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 呆気に取られているアドリエンヌをまったく気にする様子もなく、ファニーは話を続ける。

「ハニーがデザイナーを探してるって聞いてやってきたよ~」

「そ、そう」

 ファニーの押しの強さに気圧されていると、ファニーは突然アドリエンヌを上からしたまで眺め周囲をグルグルと回り始めた。

「えっ? あの、なんですの?」

「わぁお! 君めちゃくちゃ可愛いね~。僕の創作意欲が止まらないよ!」

 アドリエンヌは慌ててそれを制する。

「違いますの、わたくしのドレスではなく親友のドレスを頼みたいの」

 するとファニーは動きを止めて、驚いた顔でアドリエンヌを五秒ほど見つめる。

 そして突然動き出したかと思うと、笑いだした。

「な~んだ、じゃあ君のドレスを作ったらダメって訳じゃないんだね~。それならその親友と対になるドレスを作るよ!! 一気に二着しかも対になるドレスなんて僕、こんな試み初めてかも~。じゃあ始めよう!!」

 そう叫ぶと大きく手を叩いた。するとそれを合図にドアの向こうからお針子たちがなだれ込む。

「時間がないんだよね? じゃあ早速採寸しよう! 早くその親友も呼んでよ。僕は気に入った子のドレスしかデザインしないけどさ~、君の親友なら大歓迎だよ!」

「待って、まだデザイナーをあなたに決めたわけではないわ」

 すると針子の一人がアドリエンヌに言った。

「お嬢様、お任せください。気に入らなければ代金はいただきませんし、旦那様はあんなに変人ですがデザインは本当にすばらしいんですよ」

「そ、そう。なら、仮縫いの時点で気に入らなければ断らせていただくわよ?」

 すると針子はにっこり微笑んだ。

「はい、そこまで仕上げれば絶対に気に入ること間違いなしです」

 そう話している間もファニーは元気良く部屋を歩き回り、調度品を見たりアドリエンヌを遠くから観察したりしていた。

 アドリエンヌが訝しげに見つめていると目が合い、ファニーは満面の笑みで見つめ返してきた。アドリエンヌは苦笑して返すしかなかった。

 その後、本格的に採寸を行うと話し合いをした。そしてルシールに連絡し、ファニーには布の件も伝えた。

 ファニーはとても変わったデザイナーで、デザインするときは相手の屋敷に住み込み、対象の人物を観察してデザインするとのことで針子チームごとアドリエンヌの屋敷にしばらく滞在することになった。

 もちろん、ルシールのドレスもデサインするので時々ルシールのところに出掛けているようだった。

 出先からもどるとファニーは嬉しそうに言った。

「君のマーガレットもめちゃくちゃ可愛いよね~」

「『君のマーガレット』? 『君のマーガレット』ってなんのこと?」

「やだな~。マーガレットのことを親友って言ってたじゃないか~」

「ルシールのこと?」

「だからそうだってば。彼女もなかなか可憐で可愛いよねぇ~。もちろん、ハニーには負けるけどさぁ」

 その様子を見て、耳元でリオンが小声で呟く。

「あいつ大丈夫なのか?」

「大丈夫じゃないかも」

 そう小声で返すとファニーに微笑んで返した。




 最終課題に向けての訓練は無理に通う必要はなく、個人的に訓練していても許されていた。

 前回この時期は、アレクシが学園に来なかったのでアドリエンヌも学園に行かなかった。

 だが、今回は学園に毎日しっかり通うようにしていた。なぜならみんなに会って、一緒におしゃべりをしてすごすのが楽しかったからだ。

 アドリエンヌたちは学園内でトップクラスの技術力だったので、そんなゆったりした過ごし方ができた。

 だが、課題で集める魔力結晶はかなり稀少なアイテムなので、課題の難易度は高く他の生徒たちは必死に訓練を重ねていた。

 そんなアドリエンヌたちは、学園内で羨望の眼差しで見られることが多かった。

 アレクシがアドリエンヌと行動を共にしていたので、それもそう見られたことの理由のひとつだろう。

 今日もアドリエンヌは学園へ行くと、いつものように隣の席を空けて待っているアレクシの隣に座る。

「おはようございます、王太子殿下。王太子殿下はとても優秀ですもの、毎日学園に来なくてもよろしいのではないでしょうか?」

 挨拶もそこそこにアドリエンヌがそう尋ねると、アレクシは微笑んだ。

「それは君も一緒じゃないのか?」

わたくしはみなさんに会いに来てますの」

 するとアレクシはアドリエンヌの顔を覗き込む。

「私は君に会いにきている」

「はい? んなっ! なにを仰ってますの?!」

 それを横で見ていたエメはやや呆れた顔をした。

「殿下、朝から仲がよろしいのはよいことですが、ここは公衆の面前ですよ?」

 反対側からルシールが口を挟む。

「いいじゃない、二人が仲良しで私は嬉しいわ」

 アドリエンヌは慌てる。

「本当に違いますの!」

 すると、アトラスが言った。

「私はアドリエンヌの幸せが一番だと思う」

 アドリエンヌは瞳を輝かせてアトラスを見つめる。

「アトラス、ありがとう。そうですわよね!」

 そこでアレクシがアトラスに言い返す。

「そうか、なら私はアドリエンヌを絶対に幸せにして見せるから安心するがいい」

「なっ! どうしてそうなりますの?!」

 そこでアドリエンヌ以外は声をだして笑った。

 こうしてアドリエンヌは残り少ない学園生活を名残惜しみつつ楽しんだ。

 次の課題がチームでの活動ではなかったものの、アドリエンヌたちは学園内では行動を共にしていた。そんなある日、忘れ物を取りに一人で行動することがあった。

 その時、シャウラに声をかけられた。

「あら、アドリエンヌ様ごきげんよう。ひとりですのね。それにしても、アドリエンヌ様が最近とても楽しそうにされていて、わたくしも嬉しい限りですわ」

 鬱陶うっとうしいと思いながら、どうやったらこの場を素早く切り抜けるか考えつつ挨拶を返す。

「こんにちは、シャウラ様。心配してくれてありがとう。わたくし人を待たせてますから、失礼」

 そう言ってシャウラの横をすり抜けようとしたが、腕を捕まれる。

「あら、そんなに急がないでくださいませ。わたくしアドリエンヌ様と少しお話ししたいですわ」

わたくしはなにも話すことはありませんわ。痛いから腕を放してくださらないかしら」

 シャウラはアドリエンヌの腕を放すと口元に手をあててクスクスと笑いだした。

わたくしをそんなに邪険にしてもよろしいのかしら。そうそう、ドミニクももうそろそろお役御免になりますわね」

「なにが言いたいのかわかりませんわ。以前から言ってますでしょう? 貴女なにか勘違いなさってますわ」

 すると、シャウラはわざとらしく怯えた顔をした。

「まぁ、恐い。図星をつかれて怒ってしまいましたの? ふふふ、誰にも言いませんわ。だから安心して学園生活を楽しんでくださいませ」

「貴女に言われなくとも、十分に楽しんでますわ」

 それを聞いて、シャウラは苦笑する。

「でも、アレクシ殿下に迷惑をかけるようなことは控えた方が良いと思いますわ。それと、わたくし最近思うんですの、魔法も使えないような方が王太子殿下の婚約者っていかがなものかしらって」

 アドリエンヌは思い切りため息をついた。

「本当にアホくさいですわね。付き合ってられませんわ」

 その時、シャウラの顔色が変わった。

「アドリエンヌ、あなた、今、なんと仰ったのかしら?」

 そして、シャウラからわずかに瘴気を感じた。アドリエンヌは驚いてシャウラを見つめる。

 その時、背後から声がした。
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