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 運良くまだ課題が始まってからそんなに時間は経っていない。多少時間がかかったとしても問題はなかった。

 エメは頷くと捕らえていたエアーバードを解き放った。そうしてチーム全員でエアーバードが飛び去るのを見送る。

「では、気を取り直してエアーバードをもう一度探しましょう!」

 アドリエンヌがそう言った瞬間、向こうから鳥の群れが飛んでくるのが見えた。

 渡り鳥だろうかと、その場にいた全員が見つめているとその鳥の群れはアドリエンヌたちの上空を旋回しながら鳴き始めた。

「なにかしら?」

 そう呟くアドリエンヌの耳元でリオンが囁く。

「お前、忘れたのか? この前渡り鳥の親子を助けたろう。あの時の親子が仲間を連れてお礼を言いにきたらしい」

 驚いてアドリエンヌは無言で鳥の群れを見上げた。

 するとリオンが頷く。

「どれ、お前は奴らと会話できないようだから私が話をつけてやろう」

 そう言うと、アドリエンヌの頭に飛び乗りにゃあにゃあ鳴き始めた。

 それを見たエメが心配そうに尋ねる。

「アドリエンヌ、君の精霊は大丈夫ですか?」

「たぶん、大丈夫だと思いますわ」

 アドリエンヌが苦笑してそう答えると、頭上の渡り鳥たちが突然どこかへ向かって飛び始めた。

 それを見てリオンは満足そうに鳴く。

「んにゃ!」

 そうしてアドリエンヌの肩にもどった。

  渡り鳥を見送るとルシールが不思議そうに呟いた。

「今の、なんだったのかしら?」

 そう問われアドリエンヌは答える。

「前に渡り鳥を助けたことがありますの。そのお礼だったみたいですわ。とにかく、次のエアーバードを探さなくてはいけませんわね。殿下、もう一度探索をお願いします」

 すると、アレクシが空を見上げて言った。

「まて、また渡り鳥が戻って来るぞ!」

 全員がアレクシの見る方向を見つめると、先程の渡り鳥の群れがこちらに向かって飛んでくるのが見えた。

「旋回してもどってきたのかしら?」

 アドリエンヌがそう呟いて見ていると、その群れの中から一匹の鳥がアドリエンヌに向かって降りてくるのが見えた。

 ルシールがポツリと言った。

「あれって、エアーバードじゃない?」

「まさか」

 そう答えつつも良く見ると、確かにエアーバードに見えた。すると、そのエアーバードはアドリエンヌの頭に止まり『クエェッ!』っと鳴いた。

 アドリエンヌは困惑しながら叫ぶ。

「ど、どういうことですの?!」

 アドリエンヌが頭の上にエアーバードを乗せたまま困惑していると、リオンが耳元で囁く。

「渡り鳥がお前の手伝いをするそうだ。このエアーバードはお前と一緒に行くと言っている」

 困惑しているアドリエンヌを見ながら、ルシールは楽しそうに言った。

「凄い! アドリエンヌの精霊さんは鳥さんとお友達なのね!」

「そ、そうみたいですわ……」

 それをずっと見ていたアトラスが静かに口を開いた。

「これは、反則にならないか?」

 それにエメが答える。

「いや、でもアドリエンヌの実力と言えば実力なのでは……」

 そこでアレクシがアドリエンヌを尊敬の眼差しで見つめて言った。

「アドリエンヌ、君は本当に素晴らしい。君の婚約者でいられることを私は誇りに思う」

 すると突然、ルシールが吹き出した。

「王太子殿下、真面目なお話をされているところを申し訳ないのですが、頭の上にエアーバードが乗ってるのが……。おかしくて!!」

 すると誇らしげに頭の上に乗っているエアーバードを見つめ、全員が声をだして笑いだした。

 エアーバードはその場から動かずじっとしていたので、アドリエンヌたちはそのままゴールに向かった。

 アドリエンヌがゴールでニヒェルの前に立つと、ニヒェルは口をぽかんと開けたままアドリエンヌの頭上を見つめた。

「アドリエンヌ君、これは剥製かなにかかね?」

「いいえ、生きているエアーバードですわ。お友達ですの」

 そう言って苦笑すると、その会話に反応したかのように『クエェェッ!』っとエアーバードが鳴いた。

「確かに、そのようだ。私も学園で教師を長くやっているが、こんなことは初めてだよ。実に面白い」

「あの、失格にはならないでしょうか?」

「なぜだね、どういう方法か私にもわからないが君らはちゃんと課題をクリアしているのだから問題ない」

「ありがとうございます!」

 アドリエンヌがそう言うと、『クエッ!』とエアーバードも誇らしげに鳴き、アドリエンヌの頭上から飛び去って行った。

 この課題は生きたエアーバードを教師に見せればそれで合格となる。色々あったが、こうして無事に課題をこなすことができた。

 課題に合格したことをチームで喜びあっていると背後から嫌な声がした。

「アレクシ殿下、課題クリアおめでとうございます。アドリエンヌ様もなんとかクリアできて良かったですわね」

 その声の主はシャウラだった。アドリエンヌはうんざりしながらシャウラの方へ振り返ると微笑んだ。

「わざわざどうも、ありがとうございます」

 なんとかって、どういう意味ですの?!

 そう思っていると、シャウラはアドリエンヌには目もくれずにアレクシのところへ一直線に向かうと、その腕にすがった。

わたくしアレクシ殿下とペアを組めなくてとても寂しかったですわ。でも、わかっています。アレクシ殿下はお優しい方ですもの、婚約者を放っておけなかったのですよね。それがわかっていたからわたくし一人でも頑張りましたわ!」

 半ば呆れながら見ていると、アレクシはシャウラの腕を引き剥がしながら無表情で答える。

「で?」

 すると、シャウラはハッとしてアレクシのそばから離れアドリエンヌを振り返る。

「ごめんなさい、アドリエンヌ様のことを考えていませんでしたわ。婚約者の前でこんなに親しくするなんて、わたくしってば端なかったですわね」

 それに関しては別に構わなかった。シャウラがアレクシの心を射止めてくれれば、アドリエンヌは婚約者という立場から解放されるのだから。

「シャウラ様、わたくしは気にしてませんわ」

 すると、シャウラはクスクスと笑った。

「アドリエンヌ様ってば、強がりですのね」

 思わずアドリエンヌは一歩前に踏み出す。

「はぁ? 今なんて仰ったのかしら?」

 怒りのあまりそう言うと、突然アレクシが駆け寄りわざとらしく大袈裟にアドリエンヌを抱きしめた。

「私のアドリエンヌ、すまなかった。君をないがしろにするつもりはないんだ」

 何事かと驚いてアドリエンヌは体を離そうとするが、アレクシはしっかりと抱きしめ離してくれそうにない。

 周囲にいた令嬢たちが悲鳴のような叫び声を上げる中、そんなことは意にかいさずと言った感じでアレクシはアドリエンヌの耳元で囁く。

「アドリエンヌ落ち着いて。煽りにのってはいけない」
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