上 下
21 / 46

20

しおりを挟む
「必要ありませんわ」

 アドリエンヌがそういい放つと、アレクシは鳩に豆鉄砲を食らったような顔をした。

「なんだって?」

わたくしがそれを王太子殿下に話す必要がないと言っていますの」

 してやったり。

 内心そう思いながらアドリエンヌは立ち止まっているアレクシを置いて歩き始めると言った。

「さっき一緒にいたいとか仰ってましたけれど、本当はこの話をしたかっただけなのですね。騙されるところでしたわ」

 するとアレクシはアドリエンヌを追いかけ、腕をつかんで引き止めた。

「違う、アドリエンヌ聞いてくれ。このまま君を放っておけばきっと君は一人ででも危険な場所へ行ってしまうだろう? 私はそれが心配なんだ」

 あまりにも強い力で腕をつかまれたので、その腕に視線を落とすとアレクシは慌ててその手を放した。

「すまない。慌てて強く握ってしまった。痛かったか?」

「いいえ……」

 そう答えアレクシの顔を見上げると、その表情は本気で心配しているように見えた。

 二人は立ち止まりしばらくお互いの真意を探るようにじっと見つめあった。アレクシの瞳からは絶対に聞き出すまで諦めない、そういった意志が感じられた。

 アドリエンヌはため息をつくと、諦めてアレクシに相談することにした。

「わかりましたわ、お話しします。とりあえず歩きながら話しましょう」

「アドリエンヌ、ありがとう」

 そう言ってほっとしたようにアレクシは微笑んだ。

 アドリエンヌが先に歩き始めると、それをアレクシが追いかけ隣に並んで言った。

「それと勘違いしているようだが、先ほど一緒にいたいと言ったのは本心だ」

 アドリエンヌが驚いて立ち止まり顔を見上げると、アレクシは目を逸らし咳払いをして話を続ける。

「ところで、君は先程地図を見ながら森を探索し、そして地図の一点を見つめ深刻な顔をしていた。一体なにを見つけたんだ?」

「え? あ、はい。先日の西の渓谷の物より小さいものですけれど、同じく瘴気を放つ結晶があるのを見つけたんですの。結界が張られているみたいで、漏れでている瘴気はわずかなものですから、今のところ特に害はないようですけれど」

「なるほど、それで君はそれを浄化しに行くつもりなんだね?」

「そうですわ」

 そう言うと二人とも歩きだす。

「確かに、課題の時にその結晶の結界が解かれるようなことがあればただではすまない。浄化した方がいいだろう。それにしても、なぜそんなものが学園の管理下にある森にあるのか」

「そんなの、絶対に誰かが意図して置いてるに決まってますわ」

 すると、アレクシは立ち止まりアドリエンヌを見つめた。

「君たちがこの前の課題でデビルドラゴンに襲われた件にもなにか関係がありそうだね」

 アドリエンヌも立ち止まり振り返ってアレクシを見つめる。

「そうですわね、不可解すぎますもの」

「で、結晶のある場所は? 森のどの辺りなんだ?」

「南東の方角ですわ」

「南東か、君たちが最初に地形を使った作戦を立てていた場所じゃないか」

「偶然にも」

 そう答えてアドリエンヌは苦笑した。アレクシは少し考えてから頷くと言った。

「浄化にはいつ行く?」

「本当は今日屋敷へ戻る前に行くつもりでしたの」

「よし、じゃあ行こう」

 アレクシはそう言うと踵を返し学園の方向へ歩き始めた。アドリエンヌは慌ててそれを引き止める。

「殿下、お待ちください。まさか、王太子殿下も一緒に行くと仰るのですか?」

 アレクシは微笑む。

「その『まさか』だが、なにか問題が?」

「危険ですわ!」

「君だってその『危険』な場所へ一人で行こうとしていたのだろう? それに私も現場を見ておきたい」

「ですが、王太子殿下になにかあったらどうするのですか」

 すると、アレクシはつらそうな顔で言った。

「君こそ、君こそなにかあったらどうするつもりだったんだ?」

「でも……」

 するとアレクシはアドリエンヌを真剣な眼差しで見つめた。

「これは国に関わることでもある。それならなおさら私も行くべきではないか?」

「確かにそうですけれど」

 渋るアドリエンヌにアレクシは手を差し出した。

「一緒に行こう」

 しばらくアレクシを見つめ返す。アレクシもこの国の王子としてこの件に関わりたいのだろう。

 責務を全うしようとするアレクシの気持ちは尊重しなければと思ったアドリエンヌは、アレクシの手を取った。

 学園に戻るとアドリエンヌはアレクシに質問する。

「王太子殿下はどのように森に入るつもりなのですか?」

「私は立場上、自由に出入りを許されている。この学園は国が資金を出しているからね」

 そう言うと、森へ入る門ヘ向かう。門の錠にアレクシが触れると勝手に解錠された。一定の人物が触ると勝手に解錠されるようになっており、その一人にアレクシが入っているのだろう。

 解錠されると、アレクシは微笑み門を開くとアドリエンヌに中へ入るよう促した。
  
 森へ入って行くと、すぐに南東方面へ向かって歩き始める。

「出てきたモンスターは、浄化してしまってもかまわないでしょうか?」

 管理されている森である。モンスターをやたら浄化するわけにはいかないと思った。

「よほど極端に減るようなことがなければ問題ないだろう」

 そんなことを話しながら歩いていると、ガサガサと葉ずれの音がした。

「来るぞ」

 アレクシがそう呟くと間もなく、飛びかかるようにモンスターが飛びだしてきた。アレクシは素早くアドリエンヌを背後に隠すと叫んだ。

「ジャイアントセンチピードだ! 毒を飛ばすこともあるから気を付けろ」

 そう聞いてアドリエンヌは絶叫しそうになった。何故ならばそのモンスターは苦手としている昆虫系モンスターだったからだ。

 叫び声にならない悲鳴をあげると、思わずアレクシのジャケットをつかんで動けなくなった。
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【書籍化確定、完結】私だけが知らない

綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
書籍化確定です。詳細はしばらくお待ちください(o´-ω-)o)ペコッ 目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2024/12/26……書籍化確定、公表 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

記憶喪失になった嫌われ悪女は心を入れ替える事にした 

結城芙由奈@12/27電子書籍配信
ファンタジー
池で溺れて死にかけた私は意識を取り戻した時、全ての記憶を失っていた。それと同時に自分が周囲の人々から陰で悪女と呼ばれ、嫌われている事を知る。どうせ記憶喪失になったなら今から心を入れ替えて生きていこう。そして私はさらに衝撃の事実を知る事になる―。

所詮、わたしは壁の花 〜なのに辺境伯様が溺愛してくるのは何故ですか?〜

しがわか
ファンタジー
刺繍を愛してやまないローゼリアは父から行き遅れと罵られていた。 高貴な相手に見初められるために、とむりやり夜会へ送り込まれる日々。 しかし父は知らないのだ。 ローゼリアが夜会で”壁の花”と罵られていることを。 そんなローゼリアが参加した辺境伯様の夜会はいつもと雰囲気が違っていた。 それもそのはず、それは辺境伯様の婚約者を決める集まりだったのだ。 けれど所詮”壁の花”の自分には関係がない、といつものように会場の隅で目立たないようにしているローゼリアは不意に手を握られる。 その相手はなんと辺境伯様で——。 なぜ、辺境伯様は自分を溺愛してくれるのか。 彼の過去を知り、やがてその理由を悟ることとなる。 それでも——いや、だからこそ辺境伯様の力になりたいと誓ったローゼリアには特別な力があった。 天啓<ギフト>として女神様から賜った『魔力を象るチカラ』は想像を創造できる万能な能力だった。 壁の花としての自重をやめたローゼリアは天啓を自在に操り、大好きな人達を守り導いていく。

【完結】捨てられた双子のセカンドライフ

mazecco
ファンタジー
【第14回ファンタジー小説大賞 奨励賞受賞作】 王家の血を引きながらも、不吉の象徴とされる双子に生まれてしまったアーサーとモニカ。 父王から疎まれ、幼くして森に捨てられた二人だったが、身体能力が高いアーサーと魔法に適性のあるモニカは、力を合わせて厳しい環境を生き延びる。 やがて成長した二人は森を出て街で生活することを決意。 これはしあわせな第二の人生を送りたいと夢見た双子の物語。 冒険あり商売あり。 さまざまなことに挑戦しながら双子が日常生活?を楽しみます。 (話の流れは基本まったりしてますが、内容がハードな時もあります)

乙女ゲームの世界だと、いつから思い込んでいた?

シナココ
ファンタジー
母親違いの妹をいじめたというふわふわした冤罪で婚約破棄された上に、最北の辺境地に流された公爵令嬢ハイデマリー。勝ち誇る妹・ゲルダは転生者。この世界のヒロインだと豪語し、王太子妃に成り上がる。乙女ゲームのハッピーエンドの確定だ。 ……乙女ゲームが終わったら、戦争ストラテジーゲームが始まるのだ。

公爵令嬢アナスタシアの華麗なる鉄槌

招杜羅147
ファンタジー
「婚約は破棄だ!」 毒殺容疑の冤罪で、婚約者の手によって投獄された公爵令嬢・アナスタシア。 彼女は獄中死し、それによって3年前に巻き戻る。 そして…。

どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします

文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。 夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。 エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。 「ゲルハルトさま、愛しています」 ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。 「エレーヌ、俺はあなたが憎い」 エレーヌは凍り付いた。

結婚しても別居して私は楽しくくらしたいので、どうぞ好きな女性を作ってください

シンさん
ファンタジー
サナス伯爵の娘、ニーナは隣国のアルデーテ王国の王太子との婚約が決まる。 国に行ったはいいけど、王都から程遠い別邸に放置され、1度も会いに来る事はない。 溺愛する女性がいるとの噂も! それって最高!好きでもない男の子供をつくらなくていいかもしれないし。 それに私は、最初から別居して楽しく暮らしたかったんだから! そんな別居願望たっぷりの伯爵令嬢と王子の恋愛ストーリー 最後まで書きあがっていますので、随時更新します。 表紙はエブリスタでBeeさんに描いて頂きました!綺麗なイラストが沢山ございます。リンク貼らせていただきました。

処理中です...