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それを聞いてアドリエンヌは腹を立てた。
「精霊ちゃんが精霊だとシャウラにばれなくて良かったですわ」
そこでエメが口を挟む。
「ところでアドリエンヌは、どうやってモンスターから精霊に戻すことができたのですか?」
どう答えようか迷い、もう一度確認するためにアレクシの顔を見つめる。と、アレクシは言った。
「話してかまわない。そもそもそもこの場に居るものはみんなアドリエンヌが『フィリウスディ』なのだと知っているのだろう?」
それを聞いてエメが口を開く。
「やはりそうなのですね。そうだろうとは思っていましたけれど。アレクシ殿下はなぜ知ったのですか?」
するとアレクシは黙ってアドリエンヌの肩で呑気に寝ているリオンを指差す。
「そこで寝てる神の眷属がそう言ったからな。確かだろう」
それを聞いた三人は驚いた顔でリオンとアドリエンヌの、顔を見比べた。アドリエンヌはみんなに黙っていたことを申し訳なく思いながら答える。
「みんなに黙っていてごめんなさい。ことがことだけに、私もそう簡単に話せませんでしたわ」
エメとアトラスは黙って頷き、ルシールは呆気にとられていたがしばらくして微笑んで言った。
「今日は驚くことばかりだわ」
「本当にごめんなさい」
「謝らないでよ、話せなかったのは仕方がないと思うの。だって、今起こってることってきっと歴史書にも残る凄いことだもの。それにしても、可愛いと思ってたこの子が神の眷属だなんて未だに信じられないけれど。で、アドリエンヌは森でどうやってあの精霊を助けたの?」
「私、瘴気でモンスター化してしまった動植物を浄化してもとの姿に戻すことができますの」
妙に納得したような顔でエメは呟いた。
「なるほど。それが『フィリウスディ』の力、か」
アドリエンヌはそれに答える。
「たぶん、そういうことですわ」
そこでアトラスがアドリエンヌ質問する。
「では、なんらかの方法を用いてあの令嬢が力を得て、それを悪用していると思っているということなのですか?」
「そう思ってますの。それで……」
アドリエンヌはアレクシに向き直る。
「殿下、私も秘密を話したのですから、殿下も本当のことをみんなに話すべきですわ」
その台詞にルシールが驚いてアドリエンヌに質問する。
「まだなにかあるの?」
アレクシは大きくため息をついた。
「話をする前に先に言っておく。今ここで話を聞いたものは、これから王宮の監視下に置かれることになる。特にルシール、君はもうただの平民に戻ることはできない。今後なんらかの地位が与えられ、一生を王宮に捧げることになるが、かまわないか?」
しばらく沈黙したのちルシールは頷いた。それを見届けるとアレクシは静かにワーストについて説明した。
そうして一通り話がすむと、アドリエンヌを真っ直ぐ見据えて言った。
「アドリエンヌ、もしかして君はワーストを見つけたんじゃないのか?」
やはりアレクシには気づかれていた。そう思いながらアドリエンヌは答える。
「えぇ。昨日の夜、ほんの一瞬だけですけれどワーストと思われる物凄い瘴気の気配を感じましたの。それはブロン子爵家からでしたわ」
エメが驚いた様子でアレクシに言った。
「アレクシ殿下、それが本当なら恐ろしい事態です。ブロン子爵はどうにかして屋敷内にワーストを隠しているということですよ?!」
とんでもない事だが、それでもアレクシはいつものように表情ひとつ変えずに答える。
「そのようだ」
そんなアレクシの様子を見て、エメはなにかに気づいたようにアドリエンヌを見つめた。
「そうか、今の我々にはアドリエンヌがいる」
突然自分の名前が出てアドリエンヌは驚く。
「私、ですの?」
アレクシは申し訳なさそうに言った。
「君にばかり負担をかけるのは私も本意ではないが、ワーストに君なら対抗できるだろう。うまくいけば数百年の争いに終止符が打てる」
そう言われ、自分の肩にこの国の運命がかかっているのだと気づいたアドリエンヌは、身の引き締まるような気がした。
「そうですわね、私にできることがあるなら精一杯頑張りますわ」
それを聞いてアレクシは悲しげに微笑む。
「君にそんなことを言わせてすまない」
「いいえ、自分のことでもありますもの」
そう言ってアレクシを見つめ返した。二人はしばらくそうして見つめ合った。
「あの、アレクシ殿下。これからのことを話し合わなければ……」
エメにそう言われてアドリエンヌは我に返ると、何事もなかったかのように平静を装おってアレクシに尋ねる。
「それで、シャウラのところにはいつ乗り込みますの?」
「すぐには無理だろう。今までも君にすら探知されないよう結界を張るなりして向こうも隠してきたのだから、そう簡単に見つかる場所にワーストを閉じ込めてはいないと思う」
「確かにそうですわね」
そこでエメが言った。
「そういうことなら僕に任せてください。調べてみます」
「エメ、頼む」
こうして、とりあえずは調査待ちとなった。
この日アレクシやエメ、アトラスはワーストの件で調べものがあり、急いで帰っていったのでアドリエンヌは久しぶりにルシールと二人きりになった。
二人並んで歩きながらアドリエンヌは言った。
「今まで隠し事をしててごめんなさい」
アドリエンヌがそう切り出すと、ルシールは微笑む。
「謝らないでよ。それよりこんなに大切なことを私にも話してくれてありがとう」
「でも、話を聞いたせいでルシールは巻き込まれてしまったでしょう? それが申し訳なかったと思ってますの」
「巻き込まれたなんて私、思ってないから」
「本当に?」
ルシールは微笑むと頷いた。
「ルシール、ありがとう」
アドリエンヌがお礼を言うと、二人はしばらく無言のまま歩いた。
先にルシールが口を開く。
「ねぇ、エメやアトラスには立場上話す必要があったと思うけれど、なぜ私にも話してくれたの?」
その質問にアドリエンヌは言葉を選びながら答えた。
「それはこんな秘密、一人で抱えきれなかったからですわ。誰かに話したかったんですの」
それを聞いてルシールは立ち止まった。どうしたのか不思議に思いながらアドリエンヌも立ち止まり振り返ってルシールを見つめる。
すると、ルシールは嬉しそうに言った。
「信頼して話してくれてありがとう。私、アドリエンヌの支えになってるって思っていい?」
アドリエンヌが無言で頷いて返すと、ルシールは満面の笑みを返した。
「精霊ちゃんが精霊だとシャウラにばれなくて良かったですわ」
そこでエメが口を挟む。
「ところでアドリエンヌは、どうやってモンスターから精霊に戻すことができたのですか?」
どう答えようか迷い、もう一度確認するためにアレクシの顔を見つめる。と、アレクシは言った。
「話してかまわない。そもそもそもこの場に居るものはみんなアドリエンヌが『フィリウスディ』なのだと知っているのだろう?」
それを聞いてエメが口を開く。
「やはりそうなのですね。そうだろうとは思っていましたけれど。アレクシ殿下はなぜ知ったのですか?」
するとアレクシは黙ってアドリエンヌの肩で呑気に寝ているリオンを指差す。
「そこで寝てる神の眷属がそう言ったからな。確かだろう」
それを聞いた三人は驚いた顔でリオンとアドリエンヌの、顔を見比べた。アドリエンヌはみんなに黙っていたことを申し訳なく思いながら答える。
「みんなに黙っていてごめんなさい。ことがことだけに、私もそう簡単に話せませんでしたわ」
エメとアトラスは黙って頷き、ルシールは呆気にとられていたがしばらくして微笑んで言った。
「今日は驚くことばかりだわ」
「本当にごめんなさい」
「謝らないでよ、話せなかったのは仕方がないと思うの。だって、今起こってることってきっと歴史書にも残る凄いことだもの。それにしても、可愛いと思ってたこの子が神の眷属だなんて未だに信じられないけれど。で、アドリエンヌは森でどうやってあの精霊を助けたの?」
「私、瘴気でモンスター化してしまった動植物を浄化してもとの姿に戻すことができますの」
妙に納得したような顔でエメは呟いた。
「なるほど。それが『フィリウスディ』の力、か」
アドリエンヌはそれに答える。
「たぶん、そういうことですわ」
そこでアトラスがアドリエンヌ質問する。
「では、なんらかの方法を用いてあの令嬢が力を得て、それを悪用していると思っているということなのですか?」
「そう思ってますの。それで……」
アドリエンヌはアレクシに向き直る。
「殿下、私も秘密を話したのですから、殿下も本当のことをみんなに話すべきですわ」
その台詞にルシールが驚いてアドリエンヌに質問する。
「まだなにかあるの?」
アレクシは大きくため息をついた。
「話をする前に先に言っておく。今ここで話を聞いたものは、これから王宮の監視下に置かれることになる。特にルシール、君はもうただの平民に戻ることはできない。今後なんらかの地位が与えられ、一生を王宮に捧げることになるが、かまわないか?」
しばらく沈黙したのちルシールは頷いた。それを見届けるとアレクシは静かにワーストについて説明した。
そうして一通り話がすむと、アドリエンヌを真っ直ぐ見据えて言った。
「アドリエンヌ、もしかして君はワーストを見つけたんじゃないのか?」
やはりアレクシには気づかれていた。そう思いながらアドリエンヌは答える。
「えぇ。昨日の夜、ほんの一瞬だけですけれどワーストと思われる物凄い瘴気の気配を感じましたの。それはブロン子爵家からでしたわ」
エメが驚いた様子でアレクシに言った。
「アレクシ殿下、それが本当なら恐ろしい事態です。ブロン子爵はどうにかして屋敷内にワーストを隠しているということですよ?!」
とんでもない事だが、それでもアレクシはいつものように表情ひとつ変えずに答える。
「そのようだ」
そんなアレクシの様子を見て、エメはなにかに気づいたようにアドリエンヌを見つめた。
「そうか、今の我々にはアドリエンヌがいる」
突然自分の名前が出てアドリエンヌは驚く。
「私、ですの?」
アレクシは申し訳なさそうに言った。
「君にばかり負担をかけるのは私も本意ではないが、ワーストに君なら対抗できるだろう。うまくいけば数百年の争いに終止符が打てる」
そう言われ、自分の肩にこの国の運命がかかっているのだと気づいたアドリエンヌは、身の引き締まるような気がした。
「そうですわね、私にできることがあるなら精一杯頑張りますわ」
それを聞いてアレクシは悲しげに微笑む。
「君にそんなことを言わせてすまない」
「いいえ、自分のことでもありますもの」
そう言ってアレクシを見つめ返した。二人はしばらくそうして見つめ合った。
「あの、アレクシ殿下。これからのことを話し合わなければ……」
エメにそう言われてアドリエンヌは我に返ると、何事もなかったかのように平静を装おってアレクシに尋ねる。
「それで、シャウラのところにはいつ乗り込みますの?」
「すぐには無理だろう。今までも君にすら探知されないよう結界を張るなりして向こうも隠してきたのだから、そう簡単に見つかる場所にワーストを閉じ込めてはいないと思う」
「確かにそうですわね」
そこでエメが言った。
「そういうことなら僕に任せてください。調べてみます」
「エメ、頼む」
こうして、とりあえずは調査待ちとなった。
この日アレクシやエメ、アトラスはワーストの件で調べものがあり、急いで帰っていったのでアドリエンヌは久しぶりにルシールと二人きりになった。
二人並んで歩きながらアドリエンヌは言った。
「今まで隠し事をしててごめんなさい」
アドリエンヌがそう切り出すと、ルシールは微笑む。
「謝らないでよ。それよりこんなに大切なことを私にも話してくれてありがとう」
「でも、話を聞いたせいでルシールは巻き込まれてしまったでしょう? それが申し訳なかったと思ってますの」
「巻き込まれたなんて私、思ってないから」
「本当に?」
ルシールは微笑むと頷いた。
「ルシール、ありがとう」
アドリエンヌがお礼を言うと、二人はしばらく無言のまま歩いた。
先にルシールが口を開く。
「ねぇ、エメやアトラスには立場上話す必要があったと思うけれど、なぜ私にも話してくれたの?」
その質問にアドリエンヌは言葉を選びながら答えた。
「それはこんな秘密、一人で抱えきれなかったからですわ。誰かに話したかったんですの」
それを聞いてルシールは立ち止まった。どうしたのか不思議に思いながらアドリエンヌも立ち止まり振り返ってルシールを見つめる。
すると、ルシールは嬉しそうに言った。
「信頼して話してくれてありがとう。私、アドリエンヌの支えになってるって思っていい?」
アドリエンヌが無言で頷いて返すと、ルシールは満面の笑みを返した。
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