44 / 46
42
しおりを挟む
そう言うとアドリエンヌを正面から見つめる。
「アドリエンヌ、さっきも言ったが私は君に甘えていた。幼いころ君との婚約が決まり、それから私の隣に君がいることが当たり前になり、君が隣で努力し居心地のよい空間を作ってくれていたか気づいていなかった」
「アレクシ殿下……」
「私は情けないことに、君が私の隣からいなくなってからやっとその事に気づいた。そして、君を愛していることにも。だが気づくのが遅すぎた。当然の結果として、私は君から婚約の解消を言われた」
「そうでしたのね」
アレクシは苦笑する。
「私は君からもらうばかりで、なにも君に返していなかった。だがこれからは私が君を幸せにしたい。なにか与えられる存在になりたい」
アドリエンヌはアレクシにそんなことを言われどうしてよいか戸惑い、視線を合わせることができずに庭を見つめた。
その時、アレクシは懐から四つ折りにされた一枚の紙を取り出してアドリエンヌに差し出した。
「これは、なんですの?」
そう言ってその紙を受け取ると広げて、紙に書かれた内容を見る。なにか食材のメモ書きされているようだった。
「なにかのレシピですの? もしかしてこれってまさか?!」
アドリエンヌは驚いてアレクシの顔をまじまじと見つめる。アレクシもそんなアドリエンヌを見つめ返した。
「そうだ。ララの店の焼き菓子のレシピだ。手に入れるのに苦労した。ララは『あなたが誰であろうと、簡単にレシピを教えるつもりはない』と簡単には教えてくれなかったからね。少しばかり弟子入りした」
「アレクシ殿下が?! ララのところへ?!」
「まぁね。君になにかしたくて」
そう言ってはにかんだ。
「ありがとうございます。とても嬉しいですわ。今度なにかお礼をしますわね」
アドリエンヌはそこまでしてくれるアレクシの気持ちが嬉しくなり、アレクシをじっと見つめた。
「お礼なんて必要ない。ただ君を喜ばせたかった。それにもうすでに君からたくさんのものをもらっている」
「いいえ、そういう訳にはいきませんわ」
するとアレクシはアドリエンヌから視線を逸らし、しばらく黙ったあと意を決したようにアドリエンヌを見つめて言った。
「なら、一つだけいいか?」
「なんですの?」
そう言って不思議そうに見つめ返すアドリエンヌにアレクシはそっと口づけた。
この日からアレクシはアドリエンヌに対する気持ちを一切隠さなくなった。
人前であろうとなかろうと、いつでもアドリエンヌを独占しようとするので油断ができなかった。
学園は卒業してしまったので毎日は会えなくなると思っていたが、アドリエンヌは『フィリウスディ』として国政に関わることになり、毎日王宮へ通うこととなったのでほとんど一緒に過ごした。
ただ一つ、アドリエンヌは気になることがあった。シャウラのことだ。なぜあんなにも自分を恨んでいるのかさっぱりわからなかったし、なぜカミーユが三百年前にシャウラに会ったと言ったのかもわからなかった。
王宮の庭でお茶を飲みながら、アドリエンヌはアレクシならなにか知っているのではないかと思い尋ねる。
「アレクシ殿下、シャウラがなぜ私をあれだけ憎んでいたのか、それにカミーユ様がなぜシャウラに会ったと言ったのか、なにかご存知なのではありませんか?」
するとアレクシは少し考え込んだあと言った。
「君に話そうか迷ったんだが、実は先日やっとシャウラが今回の動機について真実を語りだした。聞きたいか?」
「是非お願いしますわ。気になりますもの」
「わかった」
そう言うと語り始める。
「五才の頃、王宮の庭で占い師によって私の婚約者に選ばれたあの日を君は覚えているか?」
この国では王太子殿下が五才になると婚約者を決めるために、同じく五才になった令嬢を王宮へ集め占い師に選ばせる。
アドリエンヌは当時、王妃になるということで払う代償や背負うべき責務などまるで考えずに、ただ王妃になることを夢見ていた。
希望を胸に緊張しながら占い師の前に立つと、占い師はアドリエンヌを選んだ。その瞬間をアドリエンヌは今でもしっかり覚えていた。
「もちろんですわ」
そう答えると、アレクシは微笑んだ。
「実は私もあの日のことを忘れたことはない。君が婚約者と決まったあの瞬間をね」
そう言ってしばらくアドリエンヌを見つめると、微笑んで話を続ける。
「アドリエンヌが私の婚約者に選ばれたあの日。シャウラはアドリエンヌの直前に占い師に見てもらっていたそうだ」
「シャウラが私の前に?」
「そうだ。当時から君の魔力量がずば抜けていたことは周知の事実だったから、当然周囲は君が選ばれるだろうと半ば予想はしていた。だが、シャウラは違った。自分が選ばれるに違いないと思い込んでいた」
アドリエンヌは知らないことだらけで面食らった。
「周知の事実でも、私自身はそんなこと知りませんでしたわ」
「それは、君のお父上がうまく隠していたからだろうな」
アドリエンヌは驚いたが、とりあえず話の先を促す。
「では、シャウラはその噂を知っていて私の前に並んでいたということですの?」
「そうだ、ライバル視していた君に自分が選ばれるところを見せつけたかったと」
それを聞いて、基本的に昔からシャウラの性格は変わらないのだとアドリエンヌはうんざりした。
アレクシも同じことを考えたのか、苦笑すると話を続ける。
「そうして彼女は絶対に自分が選ばれると確信して占い師の前に立った。だが占い師は一瞬ちらりとシャウラを見るとこう言った。『才能がないからお前では無理』とね」
「シャウラにしてみれば、信じられないことだったかもしれませんわね」
「そうだろうな。あれだけ自信に溢れているのだから。そうして、次に見てもらった君は……」
「『稀に見る逸材、婚約者はこの娘で決定だ』でしたわね」
「そうだ」
占い師にそう言われたアドリエンヌは無邪気に喜んだのを思い出した。その瞬間、それをシャウラが横で見ていたのだと気づく。
「では、喜ぶ私を見て、シャウラは逆恨みをしたということですの?」
アレクシは頷くとその問いに答える。
「シャウラはその時心に誓ったそうだ、『いつか見返してやる』と」
「だからあれほど私にこだわったんですのね」
それにしても五才の頃からアドリエンヌに見返すためだけに生きてきたのだと思うと、背筋がぞっとした。
「シャウラはその負の感情から瘴気を呼び寄せたのかもしれませんわね。そこから違う人生を歩むこともできたはずですのに」
「そういえばたしかシャウラは君が魔法を使えないとずっと勘違いしていたね。しかも、何度間違いを正しても君には魔法が使えないと信じた」
「そうでしたわ、授業中目の前で魔法を使って見せても信じませんでしたもの」
「あれは、才能があると言われた君に魔法が使えないと思い込みたかったのかもしれないな。もしくは願望か」
遡る前も、今回もアドリエンヌに必要に魔法が使えないことに言及して絡んできたのは、そういうことだったのかとアドリエンヌは妙に納得した。
その時、アレクシは思い出したかのように言った。
「そういえば、君は魔法が使えないかもしれないと入学前に学園の教師たちが気を揉んでいたことを知っていたか?」
能力のなさを入学前の審査で見抜かれていたのだろうか? そう思いながら質問する。
「いいえ、知りませんでしたわ。でもなぜ私には魔法が使えないと?」
「君の魔力が強大過ぎて、まだコントロールができないだろうと考えていたからだ。だから入学を遅らせる話も出ていた」
アドリエンヌは驚いてアレクシを見つめる。
以前アドリエンヌが魔法を使えなかったのはそういうことだったのだ。アドリエンヌは魔法を使えない自分を恥じることはなかったのだと気づいた。
「アレクシ殿下はいつそれを?」
「もちろん学園入学前に報告は受けていた。婚約者なのだから当然だろう」
それを聞いて、遡る前アレクシはアドリエンヌが魔法を使えないことに気づいていたのかもしれないと思った。
それでもアレクシはそれに気づかないふりをしてくれていたのだろう。
表現は下手くそだが、アレクシは昔から自分のことを想ってくれていたのかもしれない。
アドリエンヌがそう思いながら見つめていると、アレクシはアドリエンヌを見つめ返し優しく微笑んだ。
しばらくそうして見つめ合っていたが、アドリエンヌは急に恥ずかしくなり目を逸らす。
それを見てアレクシはフッと笑うと、そのまま話を続ける。
「ところで、シャウラの持っていた禁呪の書かれた書物だが」
「そうですわ、あの書物は一体どこの誰が書いたものなのでしょう」
「シャウラはあの書物についてはなにも話そうとしない。だからこちらで書物を鑑定したんだが、シャウラの筆跡と一致したが、書物自体は三百年前のものだった」
「どういうことですの?」
「シャウラの書斎には他にも禁呪の書かれた禁断の書が大量に保存されていた。だから彼女があれを書いたとも考えれるが……」
「そう言えばワーストについては? カミーユ様も三百年前に現れた魔女はシャウラだと言っていましたわ」
「確かに、あの書物には人間をあのような化け物に変える呪術も書かれていた。あの呪術をかけられた者は、大地から邪気を吸い、百年かけて溜め込みそれを結晶化させる。いわば巨大な瘴気結晶を作るための生き物に成り果てる。しかもその呪術は並大抵の人間では耐えられず、強靭な人間にしか耐えられないらしい」
「それでカミーユ様が狙われることになったのですわね。それにしても、人間をそんなものに変えてしまう呪術だなんて、本当に恐ろしいですわ。でも、シャウラはどうやってワーストを操ったのかしら?」
アレクシも不思議そうに言った。
「それがカミーユが言うには、シャウラの言うことにはしたがってしまうそうだ。書物にも、呪術をかけた者には従うと書いてあった」
「でも、シャウラは三百年前にはいませんわよね?」
「もちろんそのとおりだ。それに三百年前にそんな呪術師がいれば、どんな形にせよ必ず歴史になを残しているはずだろう」
「では、どういうことなのかしら?」
「わからない。私は君にならこれらがどういうことなのかわかると思ったのだが」
そう言われ、アドリエンヌは一つの可能性が思い浮かんだが、それを口にすることはなかった。
「アドリエンヌ、さっきも言ったが私は君に甘えていた。幼いころ君との婚約が決まり、それから私の隣に君がいることが当たり前になり、君が隣で努力し居心地のよい空間を作ってくれていたか気づいていなかった」
「アレクシ殿下……」
「私は情けないことに、君が私の隣からいなくなってからやっとその事に気づいた。そして、君を愛していることにも。だが気づくのが遅すぎた。当然の結果として、私は君から婚約の解消を言われた」
「そうでしたのね」
アレクシは苦笑する。
「私は君からもらうばかりで、なにも君に返していなかった。だがこれからは私が君を幸せにしたい。なにか与えられる存在になりたい」
アドリエンヌはアレクシにそんなことを言われどうしてよいか戸惑い、視線を合わせることができずに庭を見つめた。
その時、アレクシは懐から四つ折りにされた一枚の紙を取り出してアドリエンヌに差し出した。
「これは、なんですの?」
そう言ってその紙を受け取ると広げて、紙に書かれた内容を見る。なにか食材のメモ書きされているようだった。
「なにかのレシピですの? もしかしてこれってまさか?!」
アドリエンヌは驚いてアレクシの顔をまじまじと見つめる。アレクシもそんなアドリエンヌを見つめ返した。
「そうだ。ララの店の焼き菓子のレシピだ。手に入れるのに苦労した。ララは『あなたが誰であろうと、簡単にレシピを教えるつもりはない』と簡単には教えてくれなかったからね。少しばかり弟子入りした」
「アレクシ殿下が?! ララのところへ?!」
「まぁね。君になにかしたくて」
そう言ってはにかんだ。
「ありがとうございます。とても嬉しいですわ。今度なにかお礼をしますわね」
アドリエンヌはそこまでしてくれるアレクシの気持ちが嬉しくなり、アレクシをじっと見つめた。
「お礼なんて必要ない。ただ君を喜ばせたかった。それにもうすでに君からたくさんのものをもらっている」
「いいえ、そういう訳にはいきませんわ」
するとアレクシはアドリエンヌから視線を逸らし、しばらく黙ったあと意を決したようにアドリエンヌを見つめて言った。
「なら、一つだけいいか?」
「なんですの?」
そう言って不思議そうに見つめ返すアドリエンヌにアレクシはそっと口づけた。
この日からアレクシはアドリエンヌに対する気持ちを一切隠さなくなった。
人前であろうとなかろうと、いつでもアドリエンヌを独占しようとするので油断ができなかった。
学園は卒業してしまったので毎日は会えなくなると思っていたが、アドリエンヌは『フィリウスディ』として国政に関わることになり、毎日王宮へ通うこととなったのでほとんど一緒に過ごした。
ただ一つ、アドリエンヌは気になることがあった。シャウラのことだ。なぜあんなにも自分を恨んでいるのかさっぱりわからなかったし、なぜカミーユが三百年前にシャウラに会ったと言ったのかもわからなかった。
王宮の庭でお茶を飲みながら、アドリエンヌはアレクシならなにか知っているのではないかと思い尋ねる。
「アレクシ殿下、シャウラがなぜ私をあれだけ憎んでいたのか、それにカミーユ様がなぜシャウラに会ったと言ったのか、なにかご存知なのではありませんか?」
するとアレクシは少し考え込んだあと言った。
「君に話そうか迷ったんだが、実は先日やっとシャウラが今回の動機について真実を語りだした。聞きたいか?」
「是非お願いしますわ。気になりますもの」
「わかった」
そう言うと語り始める。
「五才の頃、王宮の庭で占い師によって私の婚約者に選ばれたあの日を君は覚えているか?」
この国では王太子殿下が五才になると婚約者を決めるために、同じく五才になった令嬢を王宮へ集め占い師に選ばせる。
アドリエンヌは当時、王妃になるということで払う代償や背負うべき責務などまるで考えずに、ただ王妃になることを夢見ていた。
希望を胸に緊張しながら占い師の前に立つと、占い師はアドリエンヌを選んだ。その瞬間をアドリエンヌは今でもしっかり覚えていた。
「もちろんですわ」
そう答えると、アレクシは微笑んだ。
「実は私もあの日のことを忘れたことはない。君が婚約者と決まったあの瞬間をね」
そう言ってしばらくアドリエンヌを見つめると、微笑んで話を続ける。
「アドリエンヌが私の婚約者に選ばれたあの日。シャウラはアドリエンヌの直前に占い師に見てもらっていたそうだ」
「シャウラが私の前に?」
「そうだ。当時から君の魔力量がずば抜けていたことは周知の事実だったから、当然周囲は君が選ばれるだろうと半ば予想はしていた。だが、シャウラは違った。自分が選ばれるに違いないと思い込んでいた」
アドリエンヌは知らないことだらけで面食らった。
「周知の事実でも、私自身はそんなこと知りませんでしたわ」
「それは、君のお父上がうまく隠していたからだろうな」
アドリエンヌは驚いたが、とりあえず話の先を促す。
「では、シャウラはその噂を知っていて私の前に並んでいたということですの?」
「そうだ、ライバル視していた君に自分が選ばれるところを見せつけたかったと」
それを聞いて、基本的に昔からシャウラの性格は変わらないのだとアドリエンヌはうんざりした。
アレクシも同じことを考えたのか、苦笑すると話を続ける。
「そうして彼女は絶対に自分が選ばれると確信して占い師の前に立った。だが占い師は一瞬ちらりとシャウラを見るとこう言った。『才能がないからお前では無理』とね」
「シャウラにしてみれば、信じられないことだったかもしれませんわね」
「そうだろうな。あれだけ自信に溢れているのだから。そうして、次に見てもらった君は……」
「『稀に見る逸材、婚約者はこの娘で決定だ』でしたわね」
「そうだ」
占い師にそう言われたアドリエンヌは無邪気に喜んだのを思い出した。その瞬間、それをシャウラが横で見ていたのだと気づく。
「では、喜ぶ私を見て、シャウラは逆恨みをしたということですの?」
アレクシは頷くとその問いに答える。
「シャウラはその時心に誓ったそうだ、『いつか見返してやる』と」
「だからあれほど私にこだわったんですのね」
それにしても五才の頃からアドリエンヌに見返すためだけに生きてきたのだと思うと、背筋がぞっとした。
「シャウラはその負の感情から瘴気を呼び寄せたのかもしれませんわね。そこから違う人生を歩むこともできたはずですのに」
「そういえばたしかシャウラは君が魔法を使えないとずっと勘違いしていたね。しかも、何度間違いを正しても君には魔法が使えないと信じた」
「そうでしたわ、授業中目の前で魔法を使って見せても信じませんでしたもの」
「あれは、才能があると言われた君に魔法が使えないと思い込みたかったのかもしれないな。もしくは願望か」
遡る前も、今回もアドリエンヌに必要に魔法が使えないことに言及して絡んできたのは、そういうことだったのかとアドリエンヌは妙に納得した。
その時、アレクシは思い出したかのように言った。
「そういえば、君は魔法が使えないかもしれないと入学前に学園の教師たちが気を揉んでいたことを知っていたか?」
能力のなさを入学前の審査で見抜かれていたのだろうか? そう思いながら質問する。
「いいえ、知りませんでしたわ。でもなぜ私には魔法が使えないと?」
「君の魔力が強大過ぎて、まだコントロールができないだろうと考えていたからだ。だから入学を遅らせる話も出ていた」
アドリエンヌは驚いてアレクシを見つめる。
以前アドリエンヌが魔法を使えなかったのはそういうことだったのだ。アドリエンヌは魔法を使えない自分を恥じることはなかったのだと気づいた。
「アレクシ殿下はいつそれを?」
「もちろん学園入学前に報告は受けていた。婚約者なのだから当然だろう」
それを聞いて、遡る前アレクシはアドリエンヌが魔法を使えないことに気づいていたのかもしれないと思った。
それでもアレクシはそれに気づかないふりをしてくれていたのだろう。
表現は下手くそだが、アレクシは昔から自分のことを想ってくれていたのかもしれない。
アドリエンヌがそう思いながら見つめていると、アレクシはアドリエンヌを見つめ返し優しく微笑んだ。
しばらくそうして見つめ合っていたが、アドリエンヌは急に恥ずかしくなり目を逸らす。
それを見てアレクシはフッと笑うと、そのまま話を続ける。
「ところで、シャウラの持っていた禁呪の書かれた書物だが」
「そうですわ、あの書物は一体どこの誰が書いたものなのでしょう」
「シャウラはあの書物についてはなにも話そうとしない。だからこちらで書物を鑑定したんだが、シャウラの筆跡と一致したが、書物自体は三百年前のものだった」
「どういうことですの?」
「シャウラの書斎には他にも禁呪の書かれた禁断の書が大量に保存されていた。だから彼女があれを書いたとも考えれるが……」
「そう言えばワーストについては? カミーユ様も三百年前に現れた魔女はシャウラだと言っていましたわ」
「確かに、あの書物には人間をあのような化け物に変える呪術も書かれていた。あの呪術をかけられた者は、大地から邪気を吸い、百年かけて溜め込みそれを結晶化させる。いわば巨大な瘴気結晶を作るための生き物に成り果てる。しかもその呪術は並大抵の人間では耐えられず、強靭な人間にしか耐えられないらしい」
「それでカミーユ様が狙われることになったのですわね。それにしても、人間をそんなものに変えてしまう呪術だなんて、本当に恐ろしいですわ。でも、シャウラはどうやってワーストを操ったのかしら?」
アレクシも不思議そうに言った。
「それがカミーユが言うには、シャウラの言うことにはしたがってしまうそうだ。書物にも、呪術をかけた者には従うと書いてあった」
「でも、シャウラは三百年前にはいませんわよね?」
「もちろんそのとおりだ。それに三百年前にそんな呪術師がいれば、どんな形にせよ必ず歴史になを残しているはずだろう」
「では、どういうことなのかしら?」
「わからない。私は君にならこれらがどういうことなのかわかると思ったのだが」
そう言われ、アドリエンヌは一つの可能性が思い浮かんだが、それを口にすることはなかった。
344
お気に入りに追加
742
あなたにおすすめの小説

思い出してしまったのです
月樹《つき》
恋愛
同じ姉妹なのに、私だけ愛されない。
妹のルルだけが特別なのはどうして?
婚約者のレオナルド王子も、どうして妹ばかり可愛がるの?
でもある時、鏡を見て思い出してしまったのです。
愛されないのは当然です。
だって私は…。

義妹が大事だと優先するので私も義兄を優先する事にしました
さこの
恋愛
婚約者のラウロ様は義妹を優先する。
私との約束なんかなかったかのように…
それをやんわり注意すると、君は家族を大事にしないのか?冷たい女だな。と言われました。
そうですか…あなたの目にはそのように映るのですね…
分かりました。それでは私も義兄を優先する事にしますね!大事な家族なので!

婚約破棄をされ、父に追放まで言われた私は、むしろ喜んで出て行きます! ~家を出る時に一緒に来てくれた執事の溺愛が始まりました~
ゆうき
恋愛
男爵家の次女として生まれたシエルは、姉と妹に比べて平凡だからという理由で、父親や姉妹からバカにされ、虐げられる生活を送っていた。
そんな生活に嫌気がさしたシエルは、とある計画を考えつく。それは、婚約者に社交界で婚約を破棄してもらい、その責任を取って家を出て、自由を手に入れるというものだった。
シエルの専属の執事であるラルフや、幼い頃から実の兄のように親しくしてくれていた婚約者の協力の元、シエルは無事に婚約を破棄され、父親に見捨てられて家を出ることになった。
ラルフも一緒に来てくれることとなり、これで念願の自由を手に入れたシエル。しかし、シエルにはどこにも行くあてはなかった。
それをラルフに伝えると、隣の国にあるラルフの故郷に行こうと提案される。
それを承諾したシエルは、これからの自由で幸せな日々を手に入れられると胸を躍らせていたが、その幸せは家族によって邪魔をされてしまう。
なんと、家族はシエルとラルフを広大な湖に捨て、自らの手を汚さずに二人を亡き者にしようとしていた――
☆誤字脱字が多いですが、見つけ次第直しますのでご了承ください☆
☆全文字はだいたい14万文字になっています☆
☆完結まで予約済みなので、エタることはありません!☆

逆行令嬢は聖女を辞退します
仲室日月奈
恋愛
――ああ、神様。もしも生まれ変わるなら、人並みの幸せを。
死ぬ間際に転生後の望みを心の中でつぶやき、倒れた後。目を開けると、三年前の自室にいました。しかも、今日は神殿から一行がやってきて「聖女としてお出迎え」する日ですって?
聖女なんてお断りです!

見知らぬ子息に婚約破棄してくれと言われ、腹の立つ言葉を投げつけられましたが、どうやら必要ない我慢をしてしまうようです
珠宮さくら
恋愛
両親のいいとこ取りをした出来の良い兄を持ったジェンシーナ・ペデルセン。そんな兄に似ずとも、母親の家系に似ていれば、それだけでもだいぶ恵まれたことになったのだが、残念ながらジェンシーナは似ることができなかった。
だからといって家族は、それでジェンシーナを蔑ろにすることはなかったが、比べたがる人はどこにでもいるようだ。
それだけでなく、ジェンシーナは何気に厄介な人間に巻き込まれてしまうが、我慢する必要もないことに気づくのが、いつも遅いようで……。

義理姉がかわいそうと言われましても、私には関係の無い事です
渡辺 佐倉
恋愛
マーガレットは政略で伯爵家に嫁いだ。
愛の無い結婚であったがお互いに尊重し合って結婚生活をおくっていければいいと思っていたが、伯爵である夫はことあるごとに、離婚して実家である伯爵家に帰ってきているマーガレットにとっての義姉達を優先ばかりする。
そんな生活に耐えかねたマーガレットは…
結末は見方によって色々系だと思います。
なろうにも同じものを掲載しています。
【完結】お飾りの妻からの挑戦状
おのまとぺ
恋愛
公爵家から王家へと嫁いできたデイジー・シャトワーズ。待ちに待った旦那様との顔合わせ、王太子セオドア・ハミルトンが放った言葉に立ち会った使用人たちの顔は強張った。
「君はお飾りの妻だ。装飾品として慎ましく生きろ」
しかし、当のデイジーは不躾な挨拶を笑顔で受け止める。二人のドタバタ生活は心配する周囲を巻き込んで、やがて誰も予想しなかった展開へ……
◇表紙はノーコピーライトガール様より拝借しています
◇全18話で完結予定
里帰りをしていたら離婚届が送られてきたので今から様子を見に行ってきます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
<離婚届?納得いかないので今から内密に帰ります>
政略結婚で2年もの間「白い結婚」を続ける最中、妹の出産祝いで里帰りしていると突然届いた離婚届。あまりに理不尽で到底受け入れられないので内緒で帰ってみた結果・・・?
※「カクヨム」「小説家になろう」にも投稿しています
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる