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「これはグリエット家に伝わるといわれているクレイモア『ミケル・グリエット』ですよね。ということは……」

 翡翠はそう言って振り返りミリナの顔を見つめた。すると、ミリナは翡翠ににんまり微笑み返す。

「そうなの! 私がったの。やっぱりばれちゃったね」

 そう言って、舌を小さくペロッと出すと話を続ける。

「ここでジェイドを殺したあと、ちょっともたついちゃて。そしたら突然『スタビライズ』にジェイドが吸い込まれちゃうんだもん。しかも、驚いてるところにあの結界でしょ? そのお陰で剣も取り損ねたし、本当にまいっちゃった」

「こっっわ!」

 ファニーがこの世のものじゃないものを見るような目付きでミリナを見つめそう言うと、ミリナはそれを一瞥して鼻で笑った。

 翡翠はこんなことを楽しそうに語るミリナに恐怖を覚えながら訊く。

「まさかミリナ様は、これを確かめるために?」

 ミリナは嬉しそうにうなずくと答える。

「そう、そのままになってたら犯人が私ってばれちゃうでしょう? で、確認して、もしも残ってたらまたればいいや、って思って」

 そう言うと、隠し持っていたダガーを翡翠に向けた。

 だが、ミリナは薄ら笑いを浮かべ軽く片手でダガーを構えていて、本気でこちらに敵意を向けているようには見えない。

 そのとらえどころのない態度が、余計に翡翠を不安にさせた。ミリナは薄ら笑いを浮かべたまま話を続ける。

「それにしても、翡翠ったら私が渡したお茶、飲まなかったの?」

 突然、まったく関係ない質問をされ翡翠はなんのことだか思い出すのに少し時間がかかった。

「お茶って、あの疲労を回復する茶葉ですか? それなら毎日……」

 そう返事をしたところで、ある考えが浮かんでゾッとする。

 顔色を悪くした翡翠を見て、ミリナは嬉しそうに微笑む。

「飲んだ? 飲んだのね?! 今、気づいたみたいだけど、あれ毒入りなの! じゃあ、今らなかったとしても翡翠の命も長くはないってことか~」

 そう言うと、少し考えた様子になった。

「じわじわ効く毒だもの。毒が効いてくるのを待って、見てるのもいいかもしれないなぁ」

 そこまで言うと、翡翠に向き直り楽しそうに質問する。

「ねぇ、今も体調が悪いでしょう?」

 そう言われたが、ミリナの言うように体調が悪くなるようなことはなかった。

 そこでファニーが口を挟む。

「見届ける前にぃ、あんた捕まるよ! 僕が証人!」

「面白~い! あなた、ここから生きて帰れると思ってるんだ!」

「うっわ~、あんた最悪だねぇ」

「ありがとう!」

 そんなやり取りを横目に、翡翠はあることを思い出し、慌てて首から下げていた小袋を取り出し中身を取り出してみる。と、宝石が光輝いていた。

 それを見てミリナが顔色を変えた。

「ちょっ! なによそれ、ククルカンの宝石? それはルール違反じゃない? もう! 面白くないわね。カーレルが持たせたの? 本当に、徹底的に私の楽しみを奪うんだから!」

 そう言って不貞腐れたようにそっぽを向いた。

 ミリナのその反応を見て、翡翠は不思議に思う。

「ミリナ様、なぜですか? ジェイドは裏切り者のだったはずです。ミリナ様はそんなジェイドの行動を阻んだのですから、殺したことをそこまで隠す必要はないはずです。それに……」

 するとミリナは、心底うんざりしたような顔をした。

「やだ、まだ気づいてないの? 信じらんない」

「気づくってなにをです?」

 すると、ミリナは大きくため息をついてから言った。

「ねぇ、あなた、私が親切にそれを教えてあげると思うの? あなたがなにも知らないで死んだほうが面白いもの、教えるわけないじゃない」

「そんな、でも……」

 そこでファニーが翡翠を止める。

「エンジェルこんな奴になにを訊いたって、まともな返事が返ってくるわけないんだから、もう止めときな!」

 ファニーはそう言うと、心底嫌悪するものを見る目でミリナを見つめた。

「あっそ。じゃあもういいわよね。時間切れ~。あっ、最後に一つだけいいこと教えてあげる」

「いいこと?」

「そうそう。私ね、ジェイドがイーコウ村で『スタビライズ』を発見して、ニヒェルの幻影と話してたの見てたの」

「じゃあ、私の目的を……」

「そう! 最初から全部知ってたってこと。だから先回りして、ここでジェイドを待ち伏せできたんじゃない」

 ミリナは普段と変わらぬ様子で楽しそうにそう言うと、無邪気に微笑んだ。

 翡翠はその笑顔に怒りを覚え思わず一歩前に出る。すると、ミリナは小馬鹿にしたように言った。

「おっ? やる気?」

 そしておどけながら軽く剣をかまえると、突然オオハラに向かって言った。

「オオハラ、ご苦労様。その変な道化師も連れてくるとは思わなかったけど、殿下と翡翠を引き離せたんだから大成功って感じね!」

 翡翠は驚いてオオハラを見上げた。

「どういうことですか?」

「いろいろ事情があるんです」

 そう言って苦笑し、オオハラは翡翠の腕をつかむと自分の背後に隠して叫ぶ。

「殿下、翡翠は確保できました!」

 その声を合図に、周囲の森の中から一斉に騎士団が出てくると翡翠たちを取り囲んだ。呆気にとられていると、その中からカーレルが姿を現した。

 翡翠は全員に騙されていたのだと思い、もう終わりだと思った。

 だが、なぜオオハラまでもが翡翠のことを騙したのかわからず、フードの縁を握りうつむく。

 ミリナは周囲を見ると満面の笑みでカーレルに叫ぶ。

「カーレル殿下! 来てくれたんですね! 私、翡翠になにか誤解されているみたい。オオハラがそれを説明してくれるところなの」

 それを聞いて翡翠は、きっとミリナは自分に都合のよいことをでっち上げるにちがいないと思った。
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