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 先日シャウラから瘴気を感じたことや、シャウラがアドリエンヌに向かって『なぜ生きてますの?』と言ったこと、そして精霊がシャウラの『声を聞いたことがある気がする』と言ったこと。

 これらのことから考えて、この一連の事にシャウラが関わっているのは間違いないだろう。

 そんなことを考えていると、戻ってきたルシールがアドリエンヌに声をかける。

「アドリエンヌ! 殿下も。もう戻られていたんですね」

「ルシール! おかえりなさい」

 そうして笑顔でで迎えていると、エメやアトラスも戻ってきた。

 そして、お互いに課題について報告し合い、無事に終えることができたことを喜びあった。

 みんな精霊を見て驚いていたが、事の経緯いきさつを説明すると一緒に森に返しに行こうということになり、アドリエンヌは精霊が住んでいたであろう森を特定した。

 森へ送り届けると、精霊は時々アドリエンヌの屋敷に遊びに来ると約束し森へもどっていった。

 今日は学園の森を歩き回ったり課題で少し緊張したせいもあり、全員疲れていたので精霊を送り届けると早々に解散することになった。

 アドリエンヌも寄り道せずに屋敷にもどると、夕食もそこそこにベッドに倒れこむように横になった。

 そうして深い眠りに落ちたその瞬間、アドリエンヌの眠気を一気に吹き飛ばす出来事があった。

 突然はっきり、とても強烈な瘴気を感じたのだ。

 それは、一瞬の出来事だったがその瘴気は巨大瘴気結晶の比ではなかった。

 ベッドの上で上半身を起こし、あまりのことに驚いて心臓が強く脈打ちアドリエンヌの体を揺らした。

 今のは、今のがワースト?!

 額を脂汗が伝い、それを拭うとアドリエンヌはどこにワーストがいるのかおおよその位置を知り、背筋がゾッとした。





 翌朝、学園へ行くと一通り挨拶を交わし、出欠が終わったところでアドリエンヌは切り出す。

「少し話したいことがありますの。誰にも話を聞かれない場所で話ができないかしら?」

 そう言うと、アレクシが軽く手を上げた。

「わかった、私の権限で応接室を使おう」

 それを聞いたアレクシ付きの使用人が慌てて講堂を出ていくのを確認すると、アレクシは立ち上がり移動するよう促した。

 それを受けアドリエンヌが席を立つと、視線を感じた。

 そちらを見ると頬杖をついていやらしい笑みを浮かべているシャウラと目が合い、アドリエンヌは思わずしかめっ面をした。

 アレクシはそれに気づくと、あいだに入り視線を遮る。

「嫌なものは見る必要がない」

 アドリエンヌの耳元でそう囁くと手を取り肩を抱いて守るように応接室までエスコートしてくれた。

 応接室に入り、落ち着いたところでアレクシはアドリエンヌに言った。

「ここなら誰にも聞かれる心配はない。アドリエンヌ、話とは?」

「シャウラのことですわ。わたくし、以前の課題の時にデビルドラゴンが出たことにシャウラが関わってると思ってますの」

 こんな突拍子もない説を聞いて、みんな驚くだろうと思っていたが予想もしなかった反応が返ってきた。

「だろうな」

 アレクシがさも当然と言いたげにそう言ったのだ。そして、他のものたちも無言で頷く。

 アドリエンヌは驚いてアレクシに尋ねる。

「殿下もそう考えていらしたのですか?!」

「まぁな。それに彼女の父親であるマチアスの動きと合わせても、何かしら腹に一物あるのは確かだろう」

 そこでエメが口を開いた。

「僕はブロン子爵については学園に寄付を始めた頃から少しおかしいと思うようになりました。そもそもブロン子爵は今まであまりでしゃばることがない方でしたし」

「そうなんですの? わたくしは真逆のイメージを持っていましたわ。シャウラと同じく目立ちたがりというか、前に前に出るようなそんな方かと」

「そうでしょうね。ブロン子爵令嬢は色々な意味でかなり目立つ方ですしね。ブロン子爵については、学園に娘を編入させた辺りから特に行動が目立つようになったんです」

 そこでアドリエンヌは質問する。

「では、それまではブロン子爵について特に変な動きはありませんでしたの?」

「いいえ。ただ最初に僕がブロン子爵家について本格的に徹底して調べようと思ったきっかけが、その時だったというだけです」

 それを聞いて納得したようにルシールが頷くと呟いた。

「確かに、そう言われるとわざわざこの学園に編入する意味がわからないわよね。確かブロン子爵令嬢の通っていたイデア設立魔法学園はとても名門だったはずだもの」

 それを受けてエメも頷く。

「そうなんです。イデアはブロン子爵家からも近い立地でしたし、わざわざ城下へ来る意味がわからない」

 元々シャウラに興味がなかったアドリエンヌは、この事をはじめて知った。

わたくしもそこまでは知りませんでしたわ」

「興味がないのなら当然です。僕は貴族たちの動きはすべて調べるようにしているので知っていましたが」

 流石アレクシの腹心と言われていることはある。感心しながら、ではアレクシはそれらについて報告を受けて知っているのだろうと思い質問する。

「殿下もこのことはご存じですのね?」

「まあね」

 王太子殿下としてそれは当然のことなのかもしれない。

 エメがその会話を受けて話し始める。

「では、アドリエンヌやルシールはご存知ないようなので、少しブロン子爵についてお話ししますね」

「ありがとうございます。お願いしますわ」

 ルシールもアドリエンヌの後ろで黙って頷いた。

「まずブロン子爵の領民からの評価は、『彼は度を越えた倹約家である』というものでした」

 それを聞いて、アドリエンヌは答える。

「その話はわたくしも聞いたことがありますわ。でもブロン領はとても小さな領地ですもの、仕方がないのかもしれませんわね」

「そうですね、僕もその通りだと思います。それが突然、学園や王宮に多額の寄付をし始めたんです」

 そこでルシールが不思議そうに言った。

「私は貴族じゃないし良くわからないけど、それって貴族なら当然なんじゃないの?」

 それにはアドリエンヌが答えた。

「貴族と言っても名ばかりでお金のない貴族もいますわ。そういった貴族の中には国に寄付どころか納めるものも納められない貴族もいますの。ブロン子爵家もそんな貴族だったはずですわ」

 エメは大きく頷く。

「えぇ、その通りです。それに彼はとてもお金に執着している人物です。寄付するお金があったら、それらは隠してすべて自分の懐に納めるでしょうね」

 そこでルシールが呆れながら言った。

「それって、倹約家じゃなくてただのドケチってことよね?」

 それを聞いてその場の全員が顔を見合わせ苦笑したあと、エメが話を続ける。

「そんな人物ですから、資産をどこかに蓄えていたのかとも思いましたが、調べる限りそんな蓄えはありませんでした」

 不思議そうにルシールがエメに質問する。

「なら、そのお金はどこから出てきたものなのかしら?」

「僕もそう思ってまずそこについて調べ始めたのです。するとブロン子爵は政治的な集会を開いて、貴族仲間から寄付を集めているようでした」

「では、ブロン子爵の思想に賛成した貴族たちが子爵に寄付をしているということですの?」

「そのようです」
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