できずに手で顔をおおった。
もう昼を過ぎていたため、今日はフルスシュタットへ戻りそこでゆっくりすることになった。
フルスシュタットへの帰りの道中、オオハラが申し訳なさそうに翡翠に微笑みかけると言った。
「先ほどは驚かれたでしょう? 僕が裏切ったのではないかと」
翡翠はうなずく。
「もう、本当に終わりかと思いました」
「すみません。もっと穏便な作戦を模索していたのですが彼女、なかなか尻尾を出さなくて。かなり狡猾な女性でしたからね」
そこでカーレルが説明し始めた。
「実は旅の途中、何度も妨害にあった」
「そうなんですか? まったく気づきませんでした」
するとラファエロがそれを聞いて驚いた顔をした。
「じゃあ、なぜ途中から俺が旅に同行したと?」
「それは、その、私の監視かと……」
「なんだって? そりゃないだろ」
そう言ってラファエロは苦笑する。一方カーレルはとても悲しそうに微笑んで言った。
「私は君にずっとそんなふうに思わせてしまっていたのか……。だからいつもつらそうな、それでいて悲しそうな顔をしていたのだな」
翡翠は驚いて、カーレルの顔を見つめる。
「なぜそう思うのですか?」
「学校でどれだけ私がジェイドを見ていたと思う? 君のことならよくわかっている」
そんなことを言われ、翡翠は恥ずかしくなり慌てて視線を逸らすとうつむいた。
カーレルはそんな翡翠の顔を覗き込んで言った。
「今は恥ずかしいからうつむいているね? 恥ずかしいときは無意識に手をぎゅっと握る癖がある」
そう言われて、翡翠は思わず握っていた手のひらを見つめていると、その横でカーレルは嬉しそうに話を続けた。
「それに君が『大丈夫ですよ?』と言ったときは大丈夫ではないし、怒ったときはなにも言わずに落ち着くまで距離を取って自分の中で折り合いをつけてしまう。悲しいときや不安があるときはうつむいたあと、突然顔を上げて微笑んだり……」
黙っていればカーレルはいつまでもこの話を続けそうな勢いだったので、翡翠は慌ててカーレルを制した。
「も、もういいです!! もう十分かりましたから」
「そうか、まだあるんだが……。そうそう、君の口癖は『あの』だ」
自分でも気づいていないことまで言われ翡翠はあまりの恥ずかしさに、顔から火が出そうだった。
翡翠としてサイデュームに戻ってきてから、カーレルに観察されているのは気づいていたが、それは監視しているからだと思っていた。
だが、監視ではなくそういった対象として見られていたのだ。
しかも、まったくこちらに関心がないと思っていたジェイドのころから、ずっとそういった気持ちでカーレルがこちらを観察していたと知って、嬉しいやら恥ずかしいやらで落ち着かない気持ちになった。
そのとき、ラファエロが声を出して笑った。
「ジェイドはやっぱり気づいてなかったか。どれだけカーレルがジェイドに執着していたかなんて」
翡翠は驚いてラファエロの顔を見る。
「いえ、あの、執着していたのは私のほうで……」
否定しようとする翡翠を遮って、ラファエロは続ける。
「いやぁ、ちがうちがう。ジェイドは気づいていなかったがジェイドが俺と話をしてるとき、いや、俺以外にも異性と話をしているときは、そのうしろですごい顔で牽制していた」
「うるさい、黙れラファエロ」
そう言い返すカーレルの顔を翡翠がそっと盗み見ると、以前学校でもしていたようにそっぽを向いていた。
翡翠はこれはカーレルが機嫌を悪くしたときのサインだったことを思い出し、慌てる。
「殿下、申し訳ありません。そんな、殿下が私に執着していたなんて、そんなことは絶対にあり得ないことだとわかっていますから」
そう言うと、カーレルは前方を向いて咳払いをしたあと、しばらくして決心したようにこちらを見て照れくさそうに言った。
「いや、違う。ラファエロが言ったことは本当だ。私は君にやや執着しすぎていたようだ」
それにラファエロが返す。
「ややだって? お前、あれはややなんてもんじゃなかっただろう。お陰で俺以外は誰もジェイドには近づけなかったんだから」
「ラファエロ、余計なことを言う必要はない」
カーレルはそう言うと、またそっぽを向いた。
そのときカーレルの耳が赤くなっていることに気づいた翡翠は、昔カーレルにジェイドが気持ちを伝えたときに、同じような反応をしていたことを思い出す。
「殿下、もしかして今照れていますか?」
翡翠がそう質問するとオオハラが苦笑しながらカーレルに声をかける。
「殿下、こういうときにしっかり気持ちを伝えないと、また翡翠が誤解してしまいますよ」
「わかっている」
カーレルは不機嫌そうにそう答えると、恥ずかしそうに翡翠に向き直った。
「翡翠、私はだな、君に……、君に自分の弱さを見せたくない。だからこんな顔を見られるのが嫌なだけだ」
「は、はい」
そこでカーレルははっとして付け加える。
「言っておくが、私が弱くなるのは君のことだけだ。君以外のことでこんなにも感情に振り回されることはない」
そう言われて翡翠の心臓は一気に脈打つのを早めた。それはつまり、カーレルが翡翠に特別な感情を抱いているということだからだ。
翡翠は顔が焼けそうだと思うほど赤面しながら答える。
「は、はい。もうわかりましたから……」
そして翡翠はいたたまれなくなりうつむきフードの縁を引っ張り深くかぶり直す。
すると、カーレルがそのフードを取った。
「殿下、なにを!」
「このフードはもう必要ないだろう」
「でも、突然そんなことを言われても。あの恥ずかしいので……」
翡翠が戸惑っていると、カーレルは翡翠に優しく微笑む。
「なにも恥ずかしいことはない。君は堂々としていていい」
そういう意味じゃないんです!
翡翠は心の中でそう叫んだ。どうやらカーレルは、自分が言ってしまったことの意味をわかっていないようだった。
そんなことを話しているうちに、翡翠たちはフルスシュタットに到着し借りているという屋敷へ向かった。
エントランスに入るとカーレルが呟く。
「少しこの街でゆっくりするのもいいかもしれない」
カーレルがそう言うと、ファニーが慌てた様子で言った。
「ちょっと待って!! そんなにゆっくりなんてしてられないって~。だってさぁ~、キッカでいろいろ準備が進んでるでしょう? エミリアたちだって大急ぎで準備して待ってるよぉ~」
するとカーレルが慌てた様子で言った。
「まて、それはまだわからない。本人に確認をしていないからな」
「え~、もうそんなの確認しなくても~。あっ! でもそうだよねぇ、ちゃんと気持ちを伝えないと! こういうのって、乙女にとってはとても大切なことだもんねぇ」
そう言って翡翠を見つめる。カーレルは慌てて答える。
「それ以上はなにも言うな、黙れ、ファニー」
ファニーは翡翠の顔を見て、意味ありげな笑みを浮かべていた。翡翠は訳がわからず、カーレルとファニーの顔を交互に見つめた。
「翡翠、今の話は気にしないでいい。ファニーはもう部屋に戻ったらどうだ?」
「は~い。んじゃ僕は先に部屋で休ませてもらうねぇ~」
「わざわざここまで持ってきてくださったんですか」
「そうだ。その、君にはこれを着ていてほしい」
恥ずかしそうにカーレルにそう言われ、翡翠はカーレルがこの外套をそういった意味でプレゼントしてくれていたのだと、このときやっと気づいた。
「わ、わかりました」
翡翠は顔を赤くしながら、なんとかそれだけ答えると外套を受け取りすぐに着替えた。
「似合っている」
そう言われ、翡翠はこの外套を着ることでカーレルに抱きしめられているような気持ちになった。
そんなやり取りをしている二人を見て、ファニーが苦笑して言った。
「あ~、二人ともさぁ、回りに僕たちがいるの忘れてるよね~」
それを受けて周囲の者たちがクスクスと笑うと、翡翠はうつむいたがカーレルは平然とした顔で言った。
「これが日常になるのだから、問題ない」
その台詞に、さらに恥ずかしくなった翡翠は我慢できずに手で顔をおおった。
もう昼を過ぎていたため、今日はフルスシュタットへ戻りそこでゆっくりすることになった。
フルスシュタットへの帰りの道中、オオハラが申し訳なさそうに翡翠に微笑みかけると言った。
「先ほどは驚かれたでしょう? 僕が裏切ったのではないかと」
翡翠はうなずく。
「もう、本当に終わりかと思いました」
「すみません。もっと穏便な作戦を模索していたのですが彼女、なかなか尻尾を出さなくて。かなり狡猾な女性でしたからね」
そこでカーレルが説明し始めた。
「実は旅の途中、何度も妨害にあった」
「そうなんですか? まったく気づきませんでした」
するとラファエロがそれを聞いて驚いた顔をした。
「じゃあ、なぜ途中から俺が旅に同行したと?」
「それは、その、私の監視かと……」
「なんだって? そりゃないだろ」
そう言ってラファエロは苦笑する。一方カーレルはとても悲しそうに微笑んで言った。
「私は君にずっとそんなふうに思わせてしまっていたのか……。だからいつもつらそうな、それでいて悲しそうな顔をしていたのだな」
翡翠は驚いて、カーレルの顔を見つめる。
「なぜそう思うのですか?」
「学校でどれだけ私がジェイドを見ていたと思う? 君のことならよくわかっている」
そんなことを言われ、翡翠は恥ずかしくなり慌てて視線を逸らすとうつむいた。
カーレルはそんな翡翠の顔を覗き込んで言った。
「今は恥ずかしいからうつむいているね? 恥ずかしいときは無意識に手をぎゅっと握る癖がある」
そう言われて、翡翠は思わず握っていた手のひらを見つめていると、その横でカーレルは嬉しそうに話を続けた。
「それに君が『大丈夫ですよ?』と言ったときは大丈夫ではないし、怒ったときはなにも言わずに落ち着くまで距離を取って自分の中で折り合いをつけてしまう。悲しいときや不安があるときはうつむいたあと、突然顔を上げて微笑んだり……」
黙っていればカーレルはいつまでもこの話を続けそうな勢いだったので、翡翠は慌ててカーレルを制した。
「も、もういいです!! もう十分かりましたから」
「そうか、まだあるんだが……。そうそう、君の口癖は『あの』だ」
自分でも気づいていないことまで言われ翡翠はあまりの恥ずかしさに、顔から火が出そうだった。
翡翠としてサイデュームに戻ってきてから、カーレルに観察されているのは気づいていたが、それは監視しているからだと思っていた。
だが、監視ではなくそういった対象として見られていたのだ。
しかも、まったくこちらに関心がないと思っていたジェイドのころから、ずっとそういった気持ちでカーレルがこちらを観察していたと知って、嬉しいやら恥ずかしいやらで落ち着かない気持ちになった。
そのとき、ラファエロが声を出して笑った。
「ジェイドはやっぱり気づいてなかったか。どれだけカーレルがジェイドに執着していたかなんて」
翡翠は驚いてラファエロの顔を見る。
「いえ、あの、執着していたのは私のほうで……」
否定しようとする翡翠を遮って、ラファエロは続ける。
「いやぁ、ちがうちがう。ジェイドは気づいていなかったがジェイドが俺と話をしてるとき、いや、俺以外にも異性と話をしているときは、そのうしろですごい顔で牽制していた」
「うるさい、黙れラファエロ」
そう言い返すカーレルの顔を翡翠がそっと盗み見ると、以前学校でもしていたようにそっぽを向いていた。
翡翠はこれはカーレルが機嫌を悪くしたときのサインだったことを思い出し、慌てる。
「殿下、申し訳ありません。そんな、殿下が私に執着していたなんて、そんなことは絶対にあり得ないことだとわかっていますから」
そう言うと、カーレルは前方を向いて咳払いをしたあと、しばらくして決心したようにこちらを見て照れくさそうに言った。
「いや、違う。ラファエロが言ったことは本当だ。私は君にやや執着しすぎていたようだ」
それにラファエロが返す。
「ややだって? お前、あれはややなんてもんじゃなかっただろう。お陰で俺以外は誰もジェイドには近づけなかったんだから」
「ラファエロ、余計なことを言う必要はない」
カーレルはそう言うと、またそっぽを向いた。
そのときカーレルの耳が赤くなっていることに気づいた翡翠は、昔カーレルにジェイドが気持ちを伝えたときに、同じような反応をしていたことを思い出す。
「殿下、もしかして今照れていますか?」
翡翠がそう質問するとオオハラが苦笑しながらカーレルに声をかける。
「殿下、こういうときにしっかり気持ちを伝えないと、また翡翠が誤解してしまいますよ」
「わかっている」
カーレルは不機嫌そうにそう答えると、恥ずかしそうに翡翠に向き直った。
「翡翠、私はだな、君に……、君に自分の弱さを見せたくない。だからこんな顔を見られるのが嫌なだけだ」
「は、はい」
そこでカーレルははっとして付け加える。
「言っておくが、私が弱くなるのは君のことだけだ。君以外のことでこんなにも感情に振り回されることはない」
そう言われて翡翠の心臓は一気に脈打つのを早めた。それはつまり、カーレルが翡翠に特別な感情を抱いているということだからだ。
翡翠は顔が焼けそうだと思うほど赤面しながら答える。
「は、はい。もうわかりましたから……」
そして翡翠はいたたまれなくなりうつむきフードの縁を引っ張り深くかぶり直す。
すると、カーレルがそのフードを取った。
「殿下、なにを!」
「このフードはもう必要ないだろう」
「でも、突然そんなことを言われても。あの恥ずかしいので……」
翡翠が戸惑っていると、カーレルは翡翠に優しく微笑む。
「なにも恥ずかしいことはない。君は堂々としていていい」
そういう意味じゃないんです!
翡翠は心の中でそう叫んだ。どうやらカーレルは、自分が言ってしまったことの意味をわかっていないようだった。
そんなことを話しているうちに、翡翠たちはフルスシュタットに到着し借りているという屋敷へ向かった。
エントランスに入るとカーレルが呟く。
「少しこの街でゆっくりするのもいいかもしれない」
カーレルがそう言うと、ファニーが慌てた様子で言った。
「ちょっと待って!! そんなにゆっくりなんてしてられないって~。だってさぁ~、キッカでいろいろ準備が進んでるでしょう? エミリアたちだって大急ぎで準備して待ってるよぉ~」
するとカーレルが慌てた様子で言った。
「まて、それはまだわからない。本人に確認をしていないからな」
「え~、もうそんなの確認しなくても~。あっ! でもそうだよねぇ、ちゃんと気持ちを伝えないと! こういうのって、乙女にとってはとても大切なことだもんねぇ」
そう言って翡翠を見つめる。カーレルは慌てて答える。
「それ以上はなにも言うな、黙れ、ファニー」
ファニーは翡翠の顔を見て、意味ありげな笑みを浮かべていた。翡翠は訳がわからず、カーレルとファニーの顔を交互に見つめた。
「翡翠、今の話は気にしないでいい。ファニーはもう部屋に戻ったらどうだ?」
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