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 アドリエンヌは、なんだか良くわからなくなってきたので話を変えることにした。

「それはそうと、いい加減もとの姿に戻ったらどうかしら? 神の眷属なんでしょう? それぐらい簡単ですわよね?」

 すると子猫は大きく息を吐いた。おそらくため息をついたのだろう。そして呆れたように言った。

「忘れたのか? お前が私に名をつけ縛り付けてくれたお陰で、自分の意思ではもどれんのだ!!」

「名前……? あっ! まさか、リオン・ブランカ?!」

「そうだ、まったく厄介なことをしてくれたものだ」

「でも、あれは名前ではなくて白い獅子のことを言っただけですもの。名前にはならないのではなくて?」

「いまさら遅いわ、私の名はリオン・ブランカになってしまった。まぁいい。お前を監視するにはこの姿の方が動きやすい。こうなったからにはお前をしっかり見張っていてやろう」

「け、結構ですわ。すぐにでももとの姿に戻しますわね」

 するとリオンは大あくびをした。

「必要ない。どうせもとの姿に戻ったところでお前にしばられているのには変わりない」

 そう言うと、アドリエンヌの肩にぴょんと飛び乗る。

「人間に見下されるのは好きじゃない。ここで過ごさせてもらおう。さて、この体はすぐに疲れるな、一眠りする」

 そしてそのままアドリエンヌの首もとで寝始めてしまった。

「まって、わたくしこれから学園に行きますのに、肩に子猫なんて乗せて行けませんわ!」

「なーに、精霊と契約したとでも言っておけ。もう眠いからこれ以上邪魔するな」

 そう言われ、アドリエンヌは肩にリオンを乗せて学園にいかなければならなくなった。

 部屋にやってきたエミリアは、リオンを見ると笑顔になり嬉しそうに、アドリエンヌの仕度を手伝ってくれた。

 学園に着くと、すぐに他の生徒から注目の的となった。恥ずかしいと思いながら門をはいると、そこでアウラ先生に呼び止められる。

「アドリエンヌ君、その肩の小動物は精霊なのか? 見たことのない精霊だが……」

 アドリエンヌは恐る恐る答える。

「そうです。あのまだ幼生なので、見た目が普通の精霊と少し違うのかもしれません」

「そう。だけどそれだけ幼いとなると、主のそばを離れられないでしょう。学園内を連れてあるくのはあまり好ましいことでははないけれど、仕方ない。通ってよし」

 あっさり通されたので、ホッとしながら講堂へ向かいルシールと合流する。

 するとリオンを見て、ルシールもエミリアと同じような反応を見せた。

「その子猫可愛い! もしかして、精霊? 私初めて見た。お行儀がいいわね、名前は何て言うの?」

「リオンって言いますの。ちょっと訳ありで連れて歩かないといけなくなってしまって」

「アドリエンヌ、流石ねぇ。もう精霊と契約してしまうなんて」

 感心しながら、尊敬の眼差しで見つめるルシールにアドリエンヌは思わずひきつり笑いを返した。

「おはようございます。出迎えが遅れてしまって申し訳ありませんでした」

 そう言ってアトラスが隣に座った。

「出迎えなんて必要ありませんわ」

 そう答えて小声でアトラスに耳打ちする。

「それと、急にそんな態度をしたらみんなに怪しまれてしまいますわ。普通にしてくださらないかしら?」

「わかりました。ですが、私はあなたを尊敬しています。それが態度に出てしまうのは仕方のないことでしょう」

 そう言って微笑んだ。そして恥ずかしそうに咳払いをすると、アドリエンヌの肩に視線を移す。

「ところで、その猫は? いや、精霊ですか? それにしては普通の精霊とも違う感じがしますが」

「今ルシールにも話してたところなんですの。ちょっと訳ありで仕方なくそばに置いてますの」

 すると、リオンが少し爪を立てた。話を聞いていたのだろう。

「仕方なくなんて言ったらリオンちゃんがかわいそうよ。私は羨ましいぐらいなのに」

「おはようございます、アドリエンヌ、ルシール、アトラス」

 振り向くとエメが立っていた。三人が挨拶を交わすと、エメはリオンを見つめて言った。

「ところで、君の子猫の話がみんなの間でとても話題になっているみたいですよ?」

「これには事情がありますの」

「そうなんですか? 本当に君には次から次へと色々な事が起きますね。できればその事情とやらも僕は知りたいのですが」

 問い詰められそうだと思ったアドリエンヌは話を逸らす。

「あっ! それよりほら、ニヒェル先生がいらしたわ。先生のお話を聞かないと」

「仕方ない、この話しはまた今度にしましょう」

 そう言ってエメは席に座った。

 昨日の事があったばかりなので、おそらく自習になるだろうと思っていたら予想通り出欠を取ったあと自習となった。

 当然、昨日の課題の合否の発表なかった。

 エメとアトラスはもう一度昨日の事で教師から呼び出しを受けて行ってしまった。

「仕方ありませんわね、二人で訓練をしましょう」

 アドリエンヌが残念そうにそう言うと、ルシールは申し訳なさそうに言った。

「アドリエンヌ、ごめんなさい。今日できれば家の手伝いをしたいの。実は母が体調を崩してて」

「そうですの?! そんな遠慮しなくてもいいですのに。わたくしの事は気にしないで、早く家に帰ってあげて」

 そうしてルシールも帰ってしまい一人になったアドリエンヌは、仕方なしに屋敷へもどろうと講堂を出た。ところがそこでニヒェルに声をかけられる。

「あ~、アドリエンヌ君。君は今日は一人かの?」

「はい、そうなんですの。他のメンバーは用事ができてしまって……」

「うむ、そうか。ならばお願いしたいことがあるのだが、良いか?」

「はい。わたくしにできることならなんでも」

「すまないが、私個人の書斎の整理をお願いしたい。なに、今日できるところまでで構わん。頼めるかの?」

「もちろん大丈夫です!」

 こうしてアドリエンヌはニヒェル個人の書斎の整理を任された。

 これはとても名誉なことだった。ニヒェルの書斎には稀少な本が蔵書されているが、生徒たちはもちろん教師たちでも入れないと噂で聞いていた。

 その書斎の整理を任されたということは、その稀少な本を読んでもよいということになる。それは、とても信頼されていることを意味している。

 なぜアドリエンヌに頼んだのかわからなかったが、これで一気に知識を深められると内心大喜びだった。
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