逆行転生、断罪され婚約を破棄された落ちこぼれ令嬢は、神の子となり逆行転生したので今度は王太子殿下とは婚約解消して自由に生きたいと思います

みゅー

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 それを聞いてアドリエンヌは少し考えてから言った。

「なら、なにかしらの派閥運動で彼が祭り上げられているだけではありませんの?」

「僕も最初はそのように思ってました。それはそれで不穏な動きではあるので気を付けなければならなかったのですが。それよりこの学園にブロン子爵が娘を転入させた辺りで、違う動きが出てきました」

 そこでずっと不機嫌そうに話を聞いていたアレクシが口を開いた。

「『フィリウスディ』降臨の噂だな」

「そうです」

 アドリエンヌは『フィリウスディ』というワードに一瞬ドキリとしたが、なんとか平静を装おって訊く。

「『フィリウスディ』の降臨? もしかしてシャウラが『フィリウスディ』ではないかという噂のことですの?」

 そこでルシールが突然はっとしたように言った。

「そういえば、ブロン子爵令嬢がこの学園に転入する前に城下町でそんな噂があったわ。確か『フィリウスディ』はすでに降臨していて、近々姿を現すって!」

 エメはルシールとアドリエンヌを見ると頷く。

「そうです。最初は市井からその噂が立つと、そのうち学園内にもその噂が流れるようになりました。そして、それはブロン子爵令嬢のことなのではないか? と言われるようになった」

 その噂は遡る前に何度となく聞いた噂話だった。だが、当時は特に違和感を感じることはなかった。なぜならシャウラがとても優秀だったからだ。

 特に彼女が才能を発揮したのは、エアーバードを捕らえる課題の時にモンスターが森に大量発生し、それらすべてを一人で倒した時だった。

 治癒魔法使いで、攻撃魔法も完璧に操ることができる。そんなシャウラを見て誰しもが『フィリウスディ』なのではないかと思ったものだった。

 そんなこと思い出していると、エメが突然アドリエンヌに質問する。

「アドリエンヌもその噂はおかしいと思いますか?」

 それを受けアドリエンヌは現実に引き戻されると、慌てて答える。

「そうですわね。よく考えると、シャウラがこの学園に来る前からそんな噂が立ったのはおかしいことですわね」

 すると、エメは頷く。

「まるでお膳立てされて、そこに意気揚々とブロン子爵令嬢が現れたようですよね?」

 そこでアドリエンヌはエメのいわんとしていることに気づき目を見開いた。

 エメはそんなアドリエンヌを見つめて言った。

「アドリエンヌも気づきましたか? ここで先ほどのブロン子爵の寄付の話に結び付くのです」

 話の展開についていけないルシールがアドリエンヌに訊く。

「どういう意味なの? ブロン子爵令嬢と、子爵の寄付の話とどう結び付くの?」

 それにエメが答える。

「自分の娘の高い能力に気づいたブロン子爵は、自分の娘こそ神の子『フィリウスディ』なのだと言って寄付を集めたのではないかということです」

 そこで今まで黙っていたアトラスが呟いた。

「愚かな、あんなに凶悪な性格の者が『フィリウスディ』であるはずがない」

 それを聞いてエメが苦笑して答える。

「その意見には僕も同意です」

 やはりと思いながらアドリエンヌはエメに訊く。

「では、『フィリウスディ』が降臨したという噂を流したのは、ブロン子爵を支持し資金を流している貴族たちの仕業だとエメは思ってますの?」

「思っているというか、それが事実でしょう。そうやって支持者を集め集金しブロン子爵令嬢を『フィリウスディ』として王宮に送り込み権力を握るつもりだったのではないでしょうか」

「だから殿下の婚約者であるわたくしが邪魔で、目の敵にしてましたのね」

 アドリエンヌがそう呟くと、エメは頷く。

「そうですね、そうだと思います。ですが、それ以上にブロン子爵令嬢のアドリエンヌに対しての敵意というか執着というか、あれは異常だと僕は思いますけど」

 やはり周囲にもそう見えていたのだと思い、アドリエンヌは苦笑する。そして、知らぬまにエメがそこまで調べていたことに感心しながら尋ねる。

「だからわたくしがシャウラを怪しいと言っても不思議に思わなかったんですのね?」

「そうですね、不思議に思わなかったというよりは当然そうだろうといった感じでした」

 そう答えるとエメは一度言葉を切って不思議そうにアドリエンヌに訊く。

「アドリエンヌはなぜ彼女が怪しいと?」

「決定的な証拠があるわけではありませんの。ただ先日わたくしが忘れ物を取りに講堂に戻った時に少しシャウラと話したのですけれど、その時に彼女からモンスターと同じ気を感じたんですの。だからですわ」

 そこでアレクシがアドリエンヌに質問する。

「確かに、通常ならそれはあり得ないことだ。だがそれだけで君が人を疑うとは思えないな。他になにかあるんじゃないか?」

「殿下には隠し事はできませんわね。昨日の最終課題の時のことですわ。わたくしが課題を終えて戻ってきたときシャウラはこう言いましたの。『なぜ生きてますの?』と」

 それを聞いてエメは厳しい顔をした。

「それは、穏やかではありませんね」

「そうなんですの。実は迷子になっていたあの精霊ちゃんなんですけれど」

 そこまで言ったところでアドリエンヌは話してしまってよいのか迷い、アレクシの顔を見つめた。アレクシはしばらく考え込んだが、黙って頷いた。

 それを見てアドリエンヌはアレクシが話す許可を出したと判断して話を続ける。

「あの精霊ちゃんは何者かによってモンスターに姿を変えられていましたの」

 その話に一番驚いたのはルシールだった。エメもアトラスも眉ひとつ動かさずに話を聞いており、もしかしてこの二人は知っていたのかもしれないとアドリエンヌは思った。

「どういうことなの? 精霊がモンスター? モンスターってみんな元々精霊なの?!」

 混乱するルシールに、アドリエンヌは瘴気によって生き物がモンスター化することを簡単に説明した。ルシールもこれにはショックを受けているようだった。

 今まで倒していたモンスターが、なんの罪もない動植物だと知ったのだからそれも当然かもしれなかった。

 落ち込むルシールの背中を撫でつつアドリエンヌは話を続ける。

「それで、シャウラは精霊ちゃんのことを知らなかったみたいですけれど、精霊ちゃんはシャウラの声に聞き覚えがあると言いましたの。それで思ったのですけれど、シャウラはモンスター化させた後の精霊ちゃんに接触したのではないかしら」

 それにエメが答える。

「ということは、ブロン子爵令嬢が精霊のモンスター化に関わっているということになりますね」

 そこでアトラスが口を開く。

「しかも、そのモンスターはアドリエンヌを狙って放たれたのだろう。だが、モンスターはアドリエンヌによって精霊に戻された」

「そういうことですわ。シャウラはわたくしが魔法を使えないとずっと勘違いしてますから、まさかわたくしがモンスター化した者を助けてしまうなんて思いもよらないのでしょうね」

 そこでアレクシが鼻で笑った。

「それどころか、自分たちが精霊をモンスターに変えてしまったことすら気づいていないのでは? あれが精霊だと気づいていたらそう簡単に手放すとは思えないからな」
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