上 下
13 / 48

13

しおりを挟む
 翡翠が首をかしげて見つめ返すと、ラファエロは微笑んだ。

「ジェイドの瞳や髪色も美しかったが、翡翠の瞳や髪色も美しいな」

 そんな歯の浮くような台詞を言われ、翡翠は口に含んでいたオレンジジュースを吹き出しそうになり、慌てて飲み込んで盛大にムセた。

「なんだ、そんなに驚くことはないだろう? ほら、大丈夫か?」

 ラファエロは翡翠の背中をさすろうとするが、それをカーレルが払った。

「触るな!」

 そう言って、カーレルは翡翠の背中を優しくさすった。

「大丈夫か? ラファエロのことはいないと思えばいい」

 それを受けてラファエロが言い返す。

「おいおい、そりゃないんじゃないか?」

 カーレルはラファエロを一瞥いちべつすると言った。

「当然だろう、お前は翡翠に余計な影響しか与えてない」

 喧嘩になりそうな空気だったので、翡翠は二人を止めなければと慌てた。

「あの、もう大丈夫です」

 そう言いながら、昔もよくラファエロからからかわれたことを思い出す。そのときもこうしてカーレルは不機嫌になったものだった。

 本当にこの二人の関係は変わらない。

 そう思い、この先この三人で旅を続けることに少し不安を覚えながら、ラファエロが翡翠の取り皿の上にどんどん食べ物を乗せているのを見つめた。

 この日は特になにもせず休養ということで、食後部屋に戻ると翡翠は読書して過ごすことを護衛のカークに伝え図書室へ向かった。

 翡翠の滞在する宿泊先はかなり大きな屋敷で、貴族たちも宿泊することがあるためかありとあらゆるジャンルの本が取り揃えられていた。

 もともと読書が好きだった翡翠は本の背表紙を見つめ、読む本をゆっくりと選んだ。翡翠はこの時間も好きだった。

 少しずつ横に移動しながら本の題名を目で追っていると、背後にいる誰かが翡翠の肩越しに腕を伸ばし本棚に手をついた。

 驚いて振り向くと、ラファエロが立っていた。

 慌てて反対側から逃れようとすると、そちらにもラファエロが手をついて退路をふさいだ。

「あの、ラファエロ様なんでしょうか?」

 翡翠がフードのしたからラファエロの顔を見上げると、ラファエロは翡翠をじっと見つめて言った。

「俺にしておけ」

「え? あの、どういう意味なのかわかりません」

「俺を選んだ方が絶対にお前は幸せになる」

「選ぶもなにも……」

 そう答えているとラファエロの顔がグッと近くなった。

 キスされる!!

 そう思い目を固く閉じ、顔を少し横へ背けていると急にラファエロの気配が消えた。

 からかわれた?

 そう思いながらそっと目を開けると、カーレルがラファエロにつかみかかっていた。

 カーレルにつかまれ睨まれているラファエロは、挑発するようにニヤリと笑いながらカーレルを見つめ返した。

「ラファエロ、お前いい加減にしろ。こんな状況で自分の気持ちばかり翡翠に押し付けるな」

「よく言うよな、お前もそうじゃないと言いきれるのか?」

「それでも、私はお前よりは翡翠の気持ちを優先している」

「そうかよ、だがやっと会えたのに本当になにもせずにいられるのか? 俺は無理だね。しかも学校内にいたときよりも一緒にいられる時間が長い。このチャンスを逃すわけがないだろう」

 そうやって言い合っている二人を見つめ、翡翠はふと思う。

 もしかしてラファエロは、人をしにしてカーレルに喧嘩をふっかけたいだけなのでは?

 そう考えると二人を止めてもいいものなのか戸惑った。

 カーレルは戸惑っている翡翠にい気づくと、冷静さを取り戻して言った。

「翡翠、すまない。君を置き去りにしてしまったようだ」

「いいえ、大丈夫です。いつもお気遣いいただきありがとうございます。ラファエロ様も、いつも元気付けてくださってありがとうございます」

 すると、ラファエロが苦笑する。

「お気遣い、ね。まぁ、元気付けることができてるならそれだけでもよしとするか」

 その返答に翡翠は自分がもしかしたら見当違いのことを言ってしまったのかもしれないと思いながら、とりあえず微笑んで返した。

「今日は屋敷内で本を読んで過ごすつもりです。外に行くときは必ず報告しますし、お二人ともご自由になさってください」

 そう言って頭を下げると、また本を選ぶ作業に戻った。

 すると、横からカーレルが手を伸ばし一冊の本を取ると、それを翡翠に差し出した。

「この本、私はまだ読んだことはないが王宮の使用人たちが面白いと言っていた本だ」

 翡翠は渡された本の題名を読み上げる。

「『皇帝の花嫁』、恋愛ものですか?」

 そう訪ねると、カーレルは微笑む。

「そのようだ」

「面白そうですね、読んでみます」

 そう答えると、反対側からラファエロが翡翠の手元を覗き込んで言った。

「『皇帝の花嫁』か。その本、妹も読んでたな。感動したとか泣けるとか話してた。翡翠はこういった恋愛ものが好きなのか?」

「はい、ラファエロ様。大好きです」

 そう言って微笑むと、ラファエロは顔を赤くしてそっぽを向いた。どうしたのだろうかと思いながら尋ねる。

「ラファエロ様は好きですか?」

 するとラファエロは顔に手を当てて、さらに恥ずかしそうに言った。

「嫌いじゃない。むしろすごい好きだ」

「そうですか、それはよかったです」

 そんなに恥ずかしがることだろうか? そう思いながら、とりあえずカーレルとラファエロのおすすめである『竜帝の花嫁』を窓際のソファに座って読むことにした。

 翡翠と同じく読書したいと思ったのか信用がないのか、翡翠は外に出ないと宣言したにも拘わらずカーレルとラファエロも翡翠の隣に座った。

 カーレルは気を利かせてか、図書室までお茶を持ってこさせ翡翠に入れてくれた。

 美味しいお茶とお菓子を堪能しながら本を読みふけっていると、カーレルの視線に気づいて顔を上げた。

「殿下、どうされたのですか?」

「君は本当に本が好きなのだな。ジェイドはそんなに本を読んでいたイメージがないから少し驚いている」

 確かに、ジェイドのころは勉強を目的とした読書しかしていなかった。

 そもそもジェイドの家は娯楽として本を読むほどの余裕などなく、こんなに面白い本があることも知らなかった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

死んでるはずの私が溺愛され、いつの間にか救国して、聖女をざまぁしてました。

みゅー
恋愛
異世界へ転生していると気づいたアザレアは、このままだと自分が死んでしまう運命だと知った。 同時にチート能力に目覚めたアザレアは、自身の死を回避するために奮闘していた。するとなぜか自分に興味なさそうだった王太子殿下に溺愛され、聖女をざまぁし、チート能力で世界を救うことになり、国民に愛される存在となっていた。 そんなお話です。 以前書いたものを大幅改稿したものです。 フランツファンだった方、フランツフラグはへし折られています。申し訳ありません。 六十話程度あるので改稿しつつできれば一日二話ずつ投稿しようと思います。 また、他シリーズのサイデューム王国とは別次元のお話です。 丹家栞奈は『モブなのに、転生した乙女ゲームの攻略対象に追いかけられてしまったので全力で拒否します』に出てくる人物と同一人物です。 写真の花はリアトリスです。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

外では氷の騎士なんて呼ばれてる旦那様に今日も溺愛されてます

刻芦葉
恋愛
王国に仕える近衛騎士ユリウスは一切笑顔を見せないことから氷の騎士と呼ばれていた。ただそんな氷の騎士様だけど私の前だけは優しい笑顔を見せてくれる。今日も私は不器用だけど格好いい旦那様に溺愛されています。

美しい公爵様の、凄まじい独占欲と溺れるほどの愛

らがまふぃん
恋愛
 こちらは以前投稿いたしました、 美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛 の続編となっております。前作よりマイルドな作品に仕上がっておりますが、内面のダークさが前作よりはあるのではなかろうかと。こちらのみでも楽しめるとは思いますが、わかりづらいかもしれません。よろしかったら前作をお読みいただいた方が、より楽しんでいただけるかと思いますので、お時間の都合のつく方は、是非。時々予告なく残酷な表現が入りますので、苦手な方はお控えください。 *早速のお気に入り登録、しおり、エールをありがとうございます。とても励みになります。前作もお読みくださっている方々にも、多大なる感謝を! ※R5.7/23本編完結いたしました。たくさんの方々に支えられ、ここまで続けることが出来ました。本当にありがとうございます。ばんがいへんを数話投稿いたしますので、引き続きお付き合いくださるとありがたいです。この作品の前作が、お気に入り登録をしてくださった方が、ありがたいことに200を超えておりました。感謝を込めて、前作の方に一話、近日中にお届けいたします。よろしかったらお付き合いください。 ※R5.8/6ばんがいへん終了いたしました。長い間お付き合いくださり、また、たくさんのお気に入り登録、しおり、エールを、本当にありがとうございました。 ※R5.9/3お気に入り登録200になっていました。本当にありがとうございます(泣)。嬉しかったので、一話書いてみました。 ※R5.10/30らがまふぃん活動一周年記念として、一話お届けいたします。 ※R6.1/27美しく残酷な公爵令息様の、一途で不器用な愛(前作) と、こちらの作品の間のお話し 美しく冷酷な公爵令息様の、狂おしい熱情に彩られた愛 始めました。お時間の都合のつく方は、是非ご一読くださると嬉しいです。 *らがまふぃん活動二周年記念として、R6.11/4に一話お届けいたします。少しでも楽しんでいただけますように。

竜帝に捨てられ病気で死んで転生したのに、生まれ変わっても竜帝に気に入られそうです

みゅー
恋愛
シーディは前世の記憶を持っていた。前世では奉公に出された家で竜帝に気に入られ寵姫となるが、竜帝は豪族と婚約すると噂され同時にシーディの部屋へ通うことが減っていった。そんな時に病気になり、シーディは後宮を出ると一人寂しく息を引き取った。 時は流れ、シーディはある村外れの貧しいながらも優しい両親の元に生まれ変わっていた。そんなある日村に竜帝が訪れ、竜帝に見つかるがシーディの生まれ変わりだと気づかれずにすむ。 数日後、運命の乙女を探すためにの同じ年、同じ日に生まれた数人の乙女たちが後宮に召集され、シーディも後宮に呼ばれてしまう。 自分が運命の乙女ではないとわかっているシーディは、とにかく何事もなく村へ帰ることだけを目標に過ごすが……。 はたして本当にシーディは運命の乙女ではないのか、今度の人生で幸せをつかむことができるのか。 短編:竜帝の花嫁 誰にも愛されずに死んだと思ってたのに、生まれ変わったら溺愛されてました を長編にしたものです。

身代わり婚~暴君と呼ばれる辺境伯に拒絶された仮初の花嫁

結城芙由奈 
恋愛
【決してご迷惑はお掛けしません。どうか私をここに置いて頂けませんか?】 妾腹の娘として厄介者扱いを受けていたアリアドネは姉の身代わりとして暴君として名高い辺境伯に嫁がされる。結婚すれば幸せになれるかもしれないと淡い期待を抱いていたのも束の間。望まぬ花嫁を押し付けられたとして夫となるべく辺境伯に初対面で冷たい言葉を投げつけらた。さらに城から追い出されそうになるものの、ある人物に救われて下働きとして置いてもらえる事になるのだった―。

モブの私がなぜかヒロインを押し退けて王太子殿下に選ばれました

みゅー
恋愛
その国では婚約者候補を集め、その中から王太子殿下が自分の婚約者を選ぶ。 ケイトは自分がそんな乙女ゲームの世界に、転生してしまったことを知った。 だが、ケイトはそのゲームには登場しておらず、気にせずそのままその世界で自分の身の丈にあった普通の生活をするつもりでいた。だが、ある日宮廷から使者が訪れ、婚約者候補となってしまい…… そんなお話です。

甘すぎ旦那様の溺愛の理由(※ただし旦那様は、冷酷陛下です!?)

夕立悠理
恋愛
 伯爵令嬢ミレシアは、恐れ多すぎる婚約に震えていた。 父が結んできた婚約の相手は、なんと冷酷と謳われている隣国の皇帝陛下だったのだ。  何かやらかして、殺されてしまう未来しか見えない……。  不安に思いながらも、隣国へ嫁ぐミレシア。  そこで待っていたのは、麗しの冷酷皇帝陛下。  ぞっとするほど美しい顔で、彼はミレシアに言った。 「あなたをずっと待っていました」 「……え?」 「だって、下僕が主を待つのは当然でしょう?」  下僕。誰が、誰の。 「過去も未来も。永久に俺の主はあなただけ」 「!?!?!?!?!?!?」  そういって、本当にミレシアの前では冷酷どころか、甘すぎるふるまいをする皇帝ルクシナード。  果たして、ルクシナードがミレシアを溺愛する理由は――。

処理中です...